エリカ、転生。   作:gab

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はじめまして。gabです。
多重クロスものです。



プロローグ

 

 

 ピン。

 スマホの音が鳴る。うるさい。

 

 ピン……ピン……ピン、ピン、ピン。

 

 SNSの通知音が続く。

 見て早くレスしないと話に乗り遅れるんだけど、今は一刻も早く家につきたいのよ。録画予約はしてるけど、リアルタイムで見たいのだよ。

 

 学校の友達とやり取りするのは楽しいんだけど、レスのやり取りに時間が取られるのがほんと嫌。

 付き合ってたらゲームも進まないし、本も読めない。

 でも間違って既読つけちゃったのにレス付け忘れたら、次の日には「性格悪い子」とか「空気読めない子」の扱いをされる。女子ってほんと、ヤヤコシイ。

 まるで中学か高校みたいだけど、これで大学生なんだよ、マジで。

 

 ピン……ピン……ピン、ピン、ピン。

 

 あああ! もう。

 急いでスマホを取り出す。

 

 たくさん入っているメッセージを読まず、さっさとフリック。

 

*********

 

 やーん。みんな楽しそう(T.T)

 今帰り道だから急ぐね!

 帰ったら読み返す! 待っててぴょんぴょん♪

 

*********

 

 ゆるキャラが急いで走るスタンプをいれてっと。

 

 

 ……ふう。

 

 こういうのが普通なんだろうか。

 オタクバレしたくないから、元気で明るいきゃぴきゃぴを続けているけど、こんなことをしなくちゃ“オトモダチ”でいられないのって、変な話だ。

 

 ピン……ピン……ピン、ピン、ピン。

 

 また来た。あ、私へのレスかも。

 あの、ゆるキャラが焦りすぎて転んで毛皮だけ先に飛んでるスタンプ、面白いから貼っておこうかな。

 スマホを取り出して……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ――ふと気が付くと、なんだか知らない部屋の中だった。

 え? ここどこ?

 

 6帖ほどの部屋。

 窓もなく、部屋の真ん中に机と椅子、机の上にはパソコンが一台。

 たったそれだけの、何の飾り気もない部屋。

 

 振り向けば扉すらない。

 え? 扉がないって、ここからどうやって出ていけばいいの?

 ……ううん。そもそもここはどこだろう。何故、ここにいるんだろう。

 

 確か……

 学校の帰りに、急いでて

 SNSのレス付けなきゃで

 それで……

 それで、どうなったっけ?

 

 

 その先が思い出せない。漠然と、あんまり思い出しちゃ駄目って気がして。

 どうすればいいのかと考える。

 

 そして――

 

 その答えを与えてくれそうなものが……目の前に、ある。

 机の上に置かれた、ディスプレイとキーボードとマウス。

 その、19インチほどの横長の液晶画面には、こう、文字が表示されていた。

 

 

**************

 

【転生の部屋】

 

被験者No:T028-035

 

基本データ

 個体名:柳原英里佳

 死亡理由:交通事故

 享年:18歳4ヶ月

 

 固有スキル:未設定

 

 

 質疑応答を行いますか?  Y / N

 

 

**************

 

 

 ……ええっと。

 何とつっこめばいいのか。

 えっと。

 

 うん。

 とりあえず。柳原英里佳ってのは私の名前ね。やなぎはらえりか。

 現在18歳と4ヶ月。

 そこまではあっている。

 享年って、え? 私って死んだの?

 

 とりあえず、質疑応答の横の「Y」をクリック。

 するとチャット画面のようなウィンドウが現れた。

 

 聞かなきゃわかんないんだから、ちゃんと聞こう。

 椅子に座り、ネットで培ったキータッチ能力をいかんなく発揮し、猛烈に文字を打ち込み始める。

 

 

「質問していいですか?」

 

《はい。どうぞ》

 

 すぐに返事が打ち込まれた。

 

「なんで、私、こんなに平静なんでしょうか?」

 

