エリカ、転生。   作:gab

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ハンター試験 面接、最終

 

 

「21番、エリカ・サロウフィールド。入りなさい」

 

「失礼します」

 

 無事4次を終えて5次の会場へ向かう飛行船の中。

 ネテロ会長の面接があった。

 

 まずハンター試験を受けに来た動機を聞かれる。

 

「私はグリードアイランドのゲームの中で生まれ育ちました。両親とも中で死に、6歳からは独りであの中で生きてきたんです。

 まず身分証が欲しかった。

 それに、広い世界を見たい。私の行動範囲はグリードアイランドの中と天空闘技場しかなかったから。

 ディアーナ師匠のもとで半年修行させてもらって、私は今まで知らなかったことをいっぱい知りました。友達もできました。でも、まだまだ知らないことがいっぱいです。

 世界中を回って、視野を広げたいんです」

 

 これは本当。

 試験が終わってバッテラさんの報酬を得ればもう原作にかかわるつもりはない。

 ゴンにゲーム機をゆずり、自由に外を見てみたい。

 

 この世界に生まれて、私には将来の夢なんてものはなかった。

 ハンターの仕事をしていくうちに、きっと私が、エリカ・サロウフィールドとしての私がやりたいことも見つけられるんじゃないかな。

 

 私の言葉に、会長はうむうむと頷いた。

 

「まだまだ若いからの。先は長い。うむ。じっくり決めていくがよいの。世界は、広いぞ」

 

「はい」

 

 あとは注目している受験生はダン、それからゴン。戦いたくない相手はヒソカとギタラクルと答えた。

 あの二人は絶対戦いたくない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 最終試験会場のホテルの部屋で、試験に臨む受験生が揃っていた。

 私、ダン、ゴン、キルア、クラピカ、レオリオ、イルミ、ヒソカ、ハンゾー、ボドロの10人だ。

 ポックルはあのまま4次で落ちた。

 これで彼のあの最期が回避できたんじゃないかな。できたと思いたい。

 そして一緒にポンズも助かってほしい。

 

 詳しい人数を覚えていないけど、原作での最終試験に残った者からポックルを引いて私達二人を足したって感じだろうか?

 

 

 試験内容は原作通りの負けあがりトーナメントで一勝すれば合格となる。

 トーナメント表はこうだった。

 

 ゴン vs エリカ

    →ハンゾー

      →キルア

        →ギタラクル

 

 ダン vs クラピカ

    →ヒソカ

      →ポドロ

        →レオリオ

 

 

 私ってけっこう成績が良かったみたい。

 おかげさまでトーナメントのポジションがいい。

 ゴンと対戦ってのは困るけど。ヒソカと対戦せずにすみそうなのがほんとに嬉しい。

 

 さてと。

 ゴンとの試合、どうすべきか。

 勝つのは勝てる。

 でもゴンは“まいった”って言わないよきっと。意地になると梃でも動かない。

 原作みたいに腕を折っても降参してくれないのは、どうしようもないよね。

 

 ……使わないで済むなら使わないでおこうと思ったのに。

 

 ゴンが熱くなりすぎる前に試合を終わらせる。できれば戦いらしい戦いをしないうちに。

 ここで(ステップ)を使おう。念禁止なんて言われてないし。

 どうせいつかは公表するんだ。すでに自然保護区では5メートル範囲限定で使ってたし。

 

「第一試合、ゴン対エリカ。始め!!」

 

 ゴンと一緒に前へ出る。

 

「エリカ強いから楽しみだよ」

 

「よろしく。ねえ、ゴン」

 

「なあに?」

 

「あのさ、提案があるんだけど、聞いてくれない?」

 

「提案?」

 

「そう。会長とのゲームの時に思ったんだけど、ゴンって粘り強いからさ。すっごく時間かかりそうな気がするの。

 だからポイント制にしない? 攻撃を相手の身体のどこかに当てれば1点。3点先取で負けた方は“まいった”ってするの。どう?」

 

「うーん。いいよ、それで」

 

「よかった。じゃあ……」

 

 ネテロ会長を見た。

 会長は「うむ。それでよかろう」と言いつつ試験官に目配せをする。

 これで試験官がしっかりポイントを取ってくれるだろう。

 

