エリカ、転生。 作:gab
1996年 6月 8歳
8歳になった。
念の修行もカード集めも、天空闘技場での戦闘も、続けている。
スペルカードはあと5枚。
ダブりが多くてなかなかここから進まない。
数の少ない『堅牢』がやはりネックだ。一枚は確保済みなんだけどもう1枚欲しい。
『擬態』も足りない。何枚も指定カードに擬態させてストックしているんだから、このカードはいくらでも欲しいのだ。
このフリーポケットの少なさにはなかなかイライラさせられる。もう一人、ストック役が欲しい。未だに友達の一人もいない私には、どだい無理な話なんだけど……
そろそろ“発”を作ろうと思う。
仇の残りが襲ってくるかもしれない。
それにプレイヤー狩りも多い。マサドラに毎日顔を出す「ルナ」の名はたくさんのプレイヤーのリストに表示されている。
いつこのホームを突き止められるかわからない。
その時に我が家を穢されるのも、メリーさんやラルクが怪我をするのもごめんだ。
今まで影分身と念空間のガワしか作ってなかったけど、検討に検討を重ねて、メリーさんとラルクと我が家全部を取り込む能力を考えついたのだ。
念空間はできた。屋敷をそこへ入れることもドラポケでできるだろう。
まああれだけ大きなものを収納するわけだし、そうとうオーラを消費するだろうから、オーラ量が増えるのを今まで待ってたってこともある。
ガーデンはグリードアイランドの外だからメリーさん達を含むグリードアイランドのアイテムはすべて消えてしまう。
だから、この念空間をグリードアイランドの中だと誤認させればいいわけだ。
念空間をグリードアイランドの中だと誤認させる。
誤認させる。……誰に?
カードや指輪、アイテムに。
念空間へ入る際、グリードアイランドの結界には触れていない。
ならアイテムはどうやってグリードアイランドの外に出たことを気付くんだろう。
おそらく作成時の制約か誓約で決まっているんだろうけど、それを判断するのは誰だ?
グリードアイランドの中だと空気中にGI粒子でも飛んでいるのか? ないよね?
指輪にGIの座標がインプットされていて座標がズレたら外? そんな科学的な処理じゃないよね。
通常の場合はこうだ。
ログアウトすれば結界を通る。
その時に指輪に“ログアウト中”という状態チェックが入る。
その間は、
・『ブック』の呪文でバインダーが出せなくなる。
・フリーポケットの中身がすべて消える。
・240時間タイマーのカウンターが動き始め、0になれば“失格”という状態チェックが入る。
“失格”状態になれば、指定ポケットの中身が消え、ロムカードのセーブデータも破棄される。
カウンターが0になる前にログインすればタイマーは止まり“ログイン中”という状態に変わる。
バインダーが使えるようになり、フリーポケットの中にまたカードが入れられるようになる。
んで。
念空間の場合は、どの地点でチェックが入るの?
指輪やカードはGMメンバーの念能力で具現化した物だ。
つまり、念空間に収納しようとすると、GM以外の念能力を察知したアイテムがそれを不正と判断して消滅する。ってことでいいんじゃないかな?
だから、GMの念を擬態して念空間をそれで囲ってやれば、指輪やアイテムはGI内と同じように動くはず。
という考えのもと、これの参考のために、結界に触れに来た。
夏には少し早い海。
ボートに釣り竿とバケツを乗せて海に漕ぎ出す。
おそらくGMの誰かの円で覆われているんだろう。その円の境界線に触れると、なんとなくわかるのではないか。
――安易って?
