もっと洒落たタイトルが良かったんだろうけど思いつかなかったよ!
S09地区、とある日の昼過ぎ。
路地の先に店を構える喫茶 鉄血は今日も賑わっ・・・ているわけではなく、本日は休みである。休みの日といっても減ってきた食材やコーヒー豆なんかを買いに行くなど、まるっきり暇なわけではない。
が、この日はなぜか部下たちが買い物を代わり、店の掃除は鉄血工造から派遣されてきた人形たちがやってしまうことになっていた(後で聞いたが、ちょっとした孝行のつもりらしい)。
結果、暇になった代理人は、街の中を散策しているのだった。
(・・・たまにはこんな日も、悪くないかもしれませんね。)
クスッと笑いながら街を見て回る代理人。
大通りの店を眺めては従業員たちから声をかけられ、路地を入った先ではお年寄りの人たちと話をして、学校の近くを通ればたまたま休み時間だったのか子供達にも声をかけられる。
すっかりこの街の住人ですね、と一人呟きながら歩いていると、ポケットの中でチャリンッと小さな音がなる。手を入れてみると、どうやら自室の鍵と
(・・・・・。)
ふと何かを思ったのか、代理人はコインを手に取り、そっと指でなぞる。あの不思議な出会いから日が経つが、今でも鮮明に覚えている。
ほんの少し、強めの風が吹いた。
咄嗟に髪を抑える代理人。その拍子に指が滑り、コインを落としてしまう。そこはちょうど坂になっており、落ちたコインはコロコロと転がっていってしまう。
「あっ、ちょっと!」
珍しく慌てる代理人はすぐに追いかける。が、勢いのついたコインは止まる気配もなく、スピードを上げて転がり続ける。それを追う代理人であるが、まぁもともとこんなに走り回ることもコインを拾い上げるようなことも想定されているわけではなく、なかなか追いつけないまま結構な距離を走らされることになった。
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
坂が終わり平坦な道になってちょっとした頃。
ようやくゆっくりになりコロンと道に倒れたコインを見て一安心する代理人。息切れ一つ起こしていないところはさすがハイエンドモデルと言うべきであり、今回ばかりは代理人そのことに感謝していた。
「・・・ん? ここは?」
ふと顔を上げてみると、そこにはあまり見ない形の建物で、その屋根には大きな十字架ぎ乗っている。
「教会・・・ですか。」
「おや、鉄血のとこのマスターさん。」
声の方をみると白髪のおじいさんが箒を持って佇んでいた。どうやら掃除中だったらしい。あとこの人は常連さんだ。
「こんにちは。 こんなところに教会があったなんて、知りませんでした。」
「通りからは離れてるからね。 でもこの街のの人は大抵ここで結婚式をしてるんだよ。」
「結婚式、ですか。」
そう呟きながら、教会の大扉の前に立つ。
人形として生まれた身であり結婚などとは縁もゆかりもないようなものだと思ってきたが、周りの人形たちを見ると案外そうでもないのかもしれない。もしかしたら彼女たちが想い人と結ばれてここで式を挙げるときは、呼ばれるかもしれないなと思った。
チリーン
「・・・え?」
小さな音が聞こえた。しかも自身の手のひらの中から。開くとそこにはあのコインだけで、当然それだけで音がなるものではない。
少し首を傾げながら戻ろうと振り向くと、そこにいたはずの老人も走ってきた坂もなかった。
代わりに居たのは三人の人形と、純白のドレスに身を包んだあの人物だった。
「……マスター、さん?」
「ユノ、ちゃん?え、どういうことでしょうかこれ」
「?指揮官、お主誰と話しておるのじゃ」
ポカンとするユノと代理人。だがその周りの人形たちの反応とこの不思議な感覚、そして彼女の服装からすぐに察し、ニコリと微笑んでから言葉を紡ぐ。
「……返事はいいです、そして一言、おめでとうございます、どうか末永くお幸せに」
そう言って頭を下げ、道を開ける。言葉はちゃんと届いたようで、ユノは微笑むと人形たちと中に入っていった。
扉が閉まり、中から拍手が聞こえてくる。本音を言えば代理人も中で祝いたいところだが、この世界では自分はイレギュラーな存在。いつ消えてもおかしくはない。
ならばこのまま去るべきだと考えて歩みを進めるが、少し進んだところで止まり、教会の方に向く。
もしかしたら、消える前にもう一度見れるかもしれない。
もう残された時間がないことを直感で理解しながらも、代理人はその場で待ち続けた。
やがてその時が訪れる。
教会の扉がゆっくりと開き、彼女たちが姿を見せる。
彼女の隣にいるのは、確かPPK という人形だっただろうか。その彼女と並ぶユノの姿は代理人も見惚れるほど美しく、その表情は幸せに満ち溢れていた。
そんな二人を心から祝福し、代理人は深くお辞儀をする。
チリーン
代理人の周りにいた鳩たちが飛び去ると同時に再びあの音が聞こえた。
顔を上げると、そこには閉じられた教会の扉と掃除する老人がいるだけだって。
まるで夢でも見ていたかのような時間だったが、今もはっきりと思い出せるその光景は、決して夢ではないと代理人は思う。
「・・・どうか、お幸せに。」
手のひらのコインを見てそう呟くと、代理人はどこか満足そうな顔で帰路についた。
end
ユノちゃん&PPK 、ご結婚おめでとうございまぁぁぁぁす!!!
ちょいちょい不思議なことが起きるけどもしかしたら限りなく近い世界線なのかも?
今回はキャラ解説なし。
それではまた!