エリカ、転生。   作:gab

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ハンター試験 一次

 

1999年 1月 10歳

 

 1月5日の朝、ホテルをチェックアウトして港へ向かうとダンも来ていた。

 

「おはよ」

 

「ん。おはよ。頑張ろうぜ」

 

「うん」

 

 拳をコツンとぶつけ合う。

 

 船に乗りこむと個室に二人で入る。

 特に言葉もない。

 

 昔ハンターになろうと決めた時は、ただ身分証が欲しいだけだった。

 だけど、今は違う。

 

 私がバカな失敗をしでかせば、師匠の名が穢れる。

 「ハンターになれればいいな」なんて緩い気持ちはすでにない。

 「絶対にハンターになってみせる」と強い気持ちでこの船に乗り込んだ。

 

 ダンも同じ気持ちなんだと思う。

 師匠の名に恥じぬよう、何が何でもハンターになると決意に満ちた私達は、力が入りすぎるわけでもなく、ほどよい緊張感に包まれていた。

 

 

 

 

 

 

 この試験中少しでも快適に過ごすため、私はメリーさんに斜め掛けにする間口の広いバッグを作ってもらった。

 それも全く同じものをたくさん。

 斜め掛けにして前に下げると、ちょうど両手が一緒に入れられるくらいのサイズ感のバッグだ。

 これからずっといつでも同じものを使うことになるから、デザインも色合いもシンプルなものにしてもらった。さすが超一流アーティスト作、シンプルなのにおしゃれだ。

 

 これを具現化されたアイテムポーチだと思わせることにしたのだ。

 

 私の倉庫とドラポケはかなり便利だ。

 倉庫は時間停止になるから温かいものもそのまま入れられる。

 ドラポケは倉庫やガーデンにあるものをどれでも、いつでも手に取り出せるようになっている。

 

 それを人前でまったく使わないというのはすごく辛い。

 

 だけどそれを馬鹿正直にひとに見せるわけにはいかない。

 とくに無詠唱ノータイムノーリアクションで武器が手に出ることなんて、知られるつもりはないんだよね。

 だから、このバッグを能力だと誤認させるつもりでいるのだ。

 

 もちろん大っぴらに使うつもりはないけど、気付いた目敏い奴らにそう思わせるだけ。

 今後も人前ではこれを使っていく。

 念能力を知らない者にはただの鞄に見え、能力者には何某かのアイテムボックス系能力だと思われる。

 

 バッグの中はカラだ。膨らんでみえるよう綿が入っている。

 そのバッグに手を入れて荷物を取り出す……ふりをして倉庫から取り出す。

 多少大きなものでもバッグから取り出したようにみせれば、中が亜空間なのだと考えるだろう。 

 もしバッグが汚れたり、破損した場合、一度収納して次のバッグを取り出す。

 具現化されたものは次に出すときはオーラを消費して新品同然になって出てくるのが普通だからね。

 破損したものは『リサイクルルーム』に入れておけば一日で直るもん。あとはこれを順に使いまわしていくだけ。

 

 あ、これは念能力者に対するミスリードだよ。普通の人には気付かれないよう使うつもり。

 私的に“ドラポケバッグ”と呼んでいる。

 

 

 さしずめ、こんな感じ?

 

具現化系

・術者のオーラを消費し、バッグを作成する

・バッグの中は時間停止となり、容量は実際の容量の〇倍

・バッグの間口を通るものであれば重量問わず出し入れできる

・バッグが破損すれば具現化を解くことより再度新しいバッグを生み出す

・中に手を入れることで荷物を出し入れできる

 

 そんな感じの能力だと思ってくれるとうれしいな、という考えです。

 

 

 これで解体ナイフや火を起こすライターや薪を出してもおかしくないし、野営のシートや撥水コートとか出してきてもまあもともと鞄に収納してたんだなと思ってもらえる。

 あんまりドンピシャのものばかり出してたら試験内容を知ってるみたいだもんね。その辺りは気を付けなきゃ。

 野営は試験としてありがちだからアウトドアグッズを準備しているのは納得されるけど、スシネタや丸焼きにした豚を出してくるのはNGってことね。

 

 あとメリーさんに料理をいろいろ作ってもらってある。お握りとかサンドイッチとか手早く食べやすいものをいっぱい。

 これで野営中も美味しいものが食べられる。

 

