エリカ、転生。   作:gab

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ハンター試験 四次

 

 

 3次が終わり、4次試験の説明が始まった。

 “狩る者と狩られる者”。

 3次試験でタワーを脱出できた順にクジを引いていく。

 

 最後になっちゃった私達。

 5人の中では一番にクジを引かせてもらった。301番だ。

 

 

 クジで引いた標的のナンバープレートを奪う試験だという説明を聞きながら周りを見回す。さて、301番さんはどこだ?

 あ、いた。

 キュートな針を顔じゅうに刺した斬新なおしゃれさん……終わった。

 

 イルミ! なんでイルミなの? くじ運悪すぎだよ。もう。

 しかたない。諦めた。彼に立ち向かうのはただの蛮勇だ。素直に他の方3人を狙うことにしよう。

 

 

 大丈夫。念能力者は私を含めて4人しかいない。私はこの中では一歩先を進んでいる。

 誰でもいいや。適当に襲って奪わせてもらおう。

 

 そんな風に考えていた時、ふと受験生の一人に目がいった。

 大きな帽子をかぶった弓矢持ちの若い男。

 

 ……え?

 

 あの人、あれじゃない? キメラアント編の被害者。

 

 

 そうだった。

 すっかり忘れてたけど、ゴンの同期合格者だったんだっけ。……名前は、えっと。そう、ポックルだ。

 

 ポックルはこれで合格して幻獣ハンターになったんだよね?

 もし私が彼のプレートを取ることで不合格になったら。そうすればあの酷い最期を迎えることはないのかも。

 

 でもアマチュアハンターも何人かキメラアント編の現地にいたような気が。

 ……記憶が定かじゃない。

 

 ちゃんとキメラアント編もしっかり読んでおけばよかった。アニメはキメラアント編を見てない。だってトラウマががががが……

 もしかしたらあのおぞましい未来から助けられるかもしれない。

 

 

 よし。

 彼からプレートを貰うことにしよう。

 私はプレートをゲットできてラッキー。

 彼は死ぬ運命から逃れられるチャンスを得られる。人助けもできて一石二鳥だ。

 

 

 

 

 船の中では誰も口を開かなかった。

 

 みんな自分のプレートをしまい込んで、静かに座っている。

 今までは協調することもあったけど、今回は互いが敵になる。

 誰が誰の標的か、誰が自分を狙っているか。船中が緊張感にあふれている。

 

 

 島についた。

 3次のクリア順に一人ずつ船を出ていく。

 

 

 外へ出る。

 “円”の範囲に私を狙って潜んでいるものはいないようだ。

 “絶”で気配を殺しながら素早く進む。

 

 あ、そうだ。これ忘れるところだった。

 スタート地点がゴール地点なんだった。この辺りの目立たないところでポイントを設置しておかなきゃ。

 うっかり忘れてガーデンに入って、どこかへジャンプなんてしたら二度とここへ戻ってこれないところだ。

 そんなうっかりミスで失格になったら後悔なんてもんじゃない。あまりにも情けなさすぎる。

 

「ポイントA設置“4次の島”」

 

 よし。これでいつでも帰ってこれる。

 

 

 

 さあ、気を引き締めて行こうぜエリカ。

 出発が最後のほうなんだから、いろんな所で誰かが待ち伏せしている可能性が高い。罠が仕掛けられているかも。

 

 ヒソカ、イルミ、ダン。

 4次に残った者で念能力者なのはその3人だけだ。

 

 すこぶる危険なヒソカとイルミ。彼らさえ気を付ければあとは大丈夫だろう。

 ここからは“円”は最小限にしよう。ヒソカやイルミを呼び寄せることになるもんね。

 

 他はたぶん大丈夫。

 

 足音を殺し、木々の間を縫って進む。

 “絶”で潜みつつ、超一流ミュージシャンの精密で高性能な聴覚を駆使して森の風景に溶け込む雑音を探す。

 

 時折り“凝”で罠が仕掛けられていないか確認も怠らない。

 気分は狩人だ。

 

 私の担当監視員らしき気配がずっと付いてくるから常に見られている感覚があって、ちょっと煩わしい。

 

 

 広い草原に出た。草の背が高く、人の姿が見つけにくい場所だ。風でさやさやと揺れている草の音が邪魔して雑音を捉えにくい。

 そこで、見つけた。

 

