喫茶鉄血   作:いろいろ

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重装部隊のシステムが未だによくわかってないマン
でも支援砲撃ってなんかこう・・・・・燃えるよね?


第百六十九話:五月病

「あ゛〜〜〜〜〜働きたくない〜〜〜〜〜」

 

「お給料が減っても構わないのでしたらいいですよ」

 

「・・・・しゃぁない、働くか」

 

 

肌寒さも薄くなり始め、徐々に陽気が高まってきた今日この頃。ほんわかとした空気に当てられて変な無気力感や脱力感にみまわれるものが多数出る季節である・・・・・そう、俗にいう『五月病』だ。

常に同じコンディション、思考も電子演算の結果であるはずの人形も、なぜかこの人類不滅の病に侵されるのだった。

 

 

「でも不思議だよね、なんでこの季節だけこんなに働きたくないって人が増えるんだろ?」

 

「それは確かにそうですが・・・・・まさかD、あなたも?」

 

「いやいやいや、私は大丈夫だよ!」

 

 

とはいえDの言うとおり、年の変わり目でもなく真夏でもなく真冬でもなく、この季節限定悩みでもある。幸い従業員のほとんどは真面目に働いてくれているので問題ないが、これがもっと大所帯であればどうなっていたのやら。

 

 

「大所帯っていえば、グリフィンも大変そうだよね」

 

「個性の塊だからね〜・・・・うちも他所のことは言えないけど」

 

「個性の塊筆頭だろうマヌスクリプトは」

 

「あなたもですよゲッコー」

 

 

そんな個性的なメンツを束ねてる代理人も大概だよ、とDは密かに思うのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

カランカラン

「いらっしゃいm・・・・・あら」

 

「久しぶり!」

 

「ふふっ、久しぶりね代理人、D」

 

 

陽がてっぺんまで昇った頃、店に姿を現したのはこの前まで居候の身だったAK-12。今日は珍しくツレ(ANー94)がおらず、一人で来たようだ。

 

 

「とりあえず、アイスコーヒーをいただけるかしら」

 

「かしこまりました」

 

「それと、フォートレスちゃんに持って来させてね」

 

「当店ではそのようなサービスは行っておりません」

 

「ケチ」

 

 

グリフィンの新部隊発足に合わせてここを出た彼女だが、どうやら癒しを求める姿勢は変わっていないらしい。だが部隊長であるM4が厳しくしているのか、心なしか以前のような腑抜けた雰囲気ではなくなっている。まぁあのM4やAR-15が目を光らせているんだろうが。

 

 

「はい、アイスコーヒーですよ」

 

「ありがとDちゃん」

 

 

冷えたグラスを傾け、同じく冷えたコーヒーが喉を通る。体の芯から冷却されていくような爽快感にフゥッと一息つき・・・・・・ベチャッと机に突っ伏した。

 

 

「もうやだはたらきたくない」

 

「「えぇ・・・・・・」」

 

 

突然の言葉に二人揃って困惑する。マヌスクリプトもそうだったのだから他にもいるだろうと思っていたが、まさかこんな身近に現れるとは思っても見なかった。

さっきまでのしゃんとした態度はなんだったのか、またあの頃に逆戻りしたAK-12は念仏のようにブツブツとボヤき始める。

 

 

「以前は週休二日で残業なし、帰れば温かいご飯と最高の癒し・・・・それが今では毎日毎日訓練に任務に部隊間交流に、そして料理掃除はローテーション・・・・・私の平穏は何処(いずこ)へ・・・・サボったらあの子(M4)に殴られるし」

 

 

サボる方が悪いのでは、とは思うものの急な環境の変化で参っている様子だった。なるほど、五月病とはこういうことなのかと代理人は納得する。それとどうやら最近M4はやや手が出るのが早いらしい・・・・・後日注意しておくことにしよう。

 

 

「もうやだぁ民生になりたいぃ」

 

「元軍用では無理なのでは・・・・」

 

