エリカ、転生。   作:gab

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バッテラさんと

 

「ハンターのエリカ・サロウフィールドと申します。グリードアイランドのクリアデータの件でバッテラさんと連絡を取りたいのですが、バッテラさんはいらっしゃいますでしょうか」

 

「バッテラは外出しております。メッセージをお伝えいたしますがいかがなさいますか?」

 

「では、ハンターのエリカ・サロウフィールドが、グリードアイランドのクリアデータの件でお会いしたいと、そうお伝えください」

 

 連絡先を言って、また明日同じ時間にもう一度電話すると言って切る。

 明日も留守って言われたら……どうしようか。

 

 

 

 ハンター試験で仲良くなった皆とわかれてまずやったことは、バッテラさんの経営する会社へ電話することだった。

 もちろん会長がいつも会社にいるなんて思ってない。

 彼へ連絡をつける先がここしか思いつかなかっただけ。

 

 でもハンターの肩書とグリードアイランドって言葉で伝言くらいは受け取ってくれるだろうと踏んだわけだ。

 

 

 

 

 

 翌日、また電話をすると、今度は受付から男性の声に切り替わった。

 

「君がグリードアイランドのクリアデータを持っているのかね? クリアされたとは聞いていないが」

 

「エリカ・サロウフィールドです。バッテラさんですか?」

 

「彼は忙しい身なのでね。私がかわりに承ろう」

 

「では、『大天使の息吹』とお伝えください。もう一度明日同じ時間にかけます。では」

 

「待ちたまえ」

 

「バッテラさんにお会いできますか?」

 

「……少し、時間をくれ」

 

 怪しいもんなあ。どうみても詐欺っぽいもんね。

 これでアポイントとれなかったら、諦めよう。せっかく手に入れたのに。

 だめならだめで自分や家族用だと思えばいいか。

 

 数分間、保留中の音楽を聴かされながら、そんなことを考えていた。

 

 その後、電話口に戻った彼から指定されたのはハンター試験の最終試験場となったホテル。そこに明日来るようにという話だった。

 向こうも私のいる場所の傍を指定するあたり、「お前のことはわかってんだぞ」って言いたいのかもね。

 

 まあよかった。アポイントはとれた。すべては明日だ。

 色々準備しておかなきゃだね。

 

 

 

 

 

 

 

 

「お時間を取っていただき、ありがとうございます。エリカ・サロウフィールドと申します。つい先日ハンターになったばかりです」

 

 正面のソファには矍鑠とした老人。彼がバッテラさんだろう。

 その後ろにバッテラさんと同年代くらいの執事っぽい人。ソファの横に立つ護衛らしき筋骨隆々な黒スーツ。そしてその周りと私のソファの周りを取り囲む20人ほどの黒スーツの面々。

 

 ソファ横に立つ黒スーツが口を開いた。

 

「君のことは調べさせてもらった。二つ星ハンター、ディアーナ・マグダレーシヴァの推薦でハンター試験を受け、10歳にして見事初回合格。

 その前は天空闘技場で腕を磨いていたようだが、不思議なことにそれより以前の経歴はまったくつかめていない。

 さて。

 君は、バッテラ氏に対し、何を提示すると言うのかね?」

 

 “ハンター試験の推薦枠”なんて公表されてないだろう情報をしっかり調べてあるあたり、さすがは大富豪サマだ。

 ここで師匠の名を持ち出されると私もちょっと怯んでしまう。

 なんかあったら師匠に苦情の連絡が行くんだろう。

 

 天空闘技場へ通いだした7歳の頃より前の記録がまったくない10歳の少女。怪しいことこの上ない。バッテラさんや護衛達が怪しむのもしかたない。

 

 生まれた瞬間から国民番号が振られるこの世界で、“過去の記録がない”なんてありえないんだ。たった一つの可能性……流星街生まれだってこと以外は。

 だから、今、護衛の男が言った“それより以前の経歴はまったくつかめていない”って言葉は、こう言っているに等しい。

 “流星街の浮浪児あがりが、何をしにきたんだ”と。

 

 でもさ。

 だからって師匠の名をあげたり、こんなに護衛を並べなくてもいいじゃない。なにこれ圧迫面接みたいなやつ?

