エリカ、転生。 作:gab
1994年 12月
ホグワーツでのクリスマスパーティは盛況のまま終わった。
あの日、正規カップルのドラコ達は二曲続けて踊り、私とセオは一曲だけ踊ったあとは、パンジーとブレーズのカップルとパートナーをチェンジして踊った。
その後、ドラコ、ヴィンス、グレッグと途中休みを入れながら一曲ずつ踊って、最後にもう一度パートナーのセオと踊ると私はダンスをやめた。
あとは友人達と飲み物で喉を潤わせながらおしゃべりを楽しむ。勉強の話、今日のドレスローブの話、パートナーの話、カップルが成立した友人の話、オシャレの話、ドラゴンの話や代表選手達の雄姿について、など、話は尽きない。
ロンとハーマイオニーは喧嘩したんだろうか。ハリーはハンナと一度でも踊ったかな。
なんてね。
そういうあれこれも気にはなるけど、私は友人達と楽しく過ごせた夜だった。
そうそう。
ハグリッドが巨人の血を引いていることが新聞に載ることはなかった。
だって、コガネムシのスキーターがホグワーツに忍び込んでいないんだから。
彼女は、今、ホグワーツに忍び込めるような状況じゃない。
彼女をどうするか、大人たちはよく話し合ったらしい。
ルシウス叔父様はスキーターを情報操作のために飼いならすか悩んだらしいのだけど、彼女の攻撃的な文面は諸刃の剣だ。というより、スキーターの名前でブラック陣営についての提灯記事が掲載されてもかえってマイナスイメージが付きそうだよね。
ただ、スキーターは今までいろんなところに忍び込んでいるから、もろもろのネタを持っている。私達にも役に立つ情報もあるだろう。
叔父様もそう考えたのか、ほんの少し脅かして、彼女からいろいろ情報を聞き出し、その後魔法省へ突き出すことにしたのだ。
そこで問題になるのが、彼女がコガネムシという小さな生き物の動物もどきであること。
もともと『動物もどき』は登録が必須とされた技能で、魔法省の担当者が詳しく吟味の上、変身した種族、体高体重、毛色など詳しく記入した用紙を提出する義務がある。
でも動物もどきの能力を十全に活かすには、動物もどきであることを知られていないことが大きなアドバンテージなのだ。
習得が難しい能力とはいえ、実のところ、もぐりの動物もどきは他にもそこそこいるんじゃないだろうか。
そして、問題なのは動物もどきが罪を犯した場合、アズカバンでどうやって管理すればいいのか、ということ。
アズカバンの看守はディメンターで、奴らは目が見えない。たとえ窓や鉄格子を網の目状のものに変えても、虫程度の大きさならいつでも逃げられそうだ。
たとえば食事の出し入れの際などね。
目が見えない奴らには差し入れ口から取り出した食器の隅に隠れたコガネムシに気が付けない。人の気配は辿れても虫の気配は難しいだろうから。
それに、魔法省はもぐりの『動物もどき』だったピーター・ペティグリューを、ネズミになれることを知っていながら脱獄させてしまったという大失態がある。
そんな時に、ネズミよりもさらに小さいコガネムシのリータ・スキーターを脱獄させない方法があるんだろうか。
それからもうひとつ。
シリウスのこと。
『シリウスが犬の動物もどきだ』ということ。
それから。
『動物の姿を取っていると、ディメンターは感情を吸い取れなくなるおかげでシリウスは正気を保っていられた』ということ。
これを魔法省が知っているか、否か。
シリウスが犬になれることは公式にはバレていない。
だけど、ペティグリューが捕まっていた時に『学生時代にみんなで習得しました』と証言しているかもしれない。今のところ何も言われていないけど、こっそりブラック家の隙を狙って、わざと黙って待っている輩がいるかもしれないじゃん。
第三陣営として勢力を伸ばしているブラック陣営は敵が多いのだ。何かの折にこちらが弱った時、これを攻撃材料にされる可能性だってある。