「じゃあここで雇ってよぉぉぉ・・・・・」

 

「大分参ってるね、これ」

 

 

ちなみに、相棒のANー94はすっかり馴染んでしまっており、戦術についてM4らと話している姿が多々見られるという。エリートにふさわしい性能を持ちながらサボりたがるAK-12は、まさに孤立無縁なのだ。

 

 

「相談に乗ってあげたいけど、これはちょっと」

 

「難しいですね」

 

 

代理人自身、自分が人間のような感情豊かではないことは自覚しているし、24時間365日働けと言われたら、メンテさえなんとかできれば可能だとも思っている。よってそもそも『働きたくない』ということ自体が無縁なのだ。

Dにしても、生まれた時から今の状況で、加えて彼女は仕事を楽しむタイプであり、これまた無縁な存在だ。

他の従業員も参考にならず(マヌスクリプトも特殊な例だし)、サクヤやユウトに相談しようにも相手は元軍用、仮にもよその会社の人間が易々と関われるものではない。

 

 

「さて・・・・どうしたものでしょうか」

 

カランカラン

「こんにちは代理人・・・あら、M4んとこのサボり予備軍じゃない」

 

「あ、いらっしゃい45ちゃん」

 

 

フラッと現れた45にそう言われるAK-12・・・・・というかサボり予備軍と言われるのは相当だと思うのだが。

しかしそう言われても、AK-12は一切反応せず、今も変わらずブツブツと泣き言を呟いている。怪訝な様子でそれを見ていた45だが、いつまでも立ちっぱなしというわけにもいかず隣に座った。

 

 

「じゃ、とりあえずアイスコーヒーを」

 

「かしこまりました」

 

 

AK-12と同じものを頼み、出されたそれを一口飲む。空調の聞いた店内からではよくわからないが、どうやら外はそこそこの気温らしい。

冷たいコーヒーの清涼感にフゥッと一息ついた45は、なぜかグラスを自身の正面からずらしたところに置き・・・・・おや?

 

 

ベチャッ

「もうやだはたらきたくない」

 

「あなたもですか!?」

 

 

まるっきりAK-12と同じように机に突っ伏す45に、代理人も思わず声をあげる。グリフィンきってのエリート部隊が軒並みこんな様子だが、グリフィンは大丈夫だろうか?

 

 

「以前は楽だったのよ・・・・たまにしか任務はないし正規の部隊になったおかげで給料も安定してるし・・・・でもアイツよ、ジェリコが来てから変わったのよ」

 

「「あー・・・・・」」

 

「そりゃ私らは戦術人形で、有事の際の戦力よ。 けど何もない日まで6時起きなんてやってられないわよ! 何が『非番であっても規則正しく』よ!」

 

 

それ、正論なのでは?と言いかけてやめておく。AK-12しかり45しかり、普段のだらけっぷりのツケが回ってきただけなのだが、きっと本人たちは非を認めることはないだろう。

と、そこまで考えてからふと思った・・・・・新設部隊の一員であるAK-12がここにいて、なぜ連れのANー94がいないのか。隊が非番の日は大体ここにいるG11がいないのになぜ45がいるのか。

 

 

「それは大変ですが・・・・・お二人とも、つかぬことを聞きますが」

 

「なによ」

 

「お二人ともまさか・・・・・サボり、ではありませんよね?」

 

「「・・・・・・・・・・・」」

 

「こっちを見なさい」

 

 

呆れたことにこの二人、白昼堂々とサボりを敢行したらしい。他人の勤怠についてとやかく言うつもりはないが、ここをサボり場所認定されるのは正直よろしくない。UMP45には何度も世話になったし、AK-12も一時は家族のように過ごしていたが、さすがに甘やかせすぎたのだと今更ながら反省する。

 

 

「いいじゃない別に〜・・・・代理人が怒られるわけじゃないんだから」

 

「ここは私たちを助けると思って、ね?」

 

