エリカ、転生。   作:gab

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キメラアント編1 告白

2000年 5月 11歳

 

 謎の生物が巨大なキメラアントだと判明した、その夜。

 スピン達と別行動をとって私達は宿舎に帰った。

 ゴンとキルア、ダン、そしてカイト。

 4人に囲まれて聞かれた。

 

「なあエリカ。そろそろ話す気になんねえ?」

 

 キルアの言葉に、へ? と顔を見る。他の人の顔を見ればみんな何の疑問もなく私を見ている。

 

「なんか隠してるだろ? ヤバい敵のこととかさ」

 

 ダンが続ける。

 

「去年の9月の時点で何か問題を抱えてることはわかってたんだがな」

 

 カイトも。

 

「オレ達じゃ力になんない?」

 

 ゴンもいつものまっすぐな目を向けてくる。

 

 黙ってみんなの顔を見まわしているとキルアが話し出した。

 

「お前さ、グリードアイランドでヒソカに話してたろ、オレ聞いてたんだ。

 『強くって、ヤバくって、多彩な能力持ちの敵がいっぱいいる』って言ってただろ? 『ネテロ会長よりずっと上がひとり。会長並みが少なくとも3』とも言ってた。敵がいるのは『バルサ諸島のあたり』ってキメラアントのことだろ?」

 

 

 ああ、みんなわかってたんだ。わかってて待ってた。私がみんなに話すのを。

 

「ごめん。えっと……」

 

「オレにも関係あることだろ?」

 

 カイトが言った。

 

「オレを見るお前の表情がな。時々すげえ辛そうなんだ。そのたびに何かを決意する目をして」

 

「いい加減ちゃんと話せよ、エリカ」

 

 ダンに促され、一度目をぎゅっとつむる。

 

 うん。ちゃんと話そう。予知能力再びだ。

 信じてもらえると嬉しいんだけど……

 

 

 心の中で折り合いをつけ、目を開ける。

 覚悟を決めて口を開いた。

 

 

「私さ。昔からたまに未来のことが見えることがあって……母は先天的“発”だって言ってた。制御できてないから必要な時にあんまり役には立たないんだけど。

 去年カキン国でカイトと出会って、見えたの。猫耳のキメラアントにカイトが殺されて……」

 

 キメラアントに殺された無残な村の姿。好戦的で残虐な性質のアリ達。

 強い上位種との遭遇。

 足手まといのゴン達を逃がすため一人残ってカイトが戦う。

 その時に猫……ピトーに殺されてしまう。

 

 ピトーはカイトとの戦いが楽しかったからカイトの死体を持って帰り、“発”を使い自動で動く人形を作り上げる。ツギハギの死体はアリの戦闘訓練に使われる。

 

 キメラアントの王が生まれて巣が分離した時、カイトの身体は助け出される。自動で動いているからツギハギの身体でも生きていて操作系の能力で操られていると判断されたから。

 

 ゴンはカイトを助けるためにピトーに無茶な戦いを仕掛ける。そこではじめてカイトが死んでいることを知って……

 

 と途切れ途切れにこの先の出来事を話した。

 あまりに荒唐無稽で、あまりに残酷な話すぎて、話が終わっても誰も口を開かなかった。

 

 信じてもらうのは難しいってわかってたんだけど。

 

「……エリカ。そのピトーって奴と戦ってたオレは何番を引き当ててたかわかるか?」

 

「ピエロのルーレット? 3番だったと思う」

 

 あんまり詳しく覚えていないキメラアント編でもこのシーンはしっかり覚えている。

 

「信じてもらえないかもだけど……」

 

「いや、信じる」

 

「カイト?」

 

「エリカに見せたことのない“気狂いピエロ”のことを知ってるんだからな。信じるさ。

 それに。

 3番はな。オレが『ぜってー死んでたまるか』って本気で思わねえと出ねえ番号なんだ。それが出たってことはそれだけそいつが強かったんだろう。オレの考えが甘くて、守らなくちゃいけない奴らを死地へ連れていったオレのミスだ」

 

「じゃあホントにオレが我が儘言ったからカイトが死んじゃうの? オレ……オレ」

 

 ゴンが目に涙をいっぱい溜めてぷるぷる震えている。

 それにカイトは頭をがしがし撫でて「泣くな」と言うと私を見た。

 

「わかった。敵はNGLにいるんだな。それでまだ王は生まれていないが、王が生まれれば東ゴルトーへ行って王城を占拠する。ここまではあってるな」

 

「うん」

 

「王はネテロ会長よりも強い。王の側近の3名もえれえ強え。そうだな?」

 

「うん」

 

「で? お前はそれをどうしようと思ってたんだ?」

 

「え?」

 

「だから。準備してきたんだろ? まさかオレが死ぬような敵にお前なら勝てるってのか? 何か作戦を考えてオレのとこへ来た。だろ?」

 

「エリカ、きりきり吐いちまえ。オレ達にも関係あるんだからよ。秘密はなしだ」

 

 キルアが言う。

 

 私はみんなの前で影をひとり出してみせた。

 

「うわっ、エリカが二人?」

 

「分身か?」

 

 驚くみんなの顔を見まわす。

 

「今まで黙っててごめん。私のもう一つの能力です。ダブルと言います」

 

 ごめんよ。原作カストロさん。わかりやすいネーミングなんで使わせてもらいます!

