エリカ、転生。   作:gab

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大変長らくお待たせいたしました。更新再開いたします。


キメラアント編2 NGLへ

2000年 5月 11歳

 

 

 NGLは表面上、機械文明をすべて捨てて自然の中で生活している(実際には隠れて麻薬製造なんぞやっている後ろ暗い国だけどね)。

 便利な機器のあるまともな宿泊施設はここにはない。

 

 NGLの手前にある最後の街は隣国ロカリオ共和国のドーリ市で、けっこう栄えていて人通りも多く賑やかな街だ。

 ちゃんとした近代の建築物と、エキゾチックな中世の建物が混在していて、こんな事件の最中じゃなければいろいろ見て回りたいと心がひかれた。

 

 王が生まれて巣分かれすればキメラアントが流れてくると知っている罪悪感に心が揺れる。わかってはいるけど、私達にできることは注意を促すことだけだ。

 

 

 そこのホテルの部屋を借り、ダン達が残ることになっている。

 私達の部屋も数室おさえてある。その一室にジャンプポイント3“スタート”を登録してあるから、何かあればいつでも行き来できる。

 

 それに夜はジャンプで戻ってくるつもりだから。

 私のステップは夜になれば移動できる範囲がかなり狭まる。虫から派生したキメラアントは暗闇に強い者も多い。危険を回避するためにも夜はホテルへ戻ると決めたのだ。

 

 

 スピン達はできればもっと後方に下がってもらいたいのだけど、彼らもアマチュアとはいえハンターだ。

 危険を承知でこの街に留まり、後方と前線の中継地点として情報収集や細々とした取りまとめをしてくれている。

 

 「カイトの後ろを守るのは仲間としてとーぜんよ」とスピンは風船ガムを膨らませて肩をすくめ、一番気の弱そうなリンでさえ「頭脳労働の輝く現場デス」と胸を張った。

 原作では彼らが死ぬことはなかった。それに今はダンがいるから。大丈夫、だと思いたい。

 

 

 

 それにもうすぐネテロ会長から連絡がくる。

 原作通り、ネテロ会長、ノヴさん、モラウさんの三人でやってくるんだろうか?

 

 会長達がドーリ市へ着いてダンと合流すれば、こちらの携帯に連絡を貰い、一度私達も戻って打合せをする予定だ。

 その後は会長達が入国審査を得て検問所を通り抜けてからもう一度集合する。そうすれば移動時間を短縮できる。ノヴさんと私の能力があればたやすい。

 

 キメラアント編の記憶がおぼろげな私だけど、彼らの事はよく覚えている。

 

 ノヴさんの能力は“四次元マンション”。念空間が数十室もの部屋数のマンションになっていて、各地に登録した出入口を通って行き来することで疑似的なワープと安全な待機所を兼ね備えるという、ものすごく便利な念能力だ。

 

 モラウさんは巨大なパイプから煙をだして人型を操ったり、煙の中に敵を閉じ込めたり、こちらも応用技の多い能力だったと思う。

 

 ノヴさんの“四次元マンション”と私のジャンプは能力が被っているけど、それぞれで使い道があると思う。互いの登録の隙間を補えたり、ね。

 

 

 あまり能力を人に知られたくないのだけれど、彼らには私のジャンプの存在を話すつもりだ。これ言わないと動きにくいんだからしかたない。

 合流に時間がかかりすぎちゃうし。

 

 

 ジャンプポイントは公表しているのは固定5つと上書き3つ。ガーデンは存在すら内緒だ。

 うち、4,5はマーリポス(神字勉強のためのフラット)とルドルノン(隠れ家)。

 

 他は買い物や移動に便利な場所にポイントがあったんだけど、今回のキメラアント編のために必要分は上書きしてしまうつもりでいる。

 ハンターとしていろんな場所へ自由に行けるようになったのだから、またいつでも入れ替えられる。

 

 

 おそらくノヴさんがくれば“四次元マンション”で寝泊まりすることになるんだろうけど、原作で見る限りお風呂はなさそうだったから、その後は風呂だけホテルへ戻ってもいいんだし、うちのホームを提供してもいい。

 

 ポイント1,2,3とABC、これを駆使してこれからの戦いを乗り切ろう。

 今日からキメラアント編の終わりまで、自重はなしだ。

 

 

 

 

 

 

 

