喫茶鉄血   作:いろいろ

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遅ればせながらコラボ返し。
なんとなくシリアスな空気で終わっていたのでそのままシリアスに・・・・・なるわけないよね!

というわけで今回は『無名の狩人』氏の作品『ブラッド・ドール』とのコラボ!
https://syosetu.org/novel/196745/8.html


第百七十七話:愛しの狩人様

異世界の狩人ローウェンに似た狩人の襲撃、そしてそれに共鳴する形で再びこの地に足を踏み入れたローウェン。この世界の者たちにも少なからず被害を出したこの騒動は、他ならぬローウェンの手によって収束した。

被害者への説明は後日行うこととし、今は目の前で涙を流すローウェンに尽くすべく、代理人は紅茶を淹れるのだった。

 

 

「・・・・すまない、見苦しいところを見せた」

 

「いえ、こちらこそ・・・・あなたが手を下していなければもっと被害が出ていたかもしれませんのに、私は」

 

「だが、私もやりすぎだった。 恐ろしいものだ・・・・狩りにしろ憎しみにしろ、何かに飲まれるというのは」

 

 

ローウェンが己の拳を見つめる。拭き取りはしたがそこに染み付いた幾多の血と匂いが取れることはなく、数えきれない命を殺めてきたことを物語っている。

それ自体に特に思うことはない。獣を狩らねば狩られるだけだし、ヤーナムでのことや迷い込んだあの世界でのことも、生きる上では必要だったのだ。

だが、その力と行いに溺れてしまったら・・・・・そうなってしまった者を、何度も見てきたはずだ。

 

 

「・・・・だが、それでも俺は、戦わねばならない」

 

「存じております。 私にできることは、こうしてお茶を出すことくらいでしょうけれど」

 

「いや、十分すぎるさ・・・つくづく『人形』には世話になりっぱなしだな」

 

 

自嘲気味に笑い、紅茶を一口飲む。経緯はどうあれ、今はローウェンにとって数少ない心休まる時間なのだ。狩人たる者、休める時に休んでおかねば。

・・・・が、神の意思か上位者の意思か、いずれにせよローウェンに休息を与えるつもりはないらしい。

 

 

ドタドタドタド……バタンッ‼︎

「あぁ狩人様、お会いしとうございました!」(恍惚)

 

「アデーラ!? なぜここに!?」

 

 

窓から土煙が見えるほど全力でやってきたのは、当地区の教会に住まうちょっと変わった修道女アデーラ。走るには適さない格好でしかもそれなりの長距離を走ってきたにもかかわらず、息どころか汗すらかいているように見えない。

そして、ローウェンの中では着実に警戒レベルが上がっていった。具体的には、無意識に獣狩りの銃を握りしめるくらいには。

 

 

「スンスン・・・・これは、血の匂い? もしや狩人様がお怪我を!?」

 

「ええい寄るな! 触るな!」

 

「大丈夫です狩人様、私が全身隅々まで癒して差し上げますわ。 ですがここでは何ですのでどうぞ私の教会へ」

 

「いかん!」

 

 

間違ってついていこうものなら監禁コースまっしぐらだろう。そしてアデーラのことだ、おそらく一度捕まえたら逃すようなことはするまい。

たとえ今後永遠の安息が約束されようとも、その全てを差し引いてなおマイナスになる存在、それがアデーラなのだと思っている。

心底残念そうにするアデーラだが、思わぬところから援護がやってきた。

 

 

「たまにはいいではありませんか、ローウェンさん」

 

「なっ!? 代理人、正気か!?」

 

 

まさかの提案に、ローウェンはたじろぐ。過去になにがあったかなどは知らないが、ローウェンの態度からかなり苦手にしていることは十分伝わる。

しかし『次』がいつなのか、そもそもあるのかもわからないのであれば、一度くらい彼女の望みを叶えてあげた後も思ったのだ。

 

 

「ご安心を、私も同行しますので」

 

「・・・・・わかった。 だが妙なことはするなよアデーラ」

 

「うふふふ、もちろんですよ狩人様」

 

 

ローウェンは不安と不満を隠すこともせず、渋々教会へと向かったのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「おいアデーラ、あれは何だ!?」

 

「・・・まぁそうなりますよね」

 

 

教会に入って早速ローウェンは帰りたくなった。もとより『教会』というものにロクな思い出のないローウェンだが、今回のはこれまでとは全くベクトルの違う衝撃だったのだ。なにせ、扉を開けばおそらく自身をモチーフにしたであろう石像が建っていれば、渋い顔をしたくもなる。

ローウェンを愛するが故に、かの街の名がつけられた新たな宗教『ヤーナム教』である。

 

