エリカ、転生。 作:gab
後始末を終え、カイトとともにスタート地点のダン達の泊まる宿へ飛んだ。
『ゴンとキルアをここに退避させ、その後はゴンをホテルから出さない』という厳しいミッションを終えた影ビリカを消し、ゴン達を連れ帰ってからの記憶が私に流れ込む。
うん。原作通り、キルアはピトーの圧倒的な強さに恐れを抱いたようだった。脂汗を流してピトーを凝視するキルアがいた。
ゴンは戦いたかったのに、その戦いの場にいることすら許されない自分の弱さに悔しさでいっぱいだったみたい。
そして、ホテルへ戻ったあとはダンたちも含めて、皆で不安に駆られながら時間を過ごしていた。
カイトと私の帰りがあまりにも遅くて、ビリカに何度もカイトを助けに連れていけとか、こっそり様子をみてきてとか、言っていたみたいだ。
みんなに、心配しすぎて気がおかしくなりそうだったと切々と言われた。
カイトも私も、よってたかってもみくちゃにされた。カイトが笑いながら宥めている。
ピトーとの激闘はカイトも無傷ではいられなかった。あちこちに切り傷や打撲痕がある。
カイトのけがの手当ては、アマチュアハンターのスピン達が手慣れた調子でやってくれた。
シャワーで汚れを落とし、けがの手当ても済ませると、私達はやっと落ち着いて話ができるようになった。
どんな戦いだったか詳しく聞きたがるゴン達に、カイトと私はあの胸の熱くなるような激しい闘いについて話しはじめた。
私には姿を隠して見守っていたシリカやガーデンからポップ越しに見ていた影の記憶もある。『ピトー 対 カイト ちょっぴりエリカ』という対戦のすべてを第三者の立ち位置でも見ていた。シリカが見やすい位置に移動しながら見ていたから、映画さながらの全方向立体ビューは迫力があった。
何度見ても熱く魂を揺さぶる、美しくも激しい闘いだった。
「じゃあ、エリカの予知のオレとの戦いみたいに“発”を作ることもなかったってこと? なんでだろ?」
「王がまだ生まれていないからだろう」
ゴンの疑問には、カイトが答えた。
キルアはずっと厳しい表情で動かない。キルアのことは気になるけど、彼の問題は今すぐ解決できることじゃないから、そっとしておくとして。とりあえずゴンの疑問に答えることにしよう。
「ゴンと戦った時とは時期が違うから、ピトーの状況も違うってことだよ」
原作で、ゴンの危険性を感じたピトーは“発”で死後の身体を操りゴンに攻撃をしかけた。今回もそうなるかと思っていたんだけど、ピトーはやけに満足げに死んでいった。
この時点のピトーはまだ精神的に幼く、自分のことしか考えていない。
他の護衛軍も王もまだ生まれておらず、巣にいる者は自分より弱い個体しかいない。
ピトーは自分の強さに酔っているような節があった。強い敵と戦ってみたいとか、戦利品を集めたいとか、もっと強くなりたい、戦いを楽しみたい、なんて。自分の欲望に忠実に生きていた。
まだ護衛としての自覚がなかったのだと思う。
王が生まれて、初めて忠誠心が芽生え、王を守るために力を使うようになる。
ゴンとの戦いで新しい“発”を発揮させ、死後も動き続けてゴンを斃そうとしたのは、王の身を案じたから。
王の脅威となるかもしれないゴンを殺そうとした。
守り仕えるべき王に会う前の、今のピトーには、そこまで思いが及ばないのはしかたのないことなのかも。
現実でのピトーは、王の誕生前に、強敵との戦いで実力を出し切って死んでいった。また戦おうとカイトと約束を交わして……
戦うものとしては、幸せな終わり方だと思う。
カイトも、納得のいく戦いだったみたいだ。
これで原作は大きく変わった。
カイトは死なず、ゴンがゴンさんになるほどの想いはなくなった。
ピトーが死んだから、ピトーの多彩な“発”もない。護衛軍は3匹から2匹に減った。向こうは大打撃だろう。
ううん。
先のことはわからないけど。
今は、私の……みんなの兄貴、カイトがあの壮絶な闘いを生きて終えたことにただただ安堵するだけだった。
私達の会話は、扉をノックする音で終わった。
扉を開けると、そこには私達の待ち人、ネテロ会長がひとりで立っていた。
カイトが会長を促して中へ招き入れる。入れ替わりにスピン達はこちらを気にしながら部屋を出た。
部屋には、ネテロ会長、カイト、私、ゴン、キルア、ダンが残された。
「さて」
