今回はBig Versa様の短編小説『Episode of Kar98k』より、主人公のKar98kです。
何とかしてと言われたらやるっきゃないでしょ!
この世界では、時々不可解な現象が起こる。珍しいとか異常気象とかどこかの研究所の失敗とかではなく、文字通り非科学的な、まさにSFのような現象だ。
ロシアのドネツクの幽霊騒ぎやS08地区近隣の砂嵐と存在しない司令部、あるいは突如レーダーに現れた小さな信号。
そしてこれもまた、そんな不可解で奇妙な出来事の一つ。
「〜〜〜♪〜〜♪」
その日、グリフィンS09地区所属のKar98kは大変ご機嫌だった。ご機嫌すぎて鼻歌まで歌ってしまうくらいには。
そんな彼女の腕の中にはやや大きめの紙袋、その中には真っ白の箱が収まっている。これは最近話題の超高級チーズケーキで、一日数量限定かつ常に長蛇の列ができるというもの。
徹夜組に混じって並んだ甲斐があるというものだ(人形である彼女に眠気や寒気は関係ない)。
「〜〜〜〜♪・・・あら?」
ご満悦の表情で帰路についていたKarだが、ふと嗅ぎ慣れない臭いがすることに気がつく。人形ゆえの嗅覚センサーに反応するかしないかの、ごくわずかな臭い。普段はアレな人形のKarだが、これでも何度か作戦に参加したことのある人形。
それが、血の匂いだと気がつくのに時間はかからなかった。
「・・・・・この奥、ですわね。」
見える先は長く続く薄暗い路地。人一人分くらいしかないその狭い路地を進むと、そこにあったのはまるで映画のセットのような一軒家だった。
ボロボロの外観はともかく、あちこちに穿たれた弾痕や焼け爛れた跡、路地裏ということもあってやや古い家もあるにはあるが、これはそんなものじゃないことはわかる。
「・・・・・。」
袋を片手で抱え直し、サイドアームを引き抜いて中に入る。火薬の匂いに混じって血の匂いも濃くなり、やがて一つの部屋の前まで来る。
物音は聞こえないが、誰かが・・・・・動かない誰かがいることはわかった。
(・・・・・よし、いきますわよ!)
一気に足を踏み入れ、サイドアームを構える・・・が、その覚悟を決めた顔は次第に歪み、目は大きく見開く。
そこにいたのは一体な人形。特徴的なコートを羽織り、装飾の多いブーツや帽子を身につけるそれは、Karもよく知っている人形だった。
腹部から人工血液を流し続けるそれは、間違いなく
「ひゃああああああああ!!!!!!!」
思いっきり腰を抜かした。
そりゃそうだろう、なにせ自分と同型が血を流して目を閉じてるのだ。ドッキリでも卒倒ものである。だがそこグリフィンの戦術人形、すぐに異常事態であることを認識し、救援を呼びかける。
「こ、こちらKar98k! 応答してください!」
しかし端末から聞こえるのはノイズだけ。この地球の裏側まで時間差なしで通話できるこのご時世に、ボロ家の中で通信障害などあり得ない。だが現実は現実、彼女は救援を呼びかけつつ、血を流すKar98kのもとに向かう。どうやら腹部に銃撃を受けたようで、当たりどころが悪かったのか機能停止にまで追い込まれている。だが、人形は機能停止=死ではなく、適切に処置すればまだ助かる。
Karは自身のコートを脱ぐと、彼女の腹部を強引に縛る。そして慎重に担ぎ、ボロ屋を後にした。
『・・・・・・ちら、S09地区司令部のカリーナです。 Karさん、聞こえますか?』
外に出た途端、Karの通信が回復してカリーナから応答が入る。
「か、カリーナさん! すぐに救援をください! 人形が一人重症で・・・え?」
場所と状況を伝えようとして、振り向いたKarは絶句した。そこにあったはずのボロ屋は跡形もなく、あるのはただの小さな公園だけ。
Karは、その日二度目の悲鳴をあげた。
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
「・・・・ん・・・・・・。」
システムが再起動し、
視界に入ったのは茶色い木造風の天井。明るすぎず暗すぎない照明が照らし、視界の端では観葉植物が揺れている。こんなご時世に随分と小洒落た内装だ、グリフィンの宿舎ぐらいなものだろう。
・・・・・ということは、私は助かったのだろうか。
(死にぞこなった・・・・と言うべきかもしれませんね。)
だがそうなると、ここはどこだろうか。友軍に回収されたのならば研究室の白い天井が見えるはずだ。逆に鉄血に捕らえられたのなら・・・いや、それはあり得ないだろう。
「・・・・・ここは・・・」
「あ、起きましたよ代理人、ペルシカさん!」
「けが人の前ではしゃがないでくださいD。」
「ふぅ・・・間に合ってよかったよ。」
聞き慣れない声と、一応聞き覚えのある声が聞こえる。首だけ動かすと、そこにいたのはやはりと言うべきか、IoPの研究員であるペルシカ。
だが、その隣にいたのは・・・・・
「・・・・・鉄血・・・工造。」
「はじめまして、Kar98kさん。」
目の前のハイエンドモデル・・・確か代理人と呼ばれていた個体がそう言ってくる。その隣にいるのはおそらくそのダミーだろう。
「・・・・私のことを、ご存知なんですね。」
「えぇ。 最も、同型の人形に会うのは初めてですが。」
・・・同型?そう言った彼女が視線を向け、釣られてそちらを見ると
「ほ、本当ですのよ!? 本当にボロ屋があって、その中で彼女を・・・・・なんですのその目は!?」
「いや、ちゃんと聞いてるよ・・・・・新刊の設定の参考にね。」
「ムキーーー!!! ちゃんと聞いてくださいませ!」
・・・なるほど、私の同型機が見たこともないようなハイエンドと戯れている。というか遊ばれている。
「全く・・・あら? 目が覚めたんですね、気分はいかが?」
「え、えぇ・・・大丈夫ですよ。」
「それは良かったですわ! わざわざここまで運んできた甲斐があるというもの。」
「腰抜かして立てなかったとこを代理人が運んでくれただけなんだけどねぇ。」
「よ、余計なことは言わなくて結構です!」
・・・・・なんだこれ?
