喫茶鉄血   作:いろいろ

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バッドエンドとか微妙に救われてないとか世界は守られたけど愛する人を失ったとかも好きですがハッピーエンドが一番好きです。

というわけで畑渚 様の作品『That ID was Not Found』のキャラをお借りしました。




第三十四話:家族

撃鉄が落ちる。

胸に痛みが走り、身体中の体温が失われていくのがわかる。

霞む視界の中、銃を構え涙を流す彼女の顔だけが焼きついていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ん〜〜〜?」

 

「どうしたのペルシカ?」

 

「レーダーに妙な反応があってね・・・ていうかなにしれっと胸揉んでるのよ。」

 

「えへへ〜、だって柔らかいもん。」

 

 

IoP・16labの所長室。

恋仲のSOPMODによってある程度の清潔さを取り戻したペルシカの部屋だが、相変わらずものは溢れて机の上は多数のモニターが占拠し、

机の裏や壁沿いはコードが入り組んでいる。

そのモニターの一つ、S09地区とその周辺一帯を感知しているものに、ごく小さな反応があった。

 

 

「サイズ的には人形だけど・・・でも小さいね?」

 

「小型の発信機・・・それもかなり小さいやつね。」

 

「私が行こうか?」

 

 

SOPMODが『任せろ!』というように胸を張るが、ペルシカは手を振って止める。

 

 

「その必要はないよ。 ちょうどそこを通過する一団がいるから、連絡して拾ってもらいましょ。」

 

「え? でも危なくない?」

 

「大丈夫よ・・・鉄血工造の輸送チーム、指揮をとってるのはゲーガーね。」

 

 

 

 

 

 

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

 

 

 

 

 

「不明な反応・・・この辺りか。」

 

 

そう呟くと、得物である遠近両用の装備を構えて部下に指示を出す。S09地区へと納品予定の品物を運ぶ最中、ゲーガーの端末にペルシカから連絡が届いて今こうしているわけだ。

 

 

「さて、どこにいる?」

 

 

だだっ広い荒野のど真ん中、道を外れれば大小様々な岩や大きな窪みがあり、身を隠すにはうってつけの場所と言える。

戦場を離れて久しいが、それを言い訳にすることなく周囲に気を配る。

 

 

ガサッ

「! 誰だ!」

 

 

背後から音が聞こえ、とっさに振り向き構える。が、そこには誰もいない。

するとゲーガーは直感で再度振り向く。同時に盾にするように構えた武器に、重い蹴りが炸裂する。

両者は一度距離を取り、互いに睨み合う。

 

 

(・・・なんだ、こいつは!?)

 

 

ゲーガーに視界に映る()()は、所々違う点もあるが自身も何度か会ったことのある人形に見える。だが表示される情報のどこにも、()()()()()()()()()()()()

 

 

(まさか・・・こいつは・・・)

 

「隊長!」

 

「っ!?」

 

「! よせ、撃つなっ!」

 

 

彼女の言葉よりも早く部下が発砲し、避けきれなかった一発がそいつの足に当たる。

流れ出たのは、人工血液よりも鮮やかな・・・

 

 

 

人間の血だった。

 

 

「うっ・・・ぐぅ・・・」

 

「ちっ、全員攻撃やめ! 指示あるまで発砲禁止だ!」

 

「し、しかし!」

 

「命令だ! おい、誰か医療キットを持ってこい!」

 

 

そう指示を出して駆け寄る。幸い当たったのは一発だけのようで、大事には至らなさそうだった。

部下が持ってきた医療キットから道具を取り出し、応急措置を始める。

 

 

「・・・前とは随分対応が違うのね・・・情けのつもり?」

 

「・・・・・前、と言ったか? いつの話だ?」

 

「へぇ・・・覚えてないんだ・・・この腕を切り落としたのは、あなたでしょっ!」

 

 

意識が右腕に逸れたタイミングで、左腕を思いっきり振るう彼女。だがそれは読まれていたようで、当たる直前に手首を掴まれて止められる。

 

 

「くっ、離して!」

 

「・・・なるほど、サクヤさんと同じか。」

 

 

ゲーガーはそう呟くと、部下とともに彼女・・・片腕のUMP9をトラックへと運んだ。

 

 

 

 

 

 

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

 

 

 

 

 