 ここまでの移動中、ゴンとキルアは必死に修行を進めていた。

 せめて“堅”が3時間維持できるようになればピトーとの戦いの場にいてもいいとカイトが決めたから。

 へとへとになるまで“堅”を続け、その後カイトと組手。

 

 私もカイトの監修のもと、影の隠密性を上げる修行を続けている。これは私達の生命線だから必死だ。

 

 

 ダブル(影)の二人はわかりやすいようにABとでも呼ぼうかと思ってたんだけど、「エリカがAリカだから、ビリカ、シリカだね」とゴンが名付け、影二人はビリカとシリカと呼ばれるようになった。

 

 ついでに、ポイント設置を間違えないよう、私はポイントAだけ設置、ビリカはB、シリカはCと決める。咄嗟の時に上書きしてしまうと大切なポイントが消えてしまう可能性があるからね。

 ここからは命がけだもの。そういう細かい決まりごとが大切なのだ。

 

 

 カイトもピトーと戦うべく修行している。

 殺される未来を知ってもなお、逃げるのではなく、その未来に打ち勝つのだと闘志を燃やしている。

 

 カイトの“気狂いピエロ”は、出すと一度武器を使うまで他の武器に代えることも消すこともできないらしい。

 出しているとオーラを消費するけど、ピトー戦のためにはカイトが一番戦いやすい武器を出しておくべきだ。

 

 戦闘前に出せるのかと聞くと、接敵してから出すという誓約があると答えがかえってきた。

 ものすごく博打でピーキーな能力だよね。そのかわり当たれば強い。

 ピトーの“円”を見つけてから一度下がり、いい目が出るまで私の影と戦って準備を済ませればいいんじゃね、と打ち合わせる。

 

 ピトーの特色は、速いことと打たれ強いこと。武器は両手の爪、強靭な足、尻尾、猫だから牙もあるかも。“予知”ではこの時点でまだ“発”はないはず。

 カイトは考えた末、剣、それも二刀流で戦うことに決めたようだった。

 

「『ぜってー死んでたまるか』の3番じゃないの?」

 

「いや、剣でいく。オレの一番の得物は剣だからな」

 

 本来彼が一番得意なのは長剣一本での戦いなのだけど、手数の多いピトーに対処するためには自分も二刀流で行くしかないと考えたらしい。

 

 

 

 

 ダンにはカイトの仲間達であるスピン達アマチュアハンターの護衛のほか、もうひとつ、大切な仕事を頼んでいる。

 

 一定ラインより実力の低いハンターをNGLへ入国させないための関所役だ。

 

 

 正規のルートでNGLに入国するためには、ドーリ市で移動の足を頼む必要がある。文明の利器を拒否するNGLへは自前の車を使うわけにいかないからだ。

 必要に応じて乗合トラックがNGLに向けて出ているので、それに乗って検問所まで連れていってもらうってわけ。

 

 

 ハンターが検問所へ行く前にダンがここで止めて、現状の説明と強さの確認をし、ダンに勝てる強さの者だけを通すという役目。

 

 正式なハンター協会からの依頼になっているから、これである程度被害は減らせると思う。

 

 

 

 それでも。

 もうすでに複数のハンターがNGLに入ったらしい情報があった。

 NGLまで乗せてもらった乗合トラックの運転手が『今日だけであんた達みたいな連中を10組は案内したぜ』と言っていたのだ。

 

 嫌な予感にみな苦い表情をした。

 

 考えてみれば、ヨークシンシティのサザンピースに女王の脚が持ち込まれた事は極秘じゃない。幻獣ハンターならいろんな伝手があって当然で、カイトのように情報を貰ったものもいただろう。

 

 そこから女王の足取りを推理し、NGLに本体が流れ着いたのではと予測したものもいたはずだ。

 原作のポックル達はそんなハンターのチームだったんじゃないかな。

 

 

 これ以上の被害は出さないよう、NGLへ向かう観光案内の車はすべて停止するよう、ハンター協会から正式に要請してもらった。

 

 

 

 

 ドーリ市をダンとスピン達に任せ、カイト、私、ゴンとキルアがNGLへ向かった。

 検問所の者達にも、キメラアントがNGL内にいる可能性が高いことを説明した。

 それから、この後ハンター協会の精鋭が来ることも伝える。

 巣が分かれるとここも危険になるから、何かあれば速やかに退避したほうがいいという話もしておく。

 