もうね、信じるしかないじゃん。
念は信じることが大事なんだよ。
ちゃんと“発”も作ったし。
【触って真似る疑似結界(まねっこ)】
特質系
・オーラを消費し、触れた結界を解析し、それを模倣する
制約
・解析する結界の精度によってオーラの消費量がかわる
誓約
・今生中、HUNTER×HUNTER世界の住人に、この能力について話すと能力で得た結果は失われる
・この能力をグリードアイランドの結界を解析する以外に使用すれば術者は死ぬ
【生まれ故郷を忘れない(バーチャルリアリティGI)】
特質系、操作系
・オーラを消費し、グリードアイランドを囲う結界と酷似した結界を作り上げ、
【ここは私の領域(シークレットガーデン)】と【倉庫(インベントリ)】を
それぞれ覆うことで、念空間に疑似的なグリードアイランド空間を作る
これにより、念空間内でグリードアイランドのアイテムの利用が可能となる
制約
・特になし
誓約
・今生中、HUNTER×HUNTER世界の住人に、この能力について話すと能力は失われる
すごくメモリを喰いそうなのが目に見えているからさ。だから誓約をめちゃくちゃ重くした。
特に解析能力の方は、これくらいしないとここのGMクラスの超絶技巧念能力者の能力をコピーするなんてできないじゃん。
他に使えば死ぬというクラピカをリスペクトした能力だ。
結界の解析ってきっと先々でも使えそうな能力なんだけど、今の私が超格上のものをコピろうと思うなら、今後一切使いませんくらいの覚悟が必要かと思ったんですよ。はい。
誰かにこれを漏らしたら能力で得た結果(つまり屋敷や家族)も失われる。来世以降も話せないのは息が詰まりそうだからHUNTER×HUNTER世界限定にした。
それに、グリードアイランドの結界をガーデンと倉庫に使う以外には使わない。
念のためにこれも。
【所有権書き換え(マスターエクスチェンジ)】
操作系
・オーラを消費して所有権を自分のものに変更する
制約
・前所有者の力量によって消費するオーラ量が変わる
誓約
・特になし
屋敷はお父さん達が建てたものだ。私の物でいいよね。
アイテムだってそう。
だけど、厳密にいえばクリアして報酬の3枚を受け取るまではGMのものでもあるわけだ。指輪やバインダーもゲームをプレイするために配られたもの。
だから、もし他者の所有物だと判定されて収納できなかった時には、これを使って所有権を書き換えるつもりだ。
これでできませんかね?
ということで海です。
結界に触れるとGMが飛んできて怒られるかもだから、釣りっぽい偽装もしてます。
スペルカードはほとんど擬態して指定ポケットだから『排除』で飛ばされてスペルカードが消えても別にいい。フリーポケットに残っているカードはまたすぐ手に入るものだけだ。
(ジャンプ)があるからアイジエン大陸からだってすぐに戻ってこれる。
海にプレイヤーが入ることも想定しているのか、けっこう岸から離れた沖まで進んだあたりで、結界に触れた。
「(まねっこ)、……お願い!」
想像を創造へ――
オーラがごりごり削られていく。
さすがジンの仲間だ。オーラ足りてよ頼むよ。
じりじりとしながら待っているとひゅーんって音が聞こえる。ヤバい。GMだ。原作みたいにレイザーが来るか??
急げ、急げ急げ急げいそげ……
っと。できた。解析。頭に膨大な情報が流れ込む。
できた。できたよ。やったー!
ほっとしたのもつかの間、私の一人乗り用の小さなボートにとしん、と軽い音を立てて男が降り立つ。衝撃で少しボートが揺れ、水がざっぱーんと跳ねる。
うわあ、レイザーだ。まっちょな死刑囚、レイザーの登場だ。
「ここで何をしている」
「釣りですが何か?」
間に合ったことに内心安堵のため息をつきながら、釣り竿を軽く持ち上げて見せる。
「ってか何ですか? おじさん。人のボートに乗り込むなんて、あれですか? 私の夕食狙ってんですか?」
「……プレイヤールナ。この先へは行けない。即刻戻るよう忠告する。もしその先へ進むのであれば君を排除せざるを得ない」
「出ませんって。釣りしてるだけですから。……わかりました。戻ります」
「プレイヤールナ。今後はこのような怪しい行動は慎むことだ。君のプレイヤーネームは報告しておこう。次に何かあれば即刻排除となる」
イエローカードですねわかります。
心配しなくてももう何もしません。……もうできたもん。
「わかりました。お騒がせしました」
飛び去るレイザーを見送る。
ふあああああって深い深いため息がでた。
不審者を見る鋭い目でレイザーに睨まれてどきどきしました。漫画で見たとおり、かっこよかったです。
ってか全身から立ちのぼる強者の覇気に、全私がしびれました。
当分立ち上がれそうにありません。
こわかった……
素直にボートを岸に戻しておうちに帰る。
やることはやった。
あとは、バーチャルリアリティGIがうまくいきますように。あーめん。
翌日。
神様仏様管理人様担当者様それからお母さん。あ、お父さんも!
どうかどうか、うまくいきますように。
「(バーチャルリアリティGI)!」
ガーデンの中心に立ち、願いを込めて叫んだ。
ごっそりオーラを持っていかれる。キュインと中心から全方位に向かい淡い光の膜が覆った。
……できた? できたの? できたって言って!