 腰を落として身構える。

 ゴンはきらきらした目でこちらを見据えている。

 

 戦うのが楽しいって全身で表している。

 

 互いに向き合い、間合いを読みあう。横にすり足でじりじりと円を描くように動きながらタイミングを計る。

 飛び出してきたゴンを避けて回し蹴り。ゴンは腕でガードした。

 

「1点。エリカ」

 

 試験官の声が響く。

 

「え?」

 

 ゴンが立ち止まる。

 

「ゴン、“攻撃を相手の身体のどこかに当てれば”って言ったでしょ? ブロックしても手に当たったから1点だよ」

 

 ポイント先取って普通は有効打だけをカウントするんだけど、今回は“当てれば”だもん。

 よかった。

 試験官は正しく理解してくれていた。

 ゴンが勘違いしてくれているのはわかってたんだよ。これで1点稼げた。

 

「あ、そっか。避けなきゃなんだね」

 

 あと2回当てればいい。会長とのボール取りゲームを思い出せ。

 行ける行ける。

 

 その後もう一度向かい合う。

 互いに避けあい、追いかけ、蹴りあい、狭い空間での鬼ごっこの様相を呈してきた。

 もう一度ゴンが猛スピードで飛び込んでくる。

 と言ってもまだまだ粗削りなゴンの攻撃は、私には全部見えている。避けるのも余裕だ。

 

 避けてまた回し蹴りをすると次はしっかりゴンも避け、反対に右ストレートが来る。転がって避け手で体重を支えて逆立ちするように伸びあがってキック。これはきれいに決まった。

 ゴンが吹き飛ぶ。“絶”のままだから怪我はしていないはず。

 

「1点。2点先取、エリカ」

 

 熱くなってきたゴンの攻撃の切れはますます冴えてくる。

 会長とのボール取りゲームの時にも思ったんだけど、ゴンはやっぱり天才だ。相手に合わせてどんどん技能が伸びていく。

 能力者でもないのに、手や足を振るとブォン、ブォンと音が鳴る。

 

 ゴンの重い蹴りを避けて地を蹴って後ろへ高く飛ぶ。隙と見たゴンが空中にいる無防備な私に向けて強烈なパンチを浴びせようと走り寄る。

 でも、これは誘いなの。ごめんね。

 ゴンの後ろに(ステップ)。後ろから後頭部にコツンと拳を当てる。

 

「1点。3点先取、エリカ」

 

 やった!

 

「エリカ。今、何をしたの? どうなったの?」

 

 一瞬で目の前から消えたことに、何もできずに負けたことに驚いてぽかんとした表情で立っている。

 

「世界は広くてさ。いろんな人がいて、ゴンの知らないいろんな種類の“強い”がいるの。私はそれを知ってるだけ。……たぶん、もう少ししたら話せると思う」

 

「ふーん。よくわからないけど、わかった」

 

 一度俯くと、また顔を上げる。

 何かを吹っ切ったのか、次はまたキラキラとした笑顔になっていた。

 

「すごいよエリカ。オレ、次はエリカに一撃入れられるようになる!」

 

「うん。きっとゴンならすぐな気がする」

 

 

 ゴンが“まいった”と宣言して、とりあえず一抜けでハンターになれた。

 ほっとして壁にもたれて座る。ぞわっとした視線に気づいて横を見るとヒソカがニヤニヤ笑っていた。

 

「……へえ♥」

 

 聞こえないふりして前を向く。

 ……こわっ。

 

 

 

 それから、クラピカとダンの試合は危なげなくダンが勝った。

 二人目の合格者だ。横に座ったダンと拳を合わせて喜ぶ。

 

「おめでと」

 

「ああ、やったな」

 

 その後ゴンとハンゾーの試合。

 私に負けて、より一層本気になったゴンは原作のように頑なに負けを認めず、ハンゾーに腕を折られていた。

 

 原作どおりハンゾーによるゴンへの拷問の時間があり、その姿をみんな黙って見守る。

 痛くても辛くても決して挫けない気持ちは素晴らしいんだけど。ゴンのわがままなところでもある。でも真っすぐな気持ちは、応援したくなる。やっぱり主人公だ。

 

