皆様の新生活を祝うとともに、本作品も最終回を迎えることとなりました。
長らくのご声援、ありがとうございました。
では、最後までどうぞお楽しみください。
「店を畳むことになりました。」
「無理して嘘つかなくていいですよ。」
四月一日。
それは一年で一度、大手を振って嘘をつける日、エイプリルフールの日である。こういうイベントに敏感な戦術人形たちは前日の夜まで嘘を考え続け、当日は誰を騙すかを楽しみにしているのだ。
「フフッ、意外ですね。 お母さんはこういうことには参加しないものだと思っていましたから。」
「せっかく人間社会の中で生きているのですから、参加しないわけにはいきませんよ。」
さて、時刻はまだ8時を過ぎた頃。開店直後から訪れたM4に代理人が言った台詞が冒頭のやつである。
「ところでM4、あなたは何か言わないのですか?」
「・・・エイプリルフールって振るものじゃないと思うんですけど。」
はぁ、と息を吐き、人形らしく一瞬で表情を作り変える。
十分に間をとって、渾身のネタを言い放つ。
「・・・隊員がしんでしまっt
「それはやめなさい。」
いろんな意味でシャレになっていない。M4としては自信作だったようで、ぷくぅと頬を膨らませている。
と、そんなタイミングで店の扉が開き、本日第二号の客が訪れる。
「あらM4、早いのね。」
「あ、AR-15・・・と処刑人?」
「よっ。」
見れば非常に珍しい組み合わせ、AR-15と処刑人が
この光景にM4は即座に反応、笑顔を貼り付けてドスの効いた声で問いかける。
「・・・浮気ですか?」
「待って待って、エイプリルフールよ。」
「コイツが浮気ネタでいこうって言いだしてな、面白そうだから乗っかった。」
「鬼ですかあなたたちは。」
真面目で心優しいM4からすれば浮気=解体処分クラスの重罪である。代理人はそれをなんとか抑えつつ、二人に白い目を向ける。
AR-15としては日頃いいように(いろんな意味で)弄ばれることへのささやかな仕返しのつもりであり、処刑人はただの愉快犯である。
今日はもしかしてこんなことばっかりなのか?
代理人とM4がそう思う中、またまた客が現れる。今度はスプリングフィールドと、それに引きずられるアーキテクトというこれまた珍しいコンビだ。その後ろからゲーガーが呆れた顔でついてくる。
「おはようございますスプリングさん、ゲーガー。 ・・・とアーキテクト。」
「朝からすまない代理人。 エイプリルフール早々にコイツがやらかしてな。」
「あの、何やったんですか?」
代理人始め店内の人形たちの視線が刺さる。なにせあのアーキテクトだ、生半可なことはやらないだろう。
「春田ちゃんに手紙を送ったんだよ、日付が変わってから届くように!」
「いくらなんでも悪ふざけが過ぎます!」
「何送ったんだよ。」
「結婚しますって、私とここの指揮官のツーショット(合成)と一緒に。」
「バカだろお前。」
で、受け取ったスプリングフィールドは錯乱した末、なんと鉄血工造に殴り込みをかけたという。それも深夜に。
隣を見れば机に突っ伏してシクシクと泣いているスプリングフィールド。嘘だとわかっても相当ショックだったらしい。
「・・・浮気といいこれといい、今日はとんでもない日になりそうですね。」
「・・・臨時で閉店したい気分です。」
揃ってため息をつく代理人とM4。だがもちろんこれだけで終わるはずがない。
その後やってきたG11はいつものテーブルへと向かうと大量の参考書を並べて勉強し始め、それを見たゲパードが即倒。彼女に対するドッキリであったらしく、気絶した途端片付けて眠ってしまった。
次にやってきた9と416は。彼女らのターゲットはUMP45で、部屋に『駆け落ちします』という手紙を置いてきたらしい。そのうち死んだ顔でここに来るはずだよと笑顔で言うあたり、9はなかなか鬼畜なことをする。
さらにその後にはMG5が神妙な顔つきで訪れる。今度は何かと思えばどうやら彼女は被害者の方で、『五月一日はなんでも嘘をついていい日、代理人とかに相談したら?』とM9とP7に騙されたとのことだった。
それを眺めながら、代理人は思う。
なぜうちに来るのだろうか、と。
「それだけ君が慕われてるということだよ。」
「あ、ペルシカさん、SOPも。」
「やっほーM4、朝から人が多いね。」
ペルシカとSOPMODも現れ、そこまで広くない店内の席はほとんど人形で埋まってしまう。まぁ一応客ではあるしちゃんと注文してくれるので文句はないが、今日に限っては全員トラブルメーカーになりうるのだ。
その後、仕事のある人形たちは帰り、特に何もない者は残って談笑を続けた。
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昼前。
ドアが壊れるような勢いで開き、トラブルの到来を知らせる。
見ればそこにいたのは五人の人形。だがその表情はそれぞれ違えど等しく切羽詰まった感じがしていた。
「だ、代理人! ここに9と416が来なかった!?」
「スプリングフィールドさん、この写真はなんですの!?」
「なんでウチの指揮官と鉄血のコギャルが写っとんや?」
「そしてなぜ、あなただけがこの写真を持っているんですか!」
「事と次第によってはタダじゃ済まないわよ!?」
