エリカ、転生。 作:gab
1995年 1月
予習復習と『必要師匠』での勉強もしっかりこなし、週に一度の仲良し9人での練習時間もとって、念修行も欠かさず続け、毎日が充実している。
原作『炎のゴブレット』ではハリー達代表選手が大変なだけで、他の生徒は平和に過ごす。ヴォルデモートの復活やセドリックの死という大事件が最後に起きるけどね。それまでは事件はなく、逆に他校の優秀な生徒達と触れ合う機会ができて、楽しくも刺激的な学校生活を送れる1年なのだ。
ボーバトン、ダームストラングから来ている生徒達はみな代表選手に選ばれるためにやってきた、学校内で特に優秀な生徒ばかりがここにきている。
それに授業の進め方や勉強内容にも違いもあって、話をするととても刺激をもらえて楽しい。
私も、クラウチ父子のことや分霊箱のことなどいろいろ考えることはあるけど、学生としてはとても楽しく過ごさせてもらっている。
興味あることを勉強できる環境にいられるのって、本当に幸福だと思う。
授業もどんどん高度になってきている。どの授業も一瞬も無駄にしたくないくらい。あ、えっと。魔法史の授業は相変わらず単調だけどね。
マッドアイ-ムーディ@クラウチ・ジュニアの授業はものすごくためになる。
正直に言って、今までで最高のDADA教授だと思う。リーマスさんもよかったけどね。
『服従の呪文』の抵抗とか、かけられた呪いをそらす『呪い逸らし』の訓練とか、とても効果的でしかもかなり実践的。説明も明確だし、各生徒の技量や理解度に合わせて送るアドバイスも的確。自分のことじゃなくても聞いていてためになる。
この人、なんで死喰い人なんてやってんだろう。めちゃくちゃ有能だよね。
たしか学生時代12フクロウを取ったとかってどこかに書いていた。超優秀。5年次の授業数は最高で12。そのすべてを『優秀・O』か『良・E』か『可・A』で合格したってこと。
私は『占い学』と『マグル学』と『魔法生物学』を取っていないから、どれだけ頑張っても最高で9フクロウしか取れないのに。
教師になればきっと生徒に慕われるいい先生になったと思うし、マッドアイ-ムーディを演じ続ける演技力や、鉄の精神力も素晴らしい。
それにずっと変身しているためのポリジュース薬作成も自分でやってるんだよ。飲んでも1時間ほどしか効果が続かず、しかも完成までひと月かかる薬を、毎日朝から晩まで常に使い続けるためにはさ、物凄い量の薬を毎日毎日手間暇かけて作ってるはずだよ。
『闇の魔術に対する防衛術』の教授として7学年4クラス分の授業を熟し、膨大な課題の採点もやって、その合間に大量のポリジュース薬を作成し、ハリーが三校対抗戦で優勝杯を掴めるよう影に日向に守りつつ、トランクに監禁しているムーディを殺さないよう世話をし、ダンブルドアやスネイプ先生達の鋭い目を誤魔化し続ける。
きっとこの一年、クラウチ・ジュニアって寝る暇もないと思う。敵ながら尊敬しちゃう。
ドラコ達は閉心術の練習をちゃんと続けているらしい。それから『身体強化魔法』を使っての格闘訓練も頑張っている。
時々私も参加させてもらっている。
ヴィンス、グレッグの動きがずいぶん良くなってて、彼らの成長が嬉しい。
『身体強化魔法』や格闘訓練のことはマルフォイ家と私、ヴィンス、グレッグだけの秘密だから他の子達には内緒にしている。ルシウス叔父様が「内密に」と言ったからには他家の子に漏らすわけにいかないもの。
ハリーは『第一の課題』が終わったところで少し力が抜けたからか、次の課題に向けての練習がちょっと減り気味だ。原作では課題寸前まで卵の仕組みを解明できていなかったくらいだから、それでもまだ原作よりもずっと進んでいると言えるけど。
死活問題なんだから閉心術はしっかりやってねと言っておいた。
ハリーによると、ちょくちょくルード・バグマンが声をかけてくるらしい。ちゃんとやってるか、大丈夫か、力になるぞ、とか。
