喫茶鉄血   作:いろいろ

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せっかくWAちゃんがいるんだからこのネタはやっておきたいなと。

・・・ところで限定ドロップの確率低すぎませんかね?


第三十三話:説教と怪談と着物と(二部構成:後編)

WA・カリーナ・グリズリー・57の部屋

「で、なぜここにいらっしゃるわけですか?」

 

「い、いや、こっちで会議があるのでな。 距離もあるから前入りしようかと。」

 

「・・・その前入りした分のお仕事は終わっているんですよね?」

 

「・・・・・。」

 

「クルーガーさんっ!?」

 

 

部屋のど真ん中で仁王立ちするカリーナ、その正面にはクルーガーが正座で小さくなっていた。周りでは人形たちがその様子を白い目で見ており、ガタイの良い強面のおっさんが少女に囲まれている光景はまるでオヤジ狩りのようでもある。

・・・今回に関しては大体クルーガーが悪いのだが。

 

 

「まったく・・・いくら印鑑を押すだけとはいえ、秘書さんに任せて良いわけではありません。それに温泉なら会議が終わってから来ればいいじゃないですか。」

 

先に来て早めに帰っても変わらんだろうに・・・

 

「な・に・か!?」

 

「いや、何も。」

 

 

あの後、ウェルロッドから通報を受けて飛んできたカリーナはそれはもう恐ろしい形相だったという。逃げるクルーガー(元軍人)を取り押さえて部屋に引きずり込み、かれこれ三時間に及ぶ説教が始まったのだ。

流石に不憫に思ったのか、人形たちが止めに入る。

 

 

「まぁまぁカリーナさん、そこまでにしてあげましょう。」

 

「怒るなら向こうに戻ってからでもいいじゃないですか。」

 

「え? まだ怒られるのか?」

 

「「「「当たり前です!」」」」

 

 

ひとまずカリーナを落ち着かせて、クルーガーには釘を刺した上で退出させる。WAは机にうつ伏せるカリーナの頭を撫で、グリズリーと57はお茶とお菓子を用意する。この優秀な後方幕僚には普段から世話になっているため、こういう時くらいはゆっくり過ごしてもらいたいのだ。

 

 

「あ〜、人に何かしてもらうってちょっと久しぶりですね。」

 

「カリーナは働きすぎなのよ。 指揮官もそうだけど、もっと私たちを頼ってもいいんだから。」

 

「戦うだけが戦術人形じゃありませんからね。」

 

「そういうこと。 たまには私たちに甘えてもいいのよ?」

 

「・・・ありがとうございます。」

 

 

じゃあそろそろ布団を出しましょうか、と言ってWAが立ち上がり押入れへと向かう。茶をすすりながら談笑するカリーナたちだったが、ふと見るとWAの様子がおかしいことに気がつく。押入れを開けたまま固まる彼女を不審に思った三人は、後ろからそっと覗き込んだ。

 

 

「「っ!?!?!?」」

 

「・・・へぇ。」

 

 

瞬間、人形二人は揃って絶句する。押入れの奥、積み上げられた布団に隠れるようにして貼られていた如何にもな『お札』が姿を現していたのだ。明らかにおめでたいお札の類ではない・・・というよりもはっきりと『封』の字が書かれたそれを発見してしまったWAはもう涙目だった。ともかくこれは晒し続けておくのは良くないということで、手早く布団を引きずり出して押入れを閉じる。

 

 

「・・・・・。」

 

「・・・見た?」

 

「・・・見間違いでは・・・ないですよね。」

 

 

揃って青い顔をする三人。一方唯一ケロっとしているカリーナは壁掛けや物の影などを探り始める。

 

 

「あ、またあった。」

 

「なんで探すのよぉ!?」

 

 

今度は『除』と書かれた札と盛り塩。塩の意味がわかっていない人形たちにカリーナが教えると、グリズリーも57は互いに抱き合って震え始めた。

無言で立ち上がり、三人の元に戻ってくるカリーナ。机の上で手を組み、ニッコリと微笑むと、

 

 

「では、怪談話でもしましょうか。」

 

「バッッッカじゃないのっ!?」

 

「カリーナさん鬼ですかあなたは!?」

 

「よくこの状況で言えたわね!?」

 

 

三人揃ってひとかたまりになると、今の今まで仕事姿しか見てこなかった三人は理解した。

この人(カリーナ)は、ドSであると。

 

 

「ではまず・・・この国でもメジャーなものにしましょうか。」

 

 