もぐりの動物もどきは違法だから、そこを突っ込まれるとこちらも弱いってことね。
それから、もうひとつ。
アズカバンの看守はディメンターで、奴らは人間の心から発せられる幸福・歓喜などの感情を感知し、それを吸い取って自身の糧とする生き物だ。
彼らの食事は人の感情。
ディメンターが生きていくには、感情を吸い取れる人が必要なのだ。
アズカバンの囚人達って、彼らの餌でもあるわけ。
当然餌なんだから、常にアズカバンには囚人が一定数いなくちゃいけない。でも囚人は終身刑で収監されてもそう長くは生きられない。感情を吸い取られて徐々に弱っていき、死んでしまうから。
だからアズカバンは常に新しい囚人を求めている。
冤罪が増えるのも頷けるよね。
ごく一般的なマグルの刑務所だと、服役中労務が課せられる。それで維持費の足しにしたり、売り上げの一部を囚人に作業費として渡し、生活費を稼いだり、出所後仕事に就くための技術を学んだりしている。
でもアズカバンの囚人は何もしていない。彼らは看守ディメンターの食餌という仕事をしている。
んで。
動物もどきは動物の姿になっていれば感情を吸い取られない。つまり、餌にならないってことね。
独房をひとつ使って、食事を与えられているのに、大事な仕事『ディメンターの餌』にはならない。脱獄してきたシリウスの弱り方からすればまったく吸い取れないわけじゃないけど、おそらく実入りは他より少ないはず。
動物もどきって、アズカバン側からすれば、ひたすら役立たずで負担ばかりな存在なのだ。
どうせなら日々の糧にできない動物もどきは、さっさと『ディメンターのキス』を受けさせればいいんじゃないか。そう考えても無理はないよね。
んで。だ。
リータ・スキーターを告発することで、魔法省がどう動くか。
シリウスの脱獄は冤罪による投獄だったため、立件もせず無罪になった。でも実際のところ、動物もどきだったから脱獄できた。(魔法省に知っている者がいるかどうかは不明……だけど、知っていて一番痛い時に告発しようと機会を狙っている可能性大)
ピーター・ペティグリューもおそらくネズミの姿になって逃げだしただろう。
次に、ものすごく管理しにくそうで、いつでも脱獄できそうなコガネムシのリータ・スキーターが罪人として告発された。
立て続きにおきる『動物もどきの犯罪』に、魔法省が『もぐりの動物もどきの刑罰を現状より厳しくしよう』と考えるんじゃないかと彼らは予想した。
シリウスを失脚させる、いいチャンスでもあるしね。
なので、リータ・スキーターを告発する前に、先にシリウスの失脚フラグを折っておくことにしたらしい。
そして、シリウスが魔法省に赴き、申告が漏れていたと謝罪し、『犬の動物もどき』だと登録してきた。
方々にバラまいた鼻薬のおかげで罰金と厳重注意だけですんでよかった。
それが『第一の課題』の次の週の話。
その後、1週間ほど時間をあけて、次はルシウス叔父様がリータ・スキーターを告発してきた。
ネズミの動物もどきピーター・ペティグリューに脱獄されてしまった魔法省は、ネズミよりももっと小さいコガネムシに変身できる動物もどきの存在に、大きく揺れた。
アズカバンでコガネムシを監禁できるかわからない。
ネズミに脱獄されたあと、次にはコガネムシにも脱獄されました、なんてアズカバンとしても魔法省としても許せない。
スキーターが極悪人であれば、即刻ディメンターのキスという判決になったかもしれない。でも、スキーターは性格は極悪だし、動物もどきの特性を活かして人の秘密を嗅ぎまわっては記事にして金を稼いできた酷い女ではあるが、彼女の罪状は『動物もどきであることを届け出ず、能力を悪用していた』だけなのだ。