 危険性を信じてはいないようだったけど領内への警告は出すとの回答を貰った。薄笑いを浮かべて話す担当者の態度に、彼らの『こいつら大袈裟に騒ぎやがって』という気持ちが透けて見える。助かるのは無理だろうなと内心思う。

 

 

 でもさ。

 

 今の私達に彼らのためにできることはない。

 ここはれっきとした国で、彼らはその入国審査を担う職員。

 外から来た人に「すでに国の中枢はすべてキメラアントに殺されているだろう」なんて言われても、信じる根拠がない。

 

 ハンターからの情報提供だから“危険な生物が紛れ込んだ”ことは疑ってない。だけど危険性についてはちっとも理解しようとしていない。

 

 

 漫画やアニメを見ていた時は、なんでアリの巣を空爆しないの? とか、東ゴルトーの王宮にミサイル発射で終わりじゃんとか思っていたけど。

 

 実際にはそんなことはできない。

 

 

 NGLも東ゴルトーも正式な国で、勝手に入れば不法入国だし、国の施設を壊せばテロ行為で私達が罪に問われて国際手配される。

 国民を逃がそうと無理やり連れて出れば誘拐罪にも問われるかもしれない。

 

 “貧者の薔薇”をブラックマーケットで購入して爆破させればいい?

 そんなことをすれば無差別爆破テロ犯として私が犯罪者になって手配されて、ハンターに殺されちゃうよ。

 

 ネテロ会長ほどの社会的地位があっても自身の心臓に埋め込むことしか許されなかったんだよ? 私が勝手にそんなことをすれば、私の存在ごと抹殺されておしまい。

 

 ハンターなら何をやってもいいってわけじゃないんだよ。

 

 

 特に東ゴルトーは英里佳時代の世界で言うところの北朝鮮をモデルとしたような一党独裁制軍事政権国家だ。

 

 一般客として入国できたとしても、王宮付近には近づけない。

 だからキメラアントに占拠される前に、王宮内にジャンプポイントを設置することは無理ってわけ。

 

 理由を言えばいいじゃんって?

 

 まさか「お宅の王宮、もうすぐキメラアントに占拠されますから、そのために転移ポイントをつけさせてください」って説明するの?

 

 私が東ゴルトーの立場ならまず信じないし、たとえ信じたとしてもこう言い返すね。「そこまでわかってるなら蟻どもが占拠しにうちの国に入る前に殺せよ」って。

 

 それにさ。

 赤の他人がいきなりやってきて、あなたの家にもうすぐ泥棒が入るからそれを捕まえるために合鍵を作らせてって言われて「ぜひ!」って言う人なんている? ありえないよね。

 

 

 占拠されたあとならどうか?

 ピトーが操作していた総帥がテレビで演説していたから、対外的には東ゴルドーに異変は起きてない。

 キメラアントに占拠されているという証拠が提示できない。

 空爆すれば、国家間の問題になる。

 

 

 現実問題として考えてみて。

 北朝鮮を未確認生命体が占拠しているからこれから原爆を発射します、ってアメリカが宣言して、信じられる?

 

 アメリカじゃなくて赤十字でもいいよ。

 北朝鮮で伝染病が蔓延しているから、赤十字が援助を申し入れ、拒否されたけど人道支援のため、無理やり入国しますって言うの。

 信じられる?

 

 

 世界各国の首脳陣は赤十字のやり方に反発する。

 そうしなきゃ、今後、“人道支援の建前さえあればいつでも勝手に国に入れる”ってことを了承しちゃうことになるじゃん。

 

 そんな前例があれば自分の国にも干渉する大義名分ができちゃうでしょ?

 だから人道支援に対する一定の理解を示しつつ、“明確な証拠も提示せず、人道支援の名のもとに他国の領土を不当に脅かすことは許しがたい”と厳重な抗議のコメントを発表する。

 

 

 そういうことだよ。

 

 だから原作でもネテロ会長は少数精鋭で敵の戦力を削ぐことしかできなかったし、“貧者の薔薇”も会長の心臓に埋め込む以外の持ち込み方法がなかった。

 

 

 

 それにさ。

 もし空爆が許されたとしても。彼らなら空から薔薇が降ってくる前に逃げ出せるだろうし、護衛が身を挺して王を守るだろう。

 

 超至近距離で爆発した“貧者の薔薇”でも王を瀕死にさせることしかできなかったんだもん。

 

 護衛を引き離し、至近距離で“貧者の薔薇”を爆発させる。これだけのことをしなきゃ王を斃せなかった。

 そのためにネテロ会長は戦ったわけだ。

 

