エリカ、転生。 作:gab
1999年 4月 10歳
始めたばかりの神字の修行をいったん休み、天空闘技場へ戻ってきた。
原作通り、カストロさんのヒソカ戦が行われることになったから。
客席に座り、カストロさんの戦いを見守る。
どうか、どうか殺されませんように……
「やあ♥ 見違えたよ。素晴らしいね」
「君に負けたあの日から修行は欠かしていないさ」
「いい師匠に恵まれたみたいでよかったよ♠ まさかここまで成長してるとはね♥ 楽しませてもらえそうだ」
互いに向き合うヒソカとカストロさん。
すでにヒソカのさりげない動きでバンジーガムがいくつか飛んでいる。気付いているかカストロさん。
原作の彼はバンジーガムを知らなかった。おそらくカードを高速で飛ばすだけの手品師だと考えていたんだと思う。
今のカストロさんは違う。バンジーガムの能力はしっかり理解している。ヒソカの対戦ビデオで“凝”の訓練もさせたもん。
だから大丈夫だよね? がんばってよ、カストロさん。
カストロさんの必殺技のひとつは『虎咬拳』の強化版だった。
強化系の有り余る攻撃力を一点に集約させた『虎咬拳』のパワーアップバージョン。
掌に渾身のオーラを集中させて繰り出すその攻撃は、闘技場の床に巨大なクレーターを作った。
ウボォーか!
今回の試合では全貌は見えなかったけど、『虎咬拳』の構えに、虎を模したオーラが身体を覆う“発”もあった。あれはゾルディックのお爺さんのドラゴンなんちゃらみたいな技か? 強化系をメインにすえているだろうからあれとは違うだろうけど。
グリードアイランドを出てから会っていなかったこの一年の、カストロさんの修行の成果が見えた。
念能力の実力は原作など比べ物にならないほどに洗練されていて、研ぎ澄まされた闘気は会場を揺るがせ、ヒソカを興奮させていた。
自信にあふれ、それでも慢心することなくヒソカに立ち向かう。
“凝”も抜かりなく、ちゃんとヒソカの“隠”を見破っていた。
あと、“人に能力を教えるなんて危険”と滾々と説明しておいたから、原作のようにこんな能力なのだ! なんて語るシーンはなかった。
残念ながら、念能力者としての経験の差は大きくて、技巧に優れたヒソカには勝てなかったんだけど。
でも、ヒソカは彼を殺さなかった。
その事実に、心底ほっとした。
試合後担架で運ばれたカストロさんの部屋へ見舞いがてら挨拶に行く。
「カストロさん、お疲れ様でした」
「……私は負けたのか」
「でも、生きてます」
「それがなんだというのだ」
「ヒソカは戦闘狂で強い敵を欲しています。だから強くなる素養のある者を生かします。死んだらもう戦えませんから。
つまり、ヒソカが殺さずに、四肢欠損のような取り返しのつかない怪我もさせずに試合を終えたということは、貴方がまだ成長すると彼が見込んだからです。
この2年間、カストロさんはすごく努力して成長し、貴方の実力をより一層引き出せる“発”も開発しました。
彼はそれを評価してるんです。ここで殺すより、もっと強くなったカストロさんと戦いたいと思ったんです。
誇っていいと思いますよ」
「しかしまだ彼には届かない」
「カストロさんが2年必死で修行を積んだように、ヒソカだって修行してますよ。彼も成長してるんです。一流の能力者は決して修行を欠かしませんよ。だからみんなどんどん先へ行くんです」
「そうか……いや、そうだな」
「お疲れさまでした。いい、試合でした」
「……ありがとう」
カストロさんが生きていてくれて、嬉しい。
彼はこれでまた一つ念能力者として成長した。“発”も凄かった。
できうれば、このまま武闘家としてヒソカに殺されずに生きてほしいものだ。
カストロさんに挨拶を済ませて部屋を出ると、今日ここに来たもう一つの目的の部屋へ向かった。
もちろん受付でちゃんと部屋の場所は教えてもらってきたよ。
「ゴン」
「え? エリカ? エリカじゃん」
私に気付いたゴンが嬉しそうに頬を綻ばせる。
「ずいぶん酷い怪我をしたって聞いたんだけど?」
見た目にはぜんぜん元気だ。
「うん。もう治った。動いちゃだめって言われてるから退屈で退屈で」
「覚えたての念で200階の試合に出るなんて、自殺行為だよ」
「え? エリカも知ってるの? あ、そうか。エリカも、なんだね」
私の“纏”に気付いたみたいだ。
「うん。ハンター試験の最終試験の時、私が“まだ言えない”って言ったの覚えてる? 念についてはハンターにならなきゃ教えちゃいけないってルールがあるの。黙っててごめんね」
「じゃああの時からエリカは念が使えたんだね。ダンも」
「うん。そうだよ」
「じゃああの最終試験のあれって?」
「あれが私の能力なんだけど、えっとゴンは今どこまで教わっているの?」
