ところで昨晩9ちゃんとデートする夢を見たんですがこれって予知夢でしょうか?
欧州の一角に存在するS09地区の街は、世界各地にある同様の地区の中では比較的小さい部類になる。歴史的な街並みを多く残し、地区外周の一部には城壁の一部と思しき建造物もあるなど、発展都市というよりも観光都市のイメージが強い。実際、欧州の観光局の公式パンフレットにも紹介されており、毎年少なくない数の観光客が訪れる街だ。
その一方で、この地区に集結する戦力は他を圧倒し、そこらの小国程度なら十分渡り合えるほどの戦力を有する。特にこの地区を管轄とするG&K S09地区司令部はグリフィンの中でも指折りの規模を誇り、また所属する人形たちの練度も高い。これに加えて小規模ながら軍の駐屯地もあるなど、もはや過剰戦力ともいえる有様なのだ。
「つまり! この地区には何かあるはずなんだよ!」
「・・・・・その話、もう五回目だよ『MDR』」
正確には
「いやいや、気にならないはずないじゃんか! 確かにあの鉄血の本社が近いってのはあるかもしれないけど、それだけじゃこの戦力は説明できないでしょ」
「はいはいそうですねぇー・・・・・いいからちょっと黙っててよ」
「もぅ、暇なんだからいいじゃんか~! それよりまだ着かないn「アー手ガ滑ッター」ぎゃぁあああああ!!!???」
車が少ない時の高速道路の平均速度は100キロを超える。そんなスピードで突然車を横に振ればどうなるかなど火を見るよりも明らかだ。バンの後部座席に積み込んである荷物はしっかりと固定されているが、どうせ大丈夫だろうと高をくくってシートベルトを外していたMDRはたまったものではない。
こんなやり取りをすでに三回ほど繰り返しているのだが、そんなことをしたところでMDRは黙らないし目的地・・・・S09地区も近くなるわけでもない。強いてあげれば、AA-12の気分が少しだけ晴れるくらいか。
「痛たたた・・・・死んだらどうするのよ!?」
「メンタルモデルのバックアップは取ってあるでしょ? じゃあ大丈夫だよ」
「そん時はこの車のドラレコ晒してやるからね!」
「あーもう煩いなぁ・・・・・ん?」
ウ―――――(赤青のランプ)
「「あ・・・・・・・」」
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
西日が差し込み始めたのを確認し、徐々に日照時間が短くなりつつあることを感慨深く思いながら窓のブラインドを下ろす。外では学校帰りの子供たちが元気よく駆け抜け、入れ違うように主婦たちがタイムセール目当てに通りへと向かう。
そんな夕方の賑わいの中、喫茶 鉄血にも仕事終わりの癒しを求めて客足が増え始める。反対にPCを広げて仕事をしていた客層が帰り始めるため、平日のこの時間帯は客の入れ替わりが割と激しかったりする。加えてこの仕事終わり組にはこの店の常連でもある戦術人形たちも含まれるため、むしろこれからの方が忙しいこともあるのだ。
「まったく・・・着任初日から遅刻なんて弛んでるわ!」
「まぁまぁWAさん、きっと何か事情があったのでしょう」
「仮にそうだとしても、それならそれで一言連絡があってもいいと思わない?」
今日は職場で不満なことでもあったのか、カウンターに肘をつきながらWAが愚痴をこぼす。同僚のスプリングフィールドが宥めてはいるが、職務にまじめな彼女からすれば許されざる行いのようだ。そして何より、その出迎えに抜擢されたために今日一日をただ待ちぼうけることになったのが許せないらしい。
だがそこまで滅茶苦茶に怒っているというわけでもないらしく、その証拠にマグカップに注がれた熱いココアをチビチビと飲んでは、その表情をへにょっと緩める。指揮下曰く、「小動物的な可愛さ」があるのだとか。
「スプリングフィールドさんの言う通りですよ。 それに、いつまでもむくれた顔は似合いませんよ」
「むぅ・・・・代理人が言うならそうするけど」
「あら? 私ではダメなんですかWAさん?」
「あんたにも言いたいことが山ほどあるんだけどね、主に指揮官絡みのことで」
「え? 私と指揮官の絡みについて!?」
「「そうじゃないわよ(ありませんよ)」」
