喫茶鉄血   作:いろいろ

58 / 279
新年号になって平成振り返り特番も多いですね。
というわけで今回は過去話です。


第四十三話:日常の出発点

「マスター、コーヒーおかわり!」

 

「あ、私も!」

 

「お会計お願いね〜。」

 

 

休日、家族連れや仕事休みの社会人で賑わう喫茶 鉄血。

昼時ということもあって人の出入りが多く忙しい時間帯ではあるが、代理人始め喫茶 鉄血の従業員は特に慌てる様子もなくテキパキと動き回っていた。

そんな様子を眺めながらくつろいでいるのは、ペルシカとAR小隊と404小隊の16lab組だ。

 

 

「相変わらずすごいよね代理人は。 一体幾つ耳がついてるんだか。」

 

「私、代理人がオーダー間違えてるとこみたことないんだけど。」

 

「代理人だけじゃないわ、他の人形もよ。」

 

 

基本無表情、というよりも感情が表に出づらい代理人と鉄血人形だが、不思議と冷たさの感じない接客でそれに不満を持つ客もほとんどいない。Dだけは例外的に感情豊かだが、それはそれで受けが良かったりする。

 

そこでふと、ROがポツリと疑問をこぼす。

 

 

「・・・そういえば、いつからあるんでしょうかこの店。」

 

「あ、そっか。 ROは知らないんだったね。」

 

「鉄血の騒動があってそれが収まって・・・一ヶ月後くらい?」

 

「なるほど、そんなに前から・・・その頃からこんな感じなんですか?」

 

「それには私が答えよう。」

 

『うわっ!?』

 

 

いつの間に現れたのか、空いているスペースに収まるように座っているのは神出鬼没なハイエンド、アルケミストだった。

腹たつくらい優雅な仕草でコーヒー(となりに座るペルシカの)をすすり、ROに向き合って話しかける。

 

 

「ではまず・・・お前はあの騒動のことをことは知っているか?」

 

「えぇ、一通りは。」

 

「ふむ、ではその後に我々ハイエンドが鉄血工造を脱退し、同時に人形の雇用が広まったことも知っているな?」

 

「はい。」

 

「・・・では、ハイエンドを狙った襲撃が何度もあったことは?」

 

「え?」

 

「あぁ、あれか。」

 

「今思ったら、よく見て見ぬ振りなんてできたわよね。」

 

「何気に私たちの最期の任務も、それ関連よね。」

 

 

「じゃあ話そうか。 ・・・当時の我々に起こったことと、喫茶 鉄血ができた頃の話を。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 

 

 

 

 

『・・・続いてのニュースです。 鉄血工造製の人形による鉄血工造占拠事件からまもなく一ヶ月が経ち、各企業では人形の雇用に関して様々な議論がなされています。』

 

「・・・本気か代理人?」

 

「えぇ、このままただ人間が我々を受け入れてくれるのを待つだけでは、状況は改善されません。」

 

「だが危険すぎる。 固まって動くのならともかく一人でなんて、過激派のいい的だぞ。」

 

 

 

当時、鉄血工造自体はもう話題から遠ざかっていたが、私たちハイエンドは常に過激派の襲撃の恐れがあった。実際、騒動の間はメディアによく出ていたからな。

特に、代理人はリーダー的な存在だったから、昼夜問わず狙われたよ。

 

・・・グリフィンに保護を求めなかったんですか? 敵対していたとはいえ、見捨てるほど非情でもないでしょう。

 

いいえ。 当時のグリフィンは、彼女たちを見捨てることにしたんです。

 

M4の言う通りだ。鉄血に次いで人形保有数の多かったグリフィンも、鉄血のようになるんじゃないかってことで騒がれてた。騒ぎを大きくしないために、関わらないことにしたんだ。

 

・・・そんな中、代理人はこの地区で店を開くと言い出した。S09地区はまだ治安がいい場所だったからな。

 

 

 

「場所は・・・ここですね。」

 

「いやいやいや、こんな路地裏なんて襲ってくれって言ってるようなもんだぞ!」

 

「流石に堂々と店を構えるわけにはいきません。 それに、人間には落ち着ける場所が必要なのでしょう?」

 

「・・・何かあってからじゃ遅いんだぞ。」

 

「承知の上です。」

 

 

 