 応急処置ができるよう傷薬やらさらし、テーピングテープも一応倉庫に入れておいた。

 

 

 師匠の言いつけどおり念具はつけたままだ。

 試験期間中はさすがにGIの指輪管理担当以外影は出していない。影に渡さない分いつもよりオーラが多い。

 大丈夫。

 私は、できる。

 

 

 

 

1999年 1月 5日 夜

 

 星持ちハンターの推薦というのは伊達じゃない。

 船からそのままバスに乗り込み、変な試験を差し込まれることもなく、スムーズにザバン市の前に横付けされた。

 この船で着いたのは私達二人だけだ。

 

 試験会場には超危険人物ヒソカがいるはず。

 時刻はまだ夜になったばかりの時間で、試験開始まで丸々一日以上ある。待ち時間が長いのは怖いんだけど、バスに乗ってきたものは推薦ありの者って試験官は知っているわけで。

 尻込みしてるなんて思われたくない。

 

 ダンと顔を見合わせ、ひとつ頷く。

 気合を入れなおして足を踏み出した。

 

 

 

 

 会場へ入るとナンバープレートを渡される。

 ダンが20番、私が21番。かなり早い番号だ。

 

 ……これ、私達が入ったことで番号繰り下がっちゃう? ヒソカの44番は覚えてるんだけど、ヒソカ46番になるのかな。

 

 私が原作にいないのは当然なんだけど、たぶんダンもいなかったはず。

 だってダンがいたなら最後まで残らないハズがないんだもん。それだけの実力はある。

 

 私と出会ったことで師匠が予定していたより前の試験を受けさせることにしたんじゃないかな。

 来年はキルア一人だし、もっと先か。

 もしかしたら師匠離れできなくてもっと弟子のままだったのかもしれない。マザコンか……

 

「あいてっ。なにすんの」

 

「なんか失礼なこと考えてたろ。そんな気がした」

 

「……解せぬ」

 

 軽口を言い合って部屋の奥、壁際に沿って座る。

 試験開始は明後日だから二晩ここで過ごすことになる。体力気力とも、やる気になれば数日寝ずに活動できるほどには強くなったからそれくらいわけはない。

 当日は朝から長距離マラソンだから今日は極力動かず、体力温存につとめよう。

 

 ヒソカや他の受験者と面倒くさいことにならぬよう、二人で“絶”をして静かに時間を待った。

 

 

 

 

 

「やあ♥ 君、天空闘技場にいたね。200階に来るのを楽しみに待ってたんだけど♠」

 

 でたなヒソカ。あ、44番だ。変わってない。

 

 ダンが警戒もあらわにヒソカを睨む。うん。初体面でもわかる全身からにじみ出る怪しさがあるよね。

 しかもその身に纏うオーラが禍々しい。念を知っているものほど彼の異質さを感じるだろう。

 

 私とヒソカの間に入れるようちょっと前へ身体を出してくれるあたり、彼は紳士だ。

 大丈夫という気持ちをこめて腕のあたりをポンポンしてから、ヒソカへ向かい合う。

 

「私、お金が欲しかっただけで戦うのが好きなわけじゃないんです。200階には行くつもりなくって」

 

 ヒソカの興味を引くような話題をするつもりはない。面白さのかけらもない返しを心掛ける。ヒソカ対策で考えてたことだ。

 

「そうなのかい? 実にもったいない話じゃないか。……そちらの彼も、美味しそうだね♠」

 

 美味しそうの意味を測りかねたダンがなんともいえない表情を浮かべる。

 

「他にも美味しそうなのがいっぱいいますよ。私達のことはそっとしておいてくださいな」

 

 ダンを喰われちゃうと困るからなんとかお引き取りいただくようそっけなく答えた。

 

「つれないね。まあいいさ。また後でね♥」

 

 にっこり笑ってほかの受験生に絡みに行くヒソカの背中を見送ってため息をつく。

 

「なんなんだよ、あのヤバいの。なんかキメてんじゃねえの?」

 

「戦闘狂なんだよ。強いのと戦うことで興奮する危ないやつなの。壊すのが好きな奴だからできるだけあれにはノータッチで」

 