いきなり試すのは怖すぎる。
一度ホームへ戻って、ホームにおいていた指輪を装備し、バインダーを取り出す。
フリーポケットの中から今まで一度も使ったことがなく、かつ頻繁に手に入る『交信』のカードを手に取った。
(バーチャルリアリティGI)がうまくできていればガーデンと倉庫はGI内と判断されるはず。
「頼むよ……収納」
しゅんと倉庫へ仕舞われたカード。
本来なら倉庫へ入った瞬間、カードが消滅するんだけど。
どきどきしながら結果を待つ。……消えない。消えないよ、やった。
次だ。次。
指輪を外し、ガーデンへ飛ぶ。
倉庫から先ほど収納した『交信』を取り出す。
ガーデンをGI内だと誤認したカードは消滅せずに手に現れた。
「『
まあこれは冗談。指輪を装備してないからカードは使えないもの。
それにリストにはたくさんプレイヤーの名があるけど、付き合いのあるものなどない。
友達いない子だからねしかたないね。
まあできたとしてもここを誤認しているのはあくまでこの中にあるアイテムだけで、GIからは外だと認識されているだろうから、ここからコンタクトができると思っていたわけじゃないんだけどね。
そう考えている間に1分が経ち、カードは仕事をこなすことなく消えていった。
“1分で消滅する”という挙動も変わらず、と。
できた。と思う。
もう一つだけ、試してみよう。
家のなかにあるアイテムのうち、ひとつを手に取る。
アドリブブックだ。
これは、お母さんが私にくれた本だ。三歳の頃からずっとずっと読み続けている。
開くたび、毎回違った物語を紡いでくれるこの本は、私の宝物。
今も物語の途中で、本の半ばあたりに栞が挟んである。
そう。これは、私の本だ。誰にも渡したくない。
私の、モノ。
感じろ。信じろ。
……うん。いける。いける気がする。
「大事な大事なアドリブブック。頼むよ。収納」
手の中から、するりと消えた。
倉庫へは無事に入り、消えてない。
よし。次だ。
「ステップ」
念空間に入る。
さあ。
心を落ち着けて、しっかり想像する。
私の、私だけの、本。ここでならちゃんと読める。絶対。ぜったいに!
倉庫にあるアドリブブックを思い浮かべ意志の力で手に取り出す。
いつも通り手に馴染む皮の表紙をそっと撫で、願いを込めて、栞を挟んだページを開く。
よかった。ちゃんと続きが読める。
安堵感に深いため息をついた。
次だ。
ここまでは順調。
まだ最大の難関が待っている。
念空間は術者のそばに開かれる。つまり、ガーデンもいまはGIの中にあるともいえる。
外に出た時どうなるか。
この、グリードアイランドの囲いを、突破できるかどうか、だ。
まだ何もない空間。
真ん中に派手なハンカチの旗が立っている。
私のガーデン。
旗のそば、広い大地に、アドリブブックを置く。
「(隠れ家、ジャンプ)」
ポイント2に登録した、お母さん達が用意した隠れ家。
前に来た時から変わった様子はない。影をつくってからは時折り掃除をしたり空気をいれかえたりしている。ついでにここで携帯からネットを見たりもしている場所。
さて。
グリードアイランドからは離れた。もう、あの空間の縛りは受けていない。
どうか、どうか。お願いします。
「(ポップ、ステップ)」
隠れ家からステップでガーデンへ。
地面にぽつんと置かれたアドリブブックを見て、安堵に身体の力が抜けそうだった。
グリードアイランドのルールを掻い潜り、無事に持って出られたようだ。
中を開いてみても、ちゃんと読める。
念のため、栞を外して一度本を閉じ、もう一度開いて、別の物語になっていることを確認。
「やった……これで、みんなを連れていける」
――ハメ組はスペルカードの独占でゲームの状況を停滞させた。
――ボマー達は不特定多数の者を爆破して殺し、プレイヤーを恐怖に陥れた。
――他のプレイヤー狩り達も、プレイヤーを襲い、拷問や恫喝でカードを奪い、命を奪う者さえいる。
どいつもこいつも、悪いことをしている。
だけど、グリードアイランドというゲームの観点で言えば、彼らの行動は違反ではない。
みんなルールの中で戦っている。
クリア報酬でしかゲームの外へはカードを持って出られない。それがグリードアイランドのルールだ。
ゲームの決まり事を破るなんて、ゲーマーとしてはズルい。
でも、ごめんね。私は、ワルなの。
家族を連れていくためなら、ルールだって破ってみせるさ。
バグ技みたいなもんだよ。バグ対応されるまでは、これもアリなのだ。
お母さんと過ごしたあの家、全部丸ごと、持っていくから!