 そのおかげで王と護衛は薔薇の放射能汚染で死んでキメラアント戦はハンターの勝利で終わったのだけど。

 

 

 

 

 

 それと。

 

 この戦いに先手を取るためのきっかけは私の予知能力(実際は原作知識)。

 予知能力は念能力の“発”ということになっている。念能力自体が秘匿されているから公表すらできない。

 証拠にはなりえないわけ。

 

 

 それに実証も難しい。

 

 私の原作知識はキメラアント編までだ。その先は知らない。

 これが去年や一昨年だったら「ヨークシンシティで旅団が暴れます」とか「ノストラードファミリーの娘が誘拐されます」とか「今度のハンター試験の内容は」とか言えたけどさ。

 

 もうそれは全部終わった話だもん。

 他の予知を言ってみろって言われても話せる未来はもうないの。

 

 何の証明もできない『私の予知能力』だけで、できることは限られている。

 

 

 

 とまあいろいろ説明したけどさ。

 

 つまり。

 何が言いたいかと言うとだね。RTAは無理ってこと。

 

 

 

 私は勇者じゃない。

 誰かのために自己犠牲なんて、これっぽっちも考えてないよ。

 

 カイトを助けたい。ゴンをゴンさんにしない。ネテロ会長も生きていてほしい。

 

 でもね。

 そのために私が死んだり、犯罪者になるつもりは、欠片もない。

 

 “貧者の薔薇”を使ったり、不法入国したり、建物を壊したり。

 私の社会的信用が落ちるようなことはしない。私はこれからもこの世界で幸せに生きていくつもりなんだから。

 

 

 

 それでも。

 

 

 今の私にできることは最大限やる。

 

 

 

 原作と違っていることは、私の知っていることをすでに会長達にも知らせていること。

 カイトを死なせないために準備していること。

 ゴン達の修行が原作よりも進んでいること。

 

 

 あとはポックルが死んでいない。……はず。

 まだこれはわからないか。

 アマチュアとして入国しているかもしれない。でもアマチュアのままなら念能力者にはなってないだろうから、ポックルは餌の一人としてあっさり殺されておしまい、のはず。まず拷問されることはないだろう。

 あのおぞましい拷問を受けずに死ねたとするなら、原作より少しはましな死だったね、と言うしかない。

 

 私がポックルにしてあげられることはもうないんだから。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「行くぞ」

 

 カイトの決意に満ちた声に従い、私達は走り始めた。NGLの奥へと。

 

 原作とは違い、キメラアントがここにいると確信している私達は馬も借りなかったし、早々に監視員を振り切ることにした。

 唖然と見送る彼らをしり目に、奥へ奥へと走る。

 

 

 NGLの奥へと進む。

 

 途中、誰もいない村へと通りがかった。人がひとりもいなくて、そこら辺りに乱雑に服が脱ぎ捨てられている。

 

「何か匂うよ」

 

 ゴンが鼻をすん、とうごめかせて呟く。

 

「早贄の村だねここ」

 

 原作通りの惨状。いったい何人の村人たちが被害にあったのだろうか。みな硬い表情で周りを見回している。

 

「エリカが言ったとおりだ」

 

「ここの奴が、オレ達二人がかりで倒しそこなったって奴かよ」

 

 キルアが悔し気に村の先を睨みつけた。

 

「そう。そのせいでそいつが念を覚えることになる。それで他の兵を殴ってどんどん念を覚えさせるの」

 

 私の言葉を聞いたゴンとキルアは一度目をあわせ、決意の滲む表情でカイトを見上げた。

 

「……カイト。オレ達にやらせてよ。絶対殺すから」

 

「頼む。舐めねえ。一発で決める。だからやらせてくれ」

 

 カイトはゴンとキルアをじっと見つめると、肩をすくめた。

 

「敵に情けをかけるな。一息で殺せ。ここからは勝っても負けても地獄だ。腹をくくれよゴン、キルア」

 

 

 ゴンとキルアが力強く頷く。

 ゴンの鼻の誘導で奥へすすむと、動物の死骸がいくつも木の杭に刺されている場所を発見した。

 

「早贄だね……っ、来るよ」

 

 “円”で気付いた私が警告の声を出す。

 

 木の影から一人の男が現れた。

 うさぎのように長い耳と鳥の羽根を纏った手を持つキメラアントだ。ギラギラと鋭い目を光らせ、こちらを睨みつけている。

 