まだ教えてもらっていないなら“発”なんて単語を言ってはだめだよね。
「“纏”と“絶”だけ。今は念禁止令中なんだ。ずっと“点”だけしてる」
“点”は精神集中法だ。それも大切なことだけどさ。
「え? “纏”と“絶”だけで試合に出ちゃったの!?」
原作で知ってたけどつい叫んじゃった。だって実際に念を知ってからこの状況を見るとつい、ね。よく大怪我なだけで済んだよほんと。手足の一本も無くなってても不思議じゃない。
考えただけで震える。
いくらゴンが主人公だから大丈夫だって知ってても。もう私にとってゴンは主人公じゃなくて友達だからね。
いっぱい叱られてるだろうからお説教は少しにしておいたけど。
もっと先で知るようになるからその時にまた見せるね。禁止令中は我慢ね、なんて話しているとそのあとキルアもやってきて、三人でいろんな話をした。
キルアは今日のカストロさんの試合を見たらしく、すごい試合だったと興奮していた。
「カストロさんはすごい武闘家だから、試合運びも勉強になるよね」
「エリカも観たの?」
「うん。私の体術の師匠なんだ。んでヒソカ戦だからって聞いて観に帰ってきたの」
「へえ! エリカの師匠なんだ。あー、観たかったなあ、もう!」
「録画はちゃんとしてあるんだろ? 後で一緒にみようぜ」
キルアがゴンを慰めている。あ、私もビデオ買って帰ろうっと。
その後、いろんなところに旅行をしてきたという話をする。
どこの料理が美味しかったとか、どこの風景が綺麗だったとか。
お土産とお見舞いをかねて、バッグからジャポンの寿司やお好み焼き、唐揚げなんかをどどっと出す。
「なんであったかいの?」
「すげー、湯気が出てんじゃん」
「ふっふっふ。驚け驚け。こういうのもあるってことだよ、諸君」
えっへん、なんて両手を腰にあてて仁王立ちしてみせた。
「つるぺたの分際で胸を張るな」
キルアが憎まれ口を叩く。失礼ね。私はお母さんみたいなキュートな美人になるのよ。胸だってすぐに成長するんだから!
わいわい騒ぎながら食べた料理はとっても美味しかった。
今は神字の勉強をしているから、またすぐにそこへ戻るという話をして、もう一度9月の約束を交わす。
「あ、そうだ。ねえ、二人はグリードアイランドってゲームを知ってる?」
「え? 知らないなあ」
「ゲームなんてやらねえよ。豚くんじゃあるまいし」
キルアが「はあ?」って顔をする。まあゲームって言われたらそんな反応しちゃうかな。
「ゲームって言ってもテレビゲームじゃないんだよ。念能力者のために作られた場所なの。ここで修行するとすごく強くなれるんだから」
「ゲームなのに修行なのかよ」
「でも確かに10歳にしては強いよね、エリカって」
「いつか手に入れたらやってみて」
「うん」
「まあな」
よし! ミッションクリア。ちゃんとグリードアイランドって言ったよね。
覚えててよ、グリードアイランドだよ。
これ、テストに出るからね、ゴンくん、キルアくん。
ほんとは今渡してもいいんだけど、ヨークシンシティに行かずにゲームに入ってしまうかもしれない。
そうなれば、友人というストッパーを得られないクラピカが怒りのあまり暴走して危機に陥り、そのまま幻影旅団に殺されることになるかも。
それにさ、ゲーム機を持ったままヨークシンシティにゴン達が行けば幻影旅団に取り上げられちゃうよね。それも困るし。
だから、今は話だけしておいて、9月に私が持って行って渡すつもり。
もちろん9月1日には行かないよ。
詳しい日程は覚えていないけど、サイトで調べればグリードアイランドがオークションに出品される日はわかる。
オークションが終わったあとで安全になったヨークシンシティに行ってゴンにゲーム機を渡す。
きっと原作通りの道を進んで行くんだろう。
じゃあまたね、と挨拶を交わし、私はゴンの部屋を出た。
今から数ヶ月で念を習得しちゃうんだよね、ゴンとキルアって。
すごい才能だと思う。
ゴン達に激励の言葉を送り、私はまたマーリポスの街へ戻った。
神字の修行のためね。
私は超一流ミュージシャンだ。
だけどさ。
“超一流”と“天才”の差は、大きいんだってしみじみ思う。
目指すものはあのトライガンに出てくるホーンフリークだ。
サクソフォンを吹いて衝撃波を出したい。あと超音波でばばっと敵を倒したり。周囲の音に音をぶつけて無音にするのも。
それの練習をしているんだけど、なかなか難しい。
まず音を指向性の攻撃にするのが難しすぎる。
だって音って誰にも聞こえちゃうんだから。
ホーンフリークの持つ攻撃技って、ほんとのほんとのほんとの天才にしか成しえない境地なんだと思う。“超一流”なだけじゃ一歩届かない。
でも!
