エリカ、転生。 作:gab
「ダン! エリカ! 一緒に飛行船の中、探検しない?」
元気よくかかった声。
ゴンの天真爛漫さに癒されるわあ。
これについていけばネテロ会長とのゲームかあ。
勝てるとは思わないけど、ちょっとやってみたい。
「探検?」
「おう! 面白いだろ、行こうぜ」
キルアも楽しそうだ。家で抑圧されてたんだろうなあ。“自由!”って顔に書いてある。
「うん、行く。ダン、行こうよ」
「そうだな。行くか」
ゴン達と一緒に船を端から端まで探検してまわる。
最初は怒られるかも、なんて思ってたけど、“船の中では自由に過ごしていい”って言ってたし入っては駄目なところはちゃんと鍵がかかってるみたいだし、いいよね。
18歳の精神が公共の場で騒ぐなって言ってるんだけど、10歳の少女な身体が同年代の友達とわいきゃいしたいって浮きたっている。
飛行船は保護区の行き帰りにチャーター便に乗っただけだ。
あれに乗った時はずっとキャビンに座ってたし、それにこの船のほうがずっと広い。
ひとしきり回ったあとは窓際のスペースに設えてあるベンチに腰かけた。
眼下に広がるキラキラとした宝石箱みたいな夜景を堪能する。
飛行機って窓が小さいからあんまりみえないけど、飛行船はいいね、景色が区切られてなくて。
見ているだけで壮大な気持ちになれそうで。
「うわすげー」
「宝石みたいだねー」
「綺麗だな」
「広くて気持ちいいね。窓が開いたらいいのに」
「無理だろ、風がすんごいことになるぞそれ」
願望を言っただけなのにダンにすっぱり言い切られた。知ってるし。
あ、そういえばネテロ会長ってそろそろここにくる? 近くまで来てるかもと“円”をしてみると、ん?
違和感を感じてふっと振り向けば誰もいない。あ、こっち? 逆を見るといきなり現れた。
“絶”がすごいのかな。スピードもすごい。
今のどう移動してきたのかわかんなかったや。まるでステップなみだ。さすが会長だ。
そして原作どおり、ボール取りのゲームになる。
「やってみんかの?」
いたずらっぽい笑顔をこちらへ向ける。
「私達もいいんですか?」
しっかり“纏”をしてみせて聞いてみる。
「かまわんぞ」
ネテロ会長は指をたてて「念はなしじゃぞ」と書いてみせた。
私とダンが頷く。
たしかにここにはゴンやキルアもいるんだし、乱戦になって私達のオーラにふれて洗礼になってしまったら大変だもん。
あとは原作の流れのとおり。
キルアは途中で抜け、ゴンは最後まで食らいつく。
私もダンも交代で参加させてもらった。
師匠との組手の時も、何をやってもこっちが転がされるんだけど、ネテロもすごい。
私のこの身体は優秀で、修行の成果もあってずいぶん身体能力が高い。動体視力もいい。だからボールの動きも会長の動きもちゃんと見えている。なのに追いつけない。
念なしと言われているから(ステップ)もできない。でもせめて触れるくらいはしたい。
思った以上に熱くなってしまった。
交代したダンも同じ。
真剣な表情で食らいついていく。
でも……ああ、そうか。
私より少し低い練度のダンを見ていて思う。
ミスリードに誘われ、追い立てられ、走らされ、フェイントに踊らされる。会長はダンがギリギリ追いつける速さを調整している。レベルが違いすぎる。
私もあんなんだったんだろうな。
会長の動きもボールも、見えていたんじゃなくて私が見える速さで動いてたんだ。
見ていてうずうずする。
すごいわ会長。
天才に時間と環境をやったらこんな風になるんだなって。
遠い遠い到達点のひとつを垣間見れたって感じだ。
これでたしか120歳くらいなんだよね? ほんとに若い。
結局取れなかったけど、楽しめた。
あとゴンの頑張りを見ているのも面白かった。
右手を使わせた時は思わずうおって拍手してしまったくらい。
趣旨が変わってしまってボールそっちのけだったけど、でも右手を使わせたんだから、やっぱりゴンは天才だ。
その場で倒れ込み眠ってしまったゴンを見て、これが主人公かって納得してしまう。
「ゴンすごかったね」
「な。俺らまだまだだな」
「なんの。おぬしらもいい動きじゃったぞ」
「結局取れませんでした。100年以上の研鑽の差ですかね」
「ほっほっほ。若いのお。うんうん。……それ、もう時間も遅い。そろそろ戻ったほうがいいの」
「はい、ありがとうございました」
「ありがとうございました。お休みなさい」