で、この場所に店を開いたわけだ。後で聞いたが、ここの指揮官やカリーナも秘密裏に協力していたらしい。

そして・・・

 

私たちも、ね。

 

 

 

「ぐっ・・・なぜだ、なぜ邪魔をするっ!?」

 

「あら、無害な一般市民を襲う輩を鎮圧してるだけじゃない。」

 

「アイツはあの鉄血のリーダーだぞ! 我々人類の敵だ!」

 

「日和った軍もグリフィンも信用ならん! 我々が正義の鉄槌を下すのだ!」

 

「・・・馬鹿馬鹿しい。 彼女はもう無害だと判断された、だからここの市民権も得てるのよ。」

 

「ふん、どうせ裏で何かしたに違いない! お前たち人形のやりそうなことだ!」

 

「・・・ねぇ45、撃っていい?」

 

「模擬弾じゃないからダメよ11、殴るのはいいけど。」

 

 

 

当時はまだ非公式の特殊部隊だった404が、ペルシカの要請を受けて代理人の身辺警護に就いていた。お陰で大きなトラブルもなく開店までこぎつけたよ。

 

・・・今思ったらあの頃の11ってずいぶん過激だったわよね?

 

うっ!? それを言うなら45はあの頃のほうが頼り甲斐があったよ!

 

ちょっと!? 今は頼りないみたいに言わないでよ!

 

頼りないのは事実だろ・・・で、一応開店したはしたんだが、まぁ当然人は来なかったな。代わりに脅迫文は山のように来たが。

 

 

 

「やぁ代理人・・・閑古鳥が鳴いてるな。」

 

「予想はしていたことです。 そしておめでとうございますアルケミスト、あなたが最初のお客様ですよ。」

 

「・・・マジかよ。」

 

「こういった手紙なら毎日届きますが。」

 

「はぁ、わざわざ玄関まで来るなら入ればいいのに。」

 

 

 

こんなに嬉しくない一番客も珍しいわね。

 

だろ? マジで泣きそうになったぞ。

 

あ、そう言えばこのころよね?あんたとハンターが付き合いだしたのって。

 

今言わなくてもいいでしょ。ていうかなんで知ってるのよ。

 

お前たちが団体(2名以上)最初の客だったからだ。

・・・で、そんなある日にある一団がやってきてな。

 

あぁ、S09商人の会(仮)ね。

 

 

 

「お待たせしました、ご注文のランチセットです。」

 

「・・・・うむ。」

 

「・・・・・・・・。」

 

「ど〜も〜。」

 

 

 

あの時は緊張したよねぇ。一般市民だから止めるわけにもいかないし。

 

盗聴器と監視カメラと望遠レンズだけが頼りだったからね。

 

 

 

「・・・・代理人、といったか?」

 

「はい。」

 

「ここに店を開いた目的は?」

 

「・・・我々鉄血が無害であることを知ってもらうため、です。」

 

「信用できるとでも?」

 

「こればかりは、信じていただくしかありませんが。」

 

「けどまぁ、あんなことがあった後じゃねぇ。」

 

『こちら416、ちょっとやばそうじゃない?』

 

『最悪の場合は突入、でも撃っちゃだめよ。』

 

『代理人も自衛手段くらいあるんでしょ?』

 

『・・・全部取っ払ったらしいわよ。』

 

『はぁっ!? じゃあ丸腰ってこと!?』

 

 

 

堂々と護衛できなかったあの時ほど、特殊部隊であることを恨んだ日はないわね。

 

・・・ど、どうなったんですか?

 

ん?あぁ別にどうとも・・・強いて言うならちょっと拍子抜けするくらいだったわね。

 

 

 

「・・・では、君は人間に仇なす存在ではない、と。」

 

「はい。」

 

「・・・・・・では、これに署名してもらおう。」

 

『ちょっと45姉! なんかヤバそうな書類出てきたんだけど!』

 

『ちっ・・・だれか書面見える!?』

 

『だめ、角度が悪い!』

 

『あぁ!? サイン書いちゃったよ!?』

 

「・・・これで、よろしいですか?」

 

「・・・あぁ。」

 

『・・・11、416、いつでも撃てるようにしておいて。 9、行くわよ。』

 

「じゃ〜これで〜・・・」

 

『3つ数えたら突入、スモークを焚いて救出。』

 

『OK!』

 