そんな感じで接客と片づけをテキパキこなす代理人だったが、ふと店の前でに子供たちが集まっているのを見つける。その傍らには小型のバンが止まっており、見切れていてよく見えないがグリフィンの社章が描かれているようにも見える。
何かあったのだろうか、と様子を見に行こうとした代理人の前で扉が開き、やや疲れた様子の二人組が入ってきた。
「つ、疲れた・・・・・・」
「ガキンチョのあのテンションマジ無理」
現れた二人・・・・AA-12とMDRは、大きなため息をつきながら床にへたり込む。どうやら普段見慣れない人形ということもあって、子供たちの注目を集めてしまったようだ。
そして二人は息を整えると互いにキッとにらみ合い、一瞬早く動いたMDRがAA-12に覆いかぶさった。
「元はと言えば、AA-12が近道しようとか言い出したせいでしょ!」
「誰のせいでそうしなくちゃいけないほど遅刻してると思ってんのよ!」
「ハイ残念、危険運転は私の責任じゃないよーだ!」
「あんたが騒がしいのが原因でしょ!」
といきなり始まるキャットファイトに、店内は騒然とする。両手を組み合ったままMDRがマウントを取り続けるも、出力で勝るAA-12を押し切ることができない。一方でAA-12もマウントを取られたせいで思うように反撃できず、互いにできることと言えば
さて、そんな感じで周りの目も気にせず熱くなる二人だが、それに臆することなく近づく者たちがいた。そのうちの一人はツカツカとわざとらしく足音を立ててMDRの後ろに回ると、スッとその首に両腕を伸ばし・・・・・・
「・・・・・フンッ!」
「っ!?・・・・・キュゥ」
「え、MDR!?」
ろくな抵抗すらできずに締め落とされた同僚を受け止め、そしてゆっくりと顔を上げる。
そこにいたのは、まるで聖女のような笑みを浮かべたWAだった・・・・・もっとも、その背後から黒いオーラのようなものが噴き出ているようにも見えるが。
「あ・・・あぁ・・・・・」
「・・・・・代理人」
「なんでしょうか」
「ちょっと部屋借りるけど、いいわよね?」
「えぇ、構いませんよ」
「ありがとう・・・・・じゃあAA-12、来なさい」
「え・・・えっと・・・・・」
「来・な・さ・い」
「は、はいぃぃいいいいいい!!!!!」
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
「「大変申し訳ございませんでしたっ!!!」」
長針が半周ほどしたころ、スプリングフィールドに呼ばれて三階の空き部屋に入った代理人を迎えたのは、お手本のようにきれいな土下座で謝罪の言葉を述べるAA-12とMDRだった。その後ろではWAが妙にやり切った顔で腕を組み、隣のスプリングフィールドが苦笑している。
AA-12の方はともかくとして、MDRには大きなたんこぶができていることから、おそらく反抗して返り討ちにでもあったのだろうと推測できる。平和ゆえに実戦は少ないが、WAの練度はそれなりにあるのだ。
「いったい何をしたんですかWAさん?」
「別に、ただちゃんと謝るようにって言っただけよ」
「嘘つけ」
「MDRはこの後居残りね」
冷酷な判決に土下座したまますすり泣くMDRは置いといて、代理人も反省の意思があるのならばと許すことにする。実際のところ、店の中で暴れただけで大した迷惑にはなっていないのだが、WAがせっかく怒ってくれたようなのでそのままにしておいた。
「二人とも、もう十分ですよ」
「え、本当!?」
「あんたはもうちょっと反省しなさい!」
いい笑顔で顔を上げたMDRに拳骨が下る。そして食らった本人以上にビビりながら顔を上げたAA-12は、ふと代理人が持つトレーから漂う甘い香りに反応した。
まるで子犬のようなそのしぐさに代理人はくすっと笑うと、トレーの上のものをテーブルに並べ始める。
「あ、お手伝いしますよ代理人さん」
「ありがとうございますスプリングフィールドさん」
「え、あの、これはいったい・・・・?」
「ふふふ・・・ここはカフェですから、ケーキやココアくらいありますよ」
「いや、そういうことじゃなくて」
怒られたかと思えばもてなされ、訳も分からないまま椅子に座らされるAA-12の前にケーキとココアが並ぶ。いつの間にか復活していたMDRもしれっと座っており、ものすごい勢いでシャッターを切りまくっている。