数日後、ホームに立ち、自分の屋敷を仁王立ちで見上げていた。
メリーさんとラルクが心配げに私に寄り添っている。
今からこの家を、庭を、柵で囲った屋敷全体をガーデンに収納する。
万が一のため、メリーさんとラルクは退避している。それから『7人の働く小人』もメリーさん作のドールハウスごとここに持って出ている。
もし失敗してアイテムが消えたとしても、他の物はまた集めればいい。
だけど、彼らはアイテムから具現化されたものとはいえ、個性のある生きた存在なのだ。次のカードをアイテム化しても、それはもう彼らじゃない。
メリーさんはもうメリーさんでしかありえないし、ラルクの性格も彼個人のものだ。小人さんだって直接話したことはないけど、椅子に座っている姿がみんな違いがあってそれぞれに個性があることがわかる。
彼らは個性ある唯一の存在だ。私の家族だ。
彼らを失うつもりはない。
だからここで待機してもらっている。
それから、収納は重量に応じて消費オーラが違う。
屋敷を取り込む際の消費オーラを軽減するため、家具や荷物を家の外へ持ち出すことにした。
楽器、食器類、酒樽、割れ物などと食料品は倉庫へ。重量のある家具やベッドなどはガーデンの邪魔にならないところへ。など取り出せるものは倉庫か外へ取り出した。
ここ数日は物凄く忙しい毎日だった。
家具のなくなった屋敷は中ががらんとしている。
よし。
両手でばちんと頬を叩き、気合一発。
家の壁に両手をついて、深呼吸。すーはーすーはー。
「よし、できるできるできるできるできる。わたしは、できるぞお!
うん。オーラOK、気合OK、片付けOK、メリーさん達の避難OK……いきますっ。
(収納)」
収納先はガーデンの中央から少しだけ奥に。ガーデンの中央付近を広場にして、それを囲うメインストリート。
一等地になる場所が我が家の場所。そこを強く強く思い浮かべて、ガーデンに屋敷が建っている風景を想像する。
想像を創造へ――
我が家を、あるべき場所へ――
どこんっとオーラが抜き取られる。ごっぽりいった。ごっぽり。
手に触れていた感触がなくなって目を開ける。あ、目つむってたんだ私。
私の前にあった屋敷が、消えていた。
基礎のため柱を埋め込んでいた土台ごとすべてなくなった跡地は、地面が抉れてぽっかり空いていた。
柵と庭が残っている。“手を触れた”のは屋敷のみだということか。壁だけ持っていかなくてよかったと思おう。
“絶”でオーラを回復してその後、同じように庭にある『不思議ケ池』『酒生みの泉』『豊作の樹』をガーデンにある屋敷の奥側に収納し、お母さんのお墓付近の地面も全部収納。
お母さんとメリーさんが始めた小さな菜園も、地面ごと収納できた。
最後に柵を収納すると、寒々しいほどがらんとした空間だけが残った。
「みゃう!」
ラルクが飛び上がって騒いでいる。メリーさんも大きく拍手をして嬉しそうだ。
成功だね。
念のため私だけガーデンに入って屋敷の中を確かめる。うん。お風呂も美肌温泉のまま。トイレやキッチンの水も大丈夫。リサイクルルームやコインドックもある。
庭も大丈夫。不思議ケ池の魚も元気に泳いでいる。
「やったよ、やった成功だ! メリーさん、ラルク、私やったよ!」
家族で抱き合って喜んだ。
(ゲート)を開いてメリーさんとラルク、小人さんをガーデンへ招き入れる。
「シークレットガーデンへようこそ。ここが新しい我が家だよ。これからはここで一緒に暮らそうね、みんな」
乙女のように両手を握りしめてうんうん頷くメリーさん。興奮気味に私の肩に飛び乗るラルク。小人さんは私が寝ないと動かないからノーリアクション。
「(ゲート)や(ステップ)で入ると、必ずこの真ん中に出ることになるの。ここを公園みたいにしたいね。
ベンチとか置いてさ。
今はこの旗だけだけど、公園ができたらもっとおしゃれな看板をメリーさん作ってね。
んで、今は我が家しかないけど、公園前の一等地がうちの家でしょ。その横にメリーさんのアトリエ、それからいずれは図書館とかも欲しいよね。音楽堂もいいね」
テンションも高く、ガーデンを案内する。
今はなんにもなくて、ただ旗とうちの屋敷があるだけなんだけど。
