エリカ、転生。   作:gab

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HUNTER×HUNTER
エリカたん、3歳。


 

 

 

「可愛い可愛いエリカちゃん。ママはここでちゅよお」

 

 ふっと意識が戻る。

 抱きしめてくれる誰かの腕。

 圧倒的な安心感を感じ、嬉しいのにそれを表現できずに泣く。

 

 その名前は知っている。

 あの呼び声は自分を呼んでる。嬉しい。眠い。お腹すいた。断片的な感情。

 

 優しく響く歌声は子守歌なのか。なんとも心地よい感触に身をまかせ、私はまた眠りについた。

 

 

 生まれてすぐは脳が未発達なため、前世の記憶など複雑なことは何も考えられず、ただ与えられる愛情を享受して育った。

 

 

 

 ……私が生まれて数年。もうすぐ三歳になる。

 赤ちゃんの頃から自我が目覚めていくに従い、前世の記憶も徐々に蘇ってきた。

 

 転生系の小説にあるような、何かの拍子にある日いきなりずぱんと思い出すのではなく、なんとなく、少しずつ、過去と現在が混ざりあうような感覚で、徐々に新しい自分になっていく、というような感じだった。

 英里佳とエリカが混ざり合い、今までの英里佳をベースとした、私ができていく。

 

 鏡を見て驚いた。

 緩やかなウェーブを描く茶色の髪とヘーゼルの目。今生のお母さんそっくりだ。

 

 将来はきっと美人さんになるだろうと自画自賛してみる。つまり、今の私、エリカは、洋風美幼女だった。

 これも転生特典なのか。うん。人生勝ち組かもしれん。

 

 

 

 ――その洋風美幼女三歳児エリカちゃん、今、カーペットのうえで座り込み、腕組みをして首を傾げている。

 傍から見れば、子供らしくないしぐさかもしれないけど、取り繕う余裕がないのだ。

 

 私、今、悩んでいます。

 

 三歳の誕生日を間近に控え、やっと周りを冷静に判断できるようになってきて。

 

 今まで、

 生まれた時から傍にいたため馴染みすぎて気付かなかったもろもろが、

 幼すぎて疑問すら感じなかったもろもろが、

 やっと、

 今頃になってやっと、

 すごくおかしいとわかってきたのだ。

 

 なんで?

 

 

 

 

 なんで、私ってばパンダに世話されてんの? と。

 

 

 

 

 うちってちょっと……いや、大いにおかしい。と思う。

 うちの家族は三人だ。お母さんと私とメリーさん。

 

 お母さん。名前はまだ知らない。誰も呼びかけないからね。

 それから私、エリカ。名字はまだ知らない。

 父親を見たことがないから、単身赴任か、または母子家庭かな。

 ここまでは、まあ普通。

 

 もう一人の家族。パンダのメリーさん。

 身長160センチほどの直立したパンダだ。

 メリーさんは私が生まれた時からずっと世話を一手に引き受けてくれている。“エリカ”にとって乳母のような存在だ。

 

 私が呼びかけると、柔和な視線をこちらへ向けて「なに?」とばかりに少し顔を傾げる。ものすごく可愛らしいしぐさだ。

 

 すっごく優しくて、抱きしめられると心がぽよぽよ温かくなって、料理が上手で、お裁縫が趣味の、乙女の鑑のような彼女が、私は大好きだ。

 残念ながら言葉は話せない。でも遊園地の着ぐるみ並みに大きなリアクションを取ってくれるから、意思の疎通には困らない。

 

 家族だけじゃなくて、身の回りにもいろんなおかしいものに溢れている。

 

 うちの家は岩に囲まれた空間の中にある。

 何言ってんのかわからないだろうけど、岩山を掘って切り開いた空間に、ログハウスのような家を建てて、そこに住んでいるのだ。

 隠れ住んでいるっぽい。

 私は家からでちゃいけなくて、お母さんかメリーさんと一緒なら庭に出ることが許される。

 外はすごく危ないから、絶対にでないことを固く固く約束させられている。

 

 

 庭には大きな木が一本あって、その木には不思議なことに毎日いろんな種類の果物が成る。どんな果物が成るのかはランダムで、毎日違う果物を楽しめる。どれも美味しい。

 メリーさんがタルトやジャムを作ってくれる。

 

 それから、小さな池がある。

 そこの魚は数が減らない。一匹入れると翌日にはもう一匹増えているんだって。

 だから魚はいつも新鮮なものを食べられる。

 余ったらメリーさんが日干しにしてくれる。

 