 そう。まず一番に聞くのはこれ。

 だってさ。

 いきなり知らない部屋にいて。死んだって書かれていて。

 でも、私、あんまり焦ってないし、ちっともパニックになってない。

 現実感がないからだってのもあるけど、あまりに冷静すぎる。

 こんなの、おかしすぎる。

 

《一時的に精神を安定させるよう処置を施しています

 興奮して話が進まないと、説明が長くなります

 

 他にも被験者がいらっしゃるので、私も先が詰まってるんです

 スムーズに進行するための処置です》

 

「私は死んだのですか?」

 

《はい。表示の通り交通事故です》

 

 いきなり死亡とか交通事故とか言われても、そんな覚えはない。……のだけれど。それについて疑問にも思わないし憤りも感じないのは、“一時的に精神を安定させるよう処置を施して”いるからか。

 なんてこったい。

 

 ただ。

 どうせ死ぬんなら無理にオトモダチに付き合わず、もっとオタク趣味を満喫すればよかった、と漠然と思った。

 

「あなたは神様ですか?」

 

《概ねその認識で合っています。私は管理者の下で事務処理を担当しております

 名は名乗れませんので、担当者とお呼びください》

 

「わかりました。よろしくお願いします、担当者さん

 それで、この転生の部屋ってのと被験者ってのは何ですか?」

 

《“転生の部屋”は、この度の試みに際し、被験者を転生させるために用意した空間です

 “被験者”は、直近に死亡した魂よりランダムに抽出したものです

 

 今回貴女をこの場へお招きしたのは、能力を授けて他の世界へ転生してもらうためです》

 

 web小説でしかお目にかかれないこんなセリフを、まさか自分で体験することになるとは……

 まさに人生は小説より奇なり、だな。

 マジか、マジなのか。

 

 

「拒否権とか……」

 

《すでに処理が済んでおります。変更は許可できません》

 

「なぜそんなことを? 小説なんかでよくある、失敗したので特典付きで、ってやつですか?」

 

《いえ、やんごとなき方々の、ちょっとした戯れです》

 

「戯れ……」

 

 茫然と繰り返す。なんだこれ。戯れ、って言いきりましたよ、この人。

 

 戯れとか被験者とか、勝手に選ばれたこととか、怒りもせず、「そうか、転生できるのか」なんて思えてしまう。

 

 “一時的に精神を……”の効果か。怖いな。“管理者”や“担当者”への悪感情も浮かんでこない。

 ……なんてことをうっすらと考えていたはずなんだけど、その気持ちすらぼやけて消えた。

 

 そのあと、いろいろと聞いた。もう、ほんと、いろいろと。

 

 どれだけ早く打っても会話するより時間も手間もかかる。画面上でちまちまやり取りしていくのが、もどかしい。

 まるでチャットのような長い話になってしまったが、まとめると、こんな感じ。

 

 

 ぶっちゃけると、神サマ的存在“管理者”の、娯楽を兼ねた実験らしい。

 

 どんな実験かって?

 

【転生を繰り返して記憶と経験を積み重ねることで、“様々な能力を持つ、強靭な肉体と精神の個体”を育成する。

 それにより、魂の位階があがり上位世界へ到達するものを誕生させる】

 

 これが今回の目的。

 

 通常、人が死ねば、魂は管理者のもとへ戻される。

 そこで、前世で疲弊した魂を浄化することで再初期化し、また輪廻転生の輪に還される。記憶は再初期化の際に失われる。

 

 この実験では、魂の浄化プロセスを通さないため、魂の疲弊は蓄積していくが、記憶のみではなく経験で得た能力も次生へ引き継ぐことで、強い個体を作り上げる。

 臨界値に達すれば位階があがり、上位世界への転生が可能となる。

 

 上位世界とは地球よりももっと高次元の生き物が暮らす世界で、地球人からすれば神の国のようなものらしい。

 “管理者”や“担当者”はそこの、もっと高次元の存在なのだとか。

 

 

 被験者のうち、無事成長を遂げ、位階のあがったものは、“管理者”や“担当者”のいる上位世界へといざなわれる。

 失敗したもの、経験を上手に生かせなかったものは、転生を繰り返すうちに魂の疲弊が進み、いずれ消滅してしまう。

 

