リクエストを頂いたのでオリジナル鉄血人形が登場します。
もらったアイデアはフル活用!
とある日の喫茶 鉄血。
この日は珍しいことに店内の客は人間だけで、喫茶 鉄血始まって以来最も平和な日なんじゃないだろうかと思う代理人。
別にいつもの騒がしさが嫌いというわけではない、むしろそれはそれで好きなのだが、やはり喫茶店とはこういうものだろうと思うのだ。
・・・だがしかしここはあの喫茶 鉄血。人間と人形の憩いの場にして厄介ごとの集積場である。
カランカランと入り口のベルが鳴り、代理人が顔を上げる。そして悟った、これは厄介ごとだと。
「えぇっと、あなたが代理人?」
「えぇ、そうです。 ・・・あなたは?」
現れたのは、
「私は『マヌスクリプト』、よろしくね代理人。」
マヌスクリプトと名乗った彼女は、なんというか色々と規格外だった。外観は鉄血人形らしい色白な肌で、白いメッシュの入った黒髪、羽をあしらった髪飾りのようなものをつけている。
だが、その服装は鉄血人形にしては珍しくモノクロではない、普通の服装だった。その背中には何やら四角いパーツが取り付けられており、しかし武装らしい武装は確認できない。
「・・・それで、マヌスクリプトさんはなぜここに?」
「ん? あぁそうそう、突然で悪いんだけどさ・・・・・私を雇ってくれないかな?」
「・・・え?」
予想外の申し出に思わず声が出る代理人。会って間もない以上流石にはいそうですかとは言えないのだが、なんとなく訳ありそうなので奥に案内して話を聞くことにいたのだった。
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「・・・・なるほど、サクヤさんが。」
「で、出てきたはいいけどお金もあんまりないしね。 とにかく今は資金調達が最優先だから。」
語り始めておよそ一時間、この珍妙な来訪者がどういった経緯でここにいるかはわかった。
確かに彼女は鉄血工造製だが、サクヤが完全オリジナルで生み出した人形だという。背中に二本のサブアームこそあるが固有の武装はなく(鉄血工造は新規に
初めから人間社会で生活することを想定された、ある意味では次世代機というわけである。そんなコンセプトとサクヤの望みもあり、製造後間もなく鉄血工造から出て行くことになったという。
「まぁしばらくは不自由しないくらいのお金はもらってるんだけどね。」
「サクヤさんも過保護ですからね・・・しかし、人の社会でと。」
「そ、これもその一環みたいなものかな。 ・・・・・まぁやりたいこともあるんだけどね。」
微妙に、それこそ代理人が見逃すくらいに黒い笑みを浮かべ、しかし次の瞬間にはさっきまでの飄々とした雰囲気に戻る。
「・・・いいでしょう。 私としてもあなたに協力したいと思いますから。」
「やった! これからよろしくね代理人!」
そんなわけで意外なほど呆気なく、喫茶 鉄血に新しい仲間が迎えられたのだった。
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「はいお待たせ〜、ケーキセットが三つとコーヒーね!」
マヌスクリプトが加わって早一週間、完全に馴染むどころか、今やこの喫茶 鉄血の貴重な戦力となった彼女の働きぶりは偉大だった。
武装がない、つまりは身軽な彼女は軽快に店内を動きまわる。さらに背中のサブアームは代理人のものとは比べ物にならないほど高性能で、一人で二人分以上の活躍だった。
おまけに明るくフレンドリーな彼女は客受けもよく、そう時間も経たずに受け入れられた。・・・ノリが良くたまに変わった衣装を着てくれるので、主に男性客から人気だ。
「めっちゃ働きますね彼女。」
「そうですね・・・いずれここを出ても、うまくやれるでしょう。」
嬉しい誤算で完全に手持ち無沙汰なイェーガーと代理人は、今ではカウンターの内側から出ることがめっきり減ってしまった。とはいえ二人の視線は優しく、まるで娘を見守る親のようだった。
「・・・そういえば、普段部屋にこもって何やってるんでしょうね彼女?」
