皆さんお待たせしました、温泉回です。
それは三月の末頃のこと。
「温泉、ですか?」
「あぁ、人数に余裕があるから一緒にどうだ?」
珍しく普通に来店したNTWが、そう提案してきた。聞けば極東の島国である日本に住む指揮官の友人が働いている温泉宿に、団体客として招待されたらしいのだ。人数的には司令部の全人員が参加できるのだが、流石に司令部を空っぽにするわけにもいかず、結果として空きができてしまったという。
「代理人には私を含め多くの者が世話になったからな、ささやかながら恩返しというわけさ。」
「お気持ちはありがたいのですが、私にはこのお店が・・・」
「そういうと思ったよ代理人。」
店のテーブル席から声が上がり、二人の人物がやってくる。サングラスとマスクを外し、ロングコートを脱ぐと・・・
「・・・やはりあなたたちでしたか。」
「あれ? バレてる?」
「完璧な変装だと思ったが、見破るとはさすが代理人だな。」
現れたのは、何かといいタイミングでやってくることが多いハイエンドモデル、処刑人とアルケミストだ。
・・・ロングコートにサングラスとマスクなど、通報一歩手前である。
「お前がいない間は私たちが店を回してやる、だから行ってこい。」
「そーゆーことさ、行ってきなよ代理人。」
そう言って完全に追い出しにかかる処刑人とアルケミスト。とはいえ嫌がらせでもなんでもなく純度百パーセントの親切心なので断るわけにもいかず、代理人は苦笑しながら招待を受けた。
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「と、言うわけでやってきました日本です!」
「テンション高いわね一〇〇式。」
「まぁこの国の銃がモデルだしな。」
ヨーロッパを出発して六時間、この時代最速を誇る旅客機に揺られた一同は空港に降り立つ。道中の機内でも雲や海の上(S09地区は内陸にあるため、海を見る機会はほぼない)を通るたびに子供のようにはしゃいでいた人形たちだが、流石に少々疲れているようだ。
「指揮官さん、今日はこのまま旅館に向かいましょうか。」
「む、そうだな。 今日はゆっくりさせるとしよう。」
引率の先生のような立場になってしまったなと指揮官は思うが、まぁ部下が楽しんでいるようなので良しとする。代理人も人形たちがはぐれないように注意しているので、そこまで負担も大きくない。
こんな時は、人形の中でも精神年齢が高めに設定されている者が率先してまとめていくものなのだが・・・
(指揮官と温泉・・・混浴とかあったら・・・キャー!)
(フフッ、この機会に代理人との距離を詰めてあわよくば・・・)
(ひ、飛行機とはあんなに怖いものなのか・・・)
こんな感じでまるで役に立たない。ちなみに上から順にスプリング・NTW・MG5である。
とりあえず全員いるようなので、迎えが待っている予定のバスターミナルまで移動を開始した。
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空港からバスに揺られること数時間、山々を超えてたどり着いたのが、今回招待を受けた温泉旅館である。
『おぉ〜・・・』
「いらっしゃいませ、ようこそお越しくださいました。」
旅館に入るやいなや、感嘆の声を上げる人形一同。空港では旅行客も多くてあまり『日本に来た』感がなかったのだが、如何にもな旅館と着物姿の人物を見れば実感が湧くと言うものである。
「着物だ・・・」
「綺麗・・・」
「コスプレ以外で初めて見たよ。」
「何ビクビクしてるのよMG5。」
「い、いや・・・ニンジャとかいるんだろう?」
「いませんよ。」
そんなこんなで一同は部屋に案内されるが、その途中でも人形たちのテンションは上がりっぱなしだ。欧米とは全く文化の異なるアジア圏、その中でもひときわ特徴的なことで有名な日本では、見るもの全てが新しく見えるのだった。
さっきまでの疲れは何処へやら、通された部屋でもそのテンションは落ちることがなかった。
AR小隊の部屋
「うわぁ〜!」
「広いわねぇ・・・ベッドがないからかしら?」
「海だー! 海が見えるよ!」
「あ゛ぁ゛〜ダメになりそう。」
「姉さん、いきなり寝転ばないでください。」
