「トリックオアトリート!」
「お菓子をくれなきゃイタズラするぞ!」
「はいはい、慌てなくてもたくさんありますからね」
10月31日、世間がハロウィンムード一色に染まる中、このS09地区も例外なく活気づく。街のいたるところにカボチャや蝙蝠の飾りが並び、子供たちの可愛らしい仮装から大人たちのガチなコスプレまで、とにかく街全体がお祭りムードだった。
このシーズンにとくに活気づくのは飲食業界、中でも製菓業界は年末商戦にも劣らぬ気合の入りようだ。むしろここから年末までノンストップと言ってもいい。子供受けのいいお菓子、大人が楽しめるお菓子、プレゼント用、パーティー用、ドッキリ用などなど・・・・。
その一方、個人営業などは基本的にマイペースを貫いており、喫茶 鉄血もその一つだ。
「流石に大人気だねOちゃん」
「えぇ、あちらはただでお菓子がもらえて、こちらは売り物にならない商品をさばける・・・・WIN-WINですね」
代理人たちもこのハロウィン商戦に一応絡んでおり、いつぞやのバレンタインで好評だった『各々が一種類ずつお菓子を用意する』というシステムを採用、製作過程で出てしまった不良品を子供たちに配っているのだ。
ちなみに各店員考案のメニューは以下の通り
・栗満載のモンブラン(代理人)
・皮付きスウィートポテト(D)
・メープルたっぷりのフレンチトースト(フォートレス)
・かぼちゃのケーキ(リッパー)
・かぼちゃと芋のジェラート(イェーガー)
・ほろ苦ショコラとブラックソース(ゲッコー)
・アタリかハズレか!?バニラアイスと四種のソース(マヌスクリプト)
「相変わらずマヌスクリプトの案は読めませんね」
「でも一番売れてるみたいだよ・・・・怖いもの見たさで」
マヌスクリプトとて喫茶 鉄血の一員、見た目のインパクトはともかくちゃんと食べられるものを作っている。いかにもゲテモノっぽい見た目に反して普通に美味しいということで、若年層を中心に人気を博しているようだ。
そんな他愛もない話をしていると、どうにも出入口の方が騒がしいことに気が付く。なぜか子供の泣き声まで聞こえてくるが、こんなことは一度や二度ではない代理人はもう諦めたように様子を見に行った。
「失礼します、何かありました・・・・・か・・・」
「・・・・・・・・」
騒動の中心人物と目が合った瞬間、代理人は言葉を失いかけた。これまでも何人か・・・・いや数えきれないほど問題人物がやってきたことはあるが、今回のはずば抜けてやばかった。
被ったフードの下はジャックオランタンの被り物で目の部分が妖しく光り、上半身をスマートな装甲が覆っている。手に持った銃につけられた銃剣に意味があるのかは知らないが威圧感はあり、きわどいスカートから下は靴すらない素足・・・・・多分人形だろうが、どう見ても不審者だった。
「えっと・・・・・何か御用でしょうか?」
「・・・・・・・・・」
無言。それどころか身動き一つ取らないため、これは誰かが置いた置物ではないかという疑念にかられる。しかし突然降って湧くはずもないのと地面についた足音から、彼女(?)が自力でここまで来たのは事実のようだ。
それを追ってきたのか警察が路地の方から様子をうかがっているが、代理人が対応し始めたことで静観を決め込むつもりらしい・・・・警察仕事しろ。
「あの、そこにそのままいられるのもなんですので、中へご案内しますね」
「・・・・・・・うん」
(喋った・・・・・・)
ギリギリ聞き取れる程度の声量だが、実は意外と悪い人ではないのかもしれない。すでに手遅れ感はあるが、これ以上騒ぎを大きくしないためにも店の控え室に連れて行くのだった。
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
「・・・・・・・」
「・・・・・・・」
「うんうん、上が露出ゼロな分素足が映えるね!」
「はーいマヌちゃんはちゃんと働こうねー」
「は、離してD! 私は彼女と話があるのよ!」
ずるずると引きずられていくマヌスクリプトをよそに、代理人は目の前の人物を見やる。あれっきり一言も発さずこれといった仕草もなし、とりあえずコーヒーを出してみたところカボチャ頭の口の部分から器用に飲み、何事もなかったかのようにじっと座る。
マヌスクリプトのセクハラ紛いのアングルの写真撮影すら反応せず、しかし時折足を組み替えるところからちゃんと動いていることだけはわかる。
「・・・・・・はぁ。 もうその格好については何も言いませんから、せめて名前だけでも教えていただけませんか?」
「・・・・・・・・・」
代理人の懇願にも応じず、頑なに無言を貫き通す謎の人形・・・・・ぶっちゃけ手に持った銃で何となく察しはつくが、そこには触れないでおく。
さて、このまま待っていても埒が明かないのは明白だ。かれこれもう三十分くらいにはなるが仕方がない、あとのことはグリフィンにでも任せよう・・・・・と代理人が連絡を取ろうとしたその時、いつの間にか件の人物の後ろにいたゲッコーが痺れを切らしたように言った。
「代理人が招き入れた以上、手荒な真似はしたくなかったが・・・・・いつまでもだんまりというのはな」
「ゲッコー? 何を・・・・・」
微妙に嫌な予感に代理人が止めようとするが、それより先にゲッコーは人形のフードを引きはがし、その頭にかぶっているカボチャを引っ掴む。ついでに尻尾の先のアームも使い、一気に上に引き上げた。あまりにも一瞬の出来事に、抵抗する間もなくカボチャ頭を抜き取られてしまう。
「っ!? ~~~~~~!!!」
「む、やはり想像通りの美少女だったか」
中から現れた(?)のはやはり戦術人形、長い髪と蒼い瞳が特徴の彼女は・・・・・確か『Fr FAMAS』という名前だ。戦術人形としては比較的初期のころからあるタイプだが、この地区ではこれが初らしい。