今までの話をする前に、ネテロ会長が切り出す。
「エリカ。君の能力について今一度確認したい。わしがここへ連れてきたのは、誰じゃ?」
なるほど。
予知能力なんてマユツバすぎるものね。念能力は“何でもあり”だから、信じないことはないけど、自分たちが納得できるところまで確認しておきたいんだろう。
登場人物の名前を覚えていたことを内心感謝しつつ、私は口を開いた。
「モラウさんとノヴさん。あと彼らの弟子を、ゴン、キルアと競わせてました」
「ふむ。あっておるの。……入ってくるがよい」
会長が扉の方へ声をかけると、二人の男が部屋へ入ってきた。スーツを上着まできっちり着こなした優男と、筋肉がぎっしりつまったグラサン男。
ノヴさんとモラウさんだ。
席につき、お互いにそれぞれ自己紹介をすませると、これまでの出来事についてカイトと私が説明した。
NGL内の状況についても。
それから、護衛軍のひとりを斃したことも。
そして、“予知能力”で見た未来のこととして、今後起こりうる出来事を話した。
私はキメラアント編のこの先の記憶が飛び飛びだ。
それに全部話せばいいってわけじゃない。
だから彼らに話した内容は
・王はネテロ会長より強い
・王の側近は三匹(一匹はすでに斃した)
・念能力者を好んで食べていて、食べることで強くなる
・王が生まれれば東ゴルトーへいく
・巣分かれによって蟻達がバラバラに動きだし、周囲に被害が広がる
・東ゴルドーでは、ピトーの能力で操った党首の遺体がテレビで会見する(ピトーが不在の今はどうなるかわからない)
・国民を呼び寄せて“選別”と称して念を覚えさせ、生き残ったものをキメラアント化させていた
その先、どうやって解決したかは話していない。ネテロ会長が死ぬことも。“貧者の薔薇”のことも。
だって前提条件が変わってきてるんだもん。彼らの判断に任せようかと思ったのだ。
それに、「貴方が死にます」って言うのもなんだしね。
それは、もう少しあとで言おうと思っている。
「この能力はまったく制御できていないので、私が見たいものが見れるわけじゃありません」
予知ということにしているけど、私が知っているのは原作に出てくる知識だけだ。
だからそれを証明しろと言われてもできない。
それについてしっかり説明しておくべきなのだ。
「これが一番問題なんですけど。一度見た予知をもとに未来を変えたとして。それによって生き延びた人の未来は見れないんです」
「ふむ。つまりここで死ぬはずだったカイトの未来は二度と予知できないと言うことかの?」
「まあそんな感じです。制御できてないんで確実なことは言えませんが、一度死を予知して回避した先は本当に見れたためしがないので。なのでこの先は既に変わってしまっていますが、もう新しい予知はありません」
私の説明に、ネテロ会長は少し考え、そして。
「ふむ。ではキメラアントに関わることで、カイトの件以外に今までに何か変えたことがあるかの?」
「最初に未来を変えたのは、ハンター試験の時です」
「……ずいぶん前の話じゃの」
うん。もう1年半も前だもんね。すごく昔のことに思える。
「四次試験で受験者同士、ナンバープレートを取り合うという試験の時。合格するはずの人を狙って彼のプレートと彼のターゲットのプレートを取りました。彼がハンターになれば死ぬ未来が見えたので」
彼――ポックルがキメラアント編でどういう運命を辿るか、たんたんと説明する。
脳をちゅくちゅくのあのシーン。
説明を聞いた誰もが凄惨な拷問の話に眉を顰めた。
「念に目覚める一般兵は殺したんじゃな?」
「はい。ですが王の側近は、能力の詳細を知らずに生まれながらに念能力を持っていました。
彼らのもとへ届く人間は加工された肉団子の状態でしたから、“レアもの”が自分と同じ能力者なのだと知らなかったんです。
ポックルは薬の造詣が深くて麻痺毒を緩和して意識が戻り、逃げようとしたことでかえって彼らの目に触れてしまいました。
同じように、生きたままの“レアもの”を見れば、きっと念を知ろうとするでしょう。攻撃することで念に目覚めることに気付けば原さ……予知の通り一般兵まで念能力に目覚めることになることは変わらないかもしれません」
「NGLにも念能力者はいるでしょうしね」
ノヴさんがため息まじりにそう言った。
「うむ。麻薬組織のものか。裏に堕ちた念能力者には強力なものもおったじゃろうの」