「趣味で漫画を描いていると言っていましたよ。 ・・・見せて欲しいと言っても見せてくれませんでしたが。」
「漫画、ですか・・・でも初任給でいきなりあんなに買うとは思いませんでしたよ。」
「・・・お金の使い方だけは指導が必要かもしれませんね。」
二人が話す通り、マヌスクリプトは割と豪快に買い物する。もちろん生活費や貯金も確保しているが、欲しいものにはとことん使うタイプのようだ。
ちなみにマヌスクリプトが初任給で買ったものはペンタブとかスケッチ用紙とか、いかにも何か描きますといったものばかりである。
「でも、芸術に目覚める人形って珍しいですよね?」
「そうですね・・・グリフィンならスオミさんが音楽を嗜んでいると聞きますが・・・意外と芸術は少ないですね。」
「でも漫画かぁ・・・一回読ませてもらいたいですね。」
軽い気持ちで語る二人。
だが、
・・・・・ついでに、ごく限られたルートですでに出回っていることも。
Prrrrrrrrr……
「ん? 誰でしょう? ・・・はい、喫茶 鉄血です。」
『・・・代理人か?』
「アルケミスト? どうしましたか?」
電話に出ると、かけてきたのはいつもどこにいるかわからないアルケミスト。しかし雰囲気は完全に仕事のソレなので、なにかあったのだろうと察する。
『いや、実はあるヤツを探していてな。』
「・・・ある奴?」
『あぁ、まだ特定はできていないのだが、個人的なことでもあるのだ。』
「何か協力できることはありますか? その人の特徴とか。」
『生憎とネット上での名前しかわからんが・・・そいつは
「・・・写本先生?」
ガタッ
「ん? どうしましたマヌスクリプト?」
「い、いや大丈夫だよ! ちょっとぶつけちゃって・・・」
『・・・今なんと言った?』
電話の奥、アルケミストの声が一気に冷え込むのがわかる。
「マヌスクリプト、と。 ・・・もしかして。」
『マヌスクリプト・・・ニホン語とやらに直せば写本だな。』
「・・・・・ちなみに追っている理由を聞いても?」
『今すぐそっちに行くからその時に話す。 ・・・そいつを逃すなよ。』
それだけ言うと電話を切られる。
なんとなく、大事にはならないが面倒の嵐がやって来る予感をしながら、とりあえずマヌスクリプトにも聞いてみようと振り返ると・・・
「・・・・・・・・・」
「・・・マヌスクリプト?」
「ひゃいっ! な、なにかな代理人?」
引きつった笑みにしどろもどろな応答、挙動不審な態度・・・何かわからないが『黒』だと思った。
ジーっと見つめ続けると目を逸らし、やがて顔も逸らし、ついには明後日の方まで見る始末。
「・・・マヌスクリプト。」
「だ、大丈夫! 代理人には迷惑をかけてない、はず!」
「とりあえず裏に行きましょうか?」
初日に感じたあの予感は正しかった。そんなことを考えながら、サブアームまで使って抵抗するマヌスクリプトを引きずっていく。
・・・とりあえず、話はアルケミストが来てからだ。
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「・・・・・・・。」
「・・・・・・・。」
「・・・・・おい貴様。」
「な、なんでございましょうか・・・・・?」
「私の見間違いでなければこれは私とドリーマーに見えるのだが?」
「ソ、ソウデスネ」
店で待つこと約三十分、鬼のような形相で入ってきたアルケミストとともにマヌスクリプトの元へ行き、彼女の端末とパソコンのデータを全てさらけ出した結果、彼女が書いたという漫画のデータが山のように掘り出された。
・・・その全てがいわゆる『薄い本』である。
「これについて、何か申し開きは?」
「夢×錬金っていいよnぎゃあああああああああ!!!!」
「しかもこっちはデストロイヤーか! 一番新しいのなんて代理人とDじゃないか! 貴様身内をそんな目で見ていたのかっ!?」
「ちゃ、ちゃんと『この物語の登場人物は全て架空の人物です』って書いてあるし!」
「それは暗にノンフィクションと言ってるようなものだっ!」
説明しよう!