 20人集められていても大半が非能力者ばかりだ。取り囲まれていても恐怖は感じないんだけど。

 

 まあ私は詐欺するつもりはないから。師匠に迷惑をかけることはない。

 だからこっちも強気でいかせてもらう。まずは邪魔なギャラリーを減らすことだ。

 

「どうか内密に話をさせてください。

 怪しく思うのはわかります。ですが、大恩ある師匠の名を汚すようなことはしないと誓います。

 これから話す内容は、私の能力についての話が含まれます。

 大人数に自分の能力を知られたくありません。能力者にとって、それがどれほど危険か、わかっていただけますよね?」

 

「できないと言えば?」

 

「残念ですが諦めます。私もこんな大人数に能力を知らせるつもりはありませんから」

 

「そう言われても。彼ほどの資産家となれば他者から狙われることも多い。

 何か、君を信頼できる証拠を見せてもらわんことには、そう簡単に人払いはできない。わかるだろう?」

 

「ディアーナ・マグダレーシヴァの名を持ち出しておいて、私を信用できないと?

 せめてもう少し減らしてください。20人もの護衛が必要とでもおっしゃるつもりですか?

 特に能力者でない護衛の方がいる前で、これ以上の話はしません」

 

 一歩も引かないつもりで言えば、バッテラさんのほうも納得したようだ。

 バッテラさんの目配せに、護衛の代表らしき人が2人を選び、残りの護衛を退席させた。

 

「これでいいのかね?」

 

「……じゃあ、これだけお見せします。

 今回ハンター試験で使いましたので、いずれ知られることになるでしょうから」

 

 仕方ない。

 見せつけるように立ち上がる。

 ゆっくりとソファの横の開けたスペースへ移動し、視線が自分に向いていることを感じながら親指を噛みきる。カーペットへ血をたらし、「ポイントB設置“ソファ横”」と唱える。

 次に振り返り扉の前まで進むと、扉前のスペースで同じように血と「ポイントC設置“扉前”」。

 

 これはちょっとしたブラフ。マーキングには血が必要とかそんな情報を渡しておくため。能力を正確に知られるなんてナンセンスだもんね。

 ポイントを2ヶ所作ったのもブラフ。何も言わなければ、ポイント同士しか飛べないと想像するだろう。

 

「こんなふうにマーキングします。あ、汚してしまってすみません。この血はもう必要ありませんからあとで消してください。……では、一瞬なのでお見逃しなく」

 

 そう言って、Cのマークの上から(ポイントBジャンプ)でソファー横へ転移してみせる。

 どよめきの声があがった。

 

「私の能力を使えば、私がマーキングした場所であれば、どんな結界の中でも、どれほど遠くても、一瞬でそこへ移動できます」

 

 私は一言一言区切って強調しながら話す。バッテラさんの顔を見て、必死に語りかけた。

 

「私なら、貴方の助けたい方を、いますぐ助けられます」

 

 バッテラさんが目を見張る。

 

「能力をお見せしました。どうか私を信じてください。

 人払いをお願いします。話の内容にはグリードアイランドの秘密も含まれます。これ以上は、貴方とその関係者の方にだけお話しさせてください」

 

 バッテラさんが初めて声を発した。

 

「私の執事と、護衛として彼ゼノン、この二人は外せない」

 

「ええ。それでいいです。英断に感謝します」

 

 バッテラさんが合図をすると、ゼノンさんが頷く。護衛二人を下がらせて、部屋にはバッテラさんと、彼の傍に立つ初老の男性と、ゼノンさんの三人だけが残った。

 

 円で調べても、この部屋の傍にはいない。

 ってグリードアイランド関連だからツェズゲラさんが出てくると思ってたけど、彼ってまだ雇われていないのかな?

 まあ誰でもいいけど。

 

「ありがとうございます」

 

「君は、私が何を望んでいるのか、知っているのかね?」

 

「知っているわけじゃありません。ですが、金に糸目を付けずゲームを買い漁っていることはわかりました。

 いくら大富豪とはいえ、それほど大枚はたいて欲しがっているんです。相当な熱意をもってらっしゃることはわかります。

 グリードアイランドのカードはどれを選んでもそれぞれ途轍もない効果があります。ですが、これまでに費やした金額を考えれば、それを使えば大抵のことは叶うと思うんです。

 ですから、金銭的な価値とは違うもの、お金では買えない何か、としか考えられません。なので、こう考えました。バッテラさんは、どなたかの病気か怪我を治したいのでは、と」

 

 何のリアクションも見せない彼らに、私は続けた。

 