ゴンは会長が連れていってくれるというから、彼のことはまかせて部屋へ戻って休んだ。
位の差ってのを実感した。
うん。がんばろう。120歳まで生きてあんな風に動けるようになろう。
翌朝。
第三次試験がスタートした。
トリックタワーの屋上に降り立つ。
予定どおりポイントAを設置。これでもしもの時には戻れる。
端のほうへ歩いて行って下を覗き込む。わあ高いなあ。でも地面はじゅうぶん見える。(ステップ)で攻略余裕だね。
さてと。
私はどうしようか。新人潰しの彼、トンパを追い出してゴン達について行くのもいいし、ダンと一緒に行ってもいい。
受験生達はそれぞれ入り口を見つけて降りていってる。
知り合い達はどうかと周りを見回すと、ちょうどダンが一人用のものを見つけて降りて行くところだった。頑張れー、ダン。
変な入り口に落ちちゃわないように注意しながら探すこと十数分。
「エリカ!」
キルアの声が聞こえた。
ゴン達は原作通り多数決の道を見つけたみたいで「あと一人なんだ、エリカもおいでよ」ってゴンが手を振っている。
やったね。
急いで近づく。ついでに割り込もうとしたトンパにだけ届くよう指向性の殺気を飛ばす。
うへぇ、なんて言いながらさがってくれたトンパににっこり笑いかけておいた。
「ほら、ここ、5つの扉が密集してるんだ」
「こんな近くに密集してるのがいかにもうさん臭いぜ」
「おそらくこのうちのいくつかは罠……」
「だろうな」
「5人で協力するって奴かもしんないじゃん」
「下で違う場所に出る可能性だってあるよな」
「罠にかかっても恨みっこなし」
「生きて必ず会おう」
「うん。頑張ろうね」
互いに頷きあって私達は一斉に扉を降りた。
「あ、一緒?」
「ほんとだ」
そこは一つの部屋だった。
原作どおり、5人で多数決で道を決め、試練官戦の場所までスムーズにきた。
5人対5人。一対一で戦い3点取れなくては先に進めない。
トンパの代わりに私が出るべきかなと、考えてると死刑囚がにやにやと私を見た。
「こちらの一番手は俺だ。メスガキを俺にやらせろよ。溜まってんだからよ」
舐めるように私の身体を見て気持ち悪く腰をうごめかせる男を見て、「私が先ね」と宣言した。ぶっとばしてやる。ってか10歳つるぺたボディに欲情すんな!
っていうか、ゲスい呼びかけだったけどこれご指名制だ。
だってこいつ念能力者だ。しっかり“纏”をしている。あまり練度は高くないけど。
原作ではどうだったっけ? 能力者なはずはないよね。
きっと、入ったメンバーに合わせて死刑囚もマッチングしているんだろう。
「大丈夫か? 無理すんなよ、エリカ」
レオリオが声をかけてくる。なにげに一番面倒見がいいよね、彼。
それに片手をあげて応えながら、前へと進み出た。
「勝負の方法はどちらかの死亡か、相手に“降参”を宣言させるかのデスマッチだ」
「わかりました。受けます」
ヒイヒイ言わせてやるぜ、なんて笑いながらバトルフィールドへ進む男を睨みながら私も前へ出る。
中空に設置されたフィールドの周りはたぶんそのまま1階まで続く空洞だ。
足を踏み外せば地面に落ちて死ぬ。
「気をつけろよ」
「負けんな」
応援の言葉を背に受け、しっかり“凝”で男を見る。腐っても念能力者。どんな技を使ってくるかわかんないんだから。
この気持ち悪いしぐさや下卑た言葉はわざとかもしれない。練度のひくい“纏”だってブラフかもしんない。全部疑っていかなきゃ。
だから。一瞬で決める。
左右に揺れてフェイントをおりまぜ一気に近づき“硬”で回し蹴りを放つ。あたりはしたけどきっとこれは“堅”でガードされてるだろうから次に右手の肘で……あれ?
肘を決めようとした姿で、端っこぎりぎりまでぶっとんで動かない男を唖然と見つめる。
あれ? 終わり?
……はっ、“降参”を宣言させなきゃ勝ちが決まらない。あれって気絶したふりして誘ってるのかもしれない。
近寄って無防備にしゃがみこんだら何か仕掛けてくる?
「死んでませんよね? 降参してくれませんか? 傍によるの嫌なんで降参しないなら本気で殺しますよ」
奴はまだ動かない。
……ほんとに倒れている? それとも罠?
だめだ。わかんない。すんごく弱かっただけかもしれないけど、すんごく上手な演技かもしんない。
“凝”しても“纏”も“絶”もしてない普通の垂れ流し状態にしか見えない。気絶してるの? それとも誘い?