私には念能力者としての長い寿命がある。影がいる。転生先でも修行ができる。
だからきっといつかはその技の頂きも見れるようになると思う。
で、だよ。
それまで使えないのは困る。
そこで神字だ。
これで自分や自分が守りたい相手に渡すお札を作る。
そして“発”で札のあるものだけへバフをかけ、札のないものにデバフをかけるようなものを作るのはどうだろう? ってのが今検討していること。
ホーンフリークの殺人音波も。
これは必殺の技だから特に怖い。
万が一仲間に効果がでてしまうと自分の手で仲間を殺すことになってしまう。そんなことになったら自分が許せない。
ホーンフリークの能力自体を“発”にしてもいいんだけど。でもメモリが足りそうにない。
それに技術が向上すればいつかは自分で実現できそうじゃん? そこに到達するまで先はすごく長いけどね。それでも不可能なわけじゃない。自力でできるものに残り少ないメモリを使うのってどうよって思って。
神字と“発”と音楽的才能をどうフュージョンさせていくかが、今の私の命題だ。
1999年 6月 11歳
11歳になった。
やっと背も少し伸び始めた気がする。
私ってたぶん年齢の平均身長より低いと思う。
筋力アップの念具も9歳からつけっぱなしだしね。幼い頃から筋肉をつけすぎるとあまり背が伸びないというから心配していたのだ。
このままちびっこになっちゃうのかとどきどきしていたんだけど、きっとこれからだよね。
お母さんもあんまり背が高くなかった。メリーさんより低かったからたぶん156,7くらい?
せめてメリーさんは超えたいな、と願ってます。
1999年 7月 11歳
クジラ島でジンのメッセージを聞いたゴンはすぐに私の言葉を思い出してくれたみたいで、ちゃんと電話がかかってきた。
グリードアイランドのことを教えて欲しいと言われる。
「ジンの手がかりなんだ」
「ジンってお父さんのこと?」
「うん」
「へえ、もうお父さんの手がかりを見つけたの? すごいじゃない。じゃあ私の知ってることを話すね」
念能力者だけが入ることができるゲームで、危険だけど念能力の修行には最適だと説明をする。
ゲームを順序よく進めていけば自然と念修行が進む環境が整っていて、実力と熱意が伴っていればすごく楽しめるゲームだ。と話す。
まだ誰もクリアしたことがないこと。
とても危険で、ゲーム内の死は現実の死になること。
それからゲーム機に100億ほどの値がついていること、大富豪バッテラさんがクリア報酬に500億の懸賞をかけていること、などおそらくミルキに教えてもらうことまで話す。
「エリカはこれをやったことがあるんでしょ?」
「うん。すごく楽しかった。クリアはできなかったけど」
「ゲーム機ってどうやって手に入れたの?」
「お母さんが持ってたんだ。だからまだ私が持ってるよ。ゴンとキルアがしたいなら譲るよ?」
「いいの?」
「うん。今は使ってないし」
もちろんすぐに渡すとヨークシンシティ編に差し障るかもしれないから、9月に会う時に持っていくよ、と言っておく。
無料で譲るって言っておいたけど、「できるだけお金稼いでみる!」って言って電話がきれた。ヨークシンに行って腕相撲とかするんだろうか。
ゴン、キルア。
これからヨークシンシティ編に突入してしまう。そうすれば幻影旅団と戦うんだ。
大丈夫かな。
一緒に行けば絶対クロロに能力を奪われると思う。そうなればゴン達も危険にさらすことになるだろうし。
お願い。どうか、どうか彼らが傷つきませんように……