 まあいいよね。今のカストロさんはダブルなんて使ってないんだし。

 

「私の分身を作り上げる能力。私と同じことができて、戦闘能力は下がるけど離れても自立して行動できる。過度の衝撃で消えてしまうんだけど、消えた際にその記憶が私に入ってきます」

 

「……つまり、索敵用というわけか?」

 

「ジャンプもできるし、ジャンプポイント設置もできる。だから、先乗りして安全を確かめてポイントを設置したり、逃げる時に私と同じようにみんなを抱き上げてジャンプすることもできる。

 こんな風に爆弾を持って行って爆破特攻させることも」

 

 鞄から爆弾を出して見せる。

 爆弾や手榴弾まで用意していた私の本気度に、みんな息を飲んだ。

 

「それから……」

 

 もう1人影を出す。

 

分身(ダブル)双子(ダブル)なの」

 

 “ダブル”という名は二体しか出さないためのブラフだ。分身と双子をかけたダブルミーニングだと思ってもらうため。このキメラアント編を影2体で乗り切ろうと考えている。

 命の危険になればがんがん出すけどさ。

 

 ゴン、キルア、ダン、カイト。私一人で4人くらいわけなく持ち上げられるけど、一瞬で逃げようと思うと、私の小さな身体に4人はバランスを崩して落としちゃうかもしれない。

 最初から影をだしておいて、キルアとゴンは影1、カイトとダンは影2、私はシルヴィアというように分担を決めておけば、安全に退避ができる。

 

「ダブルはゴン達をつれてホームへ飛ぶ。

 私はシルヴィアで衝撃波を放つ。そうすればピトーに隙ができる。守る相手がいなくて万全の態勢のカイトなら斃せる。

 もし現場でカイトが敵わないと感じるなら、みんなでホームへ飛ぶ。

 これなら、誰も死なない。誰も。死なせない」

 

 

「それで1人で頑張ってたわけか」

 

「私……私、カイトに死んでほしくなくて……ゴンにもあんな……あんな」

 

「ありがとな、エリカ」

 

 カイトが頭をぽんぽんしてくれる。

 

「でももうお前だけで悩むな。オレ達は仲間だ。みんなでキメラアントをぶっ倒すぞ」

 

「おう!」

 

 みんなの決意に満ちた力強い目に、勇気をもらった。

 

 それに今まで話せなかったことをやっとバラせたことは、すごく気が楽になった。予知って能力が周知されているのって便利だ。

 全部話してもいいんだもん。

 

 

 ずっと独りで悩んでいたことを話せるようになって、肩の荷が降りた私はべらべらと覚えていることを全部話した。

 といっても途切れ途切れの情報しかないんだけどさ。

 

 

「……あのさ。エリカはどうしてオレ達をカイトのもとへ連れてきたの?」

 

 ゴンに改めてそう聞かれる。

 

「そうだな。ゴンがいなければカイトが死ななかったかもしれない。ならゴンをカイトのとこへエリカが連れてこなければ、カイトの危険は減ったんじゃねえの?」

 

 キルアもそう言う。

 これは私も悩んだことだから返事は決まっていた。

 

「あのね。予知したなかにゴンとキルアもいたの。でもどうやってゴン達がカイトのとこへ来たかはわからない。私が知らないうちにゴンが来るかもしれないでしょ。なら一緒に行ったほうがまだ安心かなって」

 

 『同行』カードの話はしない。ややこしくするだけだから。

 

「カイトとゴンが一緒にNGLに行くんじゃなくて、NGLに行ったらゴンがいた、ってことかもしれないってことか」

 

 とその可能性に気付いたダンが膝を打つ。

 これは本当。歴史の強制力的な何かがあってゴン達が乗った飛行船がNGLに不時着するなんてこともあるかもしれないじゃん。

 

「オレら先の予定がなかった。んで適当に飛行船のチケットを買ってNGLに行くって可能性もあったわけか」

 

 キルアも納得したようだ。

 