「表向き入国できずとも、すべての国境線を閉鎖できるわけじゃねえしな」
モラウさんも苦い表情だ。
「それに閉鎖前にすでに幻獣ハンターがNGLに何チームも入っているようなんです。予知で見たポックル達もゴン達より先にNGLにいました」
原作でポックルはプロハンターで念能力者になっていた。一緒にいたメンバーはアマチュアハンターだけど、他にもチームがいたみたいな描写があったような……
そうすれば他にも念能力者がいた可能性は高い。
「ふむ。すでに入国しておるハンターのことは、諦めるしかあるまいの」
「ええ。ハンターは自己責任です。殺されたならそれは己が弱かっただけのこと」
ノヴさんが突き放すようにそう言った。
しばらく考えていた会長が、私に問いかけてきた。
「王の側近は3匹。うちピトーはもう殺したわけじゃが。女王は側近をまた生み出すかの?」
「いえ、すでに女王のお腹には王がいます。他のものを生み出す余裕はないかと」
「ではエリカの予知より兵隊らは弱いと思ってもいいかのお」
「エリカやカイトの働きで、側近の一匹を殺せただけでも上々でしょうね、会長」
「あとはNGL国境線沿いの警備についてですが」
「バルサ諸島へのハンターの入国は制限をかけておる。カイトから報告があったでの、こちらである程度以下の実力のものははじいておる」
「この街でもダンが張っています。自分より弱いとダンが感じたものは追い返しているはずです」
ちらりとダンを見ると、しっかり頷いてくれた。
「追い返すのも骨が折れるでしょう?」
ノヴさんが苦笑する。
「弱え奴は来るなって言われてもよ、そう言われて自分の事だと思うような奴はハンターなんぞになってねえよな」
モラウさんも笑う。
まあそうなるよね。私だって自分では弱い弱いと言いながらも、実際「お前弱いから」って言われたら反発するよ。
それくらいの矜持は持っている。
ハンターなんて自分の身ひとつで生きる職業なんだから。
ダンには苦労をかけてるよね。
原作どおり、ゴンとキルアは今後の戦闘への参加権を得るため、ノヴさん達の弟子と闘うことになった。
カイトはその監修をしつつ、ダンと同じくこの街の警護に入る。
カイトの仲間達は情報収集に努める。
巣分かれが起きればこの街や他の国境線沿いにある街や村も危険になる。ここにカイトやダンがいることはこの街の安全のためにもなる。どこかで怪しい危険生物の目撃情報があれば、彼らが斃してくれるだろう。
私は、ノヴさんの助手としてネテロ会長と行動を共にすることに。
いったん分かれることとなった私達は、拳をあわせ、それぞれの成功と再会を誓いあった。
翌日、彼らに見送られ、私、ネテロ会長、ノヴさん、モラウさんの四人はまずNGLの検問所へ向かうことになった。
対外的に会長達もNGLの入国の記録が必要だからね。
私達が入国した際に、検問所近くの死角になる場所にポイントを登録しておいたから、そこまではジャンプで連れていける。
のだけど。
こいつら、でかいのだ。
ネテロ会長は私と同じくらいの身長しかないけど、ノヴさんモラウさんはカイト並みの高身長でしかも横幅もある。
一人で持ち上げてもいいんだけど、影の存在も既に教えている。せっかくだから影ふたりも動員することにした。
私が会長を持ち上げ、ビリカがノヴさん、シリカがモラウさんを持ち上げる。そして検問所前までジャンプした。
その後、対外的にはNGLにいることになっている私はステップで検問所の先へ移動して彼らを待ち、入国してきた彼らと再度合流。
またついて来ようとする監視員を振り切って人目のない場所まで走り、そこから影を動員してピトーと戦ったあの高台の森の中へとジャンプした。
「まずいの」
会長が巣を見ながらつぶやいた。
視線の先には、巨大な巣の外に立つ人影。ピトーの代わりに、もう一人の護衛軍、ピンク色の髪の蝶っぽい方の奴がいた。
名前は覚えていないけど、頭のいいキャラだったと思う。あと、催眠効果のある鱗粉を振りまいてたかも。
もう生まれていたのか。
ここまで離れていてもわかる。
ピトーと同じ。濃密で恐ろしいオーラ。彼も、とても強い。
「あれはワシより強いかもしれん。エリカの言ったとおりじゃったの」
「会長よりも強いですって? 御冗談を」
ノヴさんが反論する。