 公園にあるような小さな噴水もある。

 この水を汲んで樽にいれて置いておくと一週間でお酒ができるらしい。お母さんの晩酌用だ。

 

 うちのお風呂は凄く気持ちがいい。

 天然かけ流し温泉で、このお風呂に浸かると肌が艶々になるのだ。美幼女な私はもちろん、お母さんも肌トラブルとは無縁の美肌持ちだ。

 

 いつもはメリーさんの美味しい手料理を食べているんだけど。たまに違うものが欲しくなる。ここの街では手に入らない食材のものとかね。

 ラーメンとか、お寿司とか、チャーハンとか、チキンの唐揚げとか、アイスクリームとか。

 そんな時は『バーチャルレストラン』。

 壁に設置した扉を開けると部屋があって。部屋の真ん中に白いテーブルクロスがかかったテーブルがある。

 そこで注文すればどんな料理でもちゃんと出してくれる。

 

 あとは、水が一杯でる水差しとか、夜眠っている間に作業をすませてくれる七人の小人さんとか、壊れたものがあれば入れておくと一日で直る部屋とか。

 

 庭にある狭い畑ではジャガイモやら野菜を作っている。

 お母さんとメリーさん、小人達が世話をしている。

 

 肉が食べたい時はお母さんが隠れ家からでて、狩ってきてくれる。ものすごく美味しい肉なんだよ、これが。

 

 とまあ、こんな感じでほぼ自給自足の生活をしている。足りない食品や生活用品はマサドラという街にお母さんが行って購入している。

 

 

 …………って。

 そろそろ突っ込んでいいかな。

 

 なんでパンダなの?

 毎日ランダムな果物が成る木とか、海川取り交ぜていろんな魚が増える池とか、酒になる泉とか、バスルームの扉をあけたら天然温泉(露天風呂あり)とかね。もうね。

 

 ここってグリードアイランドの中だよね?

 『メイドパンダ』とか『7人の働く小人』とか『豊作の樹』とか『美肌温泉』とか、他もろもろ、でしょ?

 なんでお母さんカード集めないでごんごん使っちゃってんの??

 

 ってことで。

 わたくしエリカ。

 転生先は、HUNTER×HUNTERの世界のようだ。

 

 そしてどうやら、ここは主人公達がクリアすることになる、あのゲーム、グリードアイランドの中にいるみたいなのだ。

 なんでゲーム内だとわかるかと言えば、だよ。お母さんがバインダーを取り出してカードを肉に変えるところを見ればね、気付きますよね、ほんと。

 

 

 どうしてゲーム内で生まれたのか、なんで隠れ住んでるのか。

 こんな状況になっているのか、誰か私に説明してほしい。

 でも、私ってまだ、三歳なのよ。

 お母さんに聞いたら、おかしいよね。

 

 ここは物語だって言えないし、前世の記憶があるなんて、もっと言えない。

 こんなに大事にされているのに、もしお母さんが、私のことを知って「気持ち悪い」とか、ニセモノの子供か、なんて思われたら、私、ショックで死ねるね。

 

 確かに前世では18歳だったけど、今は3歳なの。

 精神は18歳程度のままなのだけれど、身体に引っ張られてしまうのか、母親やメリーさんへの依存心とか、愛がね、もうヤバいの。

 ちょっと眠い時や寂しい時に、視界にお母さんかメリーさんがいないと、自分では制御できない悲しみに泣き叫んじゃうんだよ。「お、お、おがあざあぁぁぁん」って。

 

 

 もうちょっと大きくなったら説明してくれるかなって考えている。

 とりあえず、さっきからお母さんの姿が見えないことに、だんだん不安になってきた。あ、ほら、もう我慢できない。

「お、お、おがあざあぁぁぁん、どこぉぉ、うびえぇぇん」

 

 

 

 

 

 誕生日だぜヒャッハー!

 今年もお母さんとメリーさんがお誕生日パーティを開いてくれた。

 

「さあ、エリカ、エリカはもう三歳でお姉ちゃんだから、ぎゅっと握ったり、嫌がっているのに抱きしめたりしないって約束できる?