「『【レビュー】巷で噂の名店の味』、っと・・・・さてさてお味の方は」
「・・・・ねぇAA-12、こいつっていつもこんななの?」
「まぁ、その・・・・はい」
「う~ん美味しい! 流石は『戦術人形大アンケート! みんなが選ぶ基地周辺の名店』に選ばれるだけあるね!」
「MDRさん、あまりネットの情報を信じすぎるのはどうかと」
「あれ? 代理人知らないの?」
「グリフィンの社内報に連載されているコーナーなんですよ、それ」
ちなみに、件のコーナーで喫茶 鉄血が取り上げられたのは一度きりではなく、そのため本部勤めの人形や若い女性職員を中心にS09地区への転属願いが後を絶たないという。過去には社内イベントの景品の一つに『喫茶 鉄血での優雅なひと時・S09地区二泊三日の旅』というものがあったほどだ。
そんなわけで、少なくともグリフィンの中ではかなりの有名店として名をはせている喫茶 鉄血だが、いまでもごく平凡な喫茶店だと思っているのは代理人くらいだろう。
「あ、せっかくだからツーショットとかいいかな代理人?」
「え? 別に構いませんが・・・・・変なところには載せないでくださいよ」
「大丈夫大丈夫、ちょっと
マイペースに周りを巻き込むMDRはひとまず放っておき、AA-12は目の前のケーキをフォークで切り分け、口に運ぶ。砂糖の甘さとイチゴの酸味、スポンジもほんのり甘く、それでいて甘ったるくはないという絶妙なバランス。常にロリポップを持ち歩くほどの甘党だが、これくらい控えめな甘さでも美味しいと思えるのは久しぶりのことだった。
気づけばもう一口、もう一口と手が伸びる。その様子を、WAとスプリングフィールドが微笑ましく見守っていた。
「喜んでもらえたようね」
「そうですね・・・・WAさんが手配した甲斐がありますね」
「ちょっ、それ言わない約束でしょ!?」
「え!? じゃあこれってWAさんの・・・・・」
「あぁもう絶対気を使うと思ったから言わなかったのに・・・・」
ニコニコと笑うスプリングフィールドを恨めし気に睨むと、観念したように溜息を吐いてからAA-12に微笑みかける。
「・・・・・ま、初日からやらかしてくれたけれど、もうそのことはいいわ。 ようこそ、S09地区へ」
「これはささやかな歓迎会ですよ」
ポカンとしたまま固まるAA-12に、二人は手を差し出す。それに気づき慌てて握手を交わすAA-12に、WAもスプリングフィールドもクスっと笑ってしまう。
もちろん正式な手続きや指揮官へのあいさつはまだだが、ひとまずはこれで、この地区の仲間として認めてもらえたのだった。
「・・・・・『【朗報】ワーちゃんはやっぱりツンデレ』、っと」ピコンッ
「MDRッ!!!!」
「ひぎゃぁあああああああ!!!!!????」
end
文才とタイピングスピードと発想力とリアルラックが欲しい・・・・・とはいえ今のところ「もうめんどくせぇ」とはなっていないので大丈夫だと思う今日この頃。
でも書きたいときに思い浮かばず、仕事中にふと案が出てくるこの脳みそだけは何とかしていただきたいです。
まぁそれは関係ないとして今回のキャラ紹介。
AA-12
この作品ではごく最近製造された人形。フルオートショットガンというロマン武器。
一見適当そうだが上下関係を含め規律はしっかり守ってくれる。
飴玉を常備している→超甘党という設定。そこから派生して苦いものが大の苦手。チョコやココアもカカオ率が高いとダメ。
MDRに苛立ち免許は減点され着任には遅刻しWAに説教されるという踏んだり蹴ったりな一日。
MDR
AA-12と同時期に製造された新型。ネットサーファー兼荒ら師。
今後出てくるかわからん設定として、個体ごとにお気に入りの端末が異なる。彼女の場合はスマホに外付けのキーパッドを取り付けたなんちゃってガラケー。
中身も相応に適当でお調子者。そして反省後即再犯する厄介なタイプ。
食いつきそうなネタは見逃さない・・・・某重巡や某鴉天狗っぽい。
最近全く応えられていませんが、リクエスト用の活動報告置いてます。
コラボの依頼もあれば是非!(世界線違いすぎて大規模コラボに参加できない泣)
https://syosetu.org/?mode=kappo_view&kid=204672&uid=92543