ちなみに私は梅雨が大っ嫌いです。
これ書いてる時に読者の方から戦友承認をいただきました!
素直に嬉しかったです!!!
ここはS09地区。
真っ昼間にもかかわらず、珍しく客足の少ない喫茶 鉄血では代理人以下従業員が暇を持て余していた。
理由はこのどんよりとした天気。梅雨前線の影響で分厚い雲が覆いかぶさり、シトシトと雨が降り続けているため、ここ数日は外出する人がめっきり減っている。
「あ、また降ってきた。」
「あちゃぁ、土砂降りだねこれ。」
「ふむ、どこかで濡れて困っている子猫ちゃんがいるかもしれないな、傘を持って行くとしよう。」
「自重しなさい、この前反省したところでしょう。」
そんなコントじみたことができるくらい暇なわけだ。仕方なく代理人とマヌスクリプトは新メニューの考案を、Dは気になるところを掃除し、ゲッコーは乾いたタオルを用意する。
人形が人間と違うところはこうしたジメジメした空気であってもあまり不快感に苛まれない点がある。皮膚があるとはいえ人工のもので、湿度は湿度として感じ取るだけなのだ。
それ故に濡れても気にしなかったり、雨の中を走ってくるような人形もいるのである。
バタンッ
「ひゃ〜急に降ってきたわね。」
「全く・・・これだから梅雨って嫌いなのよ、降るなら最初から降っててほしいわ。」
扉を開け放ち、愚痴りながら入ってきたのはグリズリーとFive~sevenの二人だった。傘ではなく上着を頭に被せるようにしているところを見ると、どうやら近場の警備任務だったようだ。
おおかた、さほど激しくないからと傘を持たずに出てきてしまい、急に強まった雨足に急いで駆け込んできた、といったところか。
「ほら、これで拭くといい。 濡れっぱなしではせっかくの美人も台無しだ。」
「ありがと。 タオルは受け取るけど好意は返すわ。」
「それは残念。」
「はいはい、ゲッコーもほどほどに。 お二人ともとりあえず着替えましょうか。 流石にそのままの格好はアレですから。」
アレ?と首をかしげるふたりだが、代理人が店内の客をひと睨みする。とても客に向ける視線ではないが、睨まれた客はササっと視線を逸らし、しかしそれでもこちらが気になるようでチラチラと見ている。
その視線を辿ると・・・・・
「っ!? そういうことですか。」
「あちゃ〜、たしかに刺激が強すぎるかもねぇ。」
「ってなんでそんなに余裕なのよ!? めちゃくちゃ恥ずかしいわよ!」
慌てて胸元を隠すグリズリーと、逆にわざとらしく胸のあたりで腕を組む57。あの雨の中で上着一枚を盾に守りきれるはずもなく、結構な量の雨を染み込ませた服は下着を透けさせるには十分だったのだ。
まして、二人ともそれなりにいい実りを持っている上に、上着を脱いでいる今は比較的薄手だ。ブラの色も形もくっきりである。
ちなみに57は以前の一件から羞恥心のハードルがかなり下がってしまったようで、下着ぐらいではほぼ動じない。
「そういうわけですので奥で着替えましょう。 服は貸しますので。」
「すみません、お言葉に甘えます。」
「ふふっ、では行こうかお嬢様方?」
「なんでかしら、やることは同じくせにこっちからは犯罪臭がするわ。」
「ふむ、随分と警戒されているが何故だろうな?」
「「日頃の行いよ。」」
そんなわけでゲッコーには警戒しつつ、二人は代理人に連れられて奥へと入っていった。
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
数十分後
「・・・・・ってなんでコレなのよ!?」
「あら、意外と動きやすいのね。」
「ふふっ、お二人ともよく似合ってますよ。」
三者三様のリアクションで奥から現れたのは、ウェイトレス姿に身を包んだグリズリーと57、そしてそれを微笑ましそうに見守る代理人。
57はなんだかんだで着たことにないロングスカートに興味を示し、結構ノリノリで着替えてくれた。スカートともに長い銀髪が揺れ、くるりと一回転するだけで多くの客の注目を集める。
一方のグリズリーはというと・・・・・
「うぅ・・・落ち着かない・・・・。」
「何よ? いつもの服の方がよっぽど露出してるじゃない。」
「そ、そうじゃなくてスカートよ! こんなの、わたしには合わないというか・・・」
慣れないスカートにかなり過剰に反応し、顔を真っ赤にして俯いている。その仕草やいつものボーイッシュな姿とのギャップに客は大いに盛り上がる。閑散としていた空気があっという間に酒場のノリになってしまった。