この世の終わりだとか嘘だと言ってよバ◯ニーみたいな顔で詰め寄るUMP45。
スプリングフィールドの部屋から見つけたであろうその手紙を片手に錯乱するKar98k。
同じく写真を見て額に青筋を浮かべるガリル、ウェルロッドMkⅡ、モシン・ナガン。
代理人は割と本気で店を閉めようかと考え始めた。
そんなタイミングで、店の時計が正午を知らせる音を鳴らす。
「あら、ここまでね。」
「いいタイミングだったね! 45姉、エイプリルフールだよ!」
「ふぇ?」
45の死角から出てきた9と416がネタバラシする。エイプリルフールの嘘は午前中のみで、午後にはネタバラシをしなくてはならないのだ。
私たちはどこにも行かないよと9が言えば、45は途端にブワッと泣き出してしまう。
ほぼ同じタイミングで再び店の扉が開き、もう片方のカオスの元凶であるアーキテクトが姿をあらわす。
「ハッピーエイプリルフール! みんな楽しんでもらえt『ガシッ』・・・え?」
「これはこれはアーキテクトさん、少しお話しよろしいでしょうか?」
「ここやとなんやから外に出よか。 ・・・そこの路地裏で話そうや。」
「ふふふ、楽しみですね。」
「私の祖国で木を数える覚悟はあるかしら?」
「・・・私も参加しましょう。」
アーキテクトが弁明を図るよりも先に身柄を拘束し、素晴らしいチームワークで外へと連れ出す。
45も泣き止むまで慰められ、9と416に連れられて外へと出る。ついでに眠りこけている11も叩き起こし、ゲパードを担がせて連れて行く。
代理人はようやく静かになったと溜息を吐き、M4に慰められるのだった。
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夜。
喫茶 鉄血としての営業は終えているが、店の明かりはまだついている。そこに続々と集まるのは、昼間に訪れた人形たちを含めた団体客だった。
「え〜、というわけで皆、ご苦労だった。」
『お疲れ様でした!』
「・・・こういうことなら事前に伝えていただければよかったのですが。」
「まぁまぁ、お陰でうまくいったんですから。」
S09地区司令部の全人形+αで行われているこの打ち上げは、今日行われたある作戦のものである。
エイプリルフールはあらゆる噂やデマが流れる日であることを利用し、さまざまな嘘とそれによる混乱に乗じてとある組織を殲滅してしまおうというもので、なんとグリフィン・軍・鉄血工造が手を組んでしくんだことでもある。ターゲットは麻薬の密売だったり汚職横領の常習犯だったりテロ組織だったりと多岐にわたり、グリフィン管轄のほぼ全ての地区で同時に行われた。
組織からしてみれば溢れ出るデマにまさか事実が隠されているとは思わず、大した抵抗もできずに潰れてしまった。
「でもこの地区なんてまだましな方だよ代理人。 他のとこなんて結構派手に動かしたからね!」
「あなたが指揮するとろくなことにならなさそうですが・・・ちなみに何を?」
「軍に宣戦布告と同時に強襲、お互い模擬弾と血糊でベットベトだったよ!」
そう言ってケラケラ笑うアーキテクトに代理人は肩をすくめる。ちなみに彼女は『おはなし』の後らしく、大破寸前である。
他にもクルーガー社長が過労で倒れたとか人形がボイコットしたとか軍の一部がクーデターを起こしたとか国が禁酒令を出したとか・・・とにかく大小問わず数えきれない嘘を流したというのだ。おまけにこれはあくまで組織だって行われたものであり、個人単位のものを合わせるとそれはもう大変なことになったという。
・・・無関係の一般市民にしてみればいい迷惑だが。
「まぁ無事に終わってよかったわ、私の演技もなかなかだったでしょ?」
「あれ? 45姉結構ガチで泣いてt」
「そんなこと言うのはこの口かしら?」
「スプリングさんは知っていたのですか?」
「いえ、全く。 知っていたらあんなに取り乱しは・・・思い出したら腹が立ってきましたね。」
「ちょちょちょちょっと! もう十分でしょ!?」
「乙女の純情を弄んでおいてこの程度で終わるとでも?」
「お姉様はサボってこそお姉様ですね!」
「君なかなか失礼だと思うよ。」
「・・・まさかお前も同じ手に出るとは思ってなかったぞ、ハンター。」
「ククッ、せっかくのエイプリルフールだしな。 ・・・ほら、私はどこへも行かないから泣き止んでくれ。」
「・・・ほんとに?」
・・・嘘に振り回された人形も災難である。
しかし、と代理人は思う。初めて店を開いた頃、これほど人が集まる店になるとは思ってもみなかった。初めて訪れた客にはその無表情が気味が悪いと言われ、初めて訪れた人形には銃を向けられたりもした。
ふと前を見ればM4がニコニコと笑っていて、代理人もつられて笑ってしまう。
「なんですかM4?」
「いえ、なんだが嬉しそうな顔だったので。 いいことでもありましたか?」
「・・・ふふふ。 えぇ、そうですね。」
毎日のこの日常が、楽しいことですね。
代理人は改めて店内を見渡し、そう思うのだった。
end
最終回と言ったな、あれは嘘だ(エイプリルフール
せっかくの特別編なのに普段とあんまり変わらない気もするけどまぁいいか。
私の今年度の目標としては、本作を書き続けることと他の作品を完結させることですね。
それでは皆様、本年度もどうぞよろしくお願いします!