私は今、『鉄血工造』と書かれたトラックの荷台にいる。きっと大事なものなんだろう、ハイエンドを護衛につけるくらいだ。

そう思っていたのはほんの数分前で、今はむしろなにもわからない。運んでいるものはわからないけど宛先は貼ってあった。『S09地区司令部』『喫茶 鉄血』『◯◯工業S09支社』などなど・・・、まるで鉄血との抗争なんてないようなラインナップだった。

しかも・・・

 

 

「・・・8。」

 

「ダウト。 ほら、全部持ってけ。」

 

「くぅう・・・顔に出てたのか。」

 

「いや見えねぇよ。」

 

「なんだとっ! このつぶらな瞳を見ろ!」

 

「センサーカメラじゃねえか! しかも汚れてるし!」

 

 

私のそばでは鉄血の装甲兵(Aigis)がカードゲームを楽しんでいる。・・・シュールだ。

私の状態だが、なんと一切拘束されていない。確かにAigis四体を相手にすることはできないけど、誰もまるで私を警戒していない、むしろたまに話しかけてくるくらいにフレンドリーだ。

 

 

「おーいもうすぐ着くぞ、そろそろしまえよ。」

 

「はぁ〜結局負けかぁ。」

 

「悪いな嬢ちゃん、騒がしかったろ。」

 

「・・・・・。」

 

 

窓の外を見ると、街の入り口が見えてくる。あれがS09地区か。鉄血との最前線、グリフィン管轄の中でも激戦区。

ここに来れば何かわかる・・・・・なんとなく、そんな気がした。

 

 

 

 

 

 

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

 

 

 

 

 

 

「確かに〜、私は一応医者もできるけど〜、餅は餅屋だと思うよ〜。」

 

「それはわかっているんだが・・・こいつはちょっと訳ありでな。」

 

 

 

 

 

街に着くと、ゲーガーとUMP9はトラックを降りて(ゲーガーが背負っている)街を進む。住人たちが次々とやってきてはゲーガーに挨拶する姿に、UMP9はいよいよ混乱し始める。

 

 

(この人たち、鉄血工造を恐れていない・・・むしろ普通の知り合いみたい。)

 

「お、見えてきたな。」

 

 

やってきたのは歯とドリルが描かれた看板のお店・・・例の歯医者だ。入るやいなや妙に間延びした話し方の女性が現れ、奥の処置室へと案内される。

そこで交わされたのが先ほどの会話だった。

 

 

「・・・そういう患者を受け入れるときは何か対価が欲しいなぁ〜。」

 

「あぁわかったわかった。 ほれ、『喫茶 鉄血』のクーポンだ。」

 

「まいど〜。 でもまぁ〜、応急処置もしっかりしてるから軽い消毒だけでも十分だねぇ〜。」

 

「・・・あ〜9、腕掴んでろ。」

 

「?」

 

「じゃ〜いくよ〜。」

 

 

治療には痛みが伴う、が信条のこの医者は消毒液どっぷりの綿で傷口を拭く。ゲーガーからすればいつものことだがUMP9的には医者=優しい、である。

が、この瞬間だけは危険度が鉄血を上回った。

 

 

「は〜い終わりだよ〜、じゃ〜あとはごゆっくり〜。」

 

「ゲーガー、その娘ですか?」

 

「あぁ、恐らくな。」

 

 

歯医者が消えると同時に鉄血のハイエンド・代理人が現れる。痛みで朦朧とする中、UMP9は静かに覚悟を決めた。

 

 

 

 

 

 

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

 

 

 

 

 

「平行・・・世界・・・?」

 

「えぇ、恐らくは。」

 

 

せっかく決めた覚悟が脆くも崩れ去る。

対面に座る代理人から聞かされたその内容は、到底信じられるものではなかった。

なにせ並行世界、要するに別の世界である。そんなオカルト満載な話を誰が信じるのか。だが聞けば聞くほどこの世界の歴史や関係が違うことがわかり、さらには過去にも前例がいることまで説明され、信じざるをえなくなっていた。

 

 

「そっか・・・私、死んじゃったもんね。」

 

「しかしまぁ、よく似てるなお前。 本当に人間か?」

 

「いえ、彼女の世界ではたまたま人形の9がおらず、彼女は似せたわけでは無いようです。」

 

「・・・UMP9は全世界共通でこれなのか?」

 

「さぁ、どうでしょうか。」

 

