喫茶鉄血   作:いろいろ

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やたらと口は悪いけど、言葉の節々に見せるやさしさというか仲間想いなところがビークちゃんの良いところだと思います。


というわけで実質「第百九十六話:後編」、始まるよ~


第百九十七話:新進気鋭の臆病者

 代理人が助けを求められたことは、過去にも何度かある。本当に危機的なものから、それって本当に必要なのかというものまで様々だが、代理人は文句も言わずに手を差し伸べてきた。ハイエンドたちの長女だからか、あるいはそういうプログラムだからなのかは本人もよくわかっていないところだが、少なくとも代理人は、自身に向いていることだと認識していた。

 そんな彼女がサクヤとゲーガーに連れられてやってきたのは、本社の敷地内にある広大な演習場・・・に併設されている待機室だ。もともと演習する部隊の休憩にも使われるだけあってそこそこに広いのだが、演習場が使われなくなって以来物置のように使われていた。

 その部屋の隅っこに蹲る人影に、サクヤが声をかける。

 

 

「『ビークちゃん』、大丈夫?」

 

「うぅ・・・・もうやだかえりたい・・・・」

 

 

 ビークと呼ばれて顔を上げた少女、彼女こそが鉄血工造の最新鋭ハイエンドモデルである『ビーク』である。人形らしく整った顔立ちとツインテールに纏めた白い髪、これまで同様にモノトーンを基調とした装備は、紛れもなくハイエンドの系譜だ。

 ただ、そんな彼女は両目尻に涙を浮かべ、元々白い顔色はさらに白くなっている。どう見ても本調子でないのは明らかだった。

 

 

「えっと・・・彼女ですか?」

 

「あぁ紹介するね。 この子は『ビーク』、あなたの新しい妹よ」

 

「コホン・・・初めましてですね、私のことは代理人とお呼びください」

 

 

 代理人が握手を求め手を伸ばすと、ビークは一瞬ビクッとしてからおずおずと手を伸ばす。その仕草に妙な違和感を感じつつ、代理人はサクヤに尋ねた。

 

 

「それで、私は何をすればよろしいのでしょうか?」

 

「あー、そのね・・・・・見ての通りこの子は極度の人見知りとあがり症で」

 

「この後に演習形式でのお披露目なのだが、完全に委縮してしまって・・・・」

 

「なるほど、どうにか自信を持たせるなり奮い立たせるなりしてほしい、と」

 

 

 それを聞いて少し納得のいく代理人。人間人形問わず一度こういう状態になれば、わかっていてもなかなか立ち直れないものだし、実際そういう相談も少なからずあったりする。なので、それ自体は大して難しいことではない。

 が、ふと代理人は思い至る。そもそもの原因は別にあるのではないかと。

 

 

「一つ確認なのですが、彼女は製造されてから間もないのですね?」

 

「あぁそうだ。 というか昨晩の話だな」

 

「では、この性格は後天的なものではないということですね?」

 

「うん、生まれつきだよ」

 

「・・・・・・メンタル部分の責任者は?」

 

「「アーキテクト(ちゃん)」」

 

「はぁ・・・・・・」

 

 

 機械的で無機質なメンタルモデルよりかはよっぽどましだが、なぜよりにもよってその正確にしたのか、代理人は小一時間ほど問い詰めたい。ただの思いつきか、何か思惑があってのことなのかは不明だが、このメンタルでどうやってお披露目を成功させようというのか。

 代理人も思わず頭を抱えそうになったところで、待機室の扉が開く。アーキテクトだ。

 

 

「いやぁ、我ながら完璧なプレゼンだt」

 

「フンッ!!!」

 

「フゴッ!?」

 

 

 突然の腹パンに崩れ落ちるアーキテクト。それを見下ろすゲーガーの眼はどこまでも冷たく、ついでに一切の冗談も言い逃れも許さないという気概が見えている。

 

 

「さて、説明してもらおうかアーキテクト」

 

「私も聞かせてもらうよ・・・・開発段階とは別物のメンタルみたいだけど?」

 

「そ、それはその・・・・・」

 

 

 語られるのは、完成も間近になったある日のこと。

 当初の予定では気が強く攻撃的な性格の持ち主の予定であったが、現在の人形業界の風潮に合わないと思ったところから始まり、いっそ全部見直すかと考え始めた。しかし一から考え直す時間はなく、作り直すにしてもかなりギリギリ、着手するならばすぐでなければならなかった。

 そんな時、アーキテクトの電脳に天啓が舞い降りる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『なに? 作り直すには時間が足りない? 逆に考えるんだ、今あるものをひっくり返せばいいんだと考えるんだ』

 

 

 

 

 妙に渋い声で聞こえたその天啓に従い、アーキテクトは完成間近のメンタルをぐるっと反転させることにした。プラスはマイナスに、裏は表に、白は黒に・・・・・その結果生まれたのが「気が弱く上がり症で人見知り」なビークである。

 

 

「何が『その結果』だ! また直前でいらんことをしてくれたな!!」

 

「で、でもやっぱり意外性というか、そういうポイントは必要だと思うんだ!」

 

「仮にそうでも、せめて一言くらい言え!」

 

 

 結局またアーキテクトがやらかしただけのことだったのだが、ゲーガーの悩みはそんなところではない。今回のお披露目はある意味社運をかけているといっても過言ではなく、新生・鉄血工造の誠実さや潔白さを知らしめる機会でもある。その一歩目で躓くことだけはどうしても避けたいのだ。

 しかしすでにビークは完成してしまっている。もはや藁にも縋る思いで代理人に頼み込んだ。

 

 

「頼む代理人! もう私にはどうすることもできないんだ!」

 

「私からもお願い!」

 

「・・・・・わかりました、できるかどうかはともかくやってみましょう。 では彼女を少しお借りしますが、いつごろまでに戻ればよろしいですか?」

 

「お披露目・・・公開演習は午後からだ」

 

「一時間ちょっと・・・・いえ、準備も含めれば一時間が限界ですね」

 

 

 それだけ確認すると、代理人はビークを連れて部屋を後にしたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 鉄血工造製ハイエンドモデル『ビーク』―業界復活を遂げた鉄血工造の威信をかけた最新鋭機であり、代理人無き後の前線指揮型としての運用も期待される上級モデル。

 設計・製造は鉄血工造だがIoPや軍からの技術貸与もあり、鉄血製としては初となる「あらゆる人形への指揮権を保有する」人形となる。これは、昨今の状況から共同戦線を張ることの増えたグリフィンと軍に並ぶ必要から搭載されたものだ。

 加えて、これまでのモデルとは違い本体には固有の武装がなく、鉄血製はもちろんセッティングさえしてしまえば軍用もIoP製も使用可能な汎用性を誇る。代わりに外付けという立ち位置で専用装備が与えられ、ハイエンドモデルにふさわしい火力を得ることができる。

 

 ・・・・・というのがビークの説明であり、これから行われるお披露目で実際に行う内容だ。開始までまだ時間があるにもかかわらず、観覧席には会場にいた人間がほぼ全員そろっていることから、注目度の高さが伺える。

 場所を移し、従業員人形以外誰もいない社員用カフェの窓からその様子を見たビークは、完全に委縮してしまっていた。

 

 

「アーキテクトの嘘つき・・・・何が『知り合いが二、三人来るくらい』よ・・・」

 

「見ただけでも百人くらいはいますね」

 

 

 椅子の上で体育座りという窮屈な体制で縮こまり、見ようによっては部屋から無理矢理連れだされた引きこもりに見えなくもない。

 ちなみにビークは人形の中でも割と大きな方で、しかも全体的に肉付きがいい。本人としては丸くなっているつもりなのだろうが、押しつぶされて形を変えるモノが色々はみ出してしまっている。ジャッジが見れば発狂していただろう。

 

 

「どうぞ」

 

「え? あ、ありがとう・・・・・コーヒー淹れれるんだ」

 

「一応、店を開いている身ですので」

 

 

 設備がないので簡単なものですが、と差し出されたコーヒーを、ビークは恐る恐る口にする。いい例えが浮かばない香りと酸味、そして圧倒的な苦み・・・・・

 

 

「うぇ、苦ぃ・・・・・・」

 

「ふふ、ブラックは少し早かったようですね」

 

「わ、わかってたならもう少し甘くしてよ」

 

「それは申し訳ありません。 ですが、少し緊張もほぐれましたよね」

 

 

 いたずらっぽく笑う代理人に、ビークはハッとする。確かにさっきまであった胃がキリキリするような痛みもなくなり、気持ちも少し楽になっている。それが代理人のおかげなのかコーヒーのせいなのかはわからないが、それが少し恥ずかしくてビークはそっぽを向いた。

 すると代理人はササッと後ろに回り、ビークの頭をやさしくなで始める。

 

 

「大丈夫ですよビーク、あなたならきっとできます」

 

「で、でももし失敗したら・・・・・」

 

「ふふっ、そうですね・・・・その時は一緒に謝りましょうか」

 

 

 なぜ初対面でここまで優しくしてもらえるのか、代理人は全く関係ないはずなのではないか、なぜ誰も今の自分を叱ろうとしないのか・・・・・自身の置かれている状況に疑問符が浮かび続けるビークだが、撫でられると不思議とそれが消えていく。

 何とも言えない居心地の良さに浸っていると、不意に代理人が撫でるのを辞めて両肩に手を乗せた。

 

 

「さて、そろそろ時間ですね」

 

「え・・・・・あっ」

 

「慌てなくても大丈夫ですよ。 それよりも、どうしますか?」

 

「どうって・・・何が?」

 

「まだ心の準備ができていないようであれば、遅れるか延期を伝えますが」

 

 

 それがなにか、と言うかのように平然と聞いてくる代理人。そんなことをしたって代理人に何のメリットもないどころか、余計な責任まで背負わされかねないというのに。

 そんな代理人に、ビークは思わず口元を緩めた。

 

 

「・・・・・大丈夫、もう覚悟はできたわ」

 

「あら、その割には少し震えているようですが?」

 

「いつまでも、逃げてばかりじゃダメだからね・・・・・ありがと、代理人」

 

「えぇ、いってらっしゃい」

 

「いってきます」

 

 

 来た時とはまるで別人の、堂々とした歩みで会場へと向かうビーク。

 その圧倒的な性能を見せつけ、人形業界に名を馳せることになるのだが、それはまた別のお話し。

 

 

 

 

end




ログイン絵で初めて見た時は割と平凡な体格だと思ってたら、立ち絵ではやたらとムチムチで衝撃的だったビークちゃん。
そしてホットパンツとは・・・・・開発者はよくわかっていらっしゃる。

と言うわけで今回は鉄血の新キャラ、ビークちゃんの登場でした。
例によって原作崩壊もいいところな性格改変ですが、まぁ今に始まったことじゃないのでね汗


では、今回のキャラ紹介!


代理人
今回は母性にちょっと重きを置いてみた。
ナデナデとか膝枕とか子守唄とか色々やってほしい。
ちょっと目を離すと責任を負いたがるのが悪い癖。

ゲーガー
社長就任早々に胃が痛む。
とりあえずアーキテクトの減給処分を課そうと決めた。

サクヤ
ほんのちょっとアーキテクトから目を離してしまった結果。
思うところは多々あるが、ビークの性格自体は本人の庇護欲やら母性やらを掻き立てるのでヨシ!

ユウト
今回は出番なし。

アーキテクト
なまじ腕がいいだけに、ごく短期間で仕様変更ができてしまう。
実は最後の保険として、元々の性格をインストールする準備はしていた模様。
彼女に「普通」「仕様書通り」は存在しない。



ビーク
アーキテクト主導の中では最もまともに作られた機体。
本作では固有の装備はないが、アタッチメント扱いで専用の武装バイクがある。人形のスペックも過去最高クラスで、指揮能力も代理人に次いで高い。
元々は攻撃的で荒い口調(原作寄り)だったが、アーキテクトの思いつきにより今の形に。

ちなみに没案では、ハンドルを握ると原作キャラになるという某葛飾区の白バイ隊員のようなキャラだった(さすがに色々アウトな気がしたので没に)
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