エリカ、転生。   作:gab

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ハンター試験 二次

 

 

 一次試験が無事終わり、二次試験が始まる。

 

「オレのメニューは豚の丸焼き!! オレの大好物」

 

 

 原作どおりのオーダーが入り、受験生が一斉に散る。

 私達も分かれて走り出した。公園内を少し走るとすぐに見つかった。

 グレイトスタンプだ。石頭よりずっと弱い。楽勝楽勝。

 

 瞬時に跳びより眉間を殴る。“硬”なんてしない。爆散させちゃうもん。

 この試験官は丸ごと焼いても多少焦げてても平気で合格を出してたっけ。んで丸ごと食べてた。

 

 とりあえず血抜きして皮と内臓だけ取って頭はそのままにしておこう。

 不要部分は穴を掘って埋め、ドラポケバッグから(倉庫から)取り出した器材で豚を横向きに吊り上げ、薪を設置。チャッカマンで火をつけて焼く。

 

 

 いやあ師匠に感謝だ。

 この半年間の経験がなければ、今この作業すらできなかったんだもん。

 しみじみと師匠に感謝の言葉を捧げ、試験準備について師匠を頼った過去の自分の先見の明に自画自賛しながら、豚を回す。肉を焼く香ばしい匂いが鼻を刺激する。

 私もお腹すいたかも。

 バッグからサンドイッチを取り出して食べながら作業。

 

 出来上がった豚の丸焼きを提出して余裕をもって無事合格した。

 

 

 

 さて。

 続々と提出されては試験官の胃袋に消えていく豚の丸焼きを眺めながら、次のお題「スシ」をどうしようかと考える。

 寿司はもちろん知っている。でも合格しちゃっていいものか。

 ついでに言うとダンも寿司を知っている。私と師匠が寿司の美味しさについて話していたから。

 

 だからダンと私、ふたりは合格する可能性が高いのだ。

 原作ブレイクにならないだろうか。

 

 かといって、失敗する気にはなれない。

 だって師匠の名を背負ってここにいるから。

 

 

 ネテロ会長がちゃんと介入してくれることを願って、私はしっかり合格ラインを目指すことにする。

 

 

 

「二次試験後半あたしのメニューは、スシよ!!」

 

 ちょうど考えがまとまったころに次のお題発表。

 いろいろとヒントを言う試験官の言葉を最後まで聞くと、他の受験生に混じって移動する。手あたり次第に何でもいいから捕まえて持っていこうとしている受験生達から離れ、川へ向かった。

 あ、ダンもいる。

 

「よ」

 

「おう。知ってる料理でラッキーだったな」

 

 二人とも枝に糸を付けて川にたらしながらダンと話す。

 

「うん。でも川魚だよ。生で食べてあの人死んじゃわないのかな」

 

「味も考慮って、生臭くって喰えたもんじゃねえよな。どうすんだろ」

 

「何種類か捕まえて少し炙って、一番味のいい奴を載せるしかないよね」

 

「なるほど。生だけじゃないんだな、スシって」

 

「あ、うん。そうだよ。調理した奴を載せる場合もあるの」

 

「一匹まるまる使うんじゃねえから二人で色々釣って分け合おうか」

 

「いいね」

 

 人がこない場所だからか、食べられる魚じゃないからか、魚が釣り人にすれていない。わりと短時間で二人で数匹の魚を釣り上げた。見た目はグロテスクなものもあるけど合わせて4種類あるからどれかは食べられる種類であってほしい。

 

 川から戻る頃になって続々と人が集まってくる。うわ、このタイミングなの?

 

「あ、ダンとエリカだ。なんだ、ふたりともスシって知ってたの?」

 

 ゴンが声をかけてくる。

 

「うん。ジャポンの料理は大好きなの、私」

 

「俺の師匠もジャポンびいきでな。話には聞いてたんだ」

 

 ダンも続ける。

 

「ち、ずりぃな。知ってるなら教えてくれてもいいじゃねえか」

 

 キルアはやっぱり文句を言った。

 

「試験でそんなことしたら私が失格になるかもしんないじゃん。……ってなんでみんな急に川にきたの?」

 

 知ってるけどね。

 

「知ってる奴が大声でバラしたんだ。それでこれだよ」

 

「わあ、じゃあ急がなきゃ。ごめん、魚が悪くなるから先行くね」

 

 挨拶もそこそこに調理用の建物に走る。

 