 

チラリとUMP9を見ると、その顔は諦めや無気力感一色だ。戦うことしか知らず、身内もいない。ただひたすら自身を殺し続けてきた彼女は今、空っぽなのだ。

 

 

(さて・・・どうしましょうか。)

 

 

これまで流れ着いてきたもの全てに関わってきた代理人だが、彼女たちは最後は笑って明日を迎えた。この少女にもそうしてもらいたいのだが・・・。

と考えたいたところで、何やら入り口が騒がしいことに気がつく。

 

 

「もう45姉! ここまできて逃げようとしないで!」

 

「そうよ45、あなたの蒔いた種じゃない。」

 

「大丈夫、痛いのは一瞬だよ・・・多分。」

 

「待ってお願いやっぱり明日にして今日はちょっとお腹の調子がそれに一日くらいなら大丈夫よというか我慢すればいいだけじゃないだからこの手を離してヤだヤだヤだぁ!!!」

 

 

小隊全員に引きずられるようにやってきたのは、ここ最近隊長としての威厳が皆無なポンコツ人形の45。どうやら虫歯らしい。

そんな悲鳴が面白いのか、歯医者が邪悪な笑みを浮かべながら出てくる。

 

 

「いらっしゃ〜い。」

 

「ひぃ!? 神様仏様指揮官様助けてぇ・・・あっ! そっちの9でもいいから助けてってええええ9!?」

 

「えっ!? うわっ、私がいる!」

 

「あら本当・・・ってどうしたのよその怪我!」

 

「・・・・・なんか変だね、本当に9?」

 

 

45を処置台に縛り付けてから詰め寄ってくる9。それを呆然と見ていたUMP9は、気がつけばポロポロと涙を零し始める。

自分とは違う、偽りのない本物の姉妹。そう思うたびに、自分が何をしてきたのかが、重くのしかかる。

そばに寄ろうとする代理人だが、9はそれを止めると、UMP9を連れて外へと出た。

 

 

 

 

 

 

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

 

 

 

 

 

 

「・・・落ち着いた?」

 

「・・・うん。」

 

 

通りに面した大きな公園、そのベンチにUMP9を座らせると、9はハンカチを取り出して涙を拭いた。

 

 

「じゃあ改めて、私はUMP9! 9でいいよ!」

 

「・・・UMP9・・・だったけど、今は名無しね。」

 

「う〜ん名無しの9・・・名9(ナナイン)?」

 

「それはやだなぁ。」

 

 

思わずクスッと笑うUMP9に9もつられて笑う。

 

 

「ねえねえ、あなたにも45姉はいたの?」

 

「うん、いたよ。 みんないた。」

 

「へぇ! ねえその話を聞かせてよ!」

 

 

何が面白いんだろうと考えながらも、UMP9は話し始める。なぜ話す気になったのかはわからないが。

 

11のほっぺが柔らかかったこと。

完璧を目指す416は手がかかったこと。

45姉とストレッチをした時は、反応が面白かったこと。

架空の人形・UMP9として404小隊に入ったこと。

姉が大好きな人形を演じ続けてきたこと。

ある日突然、終わりを告げたこと。

45姉との最後の会話のこと。

 

話の順番もバラバラで、自分でも支離滅裂な会話だと思った。だがUMP9は止まらない。涙を流しながら、全てを吐き出すように話し続けた。

9はそれをただ黙って聞いていた。

 

 

 

 

 

 

「・・・それで、ここにいるの。」

 

「・・・そっか。」

 

 

どれだけ話し続けただろうか。気がつけば日は傾き、公園で遊んでいた子供達もほとんど帰ってしまっていた。

なんだかスッキリした気がしたが、同時にもうなんの活力も湧いてこなかった。戦う理由もない、45姉も仲間たちもいない・・・

 

 

 

 

 

 

自分がここにいる意味は、何もない。

 

 

ぎゅっ

「・・・・・え?」

 

「辛かったね・・・苦しかったね・・・」

 

 

9はUMP9の顔を胸元に抱え、頭を撫でる。

 

 

「ずっと・・・ずっと戦ってたんだね。」

 

「・・・・・。」

 

 

9は泣いていた。UMP9と自分を重ねたのか、あるいは違う世界の自分だからなのか・・・本人にも分からなかったが、それでも9は泣きながら撫で続けた。

 

 