「ううう・・・・恨むわよマヌスクリプト・・・!」
「ひっひっひっ、じゃあこのバニーにしとく? スカートじゃなくなるけど。」
「それが嫌だからこれにしたんでしょ!」
恨めしそうに睨む先、不敵な笑みを浮かべながらスケッチを取るのは『先生』でおなじみのマヌスクリプト。今回の衣装選びを担当し、口八丁で代理人を丸め込んでグリズリーらにウェイトレス服を着させた張本人である。
ちなみに選択肢はウェイトレスかバニーかミニスカフリフリのやつ、グリズリーに選択の余地などなかった。
「じゃあ早速、『おかえりなさいませご主人様』って言ってみてよ。」
「調子にのんじゃないわよこの変態作家!」
いい笑顔でとんでもないことを要求してくるマヌスクリプト。というかそのセリフはウェイトレスではなくメイドなのでは?と思う57だったが、グリズリーの反応が面白いので黙っていることにした。
「まぁまぁせっかく着たんだから・・・ね、代理人!」
「なぜ私に振るんですか? ・・・ですがそうですね、せっかくですので。」
「ちょっ!? 代理人!?」
まさかの裏切りに愕然とするグリズリー。この店を開いて人と接する機会が増えたからなのか、代理人も茶目っ気がではじめたようだ。
「ほらほら、あんな感じでやってよ!」
「あんな感じ・・・って57?」
「うふふ、なんだか楽しくなってきちゃったわ。 グリフィンで変な着ぐるみ着せられるぐらいならここで働こうかしら?」
一体いつの間に溶け込んだのやら、完全に店員になりきっている57がそこにいた。愛想のいい営業スマイルを浮かべ、それはそれは楽しそうに接客している。
案外、こういったことが得意なのかもしれない。
「ほら、57もやってるしさ。 まぁあそこまで求めるわけじゃないから。」
「うぅ・・・でも・・・」
「・・・・・やってくれないと君の想い人に写真を送っちゃうかもよ?」ボソッ
「へぁっ!? なんでそれを!?」
「それは言えないなぁ・・・で、やるよね?」
マヌスクリプトがこれ以上にないくらい悪い笑みを浮かべ、グリズリーは思いっきり苦虫を噛み潰したような表情を浮かべる。代理人には最後の方はよく聞こえなかったが、弱みでも握られているのだろうと諦める。
やがて観念したのか、グリズリーが半分涙目で口を開いた。
「や、やればいいんでしょ!・・・・・・・・お、おかえりなさい、ませ・・・ご、ご主人、様・・・。」
(YESっ!!!)
羞恥心とやけくその狭間で絞り出された言葉に、心の中でガッツポーズを取るマヌスクリプト・・・と男性客。
言い終えたグリズリーは両手で顔を覆ってうずくまり、深い深いため息をつく。57が慰めにいくが、しばらくは立ち直れそうにない。
「・・・まぁ、大丈夫よグリズリー。 もう着ることなんてないんだし。」
「うぅ・・・57・・・」
「ほら、あんたはそんな泣き虫でもないでしょ?」
「・・・・・ありがと。」
「・・・で、好きな人がいるんですってね? 話しなさいよ。」
「い、嫌よ! なんであなたに話さなくちゃ・・・」
「写真、ばら撒いちゃおっかなぁ〜」
「・・・・・ふぇえええもうやだぁ・・・。」
end
濡れ透けが描きたかった、後悔はしていない。
まぁ〜たカップル作っちまったよこの作者・・・しかも名前もないモブと。
でもある意味この世界ならではだと思うので、生暖かく見守ってください。
と、いうわけでキャラ紹介
Five−seven
着ぐるみきたり水着になったりといろいろ忙しい人形。
ハンドガンの中でもお姉さん的な立ち位置になることが多く、同じ立ち位置のグリズリーとは仲がいい。
ウェイトレスは割と気に入った。
グリズリー
今回の被害者。
なんとCO回以来の登場となる。
グリフィンではなく警察組織の所属で、活動範囲にS09地区が含まれているというだけ。
ボーイッシュだけど実は乙女とかめちゃ可愛いと思う。
年上の同僚に片想い中。
ゲッコー
自重しないやつ。
代理人にもDにもマヌスクリプトにも口説いたが、代理人にははっきりと断られDにはやんわりと断られマヌスクリプトには「私は見る専だから」と断られた。
趣味のブレイクダンスはたまに公園でやっている。
マヌスクリプト
我らの先生。
互いに認知していないが、ヘリアンとはネット上での知り合い。
ゲッコーの口説き癖にうんざりしていたが、多くの人形の乙女な顔が見られるため今では割と協力的。
実は普通の服もあったのだが、わざと隠しておいた。
次の新刊は『57×グリズリー』。