エリカ、転生。 作:gab
《では、特典を決めてください》
特典の能力はずっと持ち越しできて、転生先で身に付けた能力も次の転生に持っていける。
つまり、強くてニューゲームです。
でも、転生先がわからなければ、能力選定の基準がわからないよね?
そこんとこどうなんですか? なんて縋ってみたけど
《汎用性の高いものを選ぶのが最良ですよ》
とアドバイスだけくれた。
さて、困った。
どんな世界でも使えそうなもの。
いろいろ聞いてみたけど、すでにこの“特典選び”から実験は始まっているらしく、明確な回答はでてこないのだ。
たとえばアイテムボックスを頼んだとしても、一般的な小説にありがちな、「重量無制限・時間停止・重さを感じない・生き物以外なんでも入る」などは駄目で、《点数が足りません》と言われる。
んで、そこから少し能力を下げなくちゃいけない。
どうすればOKがでるのかは、教えてくれない。
重量を減らし、時間停止を時間遅延にするとか、冷暗所だから少し長持ちするにするとか。いろいろ妥協点を見出す必要があるのだ。
たとえば
・重量をうんと少なくして、そのかわり時間停止にする
・重量は多め。その代わり中身も時間が同じように進むがアイテムボックスの中は冷暗所のため、若干中のものが長持ちする
・重量は本人の体重の2倍までは重さを感じないが、それ以上は重さを感じるようになるけど入れることはできる。中は時間停止
・30種類のものが入れられて、同種類のものならいくらいれてもいい
とか、被験者が工夫を凝らして、点数内に収めて自分ならではの能力を作る工程も楽しみにしているらしい。
で。私はどうするか。
アイテムボックスは確かに便利だよね。
でもそれが一番かと言われると、そうでもない。
力をくれるという事は、どの世界に行くとしても、ほぼ闘いが必要だということなんじゃないだろうか。
原作介入云々の前に、普通に暮らしているだけでも危険なら、まず身の安全を図るべきだよ。
能力を十全に引き出せる身体はもらえるらしいけど、いきなり強くはなれない。
ならば、死ににくい能力を貰うのがいいんじゃないだろうか。
攻撃能力よりも防御や回復、またはアイテムボックスのような便利系か。
回復魔法も考えたけど、もしその世界に魔法がなければ、危ない奴らに目を付けられて捕まってモルモット扱いなんてことにも。
薬師や錬金術師のような知識か、あるいは逃げに徹して転移能力というのもいいかも。
よし! 決めた。
危なくなったら『とりあえず逃げる!』コマンド、だ。
「転移能力は貰えますか?」
《条件を絞り込んでください》
いつでも、どこへでも、どれだけ荷物を持ってても、なんていうのは駄目ってことかな。
「転移先は、あらかじめ行ったことのある場所で、明確にイメージできる場所に限られる。
手に触れているものであればどれほど重くても一緒に転移できる」
《点数が足りません》
「転移先は、あらかじめ行ったことのある場所で、明確にイメージできる場所に限られる。
転移する際には転移先を思い浮かべ、(○○へ転移)と宣言が必要。
手に持てる物であれば一緒に転移できる。
一日に30回しか転移できない」
《点数が足りません》
これもだめ?
転移できる場所が無制限なのが駄目なのか。登録制にすれば大丈夫?
でもとっさに逃げるための能力だからなあ。
「転移先は、あらかじめ行ったことのある場所で、明確にイメージできる場所、なおかつ現在地から300キロメートルまでの範囲に限られる。
転移する際には、行きたい場所を思い浮かべ、心の中で(転移)と念じる。
手に持てる物であれば一緒に転移できる」
《これで登録しますか?》
あ、これはいけるのか。
……でも300キロって、思っているよりずっと狭いんだよね。
たとえば日本国内なら、何度か飛べば移動できるだろうけど、日本からアメリカに行こうと思ったら、途中の海が渡れないからアメリカには転移ができないってことになる。
転移は遠くにこそ真価を発揮する能力なのに。
それに何十キロもの荷物を抱えて何度も転移するのは辛い。
便利そうに見えて、不便だ。痒い所に手が届いてない感じ。
うーん。
それから、ちょっと時間を貰って考えた。
“とっさの時に逃げるため”の転移が一番。これは制限なしでなきゃ困る。
でも長距離転移も捨てがたい。
長距離はかなり限定させて、その代わり、短距離を無詠唱、ノータイム、ノーリアクションでできるようにしたい。
足したり引いたり分けたりしてやっと決まった能力がこれ。
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◆固有スキル:転移能力(ステップ・ジャンプ)
【短距離転移(ステップ)】
・視界の届く範囲に限られる
・範囲内であれば、いつでもどこへでも何度でも、呪文や動作なしで即時発動する
・転移方法
行きたい場所を思い浮かべ、心の中で(ステップ)と念じる
【長距離転移(ジャンプ)】
・転移ポイントは9ヶ所まで
・あらかじめポイント登録が必要
・ポイントの登録は何度でも上書きが可能
・登録した場所であれば、どんな場所でも、どれほど距離が離れていても、いつでも転移できる
・ポイント登録の仕方
登録したい場所へ立ち、(ポイント○登録「場所名」)と唱える
※○は1、2、3、4、5、6、A、B、Cのいずれか
※場所名はわかりやすい名前を登録(家、東京駅など任意)
※登録に使用された番号を別の場所で登録すれば、登録ポイントが上書きされる
・転移方法
(ポイント○、ジャンプ)、または(「場所名」、ジャンプ)と宣言
※ステップ、ジャンプ共に、転移の際、持ち上げられるものであれば一緒に転移させることができる
持ち上げさえできれば、何人でも一緒に転移できる
自身に持ち上げられないものに拘束されていると転移できない
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拘束をすり抜けて転移できるってのは駄目だった。
これがあれば敵なしなんだけど……さすがにチートすぎたか。残念。
ポイントは悩んだんだけど、数を9個まで減らさないとOKが出なかった。
1から6は固定。AからCを上書き用と考えている。
たとえば、自宅のように何度も行き来する場所や、世界の主要都市のような、距離があって移動の拠点となるポイントに、固定の番号を振る。
要所を抑えるようにどんどん上書きしていくのがAからC。
なんで1から9にしないのかっていうと、「9へジャンプ」とか言ってるのを聞かれたら転移先がいくつあるのか想像されそうじゃん。
それに、固定と上書き用が混ざって大事なポイントを上書きしちゃったら困るしね。
だから1から6とAからCにわけてみた。
視界の届く範囲っていうと、見晴らしさえよければけっこう先までいける。
その反面、夜はうんと狭くなるし建物の中のような狭い場所は不利だ。そのうえ、目を潰されるとどこへも飛べなくなる。
でもその制限があるからこそ、こんな便利な能力が取れたんだろう。
《条件を確認しました。特典を付与します》
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【転生の部屋】
被験者No:T028-035
基本データ
個体名:柳原英里佳
死亡理由:交通事故
享年:18歳4ヶ月
固有スキル:転移能力(ステップ・ジャンプ)
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《転生を開始します》
《どうか、よき人生を》