「もういいんだよ・・・戦わなくてもいいんだよ・・・」

 

「9・・・・。」

 

「ここにいていいんだよ・・・生きていていいんだよ・・・!」

 

「あ・・・あぁ・・・・」

 

 

生きていていい、言葉にすればたったそれだけのことだが、UMP9には十分だった。そして、一度溢れてしまえば止まらなかった。

 

 

「う・・うぅ・・・うぁあああ・・・」

 

 

UMP9は、9の胸で泣き続けた。

 

 

 

 

 

 

 

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

 

 

 

 

 

 

 

「・・・ぷはぁ! 生き返る!」

 

「・・・美味しい。」

 

 

その後さらに時間が過ぎ、暗くなってしまったので9行きつけの店(喫茶 鉄血)に移動した二人。

代理人も帰ってきていたようで、閉店直前であるにもかかわらず入れてくれた。ちなみに他の隊員とゲーガーも帰ったらしい。

 

 

「その・・・9。」

 

「ん? どうしたの?」

 

「・・・・・ありがとう。」

 

「・・・うん!」

 

 

満面の笑顔で頷く9に、UMP9も笑顔を浮かべる。その顔には、先ほどの陰りはもうなかった。

9はチラッと奥を見る。代理人と目が合い、ウインクを返された。

それを見て満足げに微笑むと、UMP9に向き合う。

 

 

「ねぇUMP9、私たちと家族にならない?」

 

「・・・え?」

 

「私と45姉、416に11、あとゲパードも!」

 

「ゲパード?」

 

 

聞きなれない人形?の名前に首をかしげるUMP9。

っていやいやそこではなく。

 

 

「家族って・・・?」

 

「そう、家族だよ!」

 

「私が・・・家族・・・ほ、本当に・・・?」

 

「もう、疑り深いなぁ。 いいよね、45姉!」

 

「可愛い妹の頼みよ、断る理由はないわ。」

 

 

UMP9が振り返ると、そこには45、416、11が並んでいた。

 

 

「で、でも私は人間・・・」

 

「あらそう。 で、それが何?」

 

「家族に人形も人間もないわ。」

 

「みんなが家族といえば、家族なんだよ。」

 

 

頭が追いつかない、嬉しさと戸惑いが交錯する。

45はその様子を見ると、両手を広げて迎え入れる。

 

 

「いらっしゃい、私の新しい妹。」

 

「っ! 45姉ぇ!!!」

 

 

思わず抱きつくUMP9。それを45が優しく抱きしめ、416と11もそれに続く。

当然、9もそこに加わった。

 

 

 

 

「やったぁー! みんなこれからは家族だ!」

 

 

 

 

 

 

end




45「妹が増えたわ! これで勝つる!」
歯医者「じゃ〜いくよ〜?」チュィイイイイイイン
45「ぎゃあああああああああ!!!!!!!」



はい、というわけで畑渚 様の作品『That ID was Not Found』より、UMP9(人間)でした!
畑渚 様、キャラを貸していただきありがとうございます!


では解説など。

UMP9
流れ着いてきた()()。詳細は元作品で。
右腕を失っており、また武器もない丸腰。服の裏が防弾チョッキのようになっているが銃弾を防ぎきれるほどではない模様。
外見や口調などは9と同じだが、話し方や笑顔は作られたもの。しかしこの世界で新しい家族と出会い、やがて自分自身として定着していくことになる。

ゲーガー
元作品で唯一の鉄血ハイエンド、という理由で出した。
サクヤのカウンセリングの影響か以前よりも生き生きとしている。
部下の多くが装甲兵。

Aigis
装甲兵。メンタルモデルは男性。
重装甲で接近し、近接武器で粉砕するというタイ◯ンフォームのような連中。
本人ら曰く「感情豊かな親しみのある人形」

歯医者
久しぶりの登場。歯医者だが、簡単な処置ならできる。
撃たれた後にこの消毒とかトラウマものである。

45姉
みんな大好きポンコツまな板人形。ついに虫歯にまでなってしまった。
とはいえ9の姉にして404の隊長なので、頼りになるときは頼りになる・・・その後反動でさらにポンコツ化する。

9
貴重な常識人。
なおこの後の話し合いで9が姉、UMP9が妹であることが決定した。
もっとも、UMP9は人間なのでそのうち色々と追い抜かれる。



以上!

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