 経験を生かすも殺すも、本人のこれからの頑張り次第。

 転生が終わるまで、つまり、上位個体になるか、消滅するか、どちらかの結果がでるまで、精一杯生きよ。

 ……とのこと。

 

 

 “管理者”や“担当者”は被験者がどう行動するか、その過程を観察する。

 

 被験者は、私のような死亡間もない魂をランダムに抽出している。

 

 一応、被験者にもメリットがある。

 まず、成功すれば普通に輪廻転生を繰り返していても決して到達できない、高次元の生命を得る可能性があること。

 

 それから、これからの転生先はランダムで選ばれるが、どこへ行くとしても地球上で人気のある物語、小説やゲーム、漫画などをベースとした世界へ生まれる。

 もし原作を知っている世界であれば、その知識は生き残る上で十分なアドバンテージとなるだろう。

 

 物語に介入するのも、不干渉を貫き普通に生きるのも、オリ主やってハーレム作ることも、原作知識を活かして先の予測を立てて金儲けするもよし、地球での現代知識でNAISEIするもよし。

 好きなように行動していい。

 

 他の被験者と同じ世界に行くのかと聞くと、それもランダムらしい。

 今何人の被験者がいるのか、どんな世界があるのか、それも内緒。もし同じ世界に行くことがあればそれも運命。

 助け合っても殺しあってもかまわない。

 

 

 新しく生まれ変わる身体は、健康で成長しやすく、その世界で必要とされる才能を十全に引き出せる素地を持って生まれる。

 精神的にも現在の自分よりは強くなっているらしい。

 そしてその人生で得た能力をまた次の生へも引き継いでいく。

 

 そのうえ、被験者には最初に特典が貰える。被験者の望む能力を固有スキルとして与えてもらえるのだ。

 ただし、特典は現在の人生を管理者が観察し、評価した“点数”に準ずるため限度がある。

 

 どんなものを貰えるのか、と聞くと、「被験者が希望し、点数が足りなければ“足りない”と伝えるから、能力に制限を加えるか別の特典を選べ」という事らしい。

 

 それを考えるのも、実験の一つなのだ、きっと。

 

 ぶっちゃけ“管理者”は、弱い人間が物語や漫画の世界へ行ってそこからコツコツ強くなっていく、その成長過程を見て楽しみたいわけで。

 だけどさくっと殺されてもつまらない、と。

 だから、与えられる範囲の中で、自分で工夫して能力を考えろ、ということらしい。

 

 あれだよ。

 おやつは300円まで、ってやつと一緒だ。

 300円のチョコを買うのか、30円の駄菓子を10個買うのか、1000円のお菓子を買ってそのうち3割だけ持っていきますってことにするのか、自分で考えろってことだ。

 きっと、この過程も楽しむんだろう。

 

 

 頑張って位階を上げるために、転生先で、不幸な死を迎えるはずのキャラを助けたり、物語をより幸せにしたり、人サマの役にたつとか、道徳的な生活をしたほうがいいのかと聞いたけど、生物の生死や、地球人の考える善悪など、高次元の存在からすれば何の意味もないらしい。

 

《たとえば貴女、ゾウリムシやミジンコを見て、個体の差がわかりますか?

 彼らには彼らの摂理があるのです。

 何を思って生きているか、判断できますか?

 貴女たちにも理解できないでしょう?》

 

 なんて言われてぐぬぬぬっときた。私らは微生物程度ですかい。

 

 じゃあどんだけ悪いことをしても強くなりさえすればそれで位階があがるのか、っというと、そうじゃないのだそうだ。

 

 魂の輝きの違いは、その生き方にかかわってくる。

 

 だけど、位階を上げるためにどう生きるのがいいのか、それは各々が判断しろ、と、そう言われた。

 

《貴女方がどう行動するのか、見ております。

 楽しませてくださいね。期待しております》

 

 結局娯楽じゃん。

 ああ、チクショウ。

 腹が立たないのって、おかしいのに。おかしいと思ってても納得してしまっている私がいる。

 “一時的に精神を……”の効果、おそろしや……

 

 

 

 


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