「・・・・・代理人さんって、指揮官と仲がいいんですね」
「・・・・・はい?」
来て早々そんなことを言い出すスプリングフィールドに、代理人は思わず聞き返した。しかもそのスプリングフィールドはなにやら頬を膨らませて拗ねており、ますます意味がわからないと代理人を困惑させる。
彼女が指揮官に惚れているというのは周知の事実であり、そして彼女を含め誰一人振り向いてもらえていないというのも事実だが、果たしてなぜその話題に代理人が出てくるのだろうか。
「だって指揮官、あなたと話すときは随分とリラックスしてるんですよ?」
「それはまぁ、そうしていただけるように話していますので」
客との距離感と会話は、常連客を得る上で重要な項目の一つだと代理人は考える。よって訪れる客の一人一人に丁寧な対応を心がけており、結果として仲良くなることも少なくはない。
指揮官の場合、あまり話上手でもなく口数も少ないので、こちらから話題を振って会話を繋げているだけなのだ。
「それが羨ましいんです! 指揮官とお喋り、それもあんなに長く話していられるなんて・・・・・一体どんな対人プログラムなんですか!?」
「そこまで!?」
と、このようにスプリングフィールドが熱くなるのには理由がある。前述の通り指揮官は口数が少なく、基本的に聞きに徹している。そのため舞い上がって自分から話しかけてしまう彼女たちの場合、会話というよりも一方的に話しているだけに感じてしまうのだ。
じゃあ相手から話すように仕向けては・・・・・・それができるのならばこんなところで躓いてはいない。
「なので代理人さん、一つお願い事があります!」
「少しの間、私をここで働かせてください!」
「・・・・・・・・はい?」
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「はい、これが春っちの制服ね」
「ありがとうございます」
「・・・・・・まさか本当に働くとは」
スプリングフィールドが突拍子もないことを言い出してから一時間後。
いつもの冗談だと思っていたのだが、なんとその場で指揮官からの許可を得てしまった彼女はマヌスクリプトに頼んで予備の制服を自分のサイズに仕立て直してもらっていた。
しかもその時に仲良くなったのか、互いに「春っち」「マヌちゃん」と呼び合っているし、制服のサイズもバッチリだ。
「珍しく普通の制服ですね」
「代理人は私をなんだと思ってるのよ? 仕事着は仕事着なんだから余計なものはつけないよ」
過去にコスプレ喫茶をやらかしたのはどの口だったのかと問い詰めたいが、それはまたの機会にしておこう。
ちなみにスプリングフィールドが働くのは一日二日ではなく、約一ヶ月というそこそこ長い期間である。一体どんな理由で申請したのかは不明だが、代理人も指揮官と直接話して確認した。
「・・・・・まぁいいでしょう。 ではスプリングさん、部屋を一つ貸しますので荷物はそこへ運んでください。 ベッドなどの家具はある程度揃っていますが、ご自身で揃えていただいても結構ですよ」
「わかりました」
そう言って案内された部屋は、ついこの前までAK-12とANー94が使っていた部屋である。
もともと住み込みバイト用に空けた部屋なので、特に改装の必要もなく使え、簡易なベッドやクローゼット、机と椅子が揃ったワンルームである。
「では、一時間後に降りてきてください。 一応、簡単な研修も行いますので」
「はい、よろしくお願いします」
そんなこんなで、スプリングフィールドの喫茶 鉄血アルバイト生活が始まったのだった。
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「・・・・・ねぇOちゃん」
「なんですか、D」
「スプリングさん、ずっといてくれないかな?」
「気持ちはわかりますが、無理な相談ですよ」
スプリングフィールドが働き始めて早くも一週間が経ったころ、気がつけば彼女がここで働いているという噂が街全体にまで広まってしまっていた。
もともとスプリングフィールドという人形は軍人民間人問わず絶大な人気を誇り、彼女を副官に任命する指揮官も少なくないと聞く。それは彼女たちの持つ母性というか、聖母のような雰囲気に包まれたいという願望なのだろう。
そんなわけで、(外面だけは)見目麗しい彼女が働いていると聞きつけ、喫茶 鉄血は連日多くの客が訪れていた。
「はい、コーヒーとトーストをお持ちしました」
「ご注文はお決まりですか? 今の時期はこのフルーツケーキがおすすめですよ」
「おかわりですか? お気に召していただけて何よりです」
そんな彼女目当ての客たちを、スプリングフィールドは大層手慣れた様子で接客していく。話しかけられれば丁寧に返し、下心にはやんわりとお断りをいれる。司令部併設のカフェを営むというだけあって、その接客スキルは代理人ですら舌を巻くほどだ。
正直なところ、彼女の方がよっぽど優秀な対人プログラムを積んでいると思いたくなる。
「ふぅ・・・少し休憩しますね」
「えぇ、構いません。 それにしても、やはり慣れている様子ですね」
「ふふっ、ありがとうございます」
決して威張らず、謙遜しすぎることもない。これで指揮官の件がなければ、本当に文句なしなのだから勿体無い。
「残念美人、てやつだね代理人」
「わかっていないなマヌスクリプト、むしろ欠点の一つ二つある方がより魅力的に映るものさ」
「それ、本人の前では言わないでくださいよ二人とも」
言った日にはものすごく落ち込むだろう、と代理人は思うのだった。
しかし、代理人も言葉にはしないが概ね同じ意見である。聞く限りでは部隊の仲間からも信頼され、グリフィン内外問わず人気もある。真面目だがお堅くはない雰囲気で新人たちのお世話もできる・・・・・そんな美点をもってしても抑えられない残念要素なのだ。