 ポックルと、彼が狙う獲物。

 そっと“円”を広げる。周りには数人の人がいる。私を狙っている者はいないか。

 周囲の森は射程距離の長い武器ならじゅうぶん狙える場所だ。

 あ、木の上にゴンがいる。ゴンの近くにも数人。

 

 

 私に気付いている者はいないと判断して、静かに“絶”で潜む。

 じっとチャンスを待つ。

 

 しばらく待つとポックルが動いた。

 弓を引き、獲物に向けて撃つ。相手は気配を察して咄嗟に避けた。矢は男の肩付近を掠って飛んでいく。

 

 男は攻撃を避けたことで優位に立てたと思ったのかにやりと笑ったけど、ポックルは何の注意も払わず立ち上がる。

 

 ポックルに相対して大きな剣を構えた男が身体を震わせて崩れ落ちる。しびれ薬が塗ってあったみたい。うまい。彼の狩りの腕は高い。

 

 ポックルが獲物からプレートを取り上げて、捨て台詞を吐いている。今だ。

 

 一瞬で駆け寄り、ポックルの無防備な背中に一気に近づき軽く膝裏を蹴って跪かせた。

 そうしないと身長差があるもんね。

 首に腕を回して締め付けて解体用ナイフをあてて。

 

「ごめん。プレートくださいな」

 

「……へ? え?」

 

 ポックルがまだ右手に持っていたナンバープレートを貰う。これで1点分。

 

「貴方の分も。くださいな」

 

「勘弁してくれよ」

 

「急いでくれる?」

 

「……わかった」

 

 観念したように右手を動かしポケットへ手を……入れる前にナイフを少しだけ頬にツンツンしてまた喉へ添える。

 

「怪しい事はなしですよ」

 

 反撃されるかもしれないから、念押し。しびれ薬とか嫌なんだもん。ポックルに念の洗礼を受けさせないためにこっちは垂れ流し状態なんだぞ。

 

「え、あ、うん。……ああ、もう、くそっ!」

 

 鞄から出してきたナンバープレートを貰ってバッグにしまう。

 周りを見回して、ついでにゴンにもそっと微笑みかけておいた。ぎょっとした顔でこちらを見ている。

 

「ありがとうございました。じゃ」

 

 手を離した瞬間、全速力で森へ駆け込む。

 弓の射程は長いもん。しびれ薬の矢は私にも効く。ステップで逃げたいところだけど目撃者が多すぎるからこのままジグザクに走る。

 

 

 じゅうぶん離れたところでゴンに倣って木の枝に飛び乗り気配を殺す。

 ふう……

 自分も狙われる側だ。緊張した。

 

 

 ポックル。これでハンターを諦めてくれるだろうか。

 私の手には53番と105番のプレートがある。このプレートがポックルのターゲットなのであれば、ポックルはこれから6人分集める必要がある。

 かなり厳しいんじゃないかな。

 

 でも4次は1週間だ。まだ始まったばかり。時間はまだまだ残っている。

 まだこれから盛り返すかもしれない。

 そうなればあの未来が……

 

 

 ああ! 嫌な未来を知っているのにどうしようもないのが、ほんとにもどかしい。

 世のオリ主さん達はどうやって折り合いをつけてんだろう。

 

 すべてを助けようなんてつもりはない。

 でも。手の届く範囲なら、助けられるものは助けたいって思ってしまう。

 

 もしこれで合格するなら、それが彼の運命だ。……気にしちゃだめだ。

 

 

 

 ――うん。よし。

 気持ちを切り替えよう。

 プレートはあと1枚分。

 

 その日は見つけられず、夜は監視員を撒いてからステップでガーデンに戻って休んだ。

 

 

 

 2日目、私は“絶”で森の中に潜んでいた。

 

 キルアとそれを狙う三兄弟を見つけちゃったのだ。

 これって確かキルアが自分のターゲット以外の二つを遠くへ投げるやつだ。ちょうどいい。それを一つ貰おう。

 

 念のため危険を冒して“円”を広げると、同じように三兄弟を狙っているハンゾーも見つけた。

 それぞれに監視員がいて、ほんと紛らわしい。

 

 

「さて。こっちのいらないのは……」

 

 キルアが力いっぱいプレートを投げる。一つ目でハンゾーがすごい速さで走っていった。じゃあ私はもう一つを貰おう。

 

「今度はあっち!」

 

 キルアがプレートを投げる。ギュオオオなんて音を立ててプレートが飛ぶ。

 よし!

