「・・・・・はぁ。」
とある日の午後の喫茶 鉄血。
窓際のテーブル席で肘をつきため息を吐く人形が一人、AR小隊唯一のSMGであるRO635だ。
別段、人形が一人物思いにふけっていたところである意味いつも通りなのだが、今回はどうやら毛色が違うらしい。
「一体どうしたんでしょうか。」
「う〜〜・・・私の特等席が〜・・・」
「まぁこんな日もあるって。 けどまぁほっとけねぇな。」
その姿を遠目に見るのはマスターの代理人とG11、トンプソンの三人である。
トンプソンが放って置けないのは単純に彼女の心配からだが、11には別の理由がある。今ROが座っている席こそ、11がいつも座っている席だからだ。11が来る時間は決して早い方ではないが、その前からずっとああしているのだからよっぽどだろう。
「っていうかいつからいるんだ? というより昨日まではあんなんじゃなかっただろ?」
「来たのは11さんが来るおよそ1時間前くらいです。 来た時からあの様子でしたよ。」
「・・・ん〜見当もつかない。」
三人で首を傾げ、どうしたものかと話し合う。同じ人形としてなんとかしてやりたいところだが、その糸口すら見つからないのだ。
しかも・・・
「・・・まさかDがいってもダメだったとは。」
代理人がちらりと視線を向けた先、えらく落ち込んだ様子で食器を洗うDがいる。基本的に代理人同様お節介な彼女はいの一番にROの元へと向かい、一生懸命話しかけていた。が、帰ってきたのは「えぇ・・」とか「はい・・・」とかの気の抜けたものばかり。結局何もできないまま、すごすごと戻ってきてはあぁして落ち込みながら仕事をしている。
「こういう時は時間が解決してくれるのを待ちたいところだが・・・」
「モシン・ナガンさんの時・・・いえ、それ以上ですね。」
「・・・あんなの、どっかで見た気がするんだけどなぁ・・・」
そう、あんな感じでいかにも悩んでますという雰囲気を出す人形は意外と多い。微妙なところで人間によく似た彼女たちは、本人は周りに隠しているつもりというところまでよく似ている。
そこまで考え、三人ともがそれぞれ答えを導き出す。
「わかった! 9だ!」
「AR-15の時もだぞ。」
「直近ではSOPさんですね。」
身近な例を列挙し、ここまで出せば三人とも一つの可能性にたどり着く。・・・が、今度はまた別の問題にぶつかる。
すなわち・・・
「・・・十中八九『恋』だろうけど・・・誰だ?」
「皆目見当も・・・というより昨日の今日でですよ?」
「そもそも、ROの浮いた話も男の知り合いも聞いたことないよ。」
早くも挫折。
「・・・とりあえず昨日までを振り返っておこうか。」
「昨日は・・・AR小隊の方が全員来られましたね。」
「あ〜確かAR-15とSOPの近況を聞いて、M16がやけ酒するとか言って、ROとM4が止めて・・・」
「基地の方では何かありましたか?」
「いや、何も。 ・・・ん? そう言えば9と416がROと話しているのは見かけたな。」
「え? 本当に?」
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
「昨日? 確かにROと話したけど・・・ってなるほど、アレね。」
「うわぁ・・・ずっとあの調子なの?」
「えぇ、まぁ。」
昨日の当事者、9と416を呼び出して話を聞いてみる。デートの最中に呼ばれたことで若干不機嫌だった416だが、事情が事情なので切り替えて話に乗る。
「まぁおそらくそういうことでしょ。」
「うん、昨日も私と416が今に至るまでの話を聞いてきたから。」
「・・・となると次は、何故そうなったかですね。」
窓際席の彼女、ROはAR小隊の中では新参の方である。真面目な彼女はいち早くAR小隊の一員として馴染めるように飲み会や集まりには積極的に参加してきた。当然そんな場ではAR-15やSOPの赤裸々な話に触れる機会が多いが、だからこそ昨日の話がきっかけではないと言える。
「う〜ん・・・ちなみに一昨日は?」
「直で会ったわけじゃないからはっきりとは言えないけど、普段どおりだったよ。」