「ゴンやキルアに他の面白い場所を教えてそこへ行ってもらうってのも考えたの。

 でも。ゴンがカイトをすごく慕っているのはわかってた。あんな制約と誓約で死にかけるほどだもん。

 ならさ。ゴンが知らないところでカイトが死にかけるのを後で知るのはどうかなって思って。それに危険な場所だけど、ゴンもキルアもここですごく強くなるの。その可能性を私が奪っちゃだめだと思って」

 

 絶対カイトを死なせない準備ができているなら、ゴンがゴンさんにならないなら、彼らの成長の場面を邪魔するなんてやっちゃイケナイって思ったのだ。

 

「最初のピトー戦でカイトが死ななければ、ゴンが危篤になることもないもん」

 

「危篤になるほどの誓約って……どんななんだよ。ちゃんと助かったんだろうな?」

 

「うん」

 

 多分助かったと思う。私が知ってるのはゴンを助けるためにキルアが妹(弟?)のアルカを連れて家を出たあたりまで。

 きっと助かったと思う。助かったよね? なんかしれっと主人公交代とかしそうなくらいヤバい世界なのがHUNTER×HUNTERだけどさ、さすがにそれはないよね?

 

 ああ、もう少し先まで知っていれば……

 

 

「キメラアントにゴン達が二人だけで立ち向かうのはホントに危険なの。

 念能力者は栄養が高くて“レアもの”としてキメラアントが喜んで捕まえていた。それに能力に目覚めた者がいて、能力を詳しく知りたくてレアものを拷問したり……」

 

 脳をちゅくちゅくするあのシーンを思い出して身震いする。うわあ、ほんとやだ。あの死に方はマジでやだ。

 

「生半可な能力者は向こうの餌になるだけ、か。それは怖いな」

 

 

 どんな拷問だったのか私の説明を聞いたみんなが青ざめる。ヤベーなんてもんじゃねえな、なんて呟くみんなの表情が硬い。

 キメラアントの危険性をひしひしと感じているようだ。

 

 

「結局のところ、そのピトーって奴はどれくらい強いの?」

 

「“円”が2キロもあって、そっから数秒でやってくるってマジかよ……」

 

 圧倒的な強さを感じたみんなが恐怖と戸惑いの表情を浮かべている中、カイトが呟いた。

 

「おそらくオレはそいつの“円”を見てヤバさに気付いた。けど、オレはこんな強え奴と闘ってみてえと思ったんだろう。それでわざと触れた。

 でもそいつがオレに気付いた時、寄せられた気配に、ゴン達を守りながら闘うのは無理だと覚った。それで『逃げろ』と言った。そういうことじゃねえか?」

 

 

 普段すごく面倒見のいいお兄さんをしているカイトも、その実かなりの武闘派だったりする。

 武闘家はいつだって強い敵を求めている。

 本気でやりあえて、殺しあえる敵を求めている。

 

 ゲンスルー戦のゴンだってそうだ。あそこまでやらなくてもすぐに大岩を出せばよかったのに。戦いたいから戦った。

 王と対峙したネテロ会長もそう。さくっと“薔薇”を使えばよかったんだ。なのに戦った。

 カイトも、ゴンも、ネテロ会長も、みんな戦わなくてもいい相手と死闘を繰り広げた。戦闘狂はいつもそう。

 

 きっと原作のカイトもピトーと闘いたくて“円”にわざと触れたんだろう。

 

 でもピトーの“円”で感じたより、実際に獲物として見られたと感じた時、予想以上に強い敵だったと気付いてしまう。

 ゴンやキルアを危険にさらしてしまったことの後悔が押し寄せてきた。なんとか彼らを守り、そして自分は『ぜってー死んでたまるか』との決意のもと、ピトーと戦った。

 

 そういうこと?

 

「……そうかもしれない」

 

「敵の強さを見誤ったオレのミスだ」

 

「ピトーはこの時点でまだ“発”を作っていないの。カイトとの戦いの途中で目覚めるかもしれないけど、ここでピトーを殺せれば、絶対こちらが有利になる」

 

 ピトーの能力は、死体や仲間を自立操作できること、自分のことも操作してより一層強くなること、それから自分が死んだあとですらその能力でまだ戦えたことも話す。

 

 もうひとつの能力、回復能力もかなり優秀で、切り取った腕も元通り綺麗につなげるほどの能力だから彼女の存在はかなり大きいのだということも。

 

「よし、じゃあそいつを斃すつもりで考えよう」

 

「カイト、オレも戦わせてよ」

 

「だめだ」

 

「オレもっと強くなる!」

 

「オレだって負けねえ!」

 

「おいゴン、キルア。今のままのお前らが傍にいればカイトが死ぬんだ。諦めろ」

 

