喫茶鉄血   作:いろいろ

93 / 279
どうにかして従業員一同を着替えさせたいと悩み続けた末に、
梅雨→生乾き→ショーガナイネ

これだ!


第七十一話:コスプレ喫茶

本日も快晴なり・・・なんて日を最後に見たのはいつだったか、というくらい雨が降り続けるS09地区。今日も今日とて相変わらずどんよりした雲が覆い、大降りではないがザーザーと降り続ける。

そんなある日の喫茶 鉄血では、ちょっとした問題が起きていた。

 

 

「・・・・・・。」

 

「乾いて・・・ないよね。」

 

「うへぇ、じっとりしてる・・・。」

 

 

三階、誰も使っていない部屋(M4用)で唸るのは喫茶 鉄血のトップである代理人たち。その視線の先にはハンガーに揺れるいつものメイド服。一見なんともなさそうだが、触るとほんのり湿っているのがわかる。

その隣に掛かっているDの服も同じで、この部屋には同じ服があと3着ほど掛かっていた。

 

計六着、それが代理人とDの制服全てなのだが、それがこの梅雨のせいで乾かないのだ。

 

 

「まぁ、乾きにくい服ではありますが。」

 

「うん、流石にこれは予想外だよ。」

 

 

う〜んと唸る二人だが、乾かなかったものは仕方がない。というのも店内もこの湿気をどうにかすべく、部屋中の乾燥機やら除湿機を持ってきているため、必然的に生活スペースの湿度は高まり続けるのだ。

 

 

「・・・・・はぁ、使いたくはありませんでしたが仕方ありません。」

 

「うげっ・・・()()使うの?」

 

「下着や寝間着で接客するわけにもいかないでしょう。」

 

 

そう言って隣の部屋・・・物置のクローゼットを開くとそこに並ぶのはマヌスクリプトやらアーキテクトやらが作ってはためている用途不明の服の数々。

所謂コスプレ衣装というやつだった。

 

 

「お、ついに着てくれるんだね代理人!」

 

「・・・この雨マヌちゃんが降らせてるんじゃないよね?」

 

「人聞きが悪いなぁD。」

 

「悩んでいても仕方ありませんが・・・・・ふむ、ではこうしましょう。 マヌスクリプト、全員を集めてください。」

 

 

どこか諦めた表情の後、代理人は何か閃きましたというように指示を出し、下で接客中だったリッパーやイェーガーたちを呼びつけた。

 

 

 

 

 

 

 

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

 

 

 

 

 

 

 

「みんな上に上がっちまったなぁ。」

 

「なんかあったんかね?」

 

「俺たちに何か見せてくれんのかな?」

 

「へへへ・・・ストリップかな。」

 

 

 

 

「・・・皆さま、大変お待たせいたしました。」

 

 

ここが喫茶店ではなくどこかのバーだとでも思ってそうな客もいる中、ようやく姿を現した代理人・・・・・の、着物姿。

 

 

「本日は諸事情によりこのような姿となり、大変ご迷惑をお掛け致します。 本日もごゆるりとお過ごしください。」

 

 

その言葉に続いてぞろぞろと出てくる従業員たちに、客は一瞬言葉を失う。そこにいたのはセーラー服や婦警、ゴスロリにチアの服にナース・・・と言った色とりどりの人形たち。

頬をつねったり同僚に叩いてもらうなどしてこの光景が夢ではないことを確認すると、

 

 

『う、うおぉおおおおおおおお!!!!!』

 

 

歓喜の叫びをあげた。

そんなこんなでここに、コスプレ喫茶 鉄血が臨時オープンしたのだった。

 

 

 

 

 

 

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

 

 

 

 

 

 

「Dちゃん、おじさんもう仕事疲れたよ・・・・・」

 

「元気出してください。 せっかくのお休みが台無しになっちゃいますよ?」

 

「じゃぁ・・・・Dちゃんに応援してほしいかなぁ。」

 

「え? えぇっと・・・・が、頑張れ! 頑張れ!」

 

「うおおおお! ありがとうDちゃん、おじさんまだまだ頑張れるよ!」

 

 

いつもは静かでゆったりとした時間が流れる喫茶 鉄血・・・は鳴りを潜め、店内のあちこちではいい年こいた大人たちが鼻の下を伸ばしながらデレデレと顔を緩ませてくつろいでいた。

ちなみにこの客、疲れているのは事実だがオーバー気味に伝えているのは間違いない。全ては、チア服のDに応援してもらいたいがためだ。

 