 たぶんいろいろちょっかいかけてくるだろうけど、今の私達じゃ太刀打ちできないし、変に興味を引いちゃったらずっと絡まれるから気を付けて、とか説明しながら、天空闘技場でどんな戦い方をしていたかも話しておく。もちろん小声でね。他の受験生に聞かせるつもりはない。

 

「ハンター試験は魔境だな」

 

「同感」

 

 

 数時間後、不運な受験生の腕を切り落としたヒソカをみて、ダンも奴のイカレぶりを再認識したみたいだ。切れた腕が天井に貼りついているのを見て、目を細める。

 

「あれが?」

 

「そう。ヒソカの能力。すごくトリッキーな戦い方」

 

「ふーん」

 

 黙ってしまうダンをちらっと窺う。どう戦えばいいか考えてるんだろうけど、だめだよ、あんなのと戦っちゃ。まったく戦闘狂はあっちで勝手にやっててほしい。

 

 

 

 “絶”で身体を休めながら待つことまる一日以上。

 広い試験会場はたくさんの受験生でほぼ埋め尽くされていた。

 

 主人公達ももう来ているだろうけど、奥の方に座っていた私には確認できなかった。ついでにいえば新人潰しの彼も私達のところまでは来なかった。

 

 

 

 

 けたたましいベルの音が鳴り響く。

 始まった。

 

 原作と同じ流れで、二次試験の会場までついてくるよう指示する試験官の後ろをついて走り始める。

 試験官の真後ろをキープする。思っていた通り中途半端に速いというか遅いというか。やっぱり気力勝負だなこれ。

 

 

 

 時折りダンと話しながら数時間。これ私は6時間で終わるって知ってるけど終了地点がわからないみんなは先が読めなくてイライラするんだろうな。

 そういうメンタル攻撃な一次試験だよね。

 

 

「いつの間にか一番前に来ちゃったね」

 

「うん、だってペース遅いんだもん。こんなんじゃ逆に疲れちゃうよなー」

 

 すぐそばで交わされた会話に、横を見た。

 私と同じくらいの身長のツンツン頭の少年と、銀髪少年の二人が並んで走っている。お。ゴンとキルアだ。

 ホンモノだ。テンションがあがる。ちょっと感動した。

 

 私の視線に気付いたゴンがこちらを向いて、目が合ったとたんに「ぱあ」って明るい表情を浮かべ話しかけてくる。

 

「ねえ、君っていくつ?」

 

「10歳。貴方は?」

 

「オレ、もうすぐ12だよ。すごいね、君。10歳でハンターになろうって思うなんて」

 

「もうすぐってことは今は11なんでしょ? そんなに変わんないじゃん。私だって6月には11になるもん」

 

「オレ5月。じゃあちょうど1コ下ってことだね。えっと……」

 

 ゴンは私の横を走るダンを見上げる。

 

「俺は14だ」

 

 ダンはあの自然公園にいる間にひとつ年を重ねた。ちょっとお兄ちゃんぶってるけど、ついこの前まで13だったじゃん。

 

「そうなんだ。あ、オレ、ゴン。こっちはキルア。キルアももうすぐ12なんだって」

 

 銀髪の少年が、「よっ」とばかりに片手をあげる。

 こっちも手をスチャッとあげて。

 

「私エリカ、よろしく。んでこっちが」

 

「ダンだ。よろしく」

 

 キルア、ゴン、私、ダンの並びで話しながら走る。

 

「へえ、じゃあダンは遺跡ハンターになるんだね」

 

「ああ。師匠みたいにすげえ遺跡を発掘するようなハンターを目指すぜ」

 

「エリカも?」

 

「私はまだ決めてない。ハンターは幅広いから。まず世界を見て回ってから決める。ゴン達は?」

 

 そこで、ゴンが“父親がハンターで”って話を始めた。

 どうしよう。ジン繋がりでゲームの話を今しちゃおうかな。

 ……だめだな。ゴンの苗字も聞いてないから父親がジンだって私がわかるわけないんだった。

 

 ってここでハンターになる目標って聞いてよかったのかな。レオリオとクラピカがいないんだけど。それはあとでもう一度話すってことでおっけーなの?

 クラピカの“緋の目”話をするところじゃなかったっけ?

