喫茶鉄血   作:いろいろ

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最初のボスのくせに今まで書いてなかったということに驚く作者。
ちなみに格好を見た時からこれだと思いました。

ちなみに本編は金曜日(バーのある日)です。


第二十八話:エンターテイナー

『一週間後に帰ります。』

 

 

たったそれだけのことが書かれた手紙が届いたのがちょうど一週間前。なんの飾り気もない封筒に前置きも何もない文章と、イタズラにしても酷い内容の手紙をよこすのは代理人が知る限りただ一人、スケアクロウだ。

ちなみに彼女はいつでも通じる端末を持ってはいるし、なんならメールで伝えることがほとんどの人形の中で毎度毎度手紙を書くのは彼女ぐらいなものである。本人曰く、『人間っぽい』らしい。

 

さてそんな手紙を見て慌てたのはこの店のマスターである代理人。彼女が帰ってくるのは素直に嬉しいが、まず間違いなく忙しくなる。

というよりも現在進行形で忙しい。

 

 

「・・・はい、喫茶 鉄血です。 ・・・申し訳ございません、本日のバーはすでに予約が埋まっておりまして、自由席も混み合うかと。」

 

「代理人、もう結構広まってますよ! 『ミセス鉄血』が来るって!」

 

「・・・彼女のことですから行き先を聞かれたら答えてしまうのでしょうが・・・仕方ありません、なんとか乗り越えましょう。」

 

 

この騒動の原因はスケアクロウの職業による。鉄血でも一、二位を争う電子戦モデルである彼女は元々の高い情報処理能力に加え、ビットを複数操ることでも知られる。その彼女の職業というのが、マジックや手品、その他パフォーマンスを行うエンターテイナーなのだ。

初めは趣味でやっていたらしいのだが、いつの間にかこだわりだし気がつけば仕事になっていたという。なお、『ミセス鉄血』という名前は、名前を聞かれた際に「鉄血の者です。」と返していたことからそう呼ばれるようになっている。

 

 

「?外が騒がしいような・・・」

 

「あぁ、もう来ましたか。」

 

 

そうこうしているうちに扉が開き、騒動の元凶がやってきた。

 

 

「お久しぶりです代理人。」

 

「えぇ、久しぶりですねスケアクロウ。 部屋はもう用意してますよ。」

 

「ありがとうございます。 それと・・・」

 

「構いませんよ、スペースは空けておきますので。 私も楽しみですから。」

 

 

パァっと笑顔(顔半分隠れているせいでよく分からないが)になるスケアクロウ。人の笑顔を見るのが好きな彼女はたとえ休暇であっても求められれば即興で何かするくらいにサービス精神旺盛である。

 

 

「まぁひとまずお帰りなさい。 夜まではゆっくりしていていいですよ。」

 

「えぇ、そうさせてもらいます。」

 

 

 

 

 

 

 

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

 

 

 

 

 

 

その日の夜。

金曜日のこの時間はバー(元々はカラオケ喫茶だがいつの間にかバーになっていた)なので基本的に数名の常連客が来るだけなのだが、今日はすでに満席である。

 

 

「相変わらずの人気っぷりですね。」

 

「ふふっ、まさかここまで集まるとは思いませんでしたが。 場所を作っていただきありがとうございます。」

 

「いえいえこちらこそ、売り上げに貢献してもらっていますから。」

 

「それもそうですね。 ・・・では、行ってきます。」

 

「えぇ、頑張ってください。」

 

 

送り出させたスケアクロウは店の端に設置された簡易ステージに移動する。彼女が姿を見せると同時に巻き起こる拍手が、彼女の有名ぶりを証明しているだろう。

 

 

「皆さん、今宵はお集まりいただきありがとうございます。 短い時間ではございますが、どうぞお楽しみください。」

 

 

挨拶を終えると同時に音楽が鳴り、パフォーマンスが始まる。

今回のパフォーマンスはマジックをベースにしていて、アシスタント役のダイナーゲートとスカウトがそれぞれ二体ずつ、さらにビットをも使った割と大掛かりなものだった。これを即興でやるのだから慣れたものである。

 

何もないところからコインが現れ、箱に入ったダイナーゲートがスカウトと入れ替わる。手に持った指揮棒型の端末を優雅に振りながら会場を盛り上げる様は、まるで踊っているかのようだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

 

 

 

 

 

 

 

楽しい時間というものはあっという間に過ぎ去るもので、三十分にも及ぶショーは終わりを告げる。

店内には彼女を讃える拍手が巻き起こり、用意された箱(代理人が気を利かせて置いた)にはチップが投げ込まれる。

人形である彼女が汗をかくことはないが、それでも自身の指揮能力を限界まで使ったせいか疲れが見える。しかし客の前ではそんなそぶりを見せることなく笑顔で手を振り、店の奥へと戻っていく。

 

 

「お疲れ様です・・・あら?」

 

 

客から見えないとこまで来るやいなや、出迎えた代理人の胸に倒れこむスケアクロウ。それを優しく受け止めると、代理人は頭を撫で始める。

 

 

「・・・疲れました。」

 

「ふふっ、無事成功しましたね。」

 

「・・・コーヒーが飲みたいです。」

 

「わかりました。」

 

 

世界中を旅し、時には大きなパレードにも呼ばれることもあるスケアクロウ。そんな彼女が心から休める場所、それがこの『喫茶 鉄血』なのだ。

 

 

end




というわけで久しぶりの鉄血回。
名前だけ登場したのが第三話なのでそれ以来の登場・・・というかハイエンド達が意外と出てないという事実。


というわけでキャラ紹介


スケアクロウ

今回の主役。
指揮者を思わせる出で立ちからこの話は決まっていた。実は彼女自身に攻撃手段がないため、護衛としてダイナーゲートとスカウトが二体ずつ付いている。鉄血人形であるためモノクロの服装がメインだが、それがパフォーマンスの彩りを強調している。
彼氏募集中


護衛ダイナーゲート×2

喫茶 鉄血にいるものと同型。
護衛とパフォーマンス補佐を務めるため、通常よりも機動性が高い。


護衛スカウト×2

鉄血の機械人形。
ビットとの連携を想定され通信能力と索敵能力が高い。
この護衛機のみ、鎮圧用に電磁ワイヤー射出機が搭載されている。



次は誰を描こうかなぁ?

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