 ここで引いてもいいだろうにバカだな、って思う気持ちもある。

 でも、一次試験の時にヒソカに向かった私もバカだった。だけどあそこで行かなきゃ私はヤドカリのままだったんだもん。

 きっとゴンもそんな想いなんだろう。

 

 

 その後匙を投げたハンゾーが降参すると言ってゴンが反論、切れたハンゾーが殴りつけてゴンが気絶。

 医務室に運ばれていった。

 

 ハンゾーが降参したため3人目の合格者はゴンになる。

 

 目をぎらぎらと揺らめかせ、剣呑な空気を醸し出しているハンゾーがやってきて、私の横に座った。

 

「おつかれさまです」

 

「ああ。あんた、あいつにポイント制って言ったの正解だったな。実感したわマジで」

 

 原作で知ってましたから、とは言えず、会長とのゲームの話を持ち出すことにした。

 

 2次のあと会長とボール取りのゲームをした話をかいつまんで話す。

 絶対負けを認めないだろうと思ってあの提案をしたのだと説明した。

 

「ああなると思ってたんですよ。ゴンってすごくひたむきで、すごく頑固だから」

 

「その情報、もっと前に知りたかったぜ」

 

「ハンゾーさん。ゴンに修復不可能な怪我を負わせずに終わらせてくれて、ありがとうございました」

 

「あんたに礼を言われる筋合いはねえが、まあ、うん、あんがとよ」

 

 そのあとハンゾーはふうっと深いため息をついて気持ちを切り替えたのか、少し機嫌を持ち直したようだ。

 

 第四試合はクラピカ対ヒソカ。

 ヒソカがクラピカに何か耳打ちして降参を宣言。4人目の合格者が決まる。

 ここで蜘蛛の話をしたんだっけ? 9月1日にヨークシンってとこまで話したんだっけ?

 

 第五試合はハンゾー対キルア。

 キルアがハンゾーと戦わずに降参宣言。

 キルアもゴンのことでハンゾーに感謝したからかもしれない。

 

 第六試合はヒソカ対ポドロ。

 ぼこぼこにされたポドロにヒソカが耳打ちしてポドロが降参。ヒソカが合格。

 

 第七試合でキルア対ギタラクル。

 ギタラクルが変装を解いてロン毛イケメンイルミお兄様になる。

 

 「ゴンを殺そう」と部屋を出ようとするイルミにクラピカ、レオリオ、ダンと一緒に立ちふさがる。びりびりする殺気を向けられたけど、これは譲れない。

 必死に睨みつけた。

 

 ここも原作どおりにキルアが降参。

 

 第八試合でポドロ対レオリオ。

 試合開始直後にキルアがポドロを殺して失格に。必然的にレオリオが合格。

 

 ポドロが死ぬことは知ってたけど、これは守らなかった。ずっと先のポックルの死は回避しようとして目の前で殺されるポドロはいいのかって話だけどさ。死の悲惨さの違いっていうか……

 ごめん、ポドロさん。成仏してください。

 

 私達二人が参加したけど、結局原作とほとんど変わらない結果となった。

 違ったのは私とダンが合格したことと、ポックルが不合格になったこと。

 

 

 第287期ハンター試験の合格者は8人。

 私、ダン、ゴン、クラピカ、レオリオ、ハンゾー、イルミ、ヒソカがハンターとなった。

 

 

 

 

 

 

 

 翌日、講習を受けてハンターライセンスを受け取り、私はハンターとなった。

 念能力者だから裏試験もなくそのままプロハンターとして認められたことになる。

 

 目覚めたゴンがイルミの腕の骨を折って家の場所を聞き出したり概ね原作通りのイベントを挟み、解散となった。

 

 帰る前にハンゾーさんはシノビとは思えない派手な名刺をくれて、「なんかあったらまたな」なんて話をして別れた。

 私も隠れ家に設置したホームコードの番号を書いた紙を渡す。

 

 最近やっとホームコードを設置したのだ。

 これからハンターになって外へ出て行くようになると必要になるもん。それに夜はガーデンにいることが多いから携帯は繋がりにくいのだ。

 ホームコードは必須ってわけ。

 

 あ、情報収集のための電脳コードはずっと前から持ってたよ。

 そういえばこれからはハンターライセンスでも調べられるんだよね。

 情報量も増えるし。便利だ。

 

 