「・・・・・・はぁ」

 

 

一向に反省するつもりのない二人に、代理人は呆れながら店の奥へと戻っていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

 

 

 

 

 

 

 

 

「zzz……」

 

「ムニャムニャ……」

 

「爆睡してるよOちゃん」

 

「えぇ、それでも警戒は解いていないようですが」

 

 

それから数十分後、コーヒーを飲み干した二人はいい感じにまどろみ始め、やがてそのままスヤスヤと眠ってしまった。しかしやはり警戒しているのか、入口のベルが鳴るたびに身を起こして隠れようとする。幸か不幸か今日の来客数は多くないため、ここ十数分は快眠を続けているが。

 

 

「でも、これだけ気持ちよさそうだと起こすのが億劫だね」

 

「甘やかしてはダメですよD、もうすでに手遅れなのですから」

 

「それもそっか・・・・・じゃあ『二人』を呼んでくるね」

 

 

そう言ってDが店の奥へと戻り、その間代理人が二人を()()する。背後にこそ警戒しているが所詮その程度、目の前で代理人とDが話していても起きないくらいの警戒だ。

そしてその代理人の後ろからDが、見知った顔を連れて戻ってきた。

 

 

「ご協力感謝する、代理人・・・・・では、遠慮なくやってくれ」

 

「えぇ、もちろんです」

 

「では、私たちはここで下がりますね」

 

 

二人を置いて代理人とDが下がる。カウンターの内側の人物が入れ替わっていることにも気づかず寝こけるAK-12と45、その頭に重量鈍器(M4コンテナ)が振り落とされた。

 

 

「「〜〜〜〜〜〜〜っっっ!!!!????」」

 

「おはようございます、二人とも」

 

「いい夢は見れたか?」

 

 

あまりの衝撃に頭を抱えてのたうちまわるが、やがて視界がはっきりしてくると今度は顔を青ざめさせる。

 

 

「ゲッ・・・M4!?」

 

「ジェリコ!? どうしてここに!?」

 

「それはこちらのセリフだが?」

 

 

これほど強烈な寝起きドッキリはないだろう。起きたら目の前にいたはずの優しい店主が極悪上司に変わっているのだから。

 

 

「バカな・・・・ベルの音なんてしなかったのに!」

 

「それはそうですよ、だって・・・・裏口から入りましたから」

 

「裏口から? ・・・・・は、謀ったわね代理人!?」

 

「そう代理人を責めるな、すべては貴様らが招いたことだろう」

 

 

店内を見渡す…誰も助けてくれない。

自分の手を見る…サボりだから武器なんて持ってきてない。

二人を見上げる…酌量の余地などない。

 

 

「さて・・・・・覚悟はできているな?」

 

「私、結構怒っているんですよ?」

 

「「ご、ごめんなさいぃぃぃいいいいい!!!!」」

 

 

 

 

後日、他の者が非番である中、二人の姿だけは見当たらなかったという。

 

 

end




サボり、ダメゼッタイ
どうしようもなくサボりたいのなら辞める方がいいと思うんだ。


では、今回のキャラ紹介。

AK-12
新設部隊(名称未定)の一員にして、副官ポジション・・・・なのだが機能していない。
一度ぬるま湯に浸ってしまった者の末路その1

UMP45
エリート部隊404小隊の隊長。シスコン会に妹に振り回される苦労人。
かつてのNot Found時代ならともかく、ここ最近はぬるま湯生活だったため堕落した。

M4
新設部隊の隊長。もはやARという区分から外れている火力を持つ。
よくコンテナを近接武器として使用するが、相手はもっぱらAK-12。

ジェリコ
本部から送られてきた教導官で、404小隊の生活習慣改善要員。
416、ネゲヴの教官だっただけあってかなり厳しく、とくにサボりがちな45には目を光らせている。

代理人
「ここはサボる場所じゃありません」

D
「サボりはダメだけど休憩ならいつでも歓迎だよ!」

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