私もそれは言いすぎだと思う。だって私のフォロー付きだけどカイトはピトーを斃したんだもの。相性はあるだろうし苦戦もするだろうけど、決して勝てない相手じゃない。
「それが本当ならハンターは誰一人太刀打ちできない道理になってしまう」
「ワシが念使いで最強だったのは半世紀以上も昔の話じゃよ」
強い敵に怯むわけではなく、ただどう戦うべきかと考えているネテロはすでにただの一人の武闘家に戻っている。
「でも
モラウさんが苦笑交じりにそう言った。
「静かに一匹ずつ、消していきましょう」
ノヴさんはそう言うとにやりと笑い、足元の地面からずずずとモラウさんの巨大パイプを取り出した。
キメラアントは5つの階級で構成されたピラミッド社会だ。
女王の下に直属護衛軍がいて、その下に各師団長がいる。
師団長が複数の兵隊長を従えていて、兵隊長の下に一般兵の戦闘兵や雑務兵がいる。
このピラミッドの構図は王が生まれると少し変わる。
王と直属護衛軍が独立していくのだ。
女王と師団長以下の蟻達はそのまま巣に残り、一定の周期でまた次の王を産む。
独立した王は護衛軍を連れて放浪しながら様々な生物と交配して次世代の女王を産む。産まれた女王はまたどこかに巣をつくり、新しい王を産むためたくさんの兵達を産み出し……
と、どんどん増殖していくわけだ。
この連鎖を止めるためには王を産む前に女王を斃さなくてはいけない。
だけど、女王は無数ともいえるほどの多数の蟻が守っている。
私の予知(原作知識)では王が産まれてしまったけど、できることなら女王を斃して王の誕生を阻止したい。そうすれば少なくとも東ゴルドーでの事件は起きない。
そのためにはまず女王を守る兵を減らしていくしかない。
女王の討伐が間に合わず王が誕生してしまい、巣分かれしたとしても、ここに残った蟻を掃討することにはかわりない。女王を斃さなければまた次の王が産まれてしまう。
どちらにしても、巣にいる蟻の数を減らしていくしかないのだ。
いきなり巣を攻撃するわけにはいかない。
うじゃうじゃいる蟻が解き放たれると周囲の被害が酷くなるから。
じゃあどうやるのか――
「探り」と「削り」。
敵の戦力を把握し、そのうえでそれを減らしていく作戦だ。
ノヴさんとモラウさんに同行して巣を見下ろせる崖の岩棚に開いた洞穴に陣取る。
モラウさんの煙が周囲に広がり、私達の姿を隠してくれる。
私は煙の中を彷徨う蟻に向けて“さざなみ”を奏でる。暴れる奴には“野の春”を。恐怖に立ちすくむ敵をモラウさんの煙が誘い込み、ノヴさんのマンションへ誘導。
マンションに誘い込んだ蟻の殲滅は私達に手伝わせなかった。会長が身体を温めたいからと言って一人で斃すことを望んだのだ。
ノヴさんのマンション、モラウさんの煙。そして私の呪曲。そして最強の会長。
なんだか凶悪なハメ技になっている。
マンションに引き込んだ蟻を会長が斃し終わるまでにまた獲物を見つければ、モラウさんの煙で誘い込み、シルヴィアの衝撃波で斃し、まだ息のあるものがいれば影が止めを刺している。そして死体は煙の人形と私の影がマンションへ運び込む。
ずいぶん数を減らせたと思うんだけど、巣からはまだまだ蟻が出てくる。女王を斃すために巣に乗り込めるのはいつになるのか。
先の長さについため息がでる。
「みんな修行はどこまで進んでるんでしょうかね」
ゴンとキルアは原作どおりナックル達と果し合いの試験を出された。カイトとダンはその修行を見ている。
ゴンはカイトが生きているから原作ほど追いつめられてはいない。
だけど、あのピトーとの戦いの場にいられなかった悔しさをバネに必死で修行に食らいついているらしい。キルアも同じく。
「すぐに追いつきますよ。だってゴンもキルアも天才ですから」
ほんと。漫画やアニメで見ていた頃よりも、実際そばで見ているとより一層実感する。天才ってすげえって。
何年もかけて、しかも影で修行時間をドーピングしているのに。私は彼らの成長に追い立てられている。
まだ私の方が強い。だけど追い越されたらもうきっと届かない。あとは遥か高みに行く彼らの背中が遠ざかるのを、指をくわえて見送るしかない。
だから私も必死で前を向いて走るしかないのだ。彼らに追いつかれないように。
ほんと……天才ってずるい。
感想ありがとうございます。すんごく嬉しくコメント読ませていただいてます!
個別にレスