恐怖を覚えた方も多いのでは?
「ん〜〜〜美味しい! これすっごく美味しいわ指揮官!」
そう言ってあっという間にケーキを平らげるのは、この地区一の腹ペコ人形『アストラ』だ。
食べ終わった皿は目の前の『塔』に積まれていき、同時にその脇にある新しい皿を手に取る。
「あ〜〜〜ん幸せです〜〜〜!」
「そ、そうか・・・良かったよ。」
皿の量に反比例して財布は軽くなる。が、自分で蒔いた種なのでそれ以上何も言わずにコーヒーを啜る指揮官。
指揮官というものは多忙だ。平和であればあるほどどうでもいい、しかし無視することはできない仕事というものが増えていき、休日が飛ぶなどザラである。で、スイーツ食べ放題の店に連れて行く約束がパーになってしまったため、こうして埋め合わせているのだ。
「失礼します、コーヒーのおかわりをお持ちしました。」
「む? あぁ、どうも。」
「ふふっ、美味しそうに食べてますね。 ・・・あら?」
コーヒーを入れに来た代理人がふと違和感を感じる。それがなんなのかわからないが、じーっとアストラの方を見る。
「・・・アストラさん、さっきから左側でしか食べてませんが、どうかされましたか?」
「・・・何?」
「ふぇ? あぁ、なんだか最近こっち側で食べるとチクってするの。」
そう言ってなんでだろう?と首をかしげるアストラ。
顎にて当てて少し考えた代理人は、アストラがケーキを飲み込んだのを確認してから両手を彼女の頬に当てた。
「アストラさん、大きく口を開けてもらえますか?」
「へ?・・・あーーーーー。」
アストラが口を開くと同時に口内を睨むように見る代理人。その迫力に気圧されたアストラは顔を仰け反らせようとするが、代理人の手ががっちりホールドしているため動けない。
数分間続いたそれからやっと解放されたアストラ。気を取り直して目の前のケーキを食べようとしたところで、代理人がケーキを取り上げる。
「えっ!? まだ食べてるのに!?」
「・・・アストラさん。 残念ですがこれ以上ケーキを食べさせるわけにはいきません。」
「な、なんで?」
「アストラさん、その痛みの原因は・・・
虫歯です。」
「「・・・・・え?」」
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
チュイィィィィィィィィイイン
「いやいやいやぜったいいや〜〜〜〜!!!!!」
「諦めてください。 直さないともっと痛くなりますよ。」
「それでもやだ〜〜〜!!!」
「代理人ちゃん、そのまま抑えててね〜。」
「・・・人形も虫歯になるのか。。」
場所は変わって通りに看板を出す町の歯科クリニック。
その施術台の上で大の字に抑えられているのがアストラ。暴れるそれを二本の腕と四本のサブアームで押さえつける代理人。独特の回転音を響かせる機器を手ににじり寄る歯医者。一応保護者ということで同席している指揮官。
アストラにしてみればさっきの幸せ気分から一転、見るからに痛そうなその機器から逃れるべく全動力を使って逃げようとする。が、明らかな体格差に加えて計六本の腕で拘束されてしまってはどうにもならない。
「私も人形の虫歯なんて久しぶりですね〜。 第二世代、でしたっけ〜? より人間に近づけた結果、虫歯にもかかるようになってしまったそうですよ〜。」
「病気にはならないんじゃなかったのか?」
「
「じゃ、じゃあこのままでいいの!」
「痛くて痛くて痛くて痛くて〜、美味しいものも食べられず〜、満足に寝ることもできなくなって〜、泣きながら過ごすことになりますよ〜?」
「ひっ!?」
「・・・あまり脅さないでください。」
「事実を言ったまでだよ〜、代理人ちゃん〜。」
「・・・・・。」
飄々としていてふざけているように見えるがちゃんとした歯医者である。アストラもさっきの脅しが聞いたのか、涙を流しながらも抵抗は諦めたようである。
「もう良さそうだね〜。 じゃ〜お口開けてね〜。」
もうヤケクソ気味に口を大きく開くアストラ。 その彼女の前にモニターを持ってくると、口の中の映像を流し始めた。
「えっとね〜、この奥歯の真ん中に黒い穴が見えるでしょ〜? これが虫歯なんだよね〜。 ここからじわじわと歯を溶かして行って、最後は〜・・・」
「すみません、そろそろ彼女も限界ですから始めてください。」
「・・・・・じゃ〜始めるよ〜。」
「今の間はなんですか?」
「さあね〜? じゃ、ちょ〜っとしみるけど我慢してね〜。」
声にならない悲痛な悲鳴が、町の大通りまで響き渡った。一瞬驚いた住人たちだが、発信源があの歯医者だとわかると、祈りを捧げたり十字を切ったりしていた。
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
「お疲れ様〜。 あとは普通に過ごしていいけど〜、ガムとか歯にひっつきやすいものは少しの間我慢してね〜。」
「・・・うっ・・・うぅ・・・グスッ・・・」
「よしよし、よく頑張りましたね。 ・・・ここのお医者さんは本っ当に容赦がありませんからね。」
「経験者は語る、ってやつかな〜。 君の泣き顔は忘れないよ〜。」
「・・・・・。」
「まぁ何はともあれ。 今日はありがとうございました。」
「ちゃんとお代はもらってるからそれ以上はいらないよ〜。」
「・・・それと、もしよければ私の司令部で検診をしてもらいたいのだが。」
「えっ!? 指揮官!?」
「私は対価をもらえたらなんでもいいよ〜、都合はつくしね〜。」
「分かった、では後日私の方から連絡する。」
再び絶望に染まった顔で固まるアストラを連れて指揮官が去り、その背中を代理人と歯医者が見送る。
「・・・にしてもやっぱり人形は可愛いね〜。 さっきの子なんか暴れてる時に胸がブルンブルンって〜。」
「・・・手を出してみなさい。 その時は覚悟してもらいますよ。」
「大丈夫だよ〜、そこらへんはわきまえてるからさ〜。 ・・・ところで代理人ちゃん、今ならただで診てあげるけどどうかな〜?」
「言われてからはしっかりとケアしています。 確認したいのでしたらどうぞご自由に。」
その後、完璧な状態の歯を見て舌打ちをする歯医者と、勝ち誇った顔の代理人の姿が見られた。
後日、司令部で検診を行った際に何名かの人形に虫歯が見つかり、次の非番の日に治療に行くことが言い渡された。
その時の彼女らの顔は、死刑宣告を受けるに等しいと言った表情を浮かべていたという。
end
親知らずを抜いた&虫歯を治療した記念に書きました。
・・・いやぁ麻酔ってすごいですね、全然痛くないんだもん。
・・・小学生の時はただひたすら痛い思いをした記憶があるのに。
ではではキャラ紹介
アストラ
腹ペコ大食い人形。
食べた栄養価が全部胸に行っているはず。
ぶっちゃけ今回は誰が被害者でもよかったんですが、いっぱい食べる君が好き→食べた結果がこれだよ!みたいなノリにしようと思ったので決まりました。
指揮官ラブ勢ではない。
指揮官
ワークホリックな指揮官。
今更すぎるが男性。
人形たちを人間と同等に見る、というのはこの世界では割と普通なことだが、人形が普及し始めた頃からそうしてきた人物。人形の幸せ>自分の幸せであり、人形の幸せ=自分の幸せでもある。
飲食店巡りがささやかな趣味。
歯医者
女性。
変に間延びした語尾が特徴。
『良薬は口に苦し』という言葉を大切にしており、本当に治したいなら痛いくらい耐えろというのが信条。人形相手に施術経験のある貴重な人材。
あえて痛い方法を選ぶことがあるが、これは治った後もしっかりとケアすることを習慣づけて欲しいと思ってのこと。
女性がというわけではなく、レズでもない。が、女の子の胸は好き。
代理人
街の飲食店従業員向けに診察の案内が届き、ここの歯医者に行ったことがある。その際に軽度ながら虫歯が発覚、その場で治療。暴れることはなかったが未体験の痛みに思わず泣いた。ついでに写真まで撮られた。その結果、歯医者に頭が上がらない。
二度と世話にならないために入念にケアをしている。
人形と病気
人工血液と皮膚、人間を模して作られた歯や髪などはあるものの、基本的には電子機器とプログラミングで動くロボットである戦術人形。
第二世代ではより人間らしさを追求した結果、ごく一部ながら人間の病気が人形たちにもかかることが判明。しかしながら彼女たちの場合、どれほど悪化しても命に関わることがないため大して問題にもなっていない。
余談だが今回のような歯の治療の場合、対象に歯だけ痛覚遮断を行えば痛みに耐える必要はないが、このことを知るのはごく一部だけである。
以上です。
街の住人の紹介文を書いたのが結構久しぶり。
みんな、時々歯医者に行って診てもらったほうがいいぞ!