こうしてカリーナの怪談話が始まる。

この後たまたま部屋に遊びに来た人形たちが参加し、一〇〇式も話に乗っかり、怖くなった人形が他の部屋のものまで集め、気がつけば全人形が集まることとなった。

 

 

 

 

 

 

 

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

 

 

 

 

 

 

 

数時間後、もうすぐ日も変わろうかという頃。

本来ならよほど夜更かし好きな人形以外は寝静まる頃なのだが、なぜかどの布団ももぞもぞと動いていた。動いていないのはカリーナと一〇〇式くらいである。

 

 

「だ、代理人・・・起きてるか?」

 

「・・・・・。」

 

 

布団にくるまりながらすがるような声で問いかけるNTW。だが返事は返ってこず、代理人は寝ていることがわかる。

直後、背中に何かが当たった。

 

 

「ヒィッ!?」

 

「お、落ち着けダネル、私だ。」

 

 

振り向けばそこにいたのは青みがかった髪の人形、MG5だった。どうやら一人では眠ることができずにこっちに来たらしい。

見ればどこの布団も二人以上になっており(たいして怖がっていなかったG11の布団には五人くらい固まっているが)、今の状況をカリーナが見れば大笑いすることだろう。

 

 

ガタガタ

「っ!?」

 

「うぅ〜、もうヤダァ〜」

 

「南無阿弥陀仏南無阿弥陀仏南無阿弥陀仏・・・」

 

「お化けなんていないお化けなんていないお化けなんていない」

 

「つ、潰れる・・・」

 

 

風で窓が揺れただけで身を縮こませて震え上がる人形たち。化学の結晶たる彼女たちが非科学の塊に怯える姿は滑稽そのものだが、本人らにとっては一大事である。

 

 

〜♪〜〜〜♪〜♪

「!?」

 

 

突然聞こえてきた鼻歌に再び身を固くする人形たち。だが、それが怪奇現象の類でないことに気がついたのは、なんとNTWだった。

 

 

(・・・代理人?)

 

 

鼻歌はNTWにとって聞き馴染みがないもの。それが一分程度続くと、今度はまた別の歌に変わる。不思議と怖さを忘れせるその歌に聞き入っていると、背中に張り付いていたMG5が震えていない、それどころか規則正しく呼吸を行なっていることに気がつく。

 

 

(なんだ・・・みんな寝たのか?)

 

 

その後も歌が変わるたびに、動いている気配が少なくなる。そうして残っているのはおそらくNTWだけとなった頃、また曲が変わった。

そして理解する。なぜ皆が眠り始めたのか。

 

 

(・・・そうか・・・そういうことか。)

 

 

代理人が歌っていたのは子守唄だったのだ。どこで知ったのかはわからないが、この部屋にいる人形たちの母国の唄が人形たちを安心させていたのだった。

人形たちにとって本当の意味での親はいない。幼少期もなければ子守唄を聞いたことのないものもいる。だがモデルとなった銃の、あるいはその持ち主たちの影響か、彼女たちにはそれが子守唄であることが理解できた。

NTWも気がつけば震えが止まり、やがて瞼が重く垂れてくる。こちらに背を向けたままの代理人をちらりと見て、NTWは静かに感謝する。

 

 

(ありがとう、代理人。)

 

 

 

 

 

 

 

 

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

 

 

 

 

 

 

 

「本っ当に怖かったんですからね!」

 

「この埋め合わせはどうしてくれようかしら。」

 

「とりあえず何か奢ってれ。」

 

「あ! 私あの抹茶パフェがいい!」

 

「えぇ〜結構高い・・・いえ、払います払いますから。」

 

 

翌日。

せっかく日本に来たのだからと、人形たちはそれぞれの行きたいところに遊びに行っていた。ある者は近くの漁港に行き海産物を堪能し、ある者は桜の名所と呼ばれる場所に訪れる。

そんな中、スプリング・WA・NTW・P7・カリーナは日本の観光名所である京都を訪れていた

 

 

「でも珍しいですね。 他の方はともかくダネルさんが来るなんて。」

 

「ん? まぁそんなに大した理由じゃない。 代理人のお土産だ。」

 

 

この五人はもともと京都に来る理由があり、目的地が同じ者同士集まって訪れたのだ。

スプリングフィールドは自分のカフェのレパートリーのために抹茶を買いに、WAは趣味の料理の一環で京料理を学びに、カリーナは商店の品揃えを増やすために、P7はイタズラ道具(木刀や鳴り子など)を買いにである。

そしてNTWは代理人のお土産だが、なぜ代理人のお土産が必要かというと・・・

 