「となるとやっぱり昨日か・・・。」
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
「・・・・・・はぁ」
今日何度目かわからないため息に、自分でも嫌気がさす。
民生品モデルではなく、戦術人形の新世代機として製造されて、エリート部隊と名高いAR小隊に配属されて、今日までやってきた。
躓くこともあったし、壁に当たったこともある。でもそのたびに困難を乗り切ってきた。前に進むことができれば必ず道は開けると、自分の経験から言える。
なのに今は、身動き一つ取れずにただただため息をつくばかり。
「・・・・・何やってるんだろ。」
ようやく絞り出せた言葉が、よりによってこんな言葉だとは思わなかった。
注文もせず、代理人が来ても上の空、迷惑だけかけて馬鹿みたいだ。
馬鹿馬鹿しい、とあの頃の私なら振り切れただろう。でもAR小隊のみんなと出会って、それぞれの生き方に触れて、私の中に迷いが生じた。
「・・・結婚、かぁ。」
きっかけは大したことじゃない。昨日だってAR-15とハンターの話や、SOPのノロケ話もいつものこと。
・・・帰り際に、『あの写真』さえ見なければ。
(・・・・・綺麗だったなぁ・・・)
代理人の知り合いだろうか。壁に書けられた写真の中に、少女とも言える年齢の女性二人のウェディングドレスとそれを囲む人形たち。片方はデータベースで見覚えのある顔だったので多分人形だろう。
人形と人間、女性同士の結婚、そんな自分にとって無関係だと思っていた事柄が、写真という形で目の前に現れてしまったのだ。そこから今まで聞き流していたAR-15とSOPの話が結びつくまでに時間はかからず、『その先』を考えてしまった彼女の中には一つの淡い願望が芽生えてしまった。
「・・・・・いいなぁ。」
いい加減諦めよう、もう帰ろう、と思っているのに体は動かない。思考と身体が噛み合わない。苛立っているのか悲しんでいるのかも分からない。
視界がどんどん狭くなり、やがて真っ暗になった。
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
「・・・ストレスによるメンタルモデルの摩耗とAIのオーバーヒート、要するに考え込みすぎね。」
店の奥のベッドで寝るROを診断したペルシカが、そう結論づける。
突然倒れた彼女に店は軽い騒ぎとなり、人形総出で事態の収拾に動いた。幸いペルシカは用事があってこの地区に向かっており、連絡して急遽ここに来てもらえることになった。トンプソンが彼女を抱えて運び、404のメンツがベッドや必要なものを用意した。
「寝かせておけば大丈夫だけど・・・起きてからは私たち次第だね。」
「・・・・・。」
原因の解明・・・という名目で彼女の直近の思考を見せてもらったが、まさかその原因が自身のもつ写真だとは思わなかった代理人。ペルシカもこうなった要員の一人として責任を感じており、申し訳なさそうな顔をしている。
「・・・ん・・・ここ、は・・・?」
「おはようRO、よく眠れたかい?」
「え? ペルシカさん・・・?」
目が覚めたROは周りを見渡し、自身に起きたことを整理する。
が、その前にペルシカが彼女に告げる。
「・・・RO、君はストレスとオーバーヒートで倒れたんだよ。 で、君の記憶を見せてもらったけど・・・。」
「ごめんなさい。 私の写真のせいですよね。」
「写真? ・・・あ。」
何を言われているかを飲み込むと、再び暗い顔に戻るRo。
ペルシカと代理人が何かを言おうとしたその時、11がROの側に立つ。
ROが顔を上げると11は口を開き・・・
「・・・あの席は私の特等席なんだけど。」
「・・・え?」
⦅えええええええぇぇぇぇぇぇぇ!!!!⦆
開口一番に文句である。
言われた方も唖然としているが周りも驚愕の表情を浮かべている。というか叫ぶことすら忘れるレベルだ。
(何言ってるのよ11! それ今言うことじゃないでしょ!)
(く、空気読んでよ11!)