近付くのはやだな。
バッグから投擲用にいっぱいいれてある小石を取り出す。頭を狙ってピシッと投げつけると避けることもしない。ガツンと大きな音が響いた。
ぐえっと呻いて頭を抱えて転がる。
“周”しなかったことを感謝してよ。“周”してたら爆散してたもんね。
「起きましたか? 降参します? しないなら次はもうちょっと“込めて”投げます」
“周”つきでって言えないから濁して言った。相手にはちゃんと伝わったみたい。
「降参する! するからやめろ」
ピッという電子音と共にこちら側のポイントが1になる。これで1-0
全身の力を抜く。
なんだ。ただの弱いだけの男だったのか。心配して損した。
振り向いてさっきの場所まで戻る。ゴン、キルア、クラピカ、レオリオと順に掌を合わせて喜びあう。
「すげえや、エリカ」
「おつかれ」
「強いんだな、君は」
「かっこよかったぜ、エリカ」
ありがと、と言ってから思い出した。そうだ、ここ、クラピカの相手が寝たふりして長引かせたんじゃなかったっけ?
「あ、そうだ。さっきの奴みたいに気絶して“降参”って言わないかもしれないから、みんなこれ」
バッグから石を取り出していくつかずつ配る。
「試合前ならいいですよね?」
虚空に向けて問いかけると、「構わない」と返答があったから気にせず渡した。
「おいおい、いくつ持ってんだよ、こんなもの」
「備えあれば憂いなしなんだよ。
こういう時間勝負な試合ってさ、わざとそうやって長引かせる奴が絶対出てくるの。作戦なんだよ、そういう。だから問答無用でやっつけなきゃ」
クラピカに聞いてほしくて、説明セリフっぽくなってしまった。
第二戦はゴンのローソクの火対決。あっという間にゴンが勝った。これで二勝目。
第三戦はクラピカだ。
クモのタトゥーを見せつける相手にクラピカの怒りが爆発。
目を真っ赤に染めたクラピカがあっという間に相手を斃した。
んで。“死”でも“降参”でもない状況が出来上がる。
クラピカはさっきの話の流れで相手がわざとそうしているかもしれないと気付きながらも、やはり頑なに何もしなかった。
「せっかくくれた石だが……すまないエリカ」
気持ちはまあわかるから気にしないでと首を振る。
そのあとは原作どおりレオリオが「確認させろ」って騒いで、向こうからの賭け勝負に乗り、クラピカの勝ちは決まったけどこの勝負も続行ということになって結局は50時間の待機時間が課せられる。
すまない、と謝るレオリオに、とにかく3勝にはなったんだからいいじゃんと皆で声をかけながら待機場所の部屋へと移動した。
そこでドラポケバッグから出した食料(あんまりあからさまなものは避けて、冷めたサンドイッチ系だけ)をみんなで分け合って食べながらそれぞれの話をする。
クラピカの“緋の目”の話を聞いたり、レオリオの“金儲けのため”っていう偽悪発言と医者の夢を聞いたり、キルアの実家事情、ゴンのお父さんやクジラ島の話とみんなの話をいろいろ聞けた。
私も、6歳から独りだという話をした。
その後は時間つぶしに置いてある本を読んだり、話をしたりそれぞれ静かに時間を過ごした。
まだ念を知らない人達にグリードアイランドって言っていいのかどうか悩んで、結局それは言い出せなかった。自然に話に混ぜ込むって難しいね。
その後、50時間きっちりでまた道を進み始める。
時間が残り少ないことをみんな理解しているから、必死に攻略していった。
トンパはいないから原作ほどギスギスはしてないけど、まだ仲良くなり切れていない5人だから、回り道してまた戻ってしまったりすると少し諍いが起きる。
そして“5人で長く困難な道か、3人で短く簡単な道か”という仲間割れを狙ったいやらしい選択にゴンの機転で困難な道に入って壁を壊して無事最後まで到達できた。
道具はあるし、私の“周”もあるし、壁抜けにほとんど時間がかからなかった。
1階広間に着くと3次試験通過のアナウンスが響く。時間はあと60分を切っていた。ギリギリだった。
実のところ、間に合わなければ4人を持ち上げてAポイントの屋上へ戻って地上へ(ステップ)という手もある私には焦りはなかった。
拳を突き合わせて喜び合う。
「遅かったな」
ダンがめちゃくちゃ心配したんだぞって顔で寄ってきた。ごめん。なんとか間に合ったよ。なんて話した。
よし! 終了だ。
やったね。ゴン達と一緒でよかった。
次の試験で出遅れることになるけど、それでも彼らと一緒に過ごした時間はとても楽しかった。
無事(ジャンプ)も(ステップ)も使わずに3次までクリアできた。
あとはサバイバルと対戦か。
サバイバルのナンバープレートの相手が弱い奴でありますように。