よろしくお願いします。
神に、幸せになれ、と言われた僕は、今“幸せ”を探している。
灰色の空が僕を押し潰し、無機質なビルが僕を眺めている。どんよりとした大気を、右側を通る車の排気ガスがさらに汚す。
「死んだら幸せな気がするなぁ。」
いや、神は幸せに“生きろ”と言ったのだから、それではダメだろう。
前世で、“幸せ”を感じたのはどんな時だっただろうか。
やはり、母と一緒にいた時のことしか思い浮かばない...。
「お兄さん!」
背の低い、眼鏡をかけた少年が僕に話しかけてきた。
「どうしたの?」
「い、いや、お兄さんが死にたいって言ってたから...。」
無意識のうちに、考えを口にしていたらしい。
少年はとても不安そうに、僕を見ている。
「心配させちゃったかな。君は────」
「コナンくーん!」
少年の後ろから、走ってきた子ども達に気づいて言葉を止めた。
「コナンくん、誰と話しているんですか?」
僕を心配してくれた少年は、コナン君というらしい。
「この子には、少し道を聞いていたんだよ。」
あの、えっと、と言葉に詰まっているコナン君の代わりに、適当な返事を子ども達に返す。
じゃあ、と言って踵を返そうとすると、子ども達の中の一人に目が止まった。
「...お兄さん?」
子ども達が不思議そうに首を傾げていたが、少しの間、彼女から目を離すことができなかった。
赤みがかった茶色のウェーブの髪に、少し海外の血が混ざったような綺麗な顔立ち。
─────美しく、知的で、優しかった母にそっくりだった。
「君は.....。」
...母さんの生まれ変わりですか。と聞こうとして、踏み止まった。思考がぼやけていたことが幸いして、自分を客観的に見れた。
いきなり、君は母さんですか、と十代後半の男が、十才に満たない少女に言えば、少年が心配した以上に危ない人になってしまう。
「君たちは、この男の子の友達かな?」
咄嗟に言葉を繕う。
「うん!私達五人で少年探偵団なの!」
赤いカチューシャをした少女は嬉しそうに、満面の笑みだ。
「そっか。みんなで探偵さんをしているんだね。」
「うん!あのね、今から博士の家に行くの。お兄さんも行く?」
「うん?」
全く脈略の無い話で困る。探偵ごっこを博士という人の家でやるから来てほしいということか?
それに、いきなり会った初対面の人間を誘うなんて、警戒心が足りなさすぎるんじゃないだろうか。
「何で、僕を誘ってくれるんだい?」
僕が尋ねると、可笑しそうに手を口に当てて近づいてきて、耳を貸して、と言うと、
「お兄さん、哀ちゃんに見惚れてたでしょう?それに.....お兄さん寂しそうだったから。」
...なるほど。子供というのは随分と他人の心に敏感らしい。
「ははっ、そうか.....ありがとう。でも、その博士さんという人に迷惑だろう?僕は帰ることにするよ。」
いくら誘われたからといって、こんな急に他人の家に上がる気にはなれない。この子には悪いが、帰らせてもらおう。
「いや、来なよ、お兄さん。博士にはもうメールしといたからさ。」
...なるほど。携帯を弄っているな、とは横目で見て分かっていたが、コナン君は博士さんの所にメールをしていたのか。
そんなに、僕のことが心配なのだろうか。
どちらにしても、さすがにもう断れる雰囲気ではない。
「...わかったよ。じゃあ、よろしくお願いします。」
ありがとうございました。