他にも、ナース服のリッパーに看護されたいおっさんがセクハラまがいのことをのたまい(返事はビンタだった)、婦警姿のイェーガーの尻を触ろうとした男は手錠をかけられて捻りあげられ(喜んでいるようにも見える)、マヌスクリプトのセーラー服はやや需要が少ない・・・ようにも見えたがむしろ本人がノリノリでべったりくっつき(イェーガーらが引き離した)、着物といういつもとは別の気品さを醸し出す代理人に多くの客が目を奪われた。

 

が、そんな中で最も人気があったのが・・・・・

 

 

「ほらゲッコーちゃん、もっと笑って!」

 

「そのドレスも似合ってるよ!」

 

「う、うるさい! さ、さっさと注文を言えっ!」

 

 

フリッフリのゴスロリドレスに身を包んだゲッコーだった。本人の性格はかなり男寄り、というか女性を()()()くらいなので当然なのだが、そんな彼女は今、かつてないほど顔を真っ赤にしながら口をキュッと食いしばり羞恥に耐えながら接客していた。

すでに涙目ではあるが。

 

 

「わ、私のこんな格好誰が喜ぶんだ・・・・」

 

『俺たちが喜びます!』

 

「ゲッコーちゃん可愛いよ!」

 

「かっ!? 可愛いとか言うな!」

 

『ゲッコーちゃん可愛い〜!』

 

「うううううるさいっ!」

 

 

かつてない可愛さを見せるゲッコーに店は大盛り上がりとなり、ついでにマヌスクリプトの次回作のネタも決まった。

 

 

 

 

 

 

 

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

 

 

 

 

 

 

 

 

「ありがとうございました。 ・・・・・・・・さて、閉めましょうか。」

 

『了解〜。』

 

 

日も暮れ始めた頃。

最後の客を見送りようやく今日の営業を終えることできた喫茶 鉄血。苦渋の選択というか背に腹は変えられないというか、ともかくその場しのぎで揃えたコスプレ策は意外にも好評で、しかも時間が立つにつれて噂が広まったのか来客数も増え続けた。雨にもかかわらず来てくれる分には嬉しいが、その大半が下心だと思うと微妙である。

 

 

「ほらゲッコー、もう終わりよ。」

 

「うぅ・・・もうやだニンゲンコワイ」

 

「でもおさわりはなかっただけマシじゃない? 私は触らせたけど。」

 

「マヌスクリプト、あとでお話が。」

 

「・・・・・ヤッベ。」

 

 

店の隅でしくしく泣くゲッコー・・・だがバッと顔を上げると涙を浮かべた瞳でキッと代理人をにらみ、

 

 

「そもそも、なんで全員巻き込む必要があった!? 代理人とDだけでよかっただろう!」

 

「あぁ、それですか・・・・・まぁウェイトレスの中で別な服装が混じるのは違和感があった、というのもありますが・・・・・」

 

「ありますが?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「・・・端的に言えば道連れです。」

 

「ふっざけんな!!!」

 

 

ギャーギャーと揉めながら片付けを進める人形たち。

ゲッコーが不貞寝してしまったりはしたが、まぁこれくらい緩いくらいが自分たちらしい。

 

 

(それに、もらったまま着ないわけにもいきませんからね。)

 

 

脱いで綺麗に折りたたまれた着物を眺めつつ、代理人は小さく笑うのだった。

 

 

 

end




以前代理人がもらった着物をもう一度出したい&赤面するゲッコーを描きたい=コレ。
まぁ欲望の赴くままに書いたせいで若干短めではありますがね。


ではでは今日もキャラ紹介

代理人+着物
いつぞやの温泉回の着物。
着付け方はDにインプットしてるので問題ない。洋風の喫茶 鉄血が一気に和風に変わる不思議。

D+チア服
ボンボンはないが健康的な半袖とミニスカート、下はスパッツ。
疲れ(た仕草をし)ていると頑張れと言ってくれる。

リッパー+ナース
シンプル イズ ベスト。露出が多いわけでもないがなんかエロい。調子に乗るとペンを注射器に見立ててぶっ刺される。

イェーガー+婦警
夏服仕様の半袖。本物の手錠まであるので、セクハラ客を簡単に制圧できる。拳銃は流石に偽物だが、いざという時は打撃武器になる。

マヌスクリプト+セーラー服。
本人自らネタになるスタイル。
注文を迷っていると向かいに座ってデート気分を味わわせてくれる・・・ついでにいい値段がするものをねだる。

ゲッコー+ゴスロリ
まるでお人形さんのようだ!(マヌスクリプト談)
男物を中心に来ており、スカートは履くとすればシンプルなもの・・・それがいきなりゴスロリはきついのだ。
恥ずかしさで項垂れる尻尾型ユニットがまた可愛い。

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。