 

「今すぐ撤去しろ!」

 

「あら、それはつまり石像(紛い物)ではなく狩人様(本物)がいらっしゃるから問題ないと」

 

「断じて違う」

 

 

考えてもみて欲しい、案内された家に自身の石像があることを。そしてそれが祀られていることを。

幸いなことに今の時間は信者がいなかったが、それでもローウェンにとって強烈すぎる出来事だ。月の魔物やらゴースの遺児よりたちが悪い。

 

 

「この祭壇で毎日お祈りしているのです。 狩人様の行く道に光あるように、と」

 

「・・・・所詮狩人は狩人だ。 獣を狩る以外に進む道などない」

 

「そうでしょうか? 少なくとも、以前一緒に来ていただいた『アルチゼン』さんは、楽しそうにしていましたよ」

 

「あぁ、あの一緒にいた女の子・・・・狩人様もすみにおけませんね」

 

「頼むから黙ってろアデーラ」

 

 

念を押すがアルチゼンとはもちろんそういう関係ではない。というかローウェンに限らず狩人にとって、そういう話は全くの無縁というものなのだ。ある意味人間性を捧げた結果ともいえるが、これがローウェンにとっての当たり前である。

 

 

「ふふっ・・・それはともかく、せっかく来ていただいたのですからお茶を用意しますね」

 

「・・・・・・何も入れんだろうな?」

 

「さすがに疑いすぎですよローウェンさん」

 

 

疑いの目を向けるローウェンに意味深な笑みを浮かべて教会の奥へと消えるアデーラ。

渋々教会の片隅に置いてあるテーブルに向かうと、椅子に腰掛けて天井を仰ぎ見る。ヤーナムの教会とは違い、上位者を奉るような装飾は見受けられず、あるのは狩人の石像のみ。血の匂いも獣の匂いせず、ただただ静かな教会だ。

あるいは、それが本来の『教会』というものなのだろう。

 

 

「お疲れのようですね、ローウェンさん」

 

「・・・・・・・ずっと、悪夢の中だったからな」

 

 

あるいは、これも悪夢と呼べるものなのかもしれない。

狩りを忘れてしまいそうな程の平穏、それは狩人にとって大変甘美で、危険な罠だ。

それはまるで、あの工房のような・・・・・

 

 

「ローウェンさん?」

『狩人様』

 

「! ・・・・なんでもない」

 

 

一瞬、代理人と重なって見えたあの人形。いまでもあの工房で待ち続けているのだろうか。

じっと見つめる視線に首を傾げる代理人に、ローウェンはフッと表情を崩して座り直す。代理人が何かを聞こうとする前に、アデーラがポットを持って戻ってきた。

 

 

「お待たせいました・・・・あら、狩人様」

 

「ん?」

 

「少し表情が柔らかくなりましたが、何かいいことでも?」

 

「・・・・・さぁな」

 

「ふふふ、そうですか」

 

 

微笑みながら紅茶の注がれたカップを手渡すアデーラ。

今も信用したわけではないが、その評価をほんの少しだけ上方修正することにしたローウェンだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「・・・・・・おい貴様、何を入れた?」

 

「うふふふふ・・・・特製紅茶のお味はいかがですか?」

 

「これ、血ですか?」(ドン引き)

 

「魔法瓶に入れたものもあります。 お帰りの際にはぜひ」

 

「いらん!」

 

 

 

end




これ書いてる→ブラボやりたくなる→腕も鈍ってるから最初から→ハマる→書くのが遅れる→気付けば一週間(今ここ)
・・・・・いやぁ人形ちゃんは可愛いですね(現実逃避)

はい、言い訳はここまでにして今回はコラボ回でした!
代理人といい人形ちゃんといい、ローウェンは何かと人形に縁がありますね笑


それでは今回のキャラ紹介。

ローウェン
三度呼ばれた狩人。呼ばれた先でとある狩人と戦った。
ちなみに書き始めた当初はヤーナム(獣狩りの銃)と出会い、『お父さん』と呼ばれてアデーラが暴走するという話だったが・・・・収集つかなかったので没。

アデーラ
狩人への敬愛が行きすぎたヤンデレ。何気に拐われたヤハグルで生き残っていたあたりバイタリティは相当のもの。
ヤンデレ成分は薄れたが、奇妙な宗教を広げつつある。

代理人
人間ってすごいなぁ・・・と思う今日この頃。





『アデーラの紅茶』
保存が効く水筒に入った紅茶。体力を少量回復する。
ごく少量の血が入っているそれは、紅茶の香りに混じって狩人を酔わせることだろう。
狩人よ、血を受け入れたまえ。

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