「そんなこと言われて引き下がれるようじゃハンターになんかなってねえよ!」

 

「だからよキルア。それまでに今より強くなればいいんじゃねえの?」

 

「……そっか」

 

 ダンの言葉に、ゴン達はさらなる修行を積むべきだと実感したようだ。

 

 

「まずキメラアントはNGLにいるということと、まだ王は生まれていないが、王の直属護衛軍は生まれていること。上位種は念が使えること。麻薬組織などの悪人と混ざったことでかなり残虐な性質を持つ者が多いこと。レアものとして念能力者を好んで食べているから生半可な能力者は却って敵を強めること。これを協会へ報告しておこう。最高レベルの危険生物だ。

 エリカ。お前の予知能力についても話す必要が出てくるが、いいな?

 NGLとキメラアント。思いつく限り最悪の組み合わせだ。おそらく未曽有のバイオハザードになる」

 

 

 リン達の分析でもキメラアントの行き先がバルサ諸島であることが証明され、カイトからハンター協会へ報告がなされた。

 

 カイトが連絡をしたおかげですぐに会長へ知らせが届くことに。

 会長は原作通り少数精鋭で現場入りすると決めたようだ。

 

 ハンターサイトでも能力の低いハンターへのNGLへの渡航を制限したりなどの処置も取られた。

 

 

 

 会長達が来る前に私達もNGLへ移動することにする。

 

 スピン達はNGLへ入る前の街に滞在して情報を集める。

 女王が死んで兵が独立するとここも危険になる。ダンにスピン達の護衛を任せることになった。

 

 ダンも一緒に行きたがっていたけど、彼らを危険にさらすわけにはいかないからカイトがダンを説き伏せていた。

 

 

 カイト、私、ゴン、キルアの4人だけがNGLへと進む。

 

 検問所で厳しい審査を受け、検問所に併設されているショップで自然素材のみでできた服を買って着替えるとやっとNGLへ入ることができた。

 

 

 ヨークシンを発つ前に、ダンも私もディアーナ師匠からもらった念具を外した。負荷をかけて戦えるような相手じゃないし。それに金属製品はNGL入国でチェックが入るはずだから。

 

 9歳の8月から一度も外さなかった念具。11歳の5月を迎えた今、ほぼ2年間負荷をかけ続けた身体は、想像以上に成長していた。

 身体にわきあがるオーラの量に戸惑う。

 

 身体の軽さ、念の扱いやすさに驚いた。

 いつの間にこれほど成長していたんだろう。

 これなら大丈夫。きっとこの危険な事件を生きて乗り切れるだろう。

 

 

 私は念具を倉庫へしまい、ダンは貴重品と一緒に貸金庫へしまったようだ。

 ゴンやキルアも大事なものは貸金庫へしまった。

 カイトに返すつもりだったジンのハンターライセンスもまたゴンが持つことに。

 

 ちなみにキルアのヨーヨーや電気機器、みんなの携帯電話などの荷物は私の倉庫へしまっている。向こうでもバレないように使うつもり。

 

 

 

 それから――

 NGLに行くまでにこれだけはやっておこう。

 

 万が一私が捕まった時。

 拷問されるのも食べられてアリを強化させるのもごめんだ。

 だからどうやっても逃げられないと確信した時に、自決するものが必要だと考えたのだ。

 

 倉庫は時間が止まっている。

 手榴弾のピンを外し、あと1秒ほどで爆発するという状態で倉庫へしまう。

 

 これなら一瞬で出して死ねる。

 

 出すだけならドラポケでできるもん。でもピンを抜いたり爆弾のスイッチを押すような余裕がない場合もあるだろう。取り上げられる可能性だってある。

 だから出せば何をするヒマもなく爆発するようにしておいた。

 

 間違って出さないよう要注意だね。

 

 私の身体も強くなったけど絶状態なら手榴弾でも死ねるだろう。

 

 もちろん。念のための準備だよ。

 死ぬつもりはまったくない。

 

 

 

 誰も死なせない。もちろん、私も死なない。

 いける。だいじょうぶ。うん。

 

 

 

 




※カイトの『ぜってー死んでたまるか』で出る番号は何か、皆さんいろいろ検証しているようです。
0番だとか他の番号だとかの説が多いですが、私としては3番が“アタリ”だったのだと思いたいです。戦いながら何度もルーレットを回す余裕はないでしょうし。

杖でどんな戦い方をするんでしょうね? 魔法でしょうか?
あるいは転生や憑依のためだけの能力とか?
考えるのは楽しいです。

次話以降がうまく書けなくて苦慮しております。しばらくお待ちくださいませ。
感想、評価ありがとうございます。レス少々お待ちください。誤字報告も助かっております。


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