「ゴミども。それはオレのだ。近づくな!」

 

 一瞬で近付くキメラアントに、ゴンとキルアが向き合って構える。

 すでにしっかり“堅”を纏っている。ここまでの修行の成果だ。

 

 私はカイトと共に後ろへ下がった。もちろん“円”で周囲への注意は怠らない。念のためシルヴィアを呼び出しておいた。

 

 最初キメラアントはカイトを警戒していたけど、カイトが戦うそぶりを見せなかったことで意識をゴン達へ向けた。

 

 

 一定の距離を保ちつつ、ゴンとキルア、そしてうさぎモドキが睨みあう。

 

 

 原作とは違ってゴン達は初めからこのうさぎモドキを殺すつもりでいる。

 彼らの身体から発する力強い“気”に、向こうも攻めあぐねているようだった。

 

 

 緊張の数秒後、ゴンとキルアが同時に動いた。

 一瞬で間合いに入ったキルアの鋭い蹴りをうさぎモドキが腕で受ける。同時にゴンの右こぶしが迫る。うさぎモドキは半身ずらすと足でガードした。

 

 目まぐるしい攻防がしばらく続く。

 

 やがて。

 頭上高く飛び上がったキルアが“落雷(ナルカミ)”を落とす。雷に打たれ動きの止まったうさぎモドキにゴンのジャジャン拳がさく裂。

 

 “吹き飛ばすと逃げられてしまう”とあらかじめ話していたから、ゴンの出した手は“グー”ではなく“チー”だった。

 気合の乗ったゴンの“チー”はうさぎモドキの腹を抉る。血飛沫が舞った。が、浅い。

 

「ぐああ!!」

 

 怒りの叫び声をあげるうさぎモドキの肩にキルアが飛び乗り、首をごきりとひねる。首が真後ろへ向いたうさぎモドキがどさりと倒れた。

 

「やった……」

 

 荒い息を吐いてゴンが呟く。

 

「気を緩めるな。頭と身体が切り離されても一日くらいなら生きてられるような生命力を持つ連中だ。確実に頭を潰せ」

 

 倒れたうさぎモドキを見下ろして立ち尽くす二人にかけられたカイトの厳しい声に、ゴンは一瞬目を瞑り、覚悟を決めると気合と共に拳をうさぎモドキの頭に振り下ろした。

 頭蓋骨のひしゃげる嫌な音が響く。

 

 “円”にもうさぎモドキの気配はもう、ない。

 

 

「よくやった二人とも」

 

「おつかれさま」

 

 カイトの労いの言葉のあとに、私も声をかける。

 キルアはともかく、ゴンは初めての“殺し”だ。これだけ人に近い姿をしていて、しかも言葉が通じる相手を殺すのは、殺人に慣れていないゴンにはすごく辛いことだと思う。

 

 でも、これができないのなら、この先に連れていくわけにはいかない。

 ゴンもそれがわかっているんだろう。すでに迷いはないみたいだった。

 

 

「硬いな。オレの攻撃が効いてなかった」

 

 キルアが分析するようにそう呟くと、ゴンも頷く。

 

「うん。昆虫の頑強さと人間の柔軟さを持つ生き物。確かに躊躇なんかできない相手だね」

 

 顔を見合わせ、頷きあう。

 

 よかった。

 ゴンもキメラアントを殺したことにしっかり折り合いをつけられたようだ。

 

 無事にひとつ、大きなヤマを越えたことに安堵のため息を漏らす。

 

 

 

 

 

 ……キメラアントの中には、人だった頃の記憶を持っている者がいる。

 それを、私はまだ言えてない。

 

 仲間になる者もでてくることも。

 

 それを言えば彼らの攻撃が鈍るんじゃないかと、言いだせてない。

 カイトの死のあと、しっかり読み込んでいなかった私はどのキメラアントが仲間になるか覚えていない。

 だから偏った情報を彼らに与えるわけにはいかないんだ。

 

 もしかすると。

 どこかで、本来助けられたはずの誰かを殺してしまうことになるかもしれない。

 でも。ごめん。

 私は、私の助けたい人達を助けるんだから。

 

 

 

 

 ごめん。

 

 

 

 

 




前回の更新からめちゃくちゃ開いてしまいました。
感想もたくさんいただきありがとうございます。回答できていませんが、ありがたくすべて読ませていただいております。
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