 

「代理人さんも真面目ですわね、鉄血の日本支社を訪れるなんて。」

 

「ここから東京だけでも相当かかるから、朝一番に出て行ってしまったわけだが・・・まったく何のための休暇なのか。」

 

「まっ、代理人さんらしいといえばらしいですわ。」

 

「ははっ、違いない。」

 

 

せっかく日本に来た、ということでわざわざ鉄血工造の日本支社(社名:SGJ)に顔を出すために代理人は出かけ、日が昇る頃にはすでに部屋にいなかったのだ。

代理人を愛していることに加え、昨晩のこともあるので何かお土産をと考えたのだが、こういうことに疎いNTWは何を買うか迷っていた。

 

 

「食べ物にするか、それ以外にするか・・・あぁもう右も左もいいものばかりだ。」

 

「独特の文化に加えて一大観光地ですからね。」

 

 

悩みながら街を歩く。まず第一の候補は和菓子なのだが、食べてしまえばそれで終わりだし、置物その他工芸品はかさばりそうだ。そうでなくてもここでしか買えなさそうなものが山のようにあるのだから大変である。

 

 

「身に付けるものはどうでしょうか?」

 

「アクセサリーとかか? 確かにそれなら良さそうだな。」

 

「フフフッ、ならいい場所がありますよ。」

 

 

案内されたのは少し外れた場所にある着物専門店。二階では着付け教室もしているそうで、その道のプロたちが揃っているのだ。

 

 

「あらカリンちゃん、来てくれたのね!」

 

「お久しぶりです! では早速・・・」

 

「はいはい、ちょっと待っててね・・・そちらはお友達?」

 

「あ、はじめまして、ダネルNTW-20です。」

 

「あら戦術人形ちゃんね、今日は多いわね。」

 

「・・・今日は?」

 

 

そんな話をしていると、二階から人形たちがぞろぞろと降りてきた。WAにスプリング、さらに海の方に行ったはずのMG5や、桜を見に行っていたモシン・ナガンとAR小隊、行き先不明だった404小隊まで一緒だった。

 

 

「あれ? ダネルも来たの?」

 

「お前たちこそ、なんでここに?」

 

「代理人にプレゼントしようと思ってね。 私は着物がいいと思ったのよ。」

 

「私は扇子かなぁって思ってたらWAと合流してね。」

 

「私たちも似たような理由でして。」

 

「じゃあせっかくだからみんなでお金を出し合って一番いいのを買おうってなったのよ。」

 

「でも肝心のサイズがわからなくってね・・・。」

 

 

なるほど、皆考えることは同じだったわけだ。

 

 

「しかし意外だな、M4は知っているだろうと思ったんだが。」

 

「子供が母親のスリーサイズを知っていると思いますか?」

 

「そういうあなたは知ってるの?」

 

「勿論だ。」

 

「おまわりさんこいつです。」

 

 

どこでそんなことを知ったのかと疑いの目を向けられてたじろぐNTW。が別にやましいことはなく、プレゼントの参考になればとペルシカに聞いていただけだ。

・・・けしてやましいことなどない。

 

 

「まぁいいわ、じゃあさっそく選びましょう。」

 

「色はどうするの?」

 

「やっぱりピンクじゃない?」

 

「青とかもありだな。」

 

「・・・おや?ニンジャの衣装まであるのか。」

 

「くノ一・・・だと・・・」

 

「ちょっと! 変な案を出してこないでよ、ダネルがトリップしてるでしょ!」

 

「でもありだろ?」

 

「ちょっとあr・・・ダメ! 絶対ダメ!!」

 

「なんでだ!」

 

「エロすぎんのよ!」

 

 

やいのやいの騒ぎながらもきっちりと選んでいく人形たち。カリーナはその光景を見ながら、メールを打った。

 

 

 

 

 

 

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

 

 

 

 

 

 

夕方、電車を乗り継ぎ帰ってきた代理人は、待ち伏せていた404小隊に連れられて大部屋へと連れてこられる。

そこにはなぜか全員集まっていた。

 

 

「お、来た来た。」

 

「あの、これは一体・・・」

 

「ふふふ、実はね。」

 

「私たちからお母さんにプレゼントがあります!」

 

 

そう言って控えていた人形たちが、昼間に買ったものをバッと広げる。

 

 

「・・・まぁ。」

 

 

人形たちが感謝の意を込めて選んだのは、桜色の着物だった。とにかく質の良いものを選び、金に糸目をつけずに選ぶあたり、代理人がどれほど慕われているかがよくわかる。

そして代理人も、それがわからないほど鈍感ではなく、気がつけばポロポロと涙をこぼしていた。

 