そんな感想しか出てこないが、まぁ誰が見てもそう思うだろう。視線を戻すと、代理人もペルシカも呆れ返っている。が、しばらくしてこちらに向き直り、話しかけてきた。
「・・・さて、君の傷は直したし、そのついでにメモリーも覗かせてもらったけど・・・・代理人。」
「えぇ・・・・・では単刀直入に申し上げますね。」
随分と改まった態度だ。だがメモリーを見られたということは、あの作戦も、そしてハンターに話したことも知られているのだろう。
代理人がいるという謎はあるが、ここはおそらくグリフィンの管轄下、そんなグリフィンに不利益を被った人形の末路など、一つしかない。
だが不思議と、不安や恐れはなかった・・・・・あるのはただ、諦めだ。
(ふふっ・・・まぁ、彼女たちを巻き込み殺した私にはお似合いですわね。)
これでいい、誰一人守ることのできなかった自分に、これ以上生きる意味はない。
静かに目を閉じ、その宣告を待つ。
だが、聞こえてきたのは予想とは大きく違ったものだった。
「・・・ここは、あなたが生きてきた世界とは別の世界です。」
「・・・・・・・・・え?」
それから、代理人はいくつか資料を持ってきては私に見せてきた。年表や歴史書、街の地図からグリフィンの社内報まで・・・その一つ一つを見せられるたびに、彼女の言葉が嘘ではないことを理解していった。
・・・・・いや、理解はしていないが、どこか納得していた。今まで自分を形作ってきたものが全て失われた世界、出来損ないの人形の末路とは、ここまで残酷なものなのかと。
「そう・・・ですか・・・・」
「えぇ・・・・・それでKar98kさん、これからのことですが。」
「・・・・・・。」
じっと目を瞑り、これまでのことを思い返す。悲劇の部隊を、それを率いた自分に、もう生きる意味があるとは思えなかった。
解体してほしい、そう伝えるつもりで口を開いたが、言葉を発する前に横槍が入った。
「え〜っと・・・Kar98k、さん?」
「・・・・・なんでしょうか?」
「その・・・よろしければ、私の部隊に来ませんか?」
「「「・・・・・・は?」」」
突然の提案に思わず声が溢れる・・・・・ことはなく、では先ほどの反応は誰かというと代理人とそのダミー、そしてペルシカだった。
「Karさん? あなた部隊を持っていたんですか?」
「この前、『隊長がいじめるぅ!』って言ってきたよね?」
「Kar、言ってみたいのはわかるけど今じゃないのよ。」
「もうっ! なんで皆さん乗ってくれないんですか!?」
プンスカとでもいうような表情のKar・・・・・本当に同型かというくらい似ていない。
だが彼女はコホンと咳払いし、真面目な顔で話し始めた。
「まぁ冗談は置いておきましょう。 ・・・・・正直、自分でもあやふやなんですが、あなたからは危うさを感じました。 このまま消えてしまうような危うさを。」
「・・・・・・。」
「私は・・・あなたが歩んできた道を知らない。 どんな仲間がいて、どんな敵と戦ったのかも。 でも、ここであなたと会ったのは、きっと何かの縁だと感じたのです。」
そう言いながら、ゆっくりと近づいてくるもう一人の私。その手が私の手を優しく包み、なお語りかけてくる。
「・・・消えようなんて、思わないでください。 あなたに迷いがあるなら、私も一緒に悩みます。 一緒に探します! だから、一緒に来てください。」
その目が、一瞬『彼女』と重なった。まだ新米で、それでも自分を信じてついてきてくれた彼女に。
(・・・・・マウザー・・・。)
「っ!? ど、どうされましたか!?」
「え・・・?」
突然慌て始めたKarはハンカチを取り出し、私の涙を拭き取る・・・・・・涙?なぜ涙を?