アルケミストは身内が薄い本のネタになることを心底嫌うのだ!
そんなわけでアルケミストの制裁が下される一方で、代理人はそのデータの山をひたすらチェックしていく。が、チェックするだけで一向に消す気配はなく、しかも割とじっくり眺めている。
「だ、代理人?」
「・・・いえ、絵が上手なんだなと。」
「そんな純粋な眼差しで見るものではないぞ! とにかくこれは全て削除する!」
「お、横暴だ! 個人の権利の侵害だ!」
「そんなに書きたければ自分を書けばいいだろ!」
「需要があるから書くんだ! 二人は今後のトレンドになるよ!」
「知るかっ!」
そんなコントを繰り返しつつ、消す消さないの攻防を繰り広げる二人。まぁお互いの言い分もわかるので、代理人も止めるに止められないのである。
だがふと何かを思いついたのか顔を上げると、ガチの殴り合いに発展している二人に・・・というよりマヌスクリプトに言った。
「・・・では、こういうのはどうでしょう。」
「「え?」」
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「マヌスクリプト、追加で一つお願いします。」
「はいは〜い!」
「こっちも追加、三杯です。」
「は〜い!」
「先生、私も一杯。」
「はいよって先生言うな!」
数日後、それまでとは一転してマヌスクリプトがカウンターの奥、代理人らが接客という立ち位置になっていた。そのマヌスクリプトはサブアームを合わせた四本の腕で、真剣に何かを作っている。
ようやく出来上がったそれを代理人に渡し、代理人が運ぶ。
「お待たせいたしました、特製ラテアートです。」
運ばれてきたのは、可愛らしくデフォルメされた鉄血人形の描かれたラテアート。絵心があり手先が器用なマヌスクリプトに、代理人が思いつきで始めさせたものだ。
道具は違えど絵を書くことが好きなマヌスクリプトはすぐに習得、今では人気メニューの一つとなっている。
「・・・相変わらずの出来だな。」
「お、アルケミストじゃん! 一杯飲んでく?」
「頂こう・・・で、まだ描いてるのか?」
「当たり前じゃん! そのためにこれやってるんだし。」
代理人が提示した条件、それはラテアートをはじめとした喫茶 鉄血への貢献である。ラテアートの他にもメニューのデコレートや店内に飾る絵、オリジナルグッズ(ポスター)などなど、得意な絵を活かして売上拡大を目指したのである。
その見返りとして趣味であるソッチ方面を許可、今まで以上に大手を振って活動しているせいか、一部では『先生』と呼ばれている。
「・・・・・まぁいい、代理人が許可したんだからな。 だがなぜ私とドリーマーなんだ?」
「え? お似合いじゃん。」
「・・・・・・・・。」
アルケミストの微妙そうな顔を受け流し、仕事に戻るマヌスクリプト。
彼女の社会進出と野望は、まだまだ始まったばかりだった。
「先生、私と代理人の純愛モノを描いてくれないか?」
「責めを希望かい? それとも受け?」
「・・・責めで頼む。」
「ちょっとダネル、そろそろいくわよ。」
end
というわけでリクエストされましたオリジナル人形、マヌスクリプトです!
送られてきた設定を見たときは爆笑しましたね、ある意味アーキテクトよりヤベェやつだと思います。
というわけでキャラ紹介
マヌスクリプト
『写本』の意。
鉄血工造、というよりサクヤが独自に作り上げた人形で、背面のサブアームが特徴。また服装も特定のものはない。
リクエストの時にたくさん設定があったけど初登場では書ききれてない、なので今後も出てくる予定。
何気にこっちにきてサクヤが作った最初の人形。そういう意味ではあっちの世界のアルケミストの妹ということにもなる・・・多分
代理人
お金は計画的に使う派。
特に趣味とかがあるわけではないが、店の内装の小物などを買うのは好き。
アルケミスト
何にお金を使ってるかよくわからない。
ただ、身内が困ったときはパッと現れて助けてくれるのでそれが使い道といえば使い道。