エリカ、転生。   作:gab

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1995年 6月

 

 騒然とする観衆にダンブルドアは丁寧に事件のあらましを説明した。

 

「実はの。3年前の事件以来、衰えていた帝王の力は徐々に高まりつつあった。我々は警戒を強めておったのじゃ。

 ある日、シリウス・ブラック氏の使いの者が訪れてわしに協力を呼び掛けてくださった。『闇の帝王の奸計を阻みたい。協力してくれないか』との。

 闇の帝王の計画とは帝王の完全復活のためのおぞましい儀式を行うことじゃった。そのために、生贄としてハリー・ポッターを捧げようとしておった」

 

 ダンブルドアの言葉にどよめきの声があがる。ヴォルデモートの恐怖は魔法界のものすべてが持っていて、『復活する可能性があった』というだけで気の弱い子などは恐慌に陥っていた。

 

 ハリーが生贄だとしたのは、復活の儀式について詳しく知られると悪用されかねないためだ。

 

 ダンブルドアの話は続く。

 ピーター・ペティグリューのこと。バーサ・ジョーキンズのこと。クラウチ父子のこと。ハリーが4人目の選手になった経緯。

 話が進むに従ってみんなの驚きは増していく。

 特に、9月からDADA教授として教鞭を取っていたマッドアイ-ムーディがクラウチ・ジュニアだったことを知らされた時にはそこかしこから悲鳴があがった。

 

「シリウス・ブラック氏とその勇敢な仲間達が『闇の帝王』の奸計に気付き、その企みを阻止せんとひそかに動いていた。そして協力の要請があったことで共闘し、無事、奴らの企てを阻むことができたのじゃ。

 まことに残念ながら帝王には逃げられてしもうたが、彼奴等に囚われていたクラウチ氏を保護し、計画に携わった死喰い人を捕らえ、あるいは斃すことができた。今日の働きはまさに大成功と言えよう。

 

 『三校対抗戦』の最後を飾る『第三の課題』を帝王の奸計に利用されたことは腹立たしいが、選手諸君の勇敢なる戦いを彼奴らの目論みで穢すことなく終えられたことを嬉しく思うておる。

 優勝者のセドリック・ディゴリー選手をはじめ、ビクトール・クラム、フラー・デラクール、ハリー・ポッター。どの選手も良く戦い、良く励んだ。

 彼らの健闘を称えよう。のう皆様方」

 

 ダンブルドアの言葉が終わると、観客席は盛大に拍手した。さかんに私語が飛び交い、興奮気味に騒ぐ彼らを宥め、その後優勝者への労いの言葉と賞金の授与が行われた。

 

 

 原作では、一度ホグワーツに姿を見せたクラウチ・シニアがまた行方不明になったことでパーシー・ウィーズリーも魔法省から証言を求められていたため、当日の審査員にコーネリウス・ファッジが来ていた。

 小心者のファッジがクラウチ・ジュニアへ尋問するためにディメンターを呼び寄せて、証言を聞く前にディメンターのキスをさせてしまう。そのため魔法省に正しい証言が伝わることがなかったってわけだ。

 

 この世界ではクラウチ・シニアのことをこっそり保護したため審査員はパーシーのままだし、闇祓いのシャックルボルトがいるのが大きい。

 シャックルボルトがクラウチ・ジュニアを眠らせたまま拘束し魔法省へ連行していった。魔法省でしっかり証言を取れるだろう。

 

 

 

 

 

 

 ホグワーツには対抗試合の取材で記者やカメラマンも来ていた。当然、翌日の新聞にも詳しく報じられた。

 

 ヴォルデモートに関わるセンセーショナルな事件は大きく取り扱われた。

 『三校対抗戦』の優勝者発表については3面に小さく掲載されただけで、一面トップに大きく載った写真はダンブルドアを中心に、シリウス、ルシウス叔父様、リーマスさん、シャックルボルトが並んだものだった。

 新聞の見出しも様々に彼らの活躍とヴォルデモートの事ばかり書き立てていた。

 