その涙をどう感じたのか、困惑する私を彼女はぎゅっと抱きしめる。
「・・・・・・・。」
「・・・大丈夫です。 もう、ここには敵なんていません。 私たちみんな、あなたの仲間です。」
「仲・・・間・・・・・」
「・・・はい!」
気がつけば、私は彼女を抱きしめ返していた。その手が震える理由も、涙が止まらない理由もわからない。
もしかしたら、私はただ、だれかに助けて欲しかっただけなのかもしれない。そう思うと、スッと胸が軽くなるような気がした。
「・・・・・ありがとう、ございます。」
「えぇ、こちらこそ、Kar98kさん。」
「・・・・・カラビーナ、と呼んでください。」
「えぇ・・・ようこそカラビーナ、歓迎しますわ。」
そう言ってくれた彼女は、私以上に泣いてくれていた。
「ところでカラビーナ、あなた胸が大きいんですね。」
「え?」
「背も高いようですし・・・・あなた本当に
「え、あの・・・え?」
「・・・・・見てたら腹が立ってきましたわ、えいっ!」モニュッ
「ひぃやああああああああ!?」
「ちょっ!? Karなにやってんの!?」
「D! 今すぐ取り押さえなさい!」
「いい加減胸は諦めなさいこのちんちくりん!」
「世の中不公平ですわぁああああああ!!!!!」
・・・・・彼女について行って大丈夫なのだろうか。そんな不安が胸をよぎって行ったのだった。
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
鳴り響く目覚ましを止め、ベッドから降りる。髪をとき、ハンガーにかけてある服とコートに袖を通し、仕上げに帽子を頭に乗せる。大きめの姿見で身だしなみを整え、部屋の鍵を持ってドアを開けた。
「あらカラビーナ、おはようございます!」
「おはようございます、Kar。」
「ふふっ、今日からですわね。 ・・・・緊張してます?」
「いえ、むしろ・・・少し、楽しみです。」
「そう・・・・・では早速行きましょう!」
そう言って彼女はわたしの手を取り、先を歩いていく。
やがて『食堂』と書かれた大きな部屋の扉の前に立つと、やや大きめの音でノックして、一気に扉を開ける。
連発する破裂音、舞い散る紙吹雪、巻き起こる拍手・・・・・どれも私にとっては初めてのことで、しばし呆然としてしまった。
そんな私に、彼女はクルリと振り返り言った。
「ようこそ、S09地区へ! あなたを歓迎しますわ、カラビーナ!」
そう・・・これからが、私の新しい
end
何気に今までで一番気難しいキャラだったんじゃないかな。
そんな彼女に誰を当てようか考えた末、同じカラビーナ嬢をぶつけたら面白いんじゃねということになりました。
・・・・・やりすぎた気はするけど後悔はない!
というわけでキャラ紹介
カラビーナ
Big Versa氏の短編小説『Episode of Kar98k』の主人公。
詳細は本作品・・・ですが、もろバッドエンドなので気をつけてね!
同型機よりも背が高く、それに合わせて胸部も盛った。まだ過去を吹っ切れているわけではないが、どっちかっていうと過去を受け入れて前に進む感じにしたい。
Karよりもお姉さん感はある。
Kar
ポンコツの方、もしくはこっちのカラビーナ。
大人の皮を被った子供、もとい駄々っ子だが、人に寄り添える優しい人形。
カラビーナの世話係に任命され、おもに欠如しまくりな日常生活能力の強化を請け負っている。
戦闘面ではカラビーナに手も足も出ない(経験が違う)。
代理人
Karの悲鳴(二回目)をたまたま近くで聞きつけてやってきた。二人を店の二階に運び込み、Karの反応を追ってきたペルシカに引き継いだ。
ペルシカ
Karから通信を受けるも、直後に聞こえた絶叫にただ事ではないと感じたカリーナから要請を受ける。
16lab主任とは思えないくらいフットワークが軽い。
D
ペルシカの手伝いと処置後の看病。
経過報告:個体名『カラビーナ』
久方ぶりの『イレギュラー』と言える彼女だが、発見者の証言から一時的に建物ごと手にしてきたものとされる。似た事例に、代理人が遭遇した『教会』もあり、人形ないし人間に付随する形で出現するものと考えられる。
その他の『イレギュラー』からはその後の変化、および多世界との干渉は確認されていないため、この報告を持って対象の監視を解くものとする。
グリフィン最高評議会 議事録より抜粋