416と9が無言の抗議を発するが11は無視し、今度は両手でガッとROの肩を掴んで詰め寄る。
「まぁそのことはもういいよ。 ・・・・・で、ROは何がしたいの?」
「え? それは・・・」
「恋? 結婚? 幸せな家庭?」
「・・・でも、そんなこと・・・」
「私はできるかどうかなんて聞いてないんだよ、ROが何したいか聞いてるの。」
ハッと顔を上げると、いつになく真剣な表情の11と目が合う。
いつもの気だるげでどこか眠そうな顔の彼女とは全く違う姿に、ROを含めほとんどのものは驚いた。
「・・・私たち404は元々特殊部隊だったのは知ってるよね? 正規の任務から汚れ仕事までなんでもやる裏方、殺すことと壊すことが私たちの存在意義、そのためだけに生きてきたようなものだよ。」
「・・・・・。」
「存在しない部隊じゃなくなって、私たちは表の世界にやってきた。 右も左も違和感しかない世界にね。」
「11・・・。」
「私は表情が死んでるって言われた、9は目が笑ってないって怖がられた、416はぬるい世界にイライラしてた、45はそんな私たちを裏に戻そうと働きかけ続けた。」
いつになく口数が多く、心なしか言葉尻が大きくなっている11。かつてAR小隊の対と呼ばれていた404の過去に、皆驚きを隠せなかった。
「・・・はじめに踏み出したのは45だったよ。 今でこそあんなんだけど、あの時はいろんなことを私たちにくれた。」
「45が・・・。」
「戦う以外の目的のために、私たちを連れ回してくれた。 9はよく笑うようになったし、416も笑顔が増えた。 私だって色々変わった。
・・・私たちは、ただ逃げてただけなんだよ、知らない世界からね。」
そこで言葉を区切り、再びROと目を合わせる。突然のことに目をそらすROに、11は語気を強めて続ける。
「・・・いつまで逃げるつもり? そうやって『人形』のままでいるつもりなんだ。」
「な、なにを・・・」
「知らないことは知らないままの方が、怖くn
「だまれっ!」
叫ぶと同時に、11の襟首を掴んで引き寄せる。顔と顔が触れる距離まで近づき、ROは見たこともないほどの形相で、11は逆に冷めきった表情で睨み合う。
「何がわかるの? 私は戦術人形として作られた! 戦うことが使命で、それが存在意義よ!! それのどこが悪いの!?」
「だから、それ以外には興味もない? 自分のことも、仲間のことも。」
「な、何を言って・・・」
「見てればわかる。 AR小隊のなかで、あなただけ『笑ってない』。」
突きつけられた言葉に目を見開くRO。
違う、そんなはずない・・・言葉にしようとしても、なぜかできない。
いつの間にか11は肩から手を離し、ROの両手を包み込むように握る。そしてそれまでの表情から一転してニコリと微笑むと、今度は優しく語りかける。
「・・・怖がらなくてもいいよ。 銃を握らなくたって、私たちはわたしたちなんだから。 ね、ペルシカ?」
「・・・はぁ、似合わないことをしてくれるじゃないか11。」
「む〜似合わないとは失礼だよ。」
「・・・ごめん、本当に11?」
「一度メンテナンスを受けるべきよ、今すぐに。」
「ちょっと酷くないかな!?」
9と416に突っ込み、まわりもつられて笑う。
そして無意識に、ごく自然にROもクスリと笑った。
「あ、今笑った!」
「え? あ!」
「なんだ、今まで本当に笑ってなかったんだな。」
「うん、その笑顔の方が似合ってるわよ。」
ただ笑っただけ、それだけで少し軽くなった気がした。
そして一度溢れると、あとはもう止めようにも止められなかった。周りにつられて笑い、くだらないことを言って笑い・・・気がつけばさっきまでの悩みが嘘のように消えていた。
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
「・・・代理人さん、その人たちはどんな人たちなんですか?」
「そうですね・・・真面目でまっすぐで可愛らしい指揮官と、その仲間たちですよ。」
すっかり日も暮れた街。
街灯の明かりも少ない路地の一角で、喫茶 鉄血はまだ灯が点っていた。店は閉めているが、店内のテーブルでは二人の人形が、一枚の写真を囲んで楽しそうに話し続けていた。
end
おかしい・・・ギャグ路線のつもりがシリアスになってしまった・・・っていうか11がイケメンすぎてつらい。
というわけでキャラ紹介
G11とトンプソン
第二十一話参照。喫茶 鉄血の特定のテーブルでただただじっとしているだけの二人。指定席とか特等席とか言ってるけどただの自己申告なので座っても問題ない。
9と416
本作ではおなじみのカップル。なんやかんやでデートよりも仲間を優先する優しい人形たち。
よく考えたら今回45だけはぶられてるという・・・。
D
ダミーなので人件費のかからない貴重な戦力。
感情の起伏が大きく落ち込むのも復帰するのも早い。
404の過去話
以前(鉄血ハイエンド離反以前)までは概ね原作と同じ、存在しない部隊。
鉄血との緊張状態が解除されると同時に正規部隊に変更になり、現在に至る。
ポンコツな45姉が隊長として信頼されている背景を描きたかった。
ペルシカ
用事(会議)に遅れたためこっぴどく怒られたらしい。