私には……そしてきっとメリーさん達にも……緑に囲まれたこじんまりと憩いの感じられる公園と、うちの家の横に並ぶアトリエと大きな図書館や音楽堂が見えている。
家の裏に回る。
サンルームの前にあった『不思議ケ池』『酒生みの泉』『豊作の樹』も前と変わらぬ位置にある。何年も過ごしたところだから位置関係はしっかり頭に入っているんだ。
「庭は前と同じだけど、菜園はもう少し広げたいから庭の敷地から出したの。柵の奥が菜園ね。横に燻製小屋も建ててもいいよね。お酒の貯蔵庫も欲しいな。
それからその先に小さなお花畑を作ろう。そこがお母さん達のお墓」
お父さん達のお墓は結局見つけられなかった。お母さんとの葉書のやり取りでは埋めた場所の正確な位置がつかめなくて。
まったく記憶にないお父さんだけど私やお母さんを大事に思ってくれていた人だ。ちょっと申し訳ない。あとディックさんとバッソさんにも。
だから中身はないけど、彼らの墓標くらいは置きたいと思う。
四人の墓を並べて、周りを花で囲おう。
岩石地帯の岩とか土をもっと持ってこようか。
庭や花壇を作るのに石囲いとかあったら楽しいよね。
ううん。
天空闘技場で稼いだお金があるんだから、石材とか木材とかレンガとかもお店で買えばいいんだ。
木や花の苗も。土も。
家を建てるのは私に技術がないから、プレハブみたいに簡単に組み立てて作る家も売ってないかな。ほらツーバイフォーみたいなやつ。
これもどこか街の建築屋に相談してみよう。
とにかく、我が家をガーデンに移動することは大成功だ。
あとは家具を置きなおして、荷物を入れて部屋の掃除だ。
また当分忙しくなるね。
シークレットガーデンは私の能力だ。
私はこの世界で死んでも次の世界にまた生まれる。能力を引き継いで。
つまり、このシークレットガーデンも全部次の世界へ持ち越せるわけだ。メリーさん達も。
そう―― ここは、私の領域。
その後、屋敷のあった跡地の不自然すぎる窪みは岩掘りの修行がてらできた土を使って埋め立てた。
そしてそこにテントを設置。
テントと言っても6人用の大きなやつね。移動式トイレもマサドラで買ってきて設置した。
アウトドアで使いそうな照明や、鉄製のテーブルセットやちょっとした食器類も置いて、ここだけでもじゅうぶんキャンプ生活ができる空間ができた。
何故かというと、指輪をここで管理するため。
指輪ももうガーデンに持って入れるんだけど、ガーデンにいる間はGIから見れば外に出ているのと同じ反応になるわけだよ。
そうすると、うっかり忘れて10日経ってプレイヤー失格になるかもしれない。ガーデンにある指輪の中身は消えないけど、GI側で処理されてゲーム機のロムカードが失格状態になるかもしれない。
それに、カードにはそれぞれ制限枚数ってのがある。たとえば『大天使の息吹』なら3枚まで、『同行』なら130枚までしか同時に存在できない。って感じにね。
それで、私が持っているカードがガーデンとGIを行ったり来たりすることで、制限枚数がおかしくなると困るでしょ。
指定カードはともかく、スペルカードには“ログアウト中”というフラグはないんだから。
エラーがでてGMが調べて、私のガーデンがバレるかもしれないじゃん。
スペルカードの収集は続けている。あともう少しなんだ。
このまえレイザーにイエローカードをもらったところだし、これ以上GMの注意を引くことは避けたい。
ってわけで私がログアウトせずにGIを離れる際は、影の一人に指輪を預けて、ここで待機させる。
影は衝撃を受けたら消えて指輪だけが残ってしまうから、絶対に戦闘は避ける。
もし、ホームに他のプレイヤーが来たら、なにふりかまわず速攻(ジャンプ)でGIのどこかに逃げる。
(ジャンプ)が設置してあるアントキバか、港か。どちらか。
そこも危険ならカードの枚数チェックがエラーになる危険を冒してでも、ガーデンに(ジャンプ)する。
いい加減スペルカードを維持するのが煩わしくなってきたけど、ゴールが間近だと思うと意地でも『大天使の息吹』を手に入れてやろうという気持ちになる。
あと少し。
もう、あと少しなんだよ、ほんと。
誤字報告ありがとうございます。ルビの振り方を知りました。