404小隊の部屋
「見て見て9、変な着物があるわよ!」
「それは浴衣ってゆうらしいよ。」
「? サイズが小さいのかしら、これ。」
「うわっ! 416エロっ!」」
指揮官ラヴァーズの部屋(抜け駆け防止策)
「お茶を入れましたよ。」
「これが日本茶・・・変わった味ですわね。」
「このマンジュウというのも美味しいですね。」
「温泉に入りながら一杯やりたいわね!」
「お、ええなそれ!」
代理人・FAL・NTW・MG5・一〇〇式の部屋
「・・・大部屋とは聞いてないぞ。」
「あんた一人にしたら代理人に襲いかかりかねないでしょ。」
「日本の旅館といえば怪談話が鉄板ですね!」
「ひぃ!?」
「大丈夫ですよMG5さん、実際に出るわけじゃありませんから。」
そんな感じでワイワイと騒ぎつつ、各々の部屋でゆっくりとくつろぎ始める。まだ昼過ぎなので夕食までは時間があり、温泉に行くのも少し早いため暇といえば暇なのだが、せっかくの連休(今回は3泊の予定)なのでもいっきりだらけているのだ。
ある者は早速布団を敷き、ある者は窓辺でやや冷たい海風にあたり、ある者は畳に寝そべりながらテレビをつけ、ある者は旅行ガイドブックを読む。
思い思いの時間を過ごしながら、時間が過ぎていった。
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『うわぁ〜!』
「随分と豪華ですね・・・。」
「変な気は使わなくていいと言ったんだがな。」
夕食の時間となり、食事の会場へと移動した一同。そこに並んでいたのは地元で取れた海産物を中心とした豪勢な料理の数々だった。
指揮官がチラリと廊下の先を見ると、いい笑顔で手を振る女性が一名。なるほど彼女が指揮官の友人のようだ。
微妙に困った顔をする指揮官をよそに、人形たちは飛びつくように席につく。
「指揮官っ! カニよ、カニがいるわ!」
「船の形の器なんて洒落てるわね・・・うわっ!?動いた!?」
「お、酒もあるじゃないか! ナガン、早速飲もうか!」
「少しは自重しなさい、あなたも乗ろうとしないで!」
ここにきてテンション上がりっぱなしの彼女らはすでに我慢の限界に達している。というわけで指揮官と代理人も席に着き、お待ちかねの食事タイムとなった。
・・・のだが、
「WAちゃんさん、正座がキツイなら無理しなくていいですよ?」
「む、無理なんてしてないわこんなの余裕よあとWAちゃん言うな。」
「・・・へぇ〜、余裕なんだぁ〜。」<チョン!
「ひぃあぁぁぁ!? な、何するのよFAL!」
「油断大敵y(モニュッ)ひゃあん!?」
「普段着もあれやのに浴衣まで着崩すなんてさすがやなFAL、胸がガラ空きやで!」
「はいKarさん、あ〜ん。」
「? あーん・・・んむっ!?」
「うふふ、美味しいですか? わさびをたっっっぷり入れておきましたからね。」
「おーいスプリング、ちびっこ達が怯えてるぞー。」
「・・・はぁ。」
「フフッ、指揮官というのも大変ですね。」
「まぁ、彼女達が笑っていられるならそれでいい。」
「なるほど、ですがその上司たるあなたが楽しそうでなければ、彼女達も十分に楽しめないでしょう。」
「む、それもそうだが・・・。」
「こういう時くらい、難しいことは考えずに楽しみましょう。 はいどうぞ。」
「・・・あぁ、ありがとう。」
「だ、代理人・・・私と、その、一緒に・・・いや、いい。」
「なぜそこでヘタれる。」
「416、あーん。」
「あーん。」
「うぎぎぎぎ・・・・・」
(・・・美味しい。)
「ほんとはハンターと来たかったんじゃないのか?」
「仕事だから仕方がないわ。 でも、次は二人で来たいわね。」
「ん〜〜〜美味しい! 生のお魚やカニがこんなに美味しいなんて知らなかった!」
「あぁSOP、口元汚れてますよ。」
「・・・M4って、お母さんみたいですよね。」
「へぁっ!?」
大広間のあっちこっちでどんちゃん騒ぎである。まぁ一応旅行客ということでそこまで大騒ぎはしていないが、程よく酒も入っているため大いに盛り上がっている。
指揮官もそれを眺め、安心したように微笑んで騒ぎの中に混ざっていくのだった。