「指定カードの『大天使の息吹』、これはどんな病気でも、どんな怪我でも治せます。四肢欠損すらも傷跡すらなく元通りになります。これほどの治療ができるものは、私は他には知りません」

 

 まだ何も言わない。

 

「それから、バッテラさんが懸賞をかけたのはもう10年も前の話です。貴方も、その方も、辛く厳しい10年を過ごしたことでしょう。『魔女の若返り薬』を飲めば、一粒1歳若返ります」

 

 黙ってはいるけど、執事さんが身じろぎした。

 

「これは、知られていないことですが、グリードアイランドは実在の場所です。地図に載っていない島ひとつ、まるごと念能力で特殊な結界を張って覆い、ゲームの中のような世界を作り上げています。

 つまり、ゲームという仮想空間や誰かの念空間に入り込むのではなく、念で守られた実在の場所へプレイヤーを転移させているわけです」

 

 三人の顔を順に見まわし、そしてまたバッテラさんへ視線を戻す。

 

「私の転移は、そこへ直接転移できます」

 

「不正に侵入すればゲームマスターが排除しに現れると聞いているが?」

 

 やっとゼノンさんが口を開いた。話してくれるだけ、私のプレゼンが効いてるということだ、と信じたい。

 

「GMが侵入を察知するのは、周りを囲った結界に触れた時です。私の転移は中にあるマーキングの場所へ直接飛びますから、結界に触れることなく中へ入れます」

 

「……続けたまえ」

 

「ゲームの中ではプレイヤーはカードを使って戦い、カードやアイテムで身を守り、カードからアイテム化した物を食べて生活しています。

 中で効果を発揮したものは、外へ出ても戻りません。

 アイテムは外へ持ち出せば消えますが、アイテムを使用した結果は、外へ持ち出せます」

 

 私なんて生まれてからずっと『湧き水の壷』の水を飲んで生きてきた。ログアウトすれば効果が切れるなら、私は今頃ミイラだ。

 

 私はバッテラさんを見つめた。

 

「『大天使の息吹』は私が既に手に入れています」

 

 バッテラさんが息を飲んだ。

 

「貴方と、貴方の治したい方、お二人を私が中へお連れして、そこでカードを使えば、その方はすぐに元気な姿となるでしょう」

 

 バッテラさんは両手を握りしめて震えている。

 

「これはあまり褒められたことじゃありません。ゲームのルールの穴を掻い潜る行為です」

 

「確かに」

 

「ですが、高額な懸賞金につられ、金に目がくらんだ者達が醜い争いを続けています。もう10年も膠着した状態なんです。

 バッテラさんの雇ったプレイヤー同士ですら、チームごと互いに奪い合い、足を引っ張りあっていて、クリアを阻んでいます。

 このまま手をこまねいていては、ゲームクリアが間に合わない可能性だってあるんじゃないでしょうか」

 

 10年以上も寝たきりなんだもん。原作では来年には死ぬんだぞ。

 

「……私の母も、プレイヤー狩りに殺されました。母はゲーム内に入ってすぐ私の妊娠がわかり、その後はゲームには参加せずに私を育てることだけに注力していました。そんな母ですらプレイヤー狩りは襲ってくるんです。私も、何度も襲われました」

 

「君も金に目がくらんでるものの一人じゃないか。バッテラさんの報酬目当てにきたんだろう?」

 

 ゼノンさんが言う。

 

「そうですね。否定はしません。私も報酬目当てです。お金がなくては生きていけませんから。

 ですが、私が一番早くバッテラさんの願いを叶えられることは確かですよ。お金の話がつけば、今すぐにでも」

 

 考えている彼らに、もう一押し。

 

「先ほど書いた転移のマーク。あれと同じものが、今、グリードアイランドの中にあります。よろしければ、一度お連れしますよ」

 

 彼らは顔を見合わせ、バッテラさんが軽く頷いた。ゼノンさんは「では、頼む」と前へでた。

 

 ただし。

 

「ゼノンさん。貴方はプレイヤーですか? でしたら指輪は外してください。これは極秘なんです。ゼノンさんがログインしていることを誰かに知られたくありません。もうしわけありませんが、指輪をここへ置いていくことが条件です」

 

 ログインしているかどうかはリストを見ればわかるから、指輪を持ってくるのはNGだ。

 と言いつつ、本当は他のプレイヤーから見てログイン状態にならないことを気付かせないため。

 だって連れていくのはガーデンだもん。

 

