喫茶鉄血   作:いろいろ

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事後報告というか今更感はあるけどね


第百七十三話:一大イベント

喫茶 鉄血は二階建てである。一階部分にはカウンターやテラスがあり、ケーキなどが並んだショーケースが目を引く。

一方の二階はテーブル席のみで、ごちゃごちゃしない程度の調度品が置かれた落ち着いた雰囲気が特徴だ。客層としてはご高齢の方が多めで、長居する人ほど二階を使う傾向にある、らしい。

そしてこの店独特の設備が、その一画に設けられた個室である。

 

通常時は締め切られており、使用する場合は店員に一言声をかける必要がある。その上で予約などが入っていなければ使うことができるのだが、一室しかないので使用されることは少ない。

当日でも貸し切りの申請ができたりするのだが、多くの場合は事前に予約であるためそういったケースも少ない。

例えば今回のような、その場の勢いみたいな場合である。

 

 

「そ、その・・・改めてなんですけれども・・・・」

 

「・・・・・・・・」

 

「お、お二人を僕にください! ペルシカさん!」

 

 

テーブルに頭をぶつけるほどの勢いで頭を下げる鉄血工造職員・ユウト。その両サイドで緊張した面持ちで成り行きを見守るM16とROは、ユウトたちの向かい側に座る白衣の女性・・・・ペルシカの顔色を伺った。

そんな光景を、コーヒーを運んできた代理人はこう思うのだった。

・・・・・なぜその話をうちでするのか、と。

 

 

 

 

 

 

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

 

 

 

 

 

 

 

ことの発端・・・という意味ではかなり前になる。

周知の事実だが、ユウトは現在M16とROの両名とお付き合いをしている。二股だのなんだのと言われそうだが、当のM16たちが「人形だから人間の価値観には当てはまらない」とか言ったので特に問題は起きていない。

そして付き合い始めること数ヶ月。今日も今日とて三人仲良く喫茶 鉄血でお茶でも・・・・といつも通りいちゃつきながらやってきたのだが、先客の姿を見て固まった。

 

 

「ん? 三人ともデート?」

 

「ぺ、ペルシカさん?」

 

 

一人コーヒーを啜ってまったりしているペルシカを見つけ、次の瞬間には三人とも同じことを考え出した。

 

親への挨拶、忘れてたな

 

というわけで急遽店の個室を借り、遅れに遅れた重要イベント「親御さんへのご挨拶」が始まったのだった。

 

 

「・・・・・いや、すごい今更なんだけど」

 

「ご、ごめんなさい・・・・・」

 

 

ちなみにペルシカは全く気にしていない・・・・というわけでもない。言われなければどうということはなかったが、改めて『忘れられていた』と思うとちょっと思うところはあるようだ。

まぁそこまで目くじらを立てるようなことではないので、せめてもの仕返しとして()()()()()()()()()()ことにしたのだった。

 

 

「二人が君のことを好いているのは知ってるから、特に反対するようなことはないんだけどね・・・・ちょっと遅くないかな?」

 

「ぺ、ペルシカ・・・・そんなに責めないでやってくれ」

 

「こ、これは私たちにも責任が・・・・」

 

 

ROとM16が宥めようとするが、それをペルシカが軽く睨んで(もちろんフリ)黙らせる。

科学者連中の中では比較的常識人で、というか17labやアーキテクトが自重しないだけだが、ペルシカも一歩踏み外せばMADの仲間入りなレベルである。

こんな面白い状況、早々に切り上げるはずがないのだ。

 

 

(・・・・ま、彼なら二人を任せても大丈夫だとは思うけど、もうちょっと試させてもらうよ)

「ところで君、ROが大破した時にすぐこっちに来たよね?」

 

「え? は、はい」

 

「サクヤから聞いたよ、珍しく仕事ほっぽりだしたって」

 

「そ、それは・・・・・」

 

「ROの身を案じてくれたのはわかるし、感謝してる。 でも君は君の会社での仕事があって、しかもそれなりの重役だ。 そこのところは理解してるよね?」

 

 

凄んで言ってみるが、ペルシカとしてはそんなに気にしていない。自分だってSOPがそうなったらすぐに駆けつけるし、恋人の危機になんもしないのはそれはそれで問題だと思っている。