そういえばルード・バグマンはゴブリン達と賭けをしていて、『ハリー単独優勝』に賭けているからこっそりハリーを勝たせようとしているんだっけ。
あいつを勝たせてやるのは業腹だけど、セドリックを無駄に死なせるつもりなんてさらさらないから、このままの流れでいくと奴を儲けさせてしまうかも。
ちょっと悔しいけど、それでウィーズリー・ツインズの賞金もちゃんと払ってくれるなら見逃すしかないかな。……ちょっと悔しいけど、ね。
1995年 2月24日 第二の課題
第二の課題は開始時間が朝の9時半と早く、私達観客はそれまでに席に着くため、朝食後にぞろぞろと移動を始めた。
湖の岸辺に沿って築かれた観客席へ向かい、スリザリンの友人達と並んで座って周りを見回す。
対岸に設置された審査員席へ視線を動かす。今日もクラウチ・シニアの姿はなく、代わりにパーシー・ウィーズリーが座っている。『第一の課題』のあと、彼は一度もホグワーツに来ていないのだ。魔法省も休んでいるらしい。
意志の強いクラウチ氏はきっと服従の呪文に抗い続け、何度も上書きされているんだろう。
観覧席のグリフィンドール寮生が座っているあたりを見ると、4人組のうちハンナだけが他の生徒に並んで座っていた。
ハリーの『大切なもの』はハンナに変わるかと思っていたけど、観覧席に彼女がいるのだから原作通り、ロンだろう。今のところ恋愛まで進んでいないハンナはハリーの一番とは見做されなかったのか。
冬の湖は真っ暗で、いかにも冷たそうに見える。これからここで泳ぐのか、と彼らに同情してしまう。
そういえば、『大切なもの』役の4人はもうあの湖の底で眠っているのか。魔法で守られているとはいえ、辛い役回りだよね。可哀そうに。
湖の中からハリーを連れ出すことはないだろうとシリウス達も判断しているから、今回はクラウチ・ジュニアの動向を阻害するつもりはない。念のため注視してはいるけどね。
鰓昆布は何の問題もなくハリーのもとへ配達されてきた。どこからも横やりが入らなかったようでよかったよかった。
観客席から見えるハリーは、緊張はしているようだけど前回よりはずっと冷静に、他の代表選手と一緒にスタート地点に立っていた。
今回はドラゴンみたいな危険はない。水魔くらい彼なら戦えるし、大イカからも逃げ切れると思う。マーピープルは理知的な種族だし、本当に危なくなればきっとマーピープルが助けてくれるはず。
鰓昆布も長時間になってもいいよう予備も買ってあるから溺死する心配もないし。
私は『第一の課題』ほど不安に苛まれずに、観覧席から湖を見守っていた。
観客席の反対側に、審査員席が用意されていて、その前に代表選手とルード・バグマンが立っている。バグマンから今回の課題についての説明があった。
湖の水底に、彼らの大切な人がそれぞれ人質として囚われている。1時間のうちに自分の人質を取り戻してここへ戻ってくること。
バグマンの鳴らしたホイッスルの音で、選手達が動き始める。私達は一斉に拍手し、応援の声を送った。
この寒さの中、最初から水着一枚だったクラムは杖を振るい、変身術でいびつなサメらしきものに人の身体が付いた姿に変わると頭から湖に飛び込んでいった。
セドリックとデラクールはほとんど同時に、湖に走り出し、湖に肩まで浸かると杖を振るって魔法を唱えた。頭の周りに大きな
ハリーはポケットから取り出した鰓昆布を口に入れ、もぐもぐ噛んでいる。感触が悪いのか美味しくないのか、眉根を寄せて顔をしかめながら湖の岸辺を深みへと歩き身体を沈めていく。
半身を水に浸かったまま寒さに震えながらしばらく立っていたハリーが、いきなり水に飛び込んだ。鰓昆布の効果が現れたのだ。
4人の代表選手が皆それぞれの工夫を凝らして湖に潜っていった。あとは彼らの帰りを待つだけだ。
原作ではハリーは水底で迷子になり、『嘆きのマートル』に方向を教えてもらう。