 

 プレートの飛ぶ方向へ走ると一気に跳びあがる。空高く飛ぶプレートを空中で掴んで無事3つめをゲットだ。

 

 この2日間、私を見つけた者はいなかった。“絶”の効果は素晴らしい。ヒソカやイルミは他の相手をしているようで一度もすれ違わなかった。

 ちょっとだけ自信がついた。

 

 

 あとは監視員を撒いてガーデンへ行くだけだ。

 ってか何度か撒いているのに、しばらくすると見つけ出して追ってくる監視員ってどんな実力者なのよ。

 たぶんプレートに発信機でもついてるのかな。

 

 発信機のついているプレートを持ったままガーデンに入るのは嫌なんだけど、このままここにいるのも嫌だ。

 発信機と言ってもたぶんそんなに広域をカバーするような奴じゃないよね。そんな高性能な奴なら回収されるはず。

 ゴンなんてヒソカに突き返すまでずっとあれを持って移動してたもん。

 

 転移は今回の試験で使うつもりだったから、プレートの場所が特定できなければきっと遠くへ転移したと判断されると思う。

 もし念空間だとばれたとしても、ガーデンがGI仕様であることを知られないなら平気。

 

 

 木の間を少し歩く。もちろん“絶”は欠かさない。私も“狩られる者”の一人なんだから。

 

 

 

 ジグザグに木の間を走りぬけ、その途中で(ポップ、ステップ)。

 見慣れたガーデンの風景にほっと息をつく。

 

 さて。

 残りの5日間は家族サービスタイムだ。

 メリーさんの美味しい料理を食べて、ラルクと遊ぼう。やっと念に目覚めたラルクが最近ちょっと“纏”らしくなってきて先が楽しみなんだ。

 

 

 

 

 

 

 最終日、島に設置したポイントAへジャンプしてしばらく“絶”のまま待っていると、サイレンがなり、スタート地点へ戻ってくるようアナウンスがあった。

 

 スタート地点に近いポイントにいた私はけっこう早めに戻れた。

 すぐにキルアがやってきた。

 

「おつかれ、キルア」

 

「おう。ってかお前どこに隠れてたんだよ。一回も見つけらんなかったや」

 

 キルアがつまらなそうに話す。キルアって対人戦に慣れすぎていて退屈な1週間だったのかも。

 

 ぞろぞろと戻ってくるメンバーを見る。

 

「キルア! エリカ!」

 

 ゴンが走り寄ってきた。ぞろぞろと原作メンバーとダンがやってくる。

 

「おつかれ、ゴン。みんなも」

 

 みんなけっこう疲れた顔をしていて、わりと厳しい一週間だったんだなと感じた。

 ごめん。後半毎日美肌温泉な生活してて。

 

 ダンの話では、けっこうギリギリにレオリオのプレートが集まって、それでここまで走ってきたのだとか。

 それから、レオリオとクラピカ、ダンが一緒にいる時にヒソカとあわや殺し合いかってとこまで行ったってことを聞く。

 ゴンもヒソカにプレートを譲られたと悔しそうに話していた。

 

 原作に介入したのは私じゃなくてダンだったね。実はこいつがオリ主なんじゃないかしら。ほんと。

 

 

 

 脱落したメンバーの中にポックルを見つけてホッとする。

 これで諦めてくれればいいんだけど。

 

 あ、諦めなくていいよ。ハンターになる能力はちゃんとあるんだしね。

 でも来年はキルアが全員ボコって一人合格だし、その次の試験で頑張って欲しい。それならキメラアント編は終わっているから安心だもん。

 

 ポックルが座り込んでいる女性のそばに行った。

 っていうか、ポンズだ。そうか。彼女もここにいたんだった。忘れてた。

 やっぱり細かい部分は忘れてるな。

 

 ポンズも助ける方法はないのかな?

 

 ……ポックルとポンズって付き合ってるんだっけ? あれは二次創作の設定?

 でも彼らは一緒にあの国にいたんだから、ポックルが行かなかったらポンズも行かないんじゃないかな?

 なら、彼女も助かるかも。……だといいな。

 

 

 

 


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