『“名前を言ってはいけないあの人”の復活をアルバス・ダンブルドアとシリウス・ブラックが阻止!』

『四人目の選手は“名前を言ってはいけないあの人”の奸計だった! ハリー・ポッターを生贄におぞましい禁術を画策』

『マッドアイ-ムーディに扮したバーテミウス・クラウチ・ジュニア! 10ヶ月に渡るホグワーツでの教授生活!?』

『堕ちた“正義の鉄槌” バーテミウス・クラウチは息子を脱獄させ、13年も屋敷に監禁か?』

『熾烈を極めた墓地の戦い! シリウス・ブラック、13年前の雪辱を果たす』

 

 

 連日新しい情報が新聞に続々掲載される。そのたびに朝食時の大広間はざわついた。

 

 

 ハリーはゴブレットに名前を入れた犯人が公表されたことで何人もの生徒達から謝られたらしい。

 今回の事件についてもいろいろ聞かれたらしいんだけど、彼自身はまったく知らなかったと言うとすぐに誰にも聞かれなくなったとか。

 ハリーだって驚いていた。今まで親身になって相談に乗ってくれていたマッドアイ-ムーディが死喰い人の変装だっただなんてかなりショックを受けていた。ムーディの助言で闇祓いになる将来を考えるほどだったのだ。それが全部演技だったなんてそりゃあびっくりもするよね。

 

 ハリーだけじゃなくドラコにも『キリキリ話せ』と詰め寄られた。自分の父親がそんな危険な戦いに身を投じていただなんて後から聞かされたのだ。怒るのも無理はない。

 

「クラウチ・ジュニアの開心術が怖かったのよ。だから話せなかった。夏休みに叔父様から教えてもらうほうがいいわ。これが終わったらドラコにも話すっておっしゃってたもの。ハリーもそう。シリウスの口から聞いたほうがいいでしょう?」

 

 すぐ傍にあんな危険な奴がいたのだ。知らないほうがずっと安全だった。私なんて常時閉心術だし小窓も開きっぱなし護衛影常時スタンバイだったしね。

 自然な演技ができないなら、知らないほうがいい。

 

 でもいつまでも何も知らないままなのは、今後は逆に危険になる。

 叔父様方も、そろそろドラコとハリーにも話すべきことは話そうと相談していたのだ。分霊箱の話とかはまだ先になるけどね。

 

「でもエリカは知ってるんだろう?」

 

「すべてじゃないわよ?」

 

「君はいい加減僕らと同学年だと気付くべきじゃないか」

 

 ドラコに目をすがめて睨まれ、へらりと愛想笑いで応える。ごめんね。もともと私が彼らを頼ったからだよね。

 でも今回『大人に頼る』と決めたとたん私の手を離れちゃって、私も当日ノータッチだったもの。私だって怖かった。彼らだけに戦わせて黙って待つの、すっごく怖かった。

 とりあえず新聞に書かれていることはだいたいあってるから、それ以上は待ってねと宥めるしかなかった。

 

 

 

 

 

 

 グリモールド・プレイスに匿われていたクラウチ・シニアは事件が明るみになったことでやっと魔法省の監視のもと聖マンゴに入院させることができた。

 クラウチ・シニアの精神状態はまだ錯乱したままで、今でも『ダンブルドアに知らせねば』とうわ言を呟いているらしい。彼の中ではまだ事件が終わっていないのだ。はやく『もう大丈夫だ』と知らせてやりたいものだ。

 身体も怪我だらけだった。

 ホグワーツはスコットランドにある。イギリスから歩いて行ける距離じゃない。クラウチ・シニアはイギリスにあるクラウチ邸から、あの精神状態で何度も姿現わしをしながらホグワーツへやってきたんだろう。転んだりばらけたり大変な思いをしたんじゃないかな。

 

 魔法省は彼の証言が聞きたいがために治療させているけど、必要な証言を取れぬまま裁判が始まることになるだろう。クラウチ・ジュニアが生きているため、そちらの証言があるからだ。

 

 あれほど冷酷非情に死喰い人へ刑罰を与えていた彼が我が子を脱獄させていたことに、死喰い人の被害者や被害家族だけでなく魔法省の役人達も非常に憤った。

 ヴォルデモート復活のための今回の騒動の一番キーになっていたのがマッドアイ-ムーディに扮してホグワーツに侵入していたクラウチ・ジュニアであることもその怒りに拍車をかけた。