「やばいよ、急がなきゃ。スシを知らない人達だしきっと生魚そのまんまご飯に載せて出しそう」

 

「ありえるな。俺らが吟味してるうちに時間切れになりかねねえ。急ごう」

 

 ダンも危険性に気付いたみたい。

 

 なんの処理もせずに酢飯に載せて出せば、調理しようとしている私達よりずっと作業が早い。

 そのうえまずいものを続々食べさせられた試験官はいら立ち、合格のハードルが上がる。お腹がいっぱいになれば終了って言ってるんだし、間に合わないかもしれない。

 

 くそっ、思ってた以上にじゃまくさい試験だ。

 

 

 

 

 

 

「私が酢飯を握る。これってコツがあるから食べたことのある私のほうが安全だと思う。ダンは魚を薄くスライスする作業をお願い。これくらいのサイズで身を斜めに切る感じ。わかる?

 んで、塩を振って軽く炙ってみて、どれが食べられる魚か確かめよう」

 

 手早く打合せして作業に入る。

 調理台の上を見ると、うちわ、寿司桶、スシを載せる皿、しょうゆの小皿、箸、わさび、大葉、かんぴょう、海苔と、ある程度のものが置いてある。

 

「やった、ダン。大葉がある。これ一緒に食べれば味が整うよ」

 

 

 二人分お盆を置いて、そこに皿と醤油の小皿、箸を載せてセッティングをまず済ませる。

 ご飯は炊飯ジャーに入っていた。

 木製の寿司桶にご飯を入れ、味を確かめながら酢と砂糖、塩を入れる。魚が生臭いだろうから塩で炙るし、塩分は少なめのほうがいいかな?

 うちわで扇ぎながら切るようにしゃもじで混ぜる。ん。ツヤがあっていい感じ。

 

 丁寧に手を洗って酢飯に向きあう。

 寿司職人が握る姿を思い出しながら見様見真似ですし飯を握ってみる。食べてみて固すぎず、かといってしょうゆにつけてもバラけない絶妙の握り具合。

 ちなみにガーデンで練習はしてこなかった。知ってるだけでもズルなんだし、ここは現場で勝負だと思ったんだ。

 

 何度か挑戦して握っては食べてみて、食感を確かめる。

 

 その間に、何人かの受験生が戻ってきて、乱雑に飯に生魚をのせたものを持ってどんどん出ていく。

 うわあ、あれ食べさせるの、ほんとに。

 想像しただけで胃がムカつく。部屋に充満した魚臭さがよけいに気持ち悪くさせる。

 

 もちろん真面目にやっている者達もちゃんといる。一応の仕切りがあるからお互い手元は見えてないけど、作業時間と表情がまったく違うからわかる。みんないろいろ模索しているんだろう。

 こっちも頑張んなきゃ。

 

 試験官の忍耐力が持つかなと内心あせりながら酢飯握りにチャレンジ。

 ある程度満足できたものでよしとして、ひとり2カン、計4つの寿司(具なし)を作り上げた。

 

「まっずーーーーい! 失格! なんてもの食べさせるのよあんた達ぃ!」

 

 試験官の大声が聞こえる。まずい、もう切れてる。

 

「どう? ダン」

 

 ダンのほうを見てみると、魚を一種類に絞り、いくつか部位を変えて炙って味を見比べているようだった。

 

「これ、食べちゃだめな種類も絶対入ってたよね。ダン、お腹壊さないでよ。あ、大葉食べて大葉。殺菌効果があるから。はい」

 

「うへえ……ん、これさっぱりすんな。じゃあこいつとならいけるんじゃねえかな」

 

「じゃあそれでよろしく。4枚作ってね」

 

「おう。すぐできる」

 

 

 大葉は一枚では大きくて大葉の味が勝ちすぎるから、ちょっと飾り切りっぽくして分量を減らす。

 

 私に寿司ネタと一緒にメシを握る技量はない。

 だから先に酢飯だけ握って、その上に大葉を載せ具を載せる。それだけじゃバラバラだから、海苔を細く切ったものを帯状に巻く。下のほうでちょっと水をつけて海苔を貼り合わせて留めると一応一体感は出た。

 試験官のオーダーからすれば軍艦巻きはダメだけど、握りに海苔の帯ってのはたまにお寿司屋さんでも見るから大丈夫だろう。

 よし、完成。

 

 二人で頷きあい、それぞれお盆をもって走り出した。

 

 

 

 