「君は我々の・・・」

 

『3・・・2・・・1・・・今っ!』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「商売仲間だな。」

 

『ズコー!!!!』

 

『ちょっと45! 9! 大丈夫なの!?』

 

「不法侵入だ! 捕らえろ!」

 

『待って待って! 私たちは違ギャー!!!』

 

『誰よ! どさくさに紛れて胸揉んでるのは!?』

 

「揉むほどの胸もないだろ!」

 

『あ゛あ゛っ!?』

 

 

 

・・・あの店主はいつか泣かす。

 

あはは・・・でもよかったよ、ただの組合加入の話で。

 

っていうか肝心の組合に入ってなかったなんて代理人も変なところで抜けてるわよね。

 

で、それからだな。組合の協力で宣伝してもらって、人が少しずつ集まり始めた。初めは警戒心丸出しだった客も、いつのまにか常連だ。そういう意味では、代理人には人を惹きつける何かがあるんだろう。

 

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 

 

 

「・・・で、今に至るというわけだ。 ちなみに私たちが人間社会に馴染めているのも、元を辿ればこの店のおかげだな。」

 

 

懐かしそうに語り終え、コーヒー(今度は45の分)を飲み干したアルケミスト。

一方でその対面のROは・・・

 

 

「・・・う・・・うぅ・・・」

 

「えぇ!? RO!?」

 

「今の話のどこに泣く要素が!?」

 

 

ポロポロと涙を流すROにやや慌てる一同。正直笑い話のつもりであって泣かれるとは思っていなかったので、いつも飄々としているアルケミストも珍しく慌てている。

 

 

「いえ・・・鉄血の皆さんが・・・そんな苦労をされていたなんて・・・・・。」

 

「フフッ、心配してくれてるんですか?」

 

「うおっ!? 代理人!」

 

 

そこにはいつの間にかこっちに来ていた代理人が、薄く微笑みながら佇んでいた。随分と話し込んでいたようで、気がつけば客もまばらになっている。

・・・いや、よく見れば自分たちの周りの席にしかいない。

 

 

「いやぁ〜あの頃はすまんかったねマスター!」

 

「あたしはこの店好きだよ代理人!」

 

「代理人! 今度はうちの店にも来てくれよな!」

 

「ついでに健康診断でもしてってねぇ〜!」

 

 

周りの客、よくよく見ればさっきの話に出てきた組合員ばかりである。皆楽しげに代理人に話しかけ、代金を置いて店を出て行く。

代理人はそれを見送り、今度はROに話しかけた。

 

 

「昔のことは昔のことです。 それに、今の私はとても幸せものですから。」

 

 

そう言って微笑む代理人は、新しい客が訪れると軽い足取りで迎えるのだった。

 

 

 

end




というわけで今回は喫茶 鉄血の開店前後のお話。
人形に対する迫害とか色々あったころの、小さなお話。


・・・の予定だったのになんかコメディになってしまうのは45姉の魅力だろう。



というわけで解説。

過激派
このほのぼのストーリーにおいてテロ同様に唯一と言っていいほどのシリアス成分。
最近はめっきり数が減った。

S09地区と喫茶 鉄血
もともとこの地区の指揮官は親人形派であり、グリフィンから関わるなと通達を受けてなお秘密裏に援助していた。鉄血というだけで仕入れルートが限られるので、表向きはカリーナが仕入れていることになっている。
現在は代理人が仕入れているが、当時のこともあって珍しいものは今もカリーナが仕入れていたりする。

404小隊
NOT FOUNDだったころ。
そこの読めない隊長に笑顔の暗殺者、超至近距離グレネード姉貴と無慈悲な眠り姫というよくわからないあだ名が出回るほどだった。
この当時は45姉が進んで道化を演じ、隊員の笑顔を増やそうとしていた。

組合員の皆さん
主にメインストリートに店を構える店主や歯医者などの集まり。
気さくで仲間意識が強く、新参者を温かく迎える気質。
45に狙われている店主は、今も躱し続けているという。

AR-15とハンター
当時はすでに敵対関係ではなかったが、表立って関係を持つことはできなかった。そんな二人が堂々と会える場所が、当時グリフィンと鉄血にとって中立とされていた喫茶 鉄血である。
・・・本人らは隠しているつもりだったが、周りには割とバレていた。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。