 

「あ、あれ? 代理人?」

 

「うそ!? まさかダメだった!?」

 

「ま、待て、まだくノ一がある!」

 

「なんで買ってんのよ!」

 

 

突然泣き出した代理人に、勘違いした人形たちが騒ぎ始める。それが可笑しくて、代理人は泣きながら笑ってしまっていた。

 

 

「フフッ・・・ごめんなさい・・・嬉しかったのでつい・・・」

 

「そ、そうか、よかったぁ。」

 

 

ふぅ〜っと息をつく。その後代理人が泣き止むと、人形たちは待ってましたというように代理人を囲む。

 

 

「というわけで早速着替えましょ!」

 

「ほら、脱いで脱いで!」

 

「あ、指揮官はあっち向いててね!」

 

「ん、あぁ勿論だ。」

 

「改めて見ると、代理人って肌綺麗よね。」

 

「うん、髪も黒いからさらに際立つわね。」

 

「あ、あの・・・あまり見られると恥ずかしいのですが・・・」

 

「ヤバイ、鼻血が・・・」

 

「ダネルは隔離しなさい、今すぐ!」

 

 

わいわい騒ぎながら着せ替える人形たち。

ちなみに着付けはWAを筆頭に時間と記憶容量を潰して覚えているため、割とスムーズに進んだ。

なお、ダネルが購入したくノ一衣装はいつのまにかスプリングフィールドが着ており、指揮官を誘惑しようとしたが阻止された。

 

 

 

 

 

 

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

 

 

 

 

 

 

『おぉ〜〜〜・・・』

 

「ど、どうでしょうか?」

 

「いい・・・いいわ!」

 

「すごく綺麗です!」

 

「あぁ・・・もう死んでも良い。」

 

「え? ダネル? ダネルっ!?」

 

 

着替え終わってお披露目となると、はじめは皆一様に言葉をなくした。元がいいのもあるが人形の中では珍しい黒髪のおかげでよく似合っている。

自分たちの見立ては間違っていなかったと彼女らは喜び、代理人も自然と笑みがこぼれる。

 

 

「ですがいいのでしょうか・・・こんな高価なものを。」

 

「何言ってるんだ、私たちはそれ以上のものを代理人からもらってるさ。」

 

「これはそのささやかなお礼ですよ。」

 

「昨日の夜のこともあるしね!」

 

 

皆口々にお礼を言い合う。

なんというか、最近はもらってばかりだなと思いながらも、代理人は微笑み感謝の気持ちを表したのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・が、

 

 

「ところで、昨日の夜とは?」

 

「え? 子守唄のことだよ、おかげでぐっすり眠れたし。」

 

「というよりも、よく知っていたな子守唄なんて。」

 

「もう怪談なんてこりごりよ・・・。」

 

 

 

 

 

 

 

「なんだ、そんなことをしていたのか。」

 

「なるほど、だから誰も部屋にいなかったんですね。」

 

『・・・・・え?』

 

 

部屋の温度が下がった気がする。

 

 

「・・・か、確認なんだけど代理人、昨日はどこにいたの?」

 

「今回の件でお礼を言いに、指揮官のお部屋にお邪魔していましたが?」

 

「・・・指揮官?」

 

「あぁ間違いない。 他にも来るかと思っていたが、なるほど皆そっちにいたのか。」

 

 

背中に冷たいものが降りる。

 

 

「ふ、FALは確か、代理人に誘われたのよね?」

 

「え、えぇそうよ・・・確か十時頃かしら。」

 

「え? その時間はもう指揮官の部屋にましたが?」

 

『え?』

 

「え?」

 

 

 

end




秘書「なにか言うことはありませんか社長?」ニコリ
クルーガー「ごめんて」


日本といえば京都、京都といえば着物、そして旅館といえば怪談・・・これだっ!
なお、今回の話の一部は留学生の友人の話を参考にしています。


というわけでちょい解説

温泉旅館
架空の旅館ですが、イメージはK崎温泉です。

着付け
本来は相当覚えることがありますが、人形のスペックを無駄にフル活用した結果数時間で覚えました。

カリーナのショップ
カリーナ「指揮官様! 今回は特別に、ダイヤで買える家具をご用意しましたよ! ・・・今日だけお安くしますよ?」チラチラ

くノ一衣装
春田「これを着たらいけると思った。」
ラヴァーズ『ギルティ』
備考:とにかくエロい。



次回もお楽しみに!

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