 

 新聞ではクラウチ・シニアへの批判が多く載せられた。

 彼の評価も『苛烈な死刑宣告人』から『息子を脱獄させた悪徳役人』へと変わった。

 

 裁判の結果はおそらくアズカバンでの終身刑になるだろうと皆が予想していた。そして1年どころか数週間も持たずに亡くなるだろうということも。

 哀れだと思うけど私が彼にしてあげられることはない。できれば少しでも安らかな死であることを願うだけだ。

 

 

 

 ヴォルデモートの身柄を拘束できたことを知るのは、当日の戦闘に参加した5人のほかシシー叔母様、スネイプ先生、私だけだった。

 魔法省には秘密にしている。

 眠り続けるヴォルデモートは、今後の話し合いによるが現在はホグワーツで管理している。

 

 できるだけ早めに両陣営の話し合いをしたいのだけど、ブラック陣営内でどこまで話すのかとか、どこまで協力体制を取るのかとか、そう言った相談をしてからじゃなきゃ会談のテーブルにつけないからね。

 会談は夏休みに入ってから、ということになった。

 

 

 

 

 

 4年次もこれで無事終わったかな。

 いろいろ動いた一年だった。

 

 

 そういえばハーマイオニーは『S・P・E・W』のことについてあれから何も言ってこないけど、大丈夫だろうか。

 彼女は“洋服”にされて絶望したウィンキーの姿を見ている。だからしもべ妖精を解放するためと称していろんなところに手作りの服を置くことはしなかったみたいだ。あれは迷惑行為でしかなかったもの、やらなくてよかった。

 冷静に考えてくれるなら嬉しいのだけど。

 ゴブリンとおなじく、しもべ妖精も実はとても強い生き物なのよ。そこをしっかり理解してくれているといいなあ。

 

 

 

 

 あと、これもちゃんとフォローしておきたかったこと。

 ウィーズリー・ツインズへは私から声をかけた。

 

 ハリーは優勝できなかった。ルード・バグマンとゴブリンの賭けはバグマンの負けで、支払い能力のない彼は夜逃げしてしまっただろう。バグマンから支払いされることも、ハリーから賞金を貰えることもなかった。このままでは開店資金が用意できないもの。

 

 といっても、私がそのことを知ってるってツインズは知らないのだから、ただ、いつもの元気がない二人に『順調じゃないの?』って聞いただけだけどね。

 双子は顔を見合わせて肩をすくめた。

 そして『実はさ』とワールドカップの時の賭けに勝ったのにレプラコーンの金貨で支払うと言う詐欺を受けたことから、今年何度も支払いをせっついていたことや、バグマンはゴブリンにも借金をしていて、それを今回の『三校対抗戦』でハリー単独優勝に懸けて失敗し、最後にはとんずらしてしまったことまで悔しそうに話してくれた。

 

「それは災難だったわね。バグマンは見つけ次第締め上げるとして。

 どうしてそんなにしょげ返ったままなの? ウィーズリー・ツインズ。あなた達に投資したいと言った金持ち貴族がいたことをお忘れではありませんこと?」

 

「あれ、本気だったの?」「だって大金がいるんだよ?」

 

「本気も本気よ? ゾンコの悪戯専門店がどれだけ人気かわかってるでしょう? あなた達の才能はそれを上回るわ。フレッド、ジョージ。あなた達の商品は絶対売れる……賭けてもいいわよ?」

 

「「賭けはもうたくさんだよ!」」

 

 双子は声を揃えて叫んだ。そして三人で笑った。

 笑いがおさまると、彼らもやっとまた希望がもてるようになったのか、やる気に満ちた表情を浮かべた。

 

 もちろん、原作のハリーみたいに千ガリオンそのままあげちゃうようなことはしない。私は投資するんだから。初期投資がどれくらい必要かとか、私に支払う配当をどうするかとか、うちの管財人も一緒に話をしようと相談する。

 

「じゃあ夏休みにフクロウを送るわね」

 

「「了解、エリカ姫」」

 

 

 

 

 

 

 

 ハンナとも話をした。

 