捏造記事も、各所へ忍び込んだことも、証明ができないから罪に問えない。それでディメンターのキスはあまりにも厳しすぎる判決になってしまう。
そこで、ディメンターではなく魔法族やスクイブが看守をしているヌルメンガードに収容されることに決まった。
こちらであれば、食器の差し入れ口からコガネムシを逃がすようなことはない。
そうして、リータ・スキーターは実刑判決を受けてヌルメンガードに収容されていった。
動物もどきを利用した犯罪についてや、もぐりの動物もどきについては、悪質な犯行を行う虞が高いとし、未登録の動物もどきが発覚した際の罪状を現状よりも厳しくすることになった。
動物もどきが実刑判決を受ける場合は、他の犯罪者に比べて監視業務に手がかかるため、他の犯罪者よりも刑罰を重くし、罪状を精査し極悪と判断された場合は即刻ディメンターのキスを受けることに、近々法改正されると決まったのだ。
ってかさ。
なんていうの。今、ぶっとい死亡フラグがピコン、と立った感じがするよね。
私って動物もどきの修行中です。習得する気満々だし、魔法省に申告する気はなかったの。
極悪人の娘の私が、帝王の娘の私が、何かを疑われて捕まる。動物もどきだと知られる。恐らくヌルメンガードではなく、ディメンターのキスが待っている。
すごいでしょ? 悪人扱いされたら即死刑。
怖え……
迷うよね。
動物もどき、『必要師匠』に習っているけど、このままでいいだろうか。
習得する練習を始めるところから習得までのプロセスを公にすべきじゃないか。
今からでもマクゴナガル先生に「教えてほしい」と個人授業を頼んだほうがいいかな、と思うんだけどね。
万が一、私が帝王の娘だと噂がたってしまったら。
その時、マクゴナガル先生に迷惑をかけると思うんだよね。『犯罪者の娘に、悪用しやすい能力を与えるとはなんたることか』って批判を浴びそうじゃん。先生に迷惑をかけるのはちょっと、ね。
どうしよう。
黙っておくべきか。
このまま必要師匠のお世話になって、習得したら申請しにいくか。
マクゴナガル先生に迷惑をかけるかもしれないけど、真っ当に習うか。
さんざん悩んだすえ、やっぱり黙っていることにした。
だってさ。私がそんな能力を持っているなんて、わざわざ教えてやる必要ないじゃん。
魔法界の人達ってすごく近視眼的で情弱で、新聞や噂で知った“悪人”に対して「吼えメール」を日常茶飯事のように送りつけるような、倫理観に問題がありすぎる人々なのだ。そして些細なことでパニックになって騒ぐ。
もし、私が動物もどきの申告をだしたあとで、『帝王の娘』の噂が出たらどうなるだろう?
街中にいるカラスやワタリガラスを私だと声高に言うと思う。
『ヴォルデモートの娘がうちの家を調べていた。あいつに襲われる』とか、『重要な話をしていたら庭でカラスの鳴き声が聞こえた。あれはきっとあいつに違いない』とか言い出しかねない。
結局、バレれば逃げるでいいかな。
まだこの世界で習得すべき技術があるから、できれば死なずに姿を変える処理でいければいいんだけど。
1994年 12月 クリスマス休暇
クリスマス休暇のため、私達はロンドンに帰ってきた。
私の家は“木漏れ日の家”だ。ロニーに迎えに来てもらい、一旦家に戻る。ロニーが完璧に整えてくれている家はとても快適だ。ひとりで留守番をしてくれたロニーをねぎらい、念のため防衛の魔法がすべて正常に動いているか確認して、その後はマルフォイ・マナーへ行った。
この年越しもここでお世話になるつもりだ。
まず、ブラック家の別荘で大規模なパーティが催された。
ブラック本邸、マルフォイ本邸はセキュリティのためパーティには向かない。ブラック家の別荘のひとつを今日のこのために開放したのだ。