「ふむ・・・・・・では少し、手を打ってみましょうか」
そんな友人の背を押すために、代理人は少々お節介を焼くことにしたのだった。
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それから数日後。
今日はなんとなく忙しい、スプリングフィールドはそう思っていた。特別人が多いわけでもないが、なぜか従業員の手が空いていないのだ。
いや、なぜかという理由は知っている。食材その他の入荷や注文に加え、マヌスクリプトは注文を受けている服の納期に追われている・・・らしい。
そんなわけで、なんとなく忙しいと感じているのだった。
「スプリングフィールドさん、少しカウンターをお願いしますね」
「はい、わかりました」
そう言い残し、代理人はDを連れて奥へと下がる。カウンターの業務は対面での接客が求められる。イェーガーとリッパーは表情の変化に乏しく、フォートレスは上がりやすい。ゲッコーは誰彼問わず口説きそうなので、現場に出ている者の中ではスプリングフィールドが最も適任なのだ。
・・・・・・が、もちろん世の中には例外というものも存在する。
カランカラン
「いらっしゃいm・・・・・・・・・」
「む、スプリングフィールドか。 久しぶりだな」
突然の
「・・・・・・・ハッ⁉︎ こ、こここんにちは指揮官! な、何か飲まれますか!?」
「? あぁ、コーヒーを」
「かしこまりましたっ!」
上擦った声で返事を返しながら、スプリングフィールドはバタバタと準備を始める。ただカップを用意してポットからコーヒーを注ぐだけ、それだけの動作なのに、まるでその数倍もの業務をこなしているかというほどに慌ただしい。しかも時々電池が切れたように固まっては、一瞬で顔を真っ赤にしてまた動き始めるという謎の挙動を繰り返している。
そんなこんなで、普段の倍以上の時間をかけて用意したコーヒーを、スプリングフィールドは震える手で差し出した。
「ど、どうぞ・・・・・」
「ありがとう」
会話終了。
普段ならここで他の仕事を行うのだが、今は両手を胸の前で握りしめてじっと指揮官の様子を伺っている。まるで初めて作った手料理を振る舞ったかのような初々しい反応だが、指揮官と対面の場合ほぼ毎回これである。
「ど、どうでしょうか・・・・・」
「うん、美味しいよ」
パァッと笑顔になるスプリングフィールド。
ちなみにポットに入っていたコーヒー自体は代理人が淹れたものなのだとゲッコーたちは知っているが、そこはあえて黙っておいた。
「それで、どうだ? 『実地研修』は」
「はい、楽しくさせていただいてます。 まだまだ学ぶことも多いですから」
「そうか」
「それに、お店の方も皆親切なんです。 例えば・・・・・」
褒めてもらえて気が楽になったのか、先ほどまでの挙動が嘘のように話し始める。代理人たちのことや、訪れる客のことなどなど・・・・それを指揮官は頷いたり相槌を入れたりして聞いていた。
「それで・・・・・・あっ、すみません、私ばかり話してしまって」
「いや、構わない。 君の話は面白いからな」
「指揮官・・・・・・」
ふと、これはいい雰囲気なんじゃないのだろうかと、スプリングフィールドは思う。正直、かつてないほど緊張もほぐれ、指揮官の目を見て話すことができている。
想いを伝えるなら、今しかない!
「・・・・・・・指揮官」
「ん? どうした?」
「私は・・・・スプリングフィールドは」
「あ、あなたのことがs「そこまでですわっ!!!」
意を決した言葉が、聞き馴染みのある声にかき消される。先ほどまでの幸せムードから一転、絶対零度の眼差しで入り口を見据えるプリングフィールドに、雰囲気ぶち壊しの主犯・・・・・Karの姿が映る。
「ここ最近見かけないと思っていれば・・・・・随分と手の込んだ抜け駆けですわね!」
「せやなぁ、うちらも気付かんかったとは・・・・」
「そぉそぉ、いやぁお姉さんびっくりだよ」
「とりあえず、話を聞かせてもらいましょうか?」
その後もゾロゾロと現れる指揮官ラブ勢たち。大方指揮官の後をつけてきて、いい雰囲気になったところで我慢の限界が訪れたのだろう。
そして一方のスプリングフィールドも、たぶん過去最高にブチ切れていた。
「ふふ・・・・ふふふ・・・・・今日こそはとせっかく覚悟を決めましたのに・・・・・・・・表に出なさい、一人残らず絞めてあげましょう」
「「「「上等!!!」」」」
荒い足音を立てながら店を出る五人・・・そして続いて聞こえてくる鈍い音の連続。
唖然とする指揮官に、頃合いを見て戻ってきた代理人がコーヒーのおかわりを出す。
「ふふっ、愛されてますね」
「ん? あぁそうだな・・・・『彼女』は皆から慕われているよ」
「・・・・・・・・・・はぁぁ」
想像以上に前途多難であると再認識した代理人は、心の中でひっそりと応援するのだった。
end
ふと思ったけど、うちのKar98kをちっちゃくしたらどこぞの500才児吸血鬼なんじゃないかな・・・・・お嬢様ぶりたいけどポンコツなあたりが。
ところでみんなは新人形を迎えることができたかな?
私は資源半分消しとんだけど誰もきてくれなかったよ!(号泣)
・・・・・・まぁいい、今回のキャラ紹介だ。
スプリングフィールド
指揮官が絡まなければよくできたお姉さんのような人形で、指揮官が絡まなければ頼りになる人形。
一応今回の件は『実地研修』という扱いになっている・・・が、スキルという意味ではこれ以上学ぶことはないと思う。
指揮官
なろう系主人公もびっくりな鈍感野郎。
別にホモとかそういうわけではないし女性に興味を持つことだってある・・・・が、それ以前に上司と部下という関係が来てしまうのでそういう目で見ていない。
代理人
急に雇えと言われても雇ってくれる人。
それができるくらいには余裕があるらしい。