「こうやって二人で会うのって久しぶりじゃない?」

 

「ほんとだよね。なんやかんやと忙しかったし。ハリーの訓練の手伝いもしてたしね」

 

 ハンナとふたり、空き教室で久しぶりに語り合った。

 

「すごいねエリカ。復活阻止、ホントにできちゃったんだ」

 

「ええ。これは私にとって絶対外せないポイントだったもの」

 

「お辞儀様ってどうなったの? 殺してないんでしょう? 逃げられたって、マジ?」

 

「まさか。捕まえて眠らせているの」

 

「すごい! おめでとう」

 

 ハンナは立ち上がって私に抱き着いてきた。私もぎゅっと抱きしめた。

 いろんな話をできるハンナの存在に、私はいつも助けられている。

 

「ありがとう」

 

「あとはハリーだね」

 

「そう。ハリーの分霊箱がクリアできれば大筋でハッピーエンドかな。まだまだいろいろ残っているけど」

 

「そうだね。ああでも! ほんと! ほっとしたよ。今年はヤバい年だったもんね。セドリックが死ななくてよかった。コガネムシ女も捕まえちゃうし、ハリーも原作よりずっと元気だし。それにナギニの死体見て悲鳴上げちゃったよ。分霊箱死んでる! って。しかもお辞儀様も捕まえただなんて。ほんとすごいよエリカ」

 

 ハンナは全身の空気を全部吐きだすくらい大きな安堵のため息と共に叫んだ。ハンナもセドリックを助けたいって言ってたもの。きっとドキドキしてたんだろう。

 『第三の課題』の時に私がどう処理するか、ハンナは聞かなかった。でもさ、セドリックが死ぬことも復活の儀式があることも知っている彼女は、ほんとに怖かったと思う。よくじっと黙ってくれていたと思うよ。

 のほほんとしているように見えて、どっしり構えて黙ってみている彼女って実はすごく大物だと思う。

 

「ありがとう」

 

「どうなるかと思ってたんだ。よく乗り切れたね、エリカ」

 

「ええ」

 

「ダンブルドアとは話したの?」

 

「まだよ。夏休みにブラック陣営とダンブルドア陣営の会談があるの。そこで、かな」

 

「ちゃんと話せるといいね」

 

「そう願うわ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ホグワーツ最終日、ダンブルドアは大広間に集まった生徒達を見回して口を開いた。

 

「この一年、みなよう頑張った。他校の生徒とも交流をはかれたことは大いなる喜びじゃった。共に学び共に遊び、それぞれよい刺激を貰えたことじゃろう。

 三大魔法学校対抗試合の目的は、魔法界の相互理解を深め、進めることじゃ。この絆は以前にもまして重要になる。

 この大広間にいるすべての客人は好きな時にいつでもまた、おいでくだされ。ホグワーツ、ダームストラング、ボーバトン。みっつの学校が交流できたこの機会を、われらは大切にしようではないか」

 

 マダム・マクシームとカルカロフが立ち上がってダンブルドアと握手を交わす。左腕の刺青が濃くなってびびっていたカルカロフは復活が阻止できたことで吹っ切れたのか、それとも帝王が逃げたことに焦っているのか、表情を窺わせない能面のような顔だった。逃げ帰らなかっただけマシか。

 

 生徒達もみんな盛大な拍手を送った。

 

 

 

 

 

 今年も1位はハーマイオニー、2位私、3位がドラコだった。

 12教科中現在のカリキュラムで逆転時計を使わずに受講できる最高は10教科。10教科受講のハーマイオニーは当然一位をキープしている。

 他にも10教科受講している生徒もいる中、9教科の私とドラコが2位3位って頑張っていると思う。この成績は維持していきたい。

 

 

 

 

 

 キングス・クロス駅にはマルフォイ夫妻、シリウス、リーマスさんが迎えに来てくれていた。

 お辞儀様は死んだわけじゃないから今年もまたダーズリー家での5週間の苦行を頑張ってもらうことになる。ハリーのことは弁護士さんが送ってくれるらしい。

 

 また8月1日にハリーのバースデーパーティをしてその時に話そうね、と今後5週間の彼の健闘を祈って送り出した。

 

 

 

 

 

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