 

 そこまで詳しく原作の流れを覚えてないから、なんかのフラグを消してしまわないかと不安になるよ、ほんと。

 

「見ろ、出口だ!!」

 

 受験生の誰かが叫ぶ。

 前には長い階段が上へまっすぐ続いている。うん。やっと外だ。

 

 

 やっと薄暗い地下道を出たと思ったらそこはじめじめと湿気の多い場所だった。『ヌメーレ湿原』だ。

 

 そこで試験官ニセモノ疑惑があって、騒いでいた人面猿はヒソカのカードにあっさり殺される。

 ひと悶着のあとはまたマラソンだ。

 

 今までとは違い、ここは見通しが悪すぎる。“円”があるから迷子にはならないだろうけど、私これ、覚えてる。ヒソカの試験官ごっこが開催されるとこだ。

 

 

 霧が深いしはぐれないようここキープね、なんてダンを促し、ひたすら試験官の後ろを走る。

 

 

 ヒソカの試験官ごっこって、やってることは無茶苦茶だけど、実はけっこうハンターとして正しいジャッジをしている。

 今の強さじゃない。強い者に立ち向かう勇気や、人を守る気持ち、未知なるものへ取り組む姿勢を見てヒソカは生かすか殺すかを決めていた。

 ゴンやクラピカ、レオリオはそれに合格したから生かされた。レオリオなんて気絶しているのを運んでもらえすらした。

 

 

 私は、きっと落ちる。

 だって私は怖がりだもん。逃げてばかり。

 

 私ってまるでヤドカリだ。

 ガーデンという安全な住み家を背中にしょって、食べ物や着るものや好きなものをどんどん溜め込み、何かあればいつでもステップで逃げ込む準備をしながら恐る恐る前へ進んでいるようなものだ。

 

 ヒソカは、きっとそれを見抜く。

 年の割には強い自信はある。だから戯れにちょっかいをかけてきて戦ってもそこそこ楽しんでもらえるだろう。

 だけどきっと私の目の奥に恐怖を、逃げ腰のヤドカリの姿を見て取ったヒソカは、きっと幻滅する。

 私は、ヒソカジャッジ、アウトだ。つまらなそうに殺されておしまい。

 

 

 最初は。家族を守るためだった。

 それから次生に持ち越せるようにって。

 

 なのに……

 

 気が付けば、“いつでも逃げられるように”って気持ちが一番大きくなっている。

 

 これは、良くないね。心が、逃げてる。

 

 いつまでもあの6歳の子供じゃないんだ。

 港へ向かう森の中をモンスターから逃げながら走ったあの時とは違うんだ。

 

 

 

 

 

「レオリオー! クラピカー! キルアが前に来た方がいいってさーー!」

 

 ゴンがレオリオ達に大声で呼びかけた。

 遠くから「無茶言うなー」って答えが返ってきた。あれがレオリオかな?

 “円”で調べるとかなり後ろの方を走っているみたいだ。

 霧が深く、少し遅れた者が道を誤り、人の分布は徐々に広がっている。

 

 うーん。

 

「緊張感のねー奴らだな、もー」

 

 キルアのあきれたような声に「そうだね」って返事をしたとたん、ずっと後ろの方から悲鳴がいくつも聞こえてきた。

 ヒソカの試験官ごっこか、『詐欺師の塒』の動物たちにやられたのか。

 

 しばらくひっきりなしに聞こえる悲鳴を聞きながら走る。

 

 その時、しきりに後ろを気にしながら走っていたゴンが、「レオリオ!」と叫んで後ろへ走っていった。

 あの悲鳴の中からレオリオの声を聞き分けたのか。さすが野生児。

 

「あっ!」

 

 キルアが手を伸ばし、そして、葛藤すると手をおろした。

 大丈夫なはず。原作ではちゃんと生きて帰ってきたもん。でも大丈夫だよと言えないからキルアの不安げな横顔を見ながら走るしかなかった。

 

 キルアの葛藤がよくわかる。

 初めての友達。大事にしたいと思った友達。

 それを危険な場所に行ったからと見捨てるのか。

 

 悲鳴や何かの爆音が聞こえるたびに肩を揺らすキルア。……そっくりだ。弱い私と。

 キルアはお兄さんの針でこうなってる。私は……

 

 

 原作に、必要以上に関わっちゃダメ。

 変に手伝って誰かの役割をとってしまい、彼ら同士の絆を深める機会を奪うことになってしまいかねないもの。

 

 

 ……でも……

 自己嫌悪でおかしくなりそうなキルアを見てて、自分と重ねちゃって。

 

 ああ、もう!