今年は対抗戦のために来ている他校の生徒が休暇中もホグワーツで過ごしている。そのためホグワーツに残るものが多かったのだが、ブラック陣営の盤石な様子を内外に知らしめるためには大々的な催しを早々に開く必要があったのだ。
シリウス・ブラックが当主として興って初めて主催するパーティだ。
ルシウス叔父様が側近として手伝い、ブラック家の名に恥じぬ盛大なパーティを催し、財界人、政界、社交界の多くの人を招待した。
シリウスの名付け子としてハリーも紹介されていた。ハリーと私、ドラコが並ぶ。次世代の頂点はこの3人だと知らしめるためだ。
ハリーは『生き残った男の子』『英雄』としてすでに有名で、しかも今年は異例の『三校対抗戦 4人目の挑戦者』。世間の注目は凄まじい。
シリウスは『ゴブレットの誤操作で選考されてしまったが、勇気を持って課題に立ち向かい、第一の課題では素晴らしい結果を出した彼の勇気を讃え、彼をどうか応援してほしい』と観客に訴えた。
私はパーティーでピアノの演奏を披露した。私が演奏家として高い技術を持っていることはマルフォイ家のパーティに参加している者には有名だったが、今回招いた新しく開拓した客達も誰もが驚き、そして演奏に称賛の声をあげた。
もちろん、『ブラック陣営の好感度上昇ラブ・アンド・ピース』の想いを込めた。
その後、グリモールド・プレイスに身内6人、いや、今回からリーマスさんも加わって7人が集まり、クリスマスを祝った。
無事第一の課題をクリアしたが、敵の目的がわからないのだから、気を抜いてはいけない。第二、第三も慎重に乗り切ってほしいとみんなでハリーを励ました。
大人達と私はムーディのことを知っているけど、開心術を警戒してハリーとドラコには内緒のままだ。
第二の課題の卵だけど、シリウスやルシウス叔父様の情報網で既に『水の中で卵を開ければメッセージが正しく聞こえる』と知っている。ハリーはグリモールド・プレイスの湯船に浸かって卵に籠められたメッセージを聞いていた。
水中で宝さがしをするという課題について、長時間水中で過ごすために使い勝手がいい魔法や魔法薬を考え、私のアドバイス通り、鰓昆布を注文するとハリーが言ってたから問題ないだろう。
っていうか、鰓昆布って食べるだけで鰓と水かきができて1時間も水中で過ごせるんだよ。
私も鰓昆布が欲しくて、2年も前にたくさん注文して購入ずみだ。二日ほど水中で暮らせるくらい。
万が一、何某かの邪魔が入って今回の注文が阻止されるようなら私のものをハリーに渡せばいい。まあそんな工作をするような奴がいれば、ブラック陣営の敵としてシリウスに潰されるだろうけど。
1995年 1月 始業
セオ……セオドール・ノットの母親が病死したらしい。
休暇を延長して葬儀に参加してきた彼は、すこしやつれた様子で登校してきた。
スリザリンの同級生たちが皆口々に悔やみの言葉を述べる。
ルシウス叔父さまが死喰い人と距離を置き始め、私が反ヴォルデモートの考えを徐々に広めているため、セオやヴィンス、グレッグの父親もブラック傘下に下った。
ルシウス叔父様が頑張って説得してくれた結果だ。
それでも左腕の刺青が濃くなり始めて、またぞろ臆病風に吹かれた彼らはぐらぐらと立ち位置が定まらない。
セオに私を口説き落とせと言ったのも、ブラック陣営での発言力の強化ももちろんのこと、帝王へ寝返る際の手土産として私をキープするためもあったと思う。
クラッブさんとゴイルさんは原作のヴィンス、グレッグと似たようなタイプだ。つまり、トロールみたいに大柄で頭がスカスカで、暴れるしか能がない感じ。
ノットさんは線の細い年配の男性で頭がいい。聡明なノットとは違って、ちょっと小狡いキツネタイプ。でも彼はセオの成長をわりと喜んでいるし、クラッブさん達よりはこちらの優位性を理解している。
だから大丈夫だとは思うんだけど……セオはこれから死喰い人の父親と二人だけになるのか……心配だ。