 イルミも名刺をくれた。「初回は依頼料サービスするから」って真顔のまますっと名刺を差し出され、「ありがとうございます」と受け取ってしまった。

 暗殺者の名刺、貰いました。記念品に飾る以外の使い道がわかりません。

 

 ヒソカにも「また天空闘技場へおいでよ。200階で待ってるから♥ またね、エリカ♠」と言われた。とっさにさっきの名刺に電話しそうになりました。

 こわいです。いきません。わたし、わかんないです。

 

 

 

 

 ハンターライセンスを見つめる。

 やったよ、お母さん。私ハンターになったよ。

 これで、私には身分証ができた。

 

 なんだか、身分証のために運転免許証を取った英里佳時代を思い出す。でも、運転免許証よりもずっとこれのほうがすごいんだ。

 これで飛行船もホテルもみんな無料なんだっけ? ハンターの仕事って報酬もすごいし。

 

 

 ディアーナ師匠には昨日のうちに報告の電話をした。

 携帯にかけたけど、今は自然保護区にいるから繋がらず、教えてもらっているホームコードへ報告と感謝の言葉をいれておく。

 

 ダンも同じようにメッセージを残したらしい。

 

「ダン、これからどうするの?」

 

 自然保護区へはもう行かないんだから全くのフリーなわけだよね。

 

「一度実家に帰ってみようかと思ってんだ。親にも報告してぇし。そのあとは、うん。ハンター専用サイトで何か仕事を受けてみようかな」

 

「そっか。じゃあまたどこかで一緒に仕事ができたらいいね。ダンがいて助かったよ。試験中も。これまでの半年間も。この半年、すごく楽しかった。ありがと、ダン」

 

「俺も。楽しかったかな。生意気だけど、いい相棒だった」

 

「生意気は余計だよ、もう」

 

 拳を突き合わせて、微笑みあう。このところずっと一緒にいたから、ちょっと寂しい。

 でも。また会えるから。

 笑いあって別れをすませた。

 

 

 

 

 

 

 

「ゴン!」

 

 一刻も早くキルアの下へ、とでも言うように固い決意の顔で歩くゴン、クラピカ、レオリオを見つけ、声をかける。

 

「エリカ」

 

「キルアのところに行くのね? 私は行けないけど、キルアによろしく。きっとキルア、ゴン達が迎えに来てくれたら喜ぶから」

 

「うん。キルアは絶対オレが連れて帰るから」

 

「試験中のお礼が言いたかったの。いろいろありがとう、みんな。またみんなと会えると嬉しいな」

 

「じゃあ9月にエリカもヨークシンにくる?」

 

「9月? ヨークシンかあ。いいね。じゃあ会いに行こうかな」

 

 当然9月1日には行かない。

 予定が伸びたと言って、幻影旅団との戦いとオークションが終わってから行こう。

 そしてうまくゴンに私のゲーム機を譲る。

 

 私の予定ではバッテラさんがクリア報酬を使うはず。だからバッテラさんに雇われたらカイトのところへ飛べなくなるもん。

 

 ホームコード、携帯番号を交換し、まだ携帯を持っていないゴンには番号を書いたメモを渡し、また会おうね、と手を振って別れた。

 

 レオリオは偽悪的なことを言うけど話してみると“いい人”感が滲みでてて、話すのが楽しい人だった。

 クラピカは影があって人を寄せ付けない感じがあるけど真面目で、内心は熱血漢。

 二人とも10歳の子供な私にも対等に話してくれた。

 

 ゴンは素直でおおらかで、誰にでも分け隔てなく接するところが魅力的だ。彼はまるで太陽のようだった。人の闇を溶かす温かい心を持っている。

 

 ここには今はいないキルアも、ひねてはいるけど精一杯自分を変えようとあがく姿は眩しい。

 

 原作主人公達はみんないい人だった。

 

 

 グリードアイランドって単語を言うチャンスがなかったのが悔やまれる。

 次は春にカストロさんの試合を見に天空闘技場へ行くからその時に話そう。その頃にはもう念の存在を知っているから“グリードアイランドって修行に最適”とか言えばいいや。

 

 よし、こっちはこれでおしまい。

 

 ハンター試験、長かったですが、終わってみれば充実した日々でした。

 

 

 

 

 


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