「いや、俺はプレイヤーではない。バッテラ会長の専属護衛だ」

 

「そうですか。では、そのままでけっこうです。

 私の能力で人を連れていくことはできますが、その人を私が抱き上げている必要があるんです。

 ですので、本番もバッテラさん、貴方と、『大天使の息吹』を使いたい方の2回転移することになります。

 あ、こんなナリですが、私も念能力者です。成人男性一人くらい平気で持ち上げられますからその点はご心配なく」

 

 そこまで言うと私はゼノンさんを抱き上げる。身長差がありすぎて縦に持ち上げると足がじゃまだから、お姫様抱っこ。ゼノンさんはすごく微妙な表情を浮かべている。

 

「では、行ってきますね」

 

 ソファ横のマークの上に立って(ジャンプ)。

 

 転移先はガーデンに作ったプレハブの屋敷の一室。

 組み立て式のプレハブ住宅を注文してガーデン内で組み立てたもの。

 

 ダブルベッドがひとつ。テーブルとゆったりソファがあってそこそこ広い。大富豪バッテラさんのために、ちょっと奮発した飾り付けをしている。もちろん内装はメリーさんの作品だ。

 

 部屋についたとたん周りを見回すゼノンさん。

 窓がないことに戸惑っている。

 

「すみません。ここは私がグリードアイランドの中で暮らしている家なんです。安全のため場所を特定されるのは困りますので、窓のない部屋でもうしわけありません」

 

「それでどうやって確認しろと言うんだ」

 

「ですから、はい、おひとつどうぞ」

 

 テーブルの上に用意しておいたクッキーを勧める。

 ゼノンさんは私の言葉に手元のクッキーを見下ろす。

 

「これはなんだね?」

 

「ホルモンクッキーと言います。

 これを食べて女性になった姿で戻ってください。そうすれば、グリードアイランドの中にいたことと“アイテムの効果は外へ持ちだせる”ってことが証明できるじゃないですか」

 

「いや、だがしかし」

 

「だがもしかしもないですよ。バッテラさんの為になるんです。一日で戻るんですから安いものですよ、ね、はい」

 

「君が食べればいいだろう」

 

「私が食べて変わるのと、バッテラさんのもともとの知り合いであるゼノンさんが変わるのとどちらが説得力がありますか? 別人じゃないって証明できないじゃないですか」

 

「…………やむを得ん」

 

 ゼノンさんは物凄いしかめ面をして、苦渋の選択をした。やがて覚悟を決めたのか、クッキーに手を伸ばすと目を閉じて食べた。

 

「お、美人さんですね」

 

「うるさい。ほら、さっさと戻るぞ」

 

「はいはい」

 

 美人だって褒めてるのに、怒ることないじゃん。

 よいさっと掛け声とともにもう一度ゼノンさんを抱き上げ、(ポイントB)へとジャンプする。

 

 クッキーの下りで時間をかけすぎたのか、バッテラさんと執事さんが、じりじりとした表情で待ち構えていた。

 

「帰ってきたか! っと、誰だ」

 

「ゼノンさんです」

 

 女性バージョンゼノンさんは鍛えられたアマゾネス風肉惑的なお姉さんだ。

 黒スーツの胸が押し上げられていて禁欲的な服装がまたさらにセクシーさを醸し出している。

 

 信じられない顔でバッテラさんが二度見する。執事さんもぎょっとした表情だ。あ、初老でもやっぱり胸に目が行くんですね。

 

「ホルモンクッキーというアイテムの症状です。24時間性転換する食べ物なんです。

 これで、間違いなくグリードアイランドに行ってきたことと、“アイテムの効果は外へ持っていける”ってこと、信じていただけましたでしょうか」

 

「おお、おお、おおおおおお。すごい、すごいぞエリカ君。すぐにでも報酬の話を始めよう」

 

「ありがとうございます」

 

「うむ。おい、急ぎ連絡を飛ばし、彼女をここへ連れてくるんだ」

 

「は、はい。かしこまりました。今すぐ」

 

 執事さんが弾かれたように部屋を飛び出す。

 私達は席に着き、交渉の時間となった。

 

 

 




※ツェズゲラはヨークシンシティ編で“この半年間”と言ってますので、この時期にはまだ雇われていないのではないかと推察。
プレイヤーの立場でバッテラにアドバイスをするツェズゲラのポジションはこの時期には誰もいないとしました。
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