 

「大丈夫だから!」

 

 たん、とキルアの肩をたたき、そのあとダンにも「ここにいてね」と声をかけると後ろへ走る。

 私らしくない。

 逃げ腰の、ビビりな私が、今日初めて会ったゴン達のためにヒソカに対峙しようとするなんて!

 

 “円”で調べるとすぐにわかる濃密で粘つくような強いオーラを持つ者がヒソカだ。笑い声も聞こえてきた。

 走っていくと、倒れたレオリオと彼を守るように立つクラピカ、ゴンの姿が見えた。

 

 一息で跳躍し、彼らの前へ。

 

「おや♠ どうしたんだい? 子兎ちゃん♥ 君らしくないね」

 

「エリカ!」

 

 当てられる殺気に怯みそうになる。でも、だめ。ここで逃げると私はずっとヤドカリのままだ。

 腰を落とし、バッグからいくつもの石を取り出して構える。

 

 ヒソカのカードは受けちゃだめだ。あれにはバンジーガムが付いている可能性があるんだから。トランプは全部石を投げて相殺させるつもりだ。

 

 精一杯のオーラで身を守りつつ、“凝”を切らさない。すでにいくつものバンジーガムが場を作っている。

 

 こわい。けど。まけるもんか。

 精一杯睨みつけた。

 

 ゴンが私の前に走りでた。小さいのに、大きな背中だ。そして、クラピカも。

 

「へえ……いいね。すごくいい」

 

 緊張の中、場違いな電子音が鳴る。ヒソカの携帯だ。「ああ、今行くよ」なんてそれに返事をしたヒソカはもう戦う気がなくなっていた。

 

「巣から出てきた子兎ちゃんに敬意を表して合格としよう♥ 君たちも合格♥」

 

 ヒソカはトランプを投げることもなく上機嫌でレオリオを担いで先へ歩いていった。

 

 

 ほっと息をつく。あれに対峙して怪我なしで乗り切った。奇跡だ。まじで。

 

「エリカ、助けにきてくれたの?」

 

「うん。でも、大丈夫だったみたいだね。怪我がなくてよかった」

 

「我々のためにあんな男の前に立ちふさがってくれるとは君も無茶をする。だが礼を言わせてくれ。私の名前はクラピカだ。よろしくな」

 

「エリカです。よろしく、クラピカさん」

 

「クラピカでいい」

 

 クラピカが呼び捨てでいいって言ってくれたからその後はクラピカ、エリカと呼び合うことになった。

 ほんとに美人さんだな。三次元になっても揺るがない、女か男かわからない美人だ。

 

「あんまり時間がないかも。レ……さっきの彼のことはヒソカが運んでくれるみたいだから、彼の荷物だけ持って走ろう」

 

 あっぶなーい。レオリオって言いそうになった。まだ知らないのに。

 

 すでに集団は私の“円”の範囲を超えてしまっている。

 ヒソカもあっという間に遠ざかってしまった。

 

「間に合わねば失格になってしまう」

 

「急ごう」

 

「うん。レオリオの匂いについていけば大丈夫だよ!」

 

 ゴンの言葉に、あ、そうだった、ゴンてば野生児だった、と思い出す。

 ゴン、クラピカと3人で走る。

 

 

 けっこうギリギリのところで大きな建物のある場所へついた。

 二次試験会場かな。

 間に合ってよかった。ゴンはヒソカが指さしたところに寝かされているレオリオに向かって走っていった。

 

 

「エリカ!」

 

 焦った顔でキルアが走ってくる。その後ろにダンも。

 

「いきなり走っていくなよ。……ゴンは?」

 

「大丈夫。ほら、あそこ」

 

 ゴンの場所を指すと、ホッとした顔でため息をついた。

 

「ったく。どんなマジック使ったんだ? 絶対、もう戻ってこれないと思ったぜ」

 

「ゴンがレオリオの匂いを辿った」

 

 すごい。ゴンってほんとすごい。それがみんなの一致した意見だった。

 その後気絶から復活したレオリオとも挨拶を交わし、私達は友達になった。

 

 

 


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