 試験場に着くと、ゲテモノ料理を手に並ぶ長蛇の列ができていた。

 苦い思いで顔をしかめながらその最後尾に並ぶ。

 

「まずい、超まずい! 失格」

 

 また一人失格を申しつけられている。その男はそのまままた調理台の方へ走っていく。もっとみんな試行錯誤しようよ。

 

「激まず! せめて水気は切りなさい! 失格」

 

 ええええ。そんなの出しちゃだめだよ。ジャポンを何だと思ってんの。

 

「まずい。だめ。なにもかもだめ。失格」

 

 ああ、もう試験官の堪忍袋の緒が切れかけてる。

 

 ダンと顔を見合わせる。

 間に合うか?

 

 これってぜんぜんダメな試験だよね。

 きっとさ。知らないものをいろんなヒントから考察して何かを作る、その工程を見たいとかそんな感じだったんだと思うんだよ。試験の趣旨としては。

 

 だけど、料理内容をばらした人がいて。

 そこで試験内容を変えればよかったんだよ。それか、趣旨を説明するか。

 頭ごなしに命令するから、どっちも意地になっちゃった。

 

 試験官がヒントに“小さな島国の民族料理”って言ったのもまずかったと思う。

 そんな知らない民族の料理なら、自分がまずいと思うものでもありえそうだと考えちゃったんじゃないかな。

 ほら。自分は食べる気には絶対ならないけど、お国によってはイモ虫とか猿の脳みそとか食べる国があるくらいだし。

 民族料理って、美味しいものは天井知らずだけど、ゲテモノ度も天井知らずだもんね。

 

 もともと豪快なタイプが多いから、美味しいものを作り上げようなんて気も微塵もわかずにただ作って食べさせて失格って言われてまた雑に作って。

 

 真剣に取り組んでいる人達には試験官もまっとうにジャッジしている。小声で「もっと酢飯を……」とか「握り方はもっと……」など話しているけど、料理にすらなってないモノを持ってくる相手にはけんもほろろに「まずい」の一言だ。でもそんな人の方が回転が速い。

 

 ああ、もう。

 私も嫌な気分になってきた。

 

 これ、楽しくないわ。作る作業はけっこう頑張ってて楽しかったのに。全体の半数くらいの真面目に取り組んでる人達も報われない。

 

「ワリ!! おなかいっぱいになっちった」

 

 あと数人というところで終了の言葉がかかった。

 せっかく作ったのに……

 

「まじかよ」

 

 ダンが呟く。

 

「合格なしってこと?」

 

 私も呟いた。

 ……再試験になるのは知ってるけど。それを知ってなお、この悔しさは筆舌に尽くしがたい。

 

 

 

 

 その後、納得のいかない受験生達と試験官の怒鳴りあいが始まる。

 私はダンと一緒にお盆をもったまま、ぼーっとその様子を見ていた。

 

「ねえ、間に合わなかったの? それ」

 

 振り向くとゴンがいた。キルアも。その後ろにいるクラピカとレオリオも。

 

「うん。やっと作ったのに。食べてもらえなかったわ」

 

「時間切れってのは悔しいな。せめて評価を知りたかった」

 

 そう話すクラピカもお盆を持っている。お寿司とは違うけど、ちゃんと試行錯誤のあとがうかがえる。ああ、この人も真面目に試験を受けてたんだ。

 ちょっと親近感が湧いた。

 

「それがスシなの?」

 

 興味津々でのぞき込むゴン。みんなも同じように見た。

 

「基本的なスシは生魚なんだけどね。川魚は生食できないからこうやって少し炙って、味の調整と殺菌効果を期待して大葉をつけて握ったの」

 

「なるほど。やはりこのような形状になるのか」

 

 クラピカがふむふむと頷いている。

 

「ほんとは美味しい料理なんだよ」

 

 時間がたって少し乾燥しはじめた寿司を眺める。せっかく作ったから食べてみようかと考えたけど、食欲はわかなかった。

 

 ドゴオォォン!!

 

 大きな音に振り向くと誰かが調理台を殴りつけて破壊したみたいだ。

 言い合いはだんだん激しくなり、収集がつかなくなってきて。

 直後、空から飛び降りてきたネテロ会長の一言により再試験が決定。

 

 

 ……なんだかくたびれただけの試験だった。

 

 最後に見せた試験官の美食ハンターとしての心意気には納得したけど。

 あと、再試験の卵はめちゃくちゃ美味しかった。

 

 

 

 


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