 今日エリカのお友達になってくれる子はね、小さくてまだまだか弱いの。お母さんやメリーに抱き着く時みたいに体重かけたりしちゃだめなのよ。わかる?」

 

 賑やかな誕生日パーティの席で、お母さんはすごく丁寧に説明してくれた。

 お友達をくれるらしい。わーい。お友達をくれるってなんだよ、とツッコミたいんだけど、3歳児だからね、大好きなお母さんからのプレゼントにテンションあげあげですよ。

 

「わかる!」

 

 今日会えるお友達は、私より小さい子。

 お姉ちゃんだもん。大切に私が守る!

 私がそう言うと、お母さんは満足げに私の頭を撫でてくれた。

 

「聞いた? メリー! もうほんと、うちの子天才!」

 

 メリーさんも「ほんとですとも!」なんて風に両手を握ってうんうん言ってる。

 

「さあ、エリカ。貴女のお友達よ。仲良くしてね。……『カメレオンキャット ゲイン』」

 

 お母さんが私の手のひらにカードを乗せる。お母さんの『ゲイン』の言葉とともに、カードが煙に包まれて消えた。

 

 カードのかわりにぽよんと現れたのは……緑色の……猫?

 全身がふさふさとした緑色の短い毛で覆われている。色といい質感といい、まるで苔みたい。

 尻尾はトカゲっぽい。というか、カメレオンの舌みたいな感じ。

 

「ねこたん!」

 

 可愛い。

 普通の猫とは明らかに違うんだけど、味のある可愛さだ。ブサ可愛い。

 赤ちゃん猫じゃなくて、普通の猫サイズより少し小さいくらい? たぶんまだ子猫。

 

「可愛いわね。この子はね、成長するといろんな動物の姿に変身してくれるのよ」

 

「すごい! 面白いね。よろしく、ねこたん!」

 

「お名前はエリカが決めてあげるのよ」

 

「うん!」

 

 わーいわーい。可愛いぜ。友達ゲットだぜ。

 なんせね、もうね、私って生まれてからこの方、お母さんとメリーさんしか接したことないのよ。会話できんのお母さんだけ。

 

 マジ、私に前世の記憶がなければ、言葉を話せるのもきっと遅かったはず。

 うちには小人が7人いるんだけど、彼ら、私が寝ている間にお仕事してくれるだけで、コミュニケーションはできないからね!

 いつもドールハウスの中で座ってるだけだからね! しかたないね!

 

 お母さんも情操教育のためには生き物との交流が必要、とでも思ったのかな。

 ゲームの中に子供はいないもんね。探せば村人NPCとかならいるかもだけど。

 外は危険だから、念も使えない幼女を家の外へだせるわけないよね。

 

 友達ができないのなら、こうやってペットになるカードをアイテム化させるしかなかったんだろう。

 ってこの子、指定カードの『カメレオンキャット』だよね。ちらりと見えたカードのレア度は「S」。Sランクカードを私のためにアイテム化しちゃったよ、お母さん。

 

 ねこたんの名前は家族会議の結果、カメレオン→変わる→七変化→虹、という連想ゲームで、虹、ラルクアンシエルから、ラルクと名付けた。

 

 とりあえず。エリカ、3歳になってやっと友達ができました!

 

 

 

 カメレオンキャットは、“猫みたいなカメレオン”じゃなくて“カメレオンみたいな猫”ね。生態にトカゲ要素はない。

 カメレオンなのは変化能力のこと(見た目もちょっと爬虫類っぽいけど)。

 

 食べるものは普通の猫と一緒。

 マサドラの街にキャットフードが売っていて、お母さんが買ってきてくれる。

 

 行動も猫そのもの。

 気まぐれで気取り屋だけど、けっこう甘えん坊なところが可愛い。

 リビングでくつろいでいる時なんかに、ふらふらと近づいてきて背中を向けて座ることがある。

 撫でてほしいんだけど、撫でてっていうのは嫌みたい。

 

 ほらほら、手の届く場所にいるんだよ、撫でたければ撫でさせてあげてもいいよ、というポーズで座って誘っているのだ。

 気付かないフリをすると、腕やら足やらに尻尾を巻き付けて、ぽすん、ぽすんと叩いたり、くいっ、くいっ、って引っ張ったりして誘う。

 抱き上げて膝に乗せると、「しかたないなあ」の顔をして、そのまま膝に丸まる。くふうくふうと満足げな鼻息をだして。

 

 

 くっそ可愛い。

 

 3歳になって個室になった私と、夜は一緒に寝ている。

 変身能力はまだない。

 頑張って育ってもらいたいものだ。

 

 

 

 

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