そのFAMASは盗られたカボチャ頭を取り返そうと手を伸ばし、どうしようもないことが分かると顔を覆って俯く。FAMASという人形がどのような性格を設定されているかは知らないが、この地区にやってくるということは相応のワケありということか。
「・・・・・・ゲッコー、とりあえず返してあげなさい」
「代理人がそういうのであれば・・・・いいか? これを返す代わりに代理人の質問には答えるんだぞ?」
「・・・・・・」コクッ
「うん、いい子だ。 それともう一つ・・・・・この後、私と一緒にお茶でもいかがかな?」
「D、ゲッコーも手が空いているようですよ」
「代理人!?」
余計なことまで口走ったゲッコーをDに引き渡し、代理人は改めてFAMASに向き合う。そのころには返却された被り物を被りなおし、また元の様子で座りなおしていた。どうやら極度の人見知りであるらしく、この状態が最も落ち着いているようにも見える。
気を取り直して事情聴取・・・・というか質問を続けようとしたその時、FAMASが不意に口(?)を開く。
「・・・・・・FAMAS」
「え?」
「・・・・FAMAS。 Fr FAMAS、私の名前」
「え、はい・・・・あの、なぜ急に?」
「・・・・・さっき、聞かれたから」
せめて名前だけでも、という質問への答えだろう。ということはやはり言葉は通じていたようで、ついでに先ほどのゲッコーとの約束も覚えているようで、それで律義に答えてくれたのだろう。
もっとも、よほど新型でなければ顔を一目で見ただけでわかるのだが、あえてそれは黙っておく。
「そうですか・・・では、なぜそのような格好を?」
「・・・・・目立つのは、嫌い・・・ハロウィンなら隠し通せると思った」
眠らない街ならともかく、こんな街でそこまでガチな仮装をする奴なんていない。どうやらそれっぽい色とカボチャを被っていれば溶け込めると思っていたようだが、残念ながら逆効果だったようだ。自警団や警察を呼ばれなかっただけ幸運だろう。
さらに意外なことに、どうやらこのFAMASは全くの無口というわけでもないらしく、ポツリポツリとではあるが話し始めた。
「生まれつき、人と話すのは苦手・・・・配属が決まって、本社を出るときに、自分で作って被った」
「それはまぁ・・・・では、なぜここに? 司令部とは方向が違うはずですが」
「このお店、本部でとても人気だから」
人見知りでも来たくなるとは、本部でどのような扱いになっているのか少し気になる代理人。
ネタバラシをすると・・・・配属地区は主に訓練の成績によって希望の通りやすさが決まるのだが、喫茶 鉄血関係でこのS09地区志望の人形はかなり多い。というわけでそれを餌にしてモチベーションを高め、人形たちの完成度を高めようという魂胆だった。発案者はクルーガーだが、その目論見は今のところ成功している。
(実際は訳あり人形を優先的に配属させているそうですが・・・・・まぁ話すことでもないでしょう)
「・・・・事情は分かりました。 司令部には私から伝えますので、それまでゆっくりしていただいて構いません」
「! あ、ありがと「その代わりに」・・・・!」
「お礼は相手の目を見ながら、ですよ?」
代理人がいたずらっぽく微笑みながらウインクすると、FAMASは一瞬驚いたように固まり、やがて恐る恐るカボチャ頭をとった。緊張か気恥ずかしさかなかなか目を合わせられないが、一度目を閉じて深呼吸し、代理人と目を合わせる。
「・・・あ・・・・・ありがと、う・・・」
「えぇ、どういたしまして」
そう言うと代理人は立ち上がり、FAMASの分のケーキと紅茶を用意しにキッチンへと戻っていく。その背中を、FAMASは少し赤らんだ顔で見つめるのだった。
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
後日
「あら、また来てくださったんですねFAMASさん」
「・・・・・・・・うん」
「・・・・おいゲッコー、FAMASは代理人と知り合いなのか?」
「あぁそうだ・・・・いや、
「なっ!? どういうことだFAMAS!?」
「っ!?!?」ビクッ
「ダネルさん! 怖がらせないでください!」
新たなライバルの予感に焦るダネルと、訳も分からずおどおどするFAMASをなだめるだけで、代理人の一日が終わってしまうのだった。
end
靴も靴下も履いてない素足って、どうしてこう魅力的なんでしょうかね?教えてエロい人!
というわけで今回はハロウィンイベでスキンが追加されたFAMASちゃん!
元の立ち絵も他とは一線を画すほど躍動感のある一枚で、銃についたハートのアクセサリーが女の子っぽいのが可愛い!
例によってもはや別キャラみたいな性格だけど、そういう個体だということで笑
では今回のキャラ紹介!
Fr FAMAS
IoP製の戦術人形の中では比較的初期からいるタイプ。それゆえ製造数も配備数も多く、相対的に不具合機も多い・・・・某自動車メーカーの車種みたいだね!
S09地区に配属を命じられるだけあってなかなかのくせ者で、極度の人見知りと一般常識の疎さ、感情表現の下手さから通常の部隊では運用に支障をきたすレベル。それでもGoサインを出すIoPやグリフィンの未来に不安が残る。
代理人
まるっきり不審者な格好だが、そもそもここを訪れる客の中の変人率がなかなかに高いのでまだましに見える(比較対象:鐘で呼ばれる狩人・文字通り悪魔の男etc)。
表情が大きく変わることはないが、ふとした笑みとか絶対可愛いと思う。
マヌスクリプト・ゲッコー
いらんことをする、いらんことをしゃべることに定評のある問題児。
D