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食事後、少し経って。
「おっ風呂! おっ風呂!」
「はしゃぎ過ぎやP7。」
「欧州とこっちとではやっぱり違うのね。」
「温泉の効能って人形にも効くのかしら?」
「FAL、どこか悪いn・・・あぁ肩こりか。」
「45姉、そんな隅っこでどうしたの?」
「ミンナ...オオキイ...ワタシ...チイサイ....」
「混浴・・・なかった・・・」
「え!? 冗談じゃなくて本当に指揮官と入るつもりだったの!?」
「そ、そんなふしだらなこと許しませんわ!」
「・・・先に入ってましょうか、お母さん。」
「そうですね。」
女三人寄れば姦しい、とはよく言ったものだがそこは人形も変わらないようで、温泉に入る前からキャーキャーと盛り上がっている。
この温泉宿には温泉が複数あり、その一つを貸し切ってもらえたのでこうして騒げるのだが、すぐ横には壁一つ隔てて男湯がある。当然この会話も聞かれてしまうだろうが彼女達は知っているのだろうか。
「あ゛ぁ゛〜生き返る〜。」
「カリーナさん、その・・・」
「おじさんみたいですか? いいんです、こういう時くらいは。」
目一杯までだらけるカリーナに苦笑するM4と代理人。そこでふと思い出したかのように、カリーナが話し始めた。
「代理人さんは、楽しんでいらっしゃいますか?」
「? ええ、それなりに。」
カリーナはふふっと笑うと、ダネルさんを焚きつけた甲斐がありましたと付け加えた。
代理人とM4は目を丸くし、初めて聞きましたというような顔になる。
「というよりも、司令部の皆さんの総意でもありますけどね。」
「え?」
「ダネルさんも言っていましたよね? お世話になったって。 あ、M4さんにだけは言ってませんけどね。」
顔に出やすいので、と言うとカリーナは代理人の横に座り、
「代理人さんはもうただの店員さんではありません。 私たちの大切な友達ですからね。」
「ふふふ、ありがとうございます。」
「カ、カリーナ!? 私の代理人を取るつもりか!?」
「違いますしあなたのものでもありませんよ!」
同じ頃、男湯の脱衣所にて。
「ふ、ふふふ・・・ついに、来てしまいました。」
貸し切りなので指揮官しかいないはずのそこにいたのは、騒ぎに紛れてしれっとこっちにやってきた指揮官ラヴァーズの一人、ウェルロッドだった。すでに服を脱ぎ終えてタオルを巻いただけの格好なのだが、恥ずかしさから顔が真っ赤である。
抜け駆け禁止という取り決めがあるためバレたらタダではすまないが、そんなことは御構い無しだ。整わない息を整えようと深呼吸し、震える手で浴場の扉に手をかける。
そして、意を決して扉を開いた。
「来ていたのでしたら、言っていただければ。」
「お忍びで来ているんだから言うわけにはいかんだろ。」
「それもそうですが・・・ん? ウェルロッド? 女湯はあっちだぞ。」
「・・・あのぉ、なぜ社長がここに?」
扉を開けた先、指揮官しかいないと思っていた男湯にいたのは我らがG&Kの社長、クルーガー氏であった。
呆然とするウェルロッドに首を傾げながらも、クルーガーは答える。
「いや、出張で日本に来ることになってな。 ならば温泉だと思いここに来たわけだ。」
「ということは予定よりも早く来たんですね社長、カリーナあたりにバレたら怒られますよ?」
「問題ない、バレなければいいのだ。」
ガハハと笑うクルーガーを死んだ魚のような目で見つめるウェルロッド。想い人と二人で温泉、あわよくばその先までと期待していただけにそのショックは計り知れない。
俯いてプルプルと震えだしたウェルロッドを不審に思い、指揮官が声をかけようとすると、
「社長のバカッ!」
「「んなっ!?」」
彼女らしからぬ暴言を吐き捨てて走り去り、指揮官とクルーガーはしばし呆然としていたのだった。
この後クルーガーはもちろんカリーナに見つかり、こっぴどく怒られることになる。
続く
う〜ん、体調が悪いと纏まらねぇな・・・え、いつものことだって?
それはさておき書きたくなった温泉回。長くなりそうだったので二部構成にしたわけですが、人数が多いと書ききれないという。
新規キャラはいないので特に解説とかはなし。巨乳っ娘の浴衣とか最高だと思います!