が、一方で試しているのも事実。今回のような場合ならいざ知らず、軽症だとか腕がなくなった(人形にとってはそこまで重症ではない)くらいで仕事を放り出すというのなら、同じ人形に携わる人間として説教の一つでもしてやろうと思う。

 

人間と人形は違う。愛していてもそこは変わらず、そして忘れてはならない一線である。

 

 

「ペルシカ! それはあんまりだろ!?」

 

「M16、彼は人形の素人なんかじゃないの。 それに鉄血の職員とうちの人形が付き合ってるってのは、トラブルの種にもなりかねないのよ・・・・・それを踏まえて、答えてちょうだい」

 

 

再度、ユウトに問いかける。M16は拳を握りしめ、場合によればペルシカに殴りかかるくらいの覚悟が見える。ROもそれを察しているようで、いつでも止められるように身構えている。

そんな中、ユウトは大きく息を吸い込むと、ペルシカをまっすぐ見据えて応えた。

 

 

「確かに、僕の立場を考えれば、軽率だったのかもしれません」

 

「ユウトっ! それは「ですが!」・・・・!」

 

「それでも、僕には『行かない』という選択肢はありません」

 

「・・・・・・・・」

 

 

悩むそぶりもなく、はっきり言ってのけるユウトにM16とROも驚く。

 

 

「そう・・・じゃあこっちもはっきり言うよユウト、今度そうなった、君は鉄血と彼女たち、どちらかを捨てなければならなくなる」

 

「覚悟の上です。 そして僕は、迷わず二人を選びます」

 

「君の立場は、君が思っているよりも危ういんだ・・・・軽率な判断は感心しないよ」

 

「考えなしには言いません・・・・これが僕の選択です」

 

 

一切目を逸らさず、揺るぎもしないユウト。ペルシカもそれを正面から受け止め、M16とROは祈るような気持ちで行く末を見守っていた。

息の詰まりそうな空気が数分、もしくは十数分も続き、ペルシカがふぅっと息を吐いてその糸を切る。

 

 

「あーやめやめ、やっぱりこういう雰囲気は好きじゃないね」

 

「・・・・・え?」

 

「ぺ、ペルシカ?」

 

 

突然態度を軟化させたペルシカに、三人ともポカンとする。それが面白いのか、ペルシカはくつくつと笑いながら言う。

 

 

「ごめんごめん、あんまりにもユウトが真剣な表情で挨拶なんてしてくるから、ちょっとからかっちゃった」

 

「か、からかうって・・・・じゃあまさかさっきまでのは!?」

 

「うん、特に意味はないよ」

 

 

あっけらかんと言ったペルシカに、三人は崩れ落ちるようにテーブルに突っ伏す。圧迫面接どころではない緊張は、正直心臓に悪い。

 

 

「やりすぎですよ、ペルシカさん」

 

「おや代理人、これも保護者の務めだよ」

 

「あなたのことですから、言ってみたいセリフのようなものでしょう・・・・『娘は渡さん』みたいな」

 

「よくわかってるじゃない」

 

 

お替りを持ってきた代理人も、この空気で色々と察したらしい。

実際のところ、人形の自立を支持するペルシカがいまさら反対するはずなどないのだが、そこに気付けなかったユウトたちが勝手に熱くなっただけである。

 

 

「ま、そういうわけだからさ・・・・・二人をよろしくね、ユウト」

 

「は、はい、ペルシカさん・・・・・いえ、『義母さん』」

 

「! ふふ、義母さんか・・・・・ふふふ」

 

 

娘は多いけど、息子は初めてかな・・・と一人呟くペルシカ。

この日以降、16labと鉄血工造とで人の行き交いが増えるのだが、それはまた別のお話。

 

 

end




こんな大イベントをなぜ今まで忘れていたのか。
まぁ挨拶なんてしなくても知られてるんだけどね!


てなわけで今回のキャラ紹介

ユウト
鉄血工造の開発部門所属。
並行世界出身の常識人。
きっと一途で純粋な好青年。

ペルシカ
戦術人形の権威にして常識っぽい皮を被ったMAD予備群。
ちなみにAR-15と付き合っているハンターからは義母さんとは呼ばれない。

M16&RO
認めてくれなかったらグレるか家出する。

代理人
もう大抵のことでは動じなくなった。
察しスキルEx




以下、おまけ(暇な時にやってみよう)












問題
AR小隊及びその関係者の間柄を図示せよ。
但し、友人関係は含まず、家族・恋愛関係は含むものとする。

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