「春、といえば?」
「イチゴのパフェが美味しいですよね!」
「では夏は?」
「スイカ! あとマンゴータルトとか!」
「秋。」
「大学芋にスイートポテト、モンブランもありかも!」
「・・・冬は?」
「みかんとりんご! そのままでも美味しいですよね!」
「・・・・・果物とかお菓子ばかりですね。」
「だって好きなんだもん!」
いよいよ夏のような暑さになってきた今日この頃。喫茶 鉄血でも夏に向けた涼しげなメニューを増やす中、そんなことを言いながら試作のフルーツセット(フルーツパフェとフルーツティー)を頬張るのは水色の髪を揺らした人形、SPAS–12である。
メニューとして出す前のモニター役に誰かきてもらおうと思ってはいたが、この人形は人選ミスだったのかもしれない。
「・・・それで、感想の方は」
「ん? 美味しいですよ!」
「いえ、例えばどこがどう美味しいとか・・・」
「ん〜〜〜・・・全部!」
今からでもM4あたりを招待しようか、割と本気でそう思う代理人。美味しいと言ってもらえるのは嬉しいのだが、彼女の場合なんでもそう言いそうなのでモニターとしては・・・。
さてそんなことを考える代理人をよそに、SPASは最後の一口をペロリと平らげ、見事完食した。
「あ〜美味しかった〜! ごちそうさまでした。」
「いえ、こちらこそ配属前にご協力いただきありがとうございます。」
「いえいえ、また何かできたら呼んでください。 ではさようなら!」
最後だけちょっと慌ただしくなったが、荷物をまとめたSPASは最後に愛銃を担ぎ、
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
数日後。
あの日ふらっと現れて試食を頼んだSPASだが、この平和すぎる地区に配属になって以降は何度も喫茶 鉄血を訪れ、今では常連のようになっている。
その度にケーキとかパフェとかを頼んでくれるので、代理人としては割とありがたい客なのだ。
・・・・・なのだが、それも流石に行き過ぎれば心配する。
「・・・ところでSPASさん?」
「モグモグ・・・ん? なんでしょうか?」
「あれから毎日のように来ていただけるのは嬉しいのですが、大丈夫なんですか?」
「大丈夫ですよ! お給料も食べる以外に使い道もありませんから!」
「そうですか・・・ところでここ数日この街のケーキ屋さんで爆買いする女性の目撃情報が・・・」
「どこのケーキも美味しいですよね! 同じショートケーキでも場所で全然違いますし。」
「・・・・・ちなみに一日にいくつぐらい食べるんですか?」
「う〜〜〜〜ん・・・最低三つ?」
それが何かと言わんばかりに目の前のケーキ・・・今日これで四つ目のケーキを平らげる。もうとっくにこの店のメニューは食べ尽くしているはずなのだが、それでも毎回美味しそうに食べてくれる彼女に代理人も嬉しく思う。
が、さすがに見過ごせないものもある
「・・・SPASさん、大変言いづらいのですが、その・・・・・」
「ふぇ?」
「・・・・・ちょっと、丸くなりましたか?」
「・・・・・・・・・・え?」
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
一時間後、S09地区の歯医者(と言う名のなんでも診療所)
「・・・うん、なるほどね〜。」
「ど、どうでしょうか先生?」
「・・・・・・。」
一通りの診察を終え、ついでに問診も済ませた歯医者の言葉を、SPASは祈るような気持ちで待っている。
もっとも、代理人はすでに答えは決まっているとして黙ったままであるが。
「・・・まぁ私の本業は歯医者だからね〜、虫歯とかになってないから止めはしないけど〜・・・」
「そ、それじゃあ!」
「まぁ端的に言えば太ったかな〜。」
「」
目から光を失わせて固まるSPASと、あぁやっぱりという目で見守る代理人。今回の診察に当たってIoPからSPASのデータを借りてきているのだが、まぁたしかに色々とついてしまっている感は否めない。
・・・おもに二の腕とか脇腹とか頬とか。
「SGタイプの人形ってそんなに動かないでしょ〜?」
「ウッ」
「 それにこの地区はパトロール以外ほとんど出番がなくて〜。」
「グフッ」
「しかも毎日高カロリー高脂肪の食生活〜・・・・・太って当然だよね〜?」
「カハッ!」
「おまけに〜・・・」
「あの、そこまでにしてあげませんか?」
「・・・・・・チッ」
いい笑顔で小さく舌打ちする歯医者。一方ぐうの音も出ないほど現実を叩きつけられたSPASは、まるで魂が抜けたような顔で椅子に沈む。
・・・だが、彼女の苦労というか災難は、まだこれからなのだ。それを伝えるのは、配属初日にモニター役なんてものを任せてしまった自分がやるしかない。
「・・・まぁ、その・・・しましょうか、ダイエット。」
「うぅ・・・・・例えば?」
「適度な運動と・・・・・甘いものを控えるとか。」
「あと野菜もしっかり食べようねぇ〜。」
「あ、甘くなければ大丈夫ですよね!?」
運動はまだいい、これでも戦術人形だ。
野菜も別に構わない、嫌いというわけでもないし。
だが甘いもの自粛は待ってほしい、それが生きる糧なのだ。というか自粛なんてできるはずがない。
そんなわけでじゃあビターなものならという提案は、残念ながら二人とも首を横に振るという結果に終わる。
この翌日以降、街ではジャージ姿で涙を流しながら走るSPASの姿が見られるようになり、喫茶 鉄血では低カロリーメニューが追加されるのだった。
「ところで代理人ちゃん〜?」
「? なんでしょうか?」
「君は相変わらず素晴らしいプロポーションだけど〜、何かしてるのかな〜?」
「いえ、特に何もしていませんが?」
「・・・・・・・世の中不平等だよね〜。」
「???」
end
虫歯になるんだから太りもする、それが戦術人形。
・・・ぶっちゃけ『人形』としてなら欠陥以外の何物でもない機能だけど。
そんなわけでキャラ紹介
SPAS–12
公式からして食いしん坊なキャラ。割と肉付きのいい体をしてるが、これはIoP技術部の趣味。
アストラ並み、いやそれ以上によく食べる上に甘味に目がなく、結果として重量増加を招いた。
歯は磨いているので虫歯にはならない。
代理人
新メニューを考案しては誰かにモニターを頼んでいる。今回はたまたま配属前に訪れたSPASに頼んだが、ある意味それが全ての元凶。
特に努力もせずに体型を維持出るタイプ。
歯医者
歯医者と言う名の万能医。
事実を言っているが伝え方が完全にSのそれ。
昔は丸かったらしい。