だけど現状は、卵の仕組みを知っていたハリーは監督生用風呂場に行かなかった。マートルとのやりとりはなかったはず。それにそもそも2年の事件は阻止したから『マートルのトイレ』でポリジュース薬を作るイベントもなかったし彼女がトム・リドルの被害者であることも知らないままだ。マートルと知りあっているかどうかもわからない。
水底でマートルの助言を受けることはないんじゃないかな。
ハリーは無事人質のもとへ行けるだろうか。鰓昆布は予備があるから溺れる心配はないけど。
でも、点数が低くても別に構わない。シリウスのリークでじゅうぶんハリーは優位に立っている。これ以上ハリーを助けるのって良くないもの。
だから、ここからはハリーの頑張りを応援するしかない。
怪我をせず、精一杯頑張って、無事に帰ってきてほしい。もちろんセドリック達もね。
私は湖面が風に揺らぐ様を眺めながら、彼らの無事を祈り続けた。
……待ち時間、ながい。
っていうかさ。
この課題って見ているほうはちっとも面白くないよね。
『第一の課題』は目の前でドラゴンと対峙する大スペクタクルだった。迫力満点で手に汗握って応援できた。
でも、『第二の課題』は湖の底での攻防だから、観客は1時間ずっと冬の朝の空気に曝されながら湖を眺めるだけ。中で何が起こっているのか、誰かが実況してくれるわけでもなく、ただ、待っているだけなのだ。
そういえば『第三の課題』も巨大迷路を外から眺めるだけだっけ。距離があるし、迷路の壁が高くて、中での攻防も見えなかったはず。客席から見えないからこそクラウチ・ジュニアが暗躍できたわけだし。
ちょっと課題内容がおかしくない? ぜんぜん観戦向きじゃないよね。
観客の前でやってくれればいいのに。
魔法で中の様子を中継するとかね。そんな魔法はないんだろうか。
水底の様子を見てみたい。
選手達を誘い込むマーピープルの歌が聞こえる暗い水の中、石像に縛り付けられた人質達の、ゆらゆらと揺蕩う髪やくたりと垂れた顔、それに周囲を取り囲む槍を持ったマーピープルの姿は、まるで生贄の儀式のように見えてとても恐ろしくも幻想的な風景だろうに。
1時間、湖を見ながらドラコ達とぽつぽつ話していると、湖に水泡ができて、セドリックとチョウの頭がざぶんと上がってきた。とたんに観客席が歓声に包まれた。
寒さに震えるチャンに優しく寄り添いながら岸辺へ歩み寄るセドリックは、濡れ鼠でも王子様だった。毛布を広げて二人を待ち構えていたマダム・ポンフリーが飲み物を飲ませたり、軽く診察したりと世話を焼いている。
1時間という制限時間を過ぎたのに、まだセドリックしか戻ってきていない。観客席は次第に心配気な空気が流れてきた。特に代表選手に親しい友人達はそわそわと落ち着かないふうだった。
しばらくするとデラクールがマーピープルに支えられて岸辺に到着した。一度上がりかけた歓声が、すぐに困惑の声に変わる。彼女は人質を連れていない。どうやら途中で失敗してマーピープルに助けられたらしい。マダム・マクシームが急いで彼女に走り寄った。
またしばらく時間が経って、次はクラムとハーマイオニーが浮上してきた。また歓声があがる。
カルカロフが満足げに頷きながら近づき、マダム・ポンフリーがまた彼らを誘導して毛布を渡し、診察して温かい飲み物を飲ませている。
すると妹が心配なのか、デラクールがふらふらと湖に向かって歩き出した。急いでマダム・マクシームが引き留めている。妹を助けにもう一度湖に潜りたいと主張しているようだ。
冷静になれば、こんな公式の催しで人質を殺すはずがないと気が付くんだろうけど、心配する気持ちはよくわかるよね。
「ハリーが出てこないぞ」
ドラコが焦燥に駆られた声で呟いた。原作で知っているけど……もう原作通りじゃないからどうかわからない。私も不安になって頷いた。
じりじりと待っていると、やっとハリーの頭が湖に浮かんだ。彼はロンとデラクールの妹を水の中から引き上げた。そのとたん、観客達は熱狂して立ち上がり、声援を送った。私もほっとしてドラコと一緒に立ち上がって拍手した。
ハリー達のあとから数人のマーピープルが湖からあがってくる。パーシー・ウィーズリーがロンを心配して駆け寄っている。それから半狂乱だったデラクールが妹に駆け寄って抱きしめた。
よかった。無事に戻ってきた。安堵のため息が漏れた。
バグマンから発表があった。
セドリックは1分超過で47点、クラムは40点、デラクールは25点。
ハリーは原作のように一番に人質のもとへ到着したらしい。そして、他の人質をそのままにしておけず、最後まで残り、デラクールの妹も一緒に連れて戻ってきた。
その道徳的な彼の行動を評価した審査員――カルカロフを除く――は点数を高くし、ハリーの得点は45点になった。
これで原作どおり、セドリックと同点1位となった。
あとでハリーに聞いたのだけど、やはり水中で迷子になったらしい。マートルの誘導がなかったから原作よりは時間がかかったようで、ハリーが到着してほんのしばらくでセドリックが来たのだとか。
セドリックは『泡頭呪文』だから頭を泡で保護しているだけ。ハリーは鰓昆布を食べたおかげで鰓呼吸ができて手足に水搔きができ、足は細長く鰭足のようになっている。しかも水温の低さにも身体が対応してくれるのだ。
水の中での移動の速さがハリーに有利に働いたようだった。
それにしても、やっぱりハリーは全員を助けようと思ったのか。
ハリーにとって、ロンもハーマイオニーもどちらも大切な親友だし、チョウは片思い中の女性。もうひとりはデラクールの妹だから知り合いではないけど小さな女の子だ。誰かを置いていくなんて心情的に無理だよね。
ほんと、ハリーはヒーローだ。
その後数日は人質になったロン達もみんなの注目の的となった。セドリックの彼女チョウ・チャンは愛される喜びに幸せのオーラをまき散らしていたし、人気者のプロ選手クラムの大切な人がハーマイオニーであったことは女生徒達の嫉妬とからかいの的になった。
リータ・スキーターがいないため、クラムとハーマイオニーの内緒話がリークされることはなく、ハーマイオニーを巡るクラムとハリーの三角関係なんて捏造記事が出ることもなかった。
ハーマイオニーは方々から冷やかされはしていたけど、原作とは大違いに平穏だったと思う。
そのぶん、ロンの嫉妬による痴話げんかのネタがあまりなくて、この喧嘩っプルはちゃんと付き合うようになるんだろうか、とちょっと心配になってしまう。
1995年 3月
動物もどきを公に練習するか、こっそり習得するか悩んだけど、結局このまま『必要師匠』に通い続けることにした。習得しても申請はしない。
シリウス達には報告するかもしれないけど……
動物もどきの練習は、とうとう自分の身体をワタリガラスに変化させる練習に入っていく。
変化のイメージを明確にさせるためのレッスンだった。
『必要の部屋』の壁一面が鏡に変じ、その前に大きな魔法陣がふたつ現れた。
一つの魔法陣の中央に立つともう一つの魔法陣の中央にワタリガラスの姿が現れる。
動いてみると連動して動く。右手を上げる。ワタリガラスの右側の羽が開く。
顔を傾げる。ワタリガラスもこてりと顔を傾げる。
イメージを明確に。自分にないはずの尾羽はどうやって動くのか。どうやって風に乗って空を飛ぶのか。腕の骨格は翼になる時どう変化するのか。
私は人間だけど。私はワタリガラスだ。
気合をいれて、そして心を鎮める。
焦るな。猛るな。恐れるな。私は魔女で、私はワタリガラス。
さあ。できる。変われ……変われ!
ふっと魔力が全身を巡った。
鏡を見れば、嘴はカラス、身体は人間、申し訳程度の羽根が生えた腕、足は鳥ガラのように細いのに人間そのもの。酷い姿だ。
自分の姿に愕然とする。しばらくの後、魔法陣が光り、さっと身体が戻った。
……まあそんな簡単にはできないよね。うん。大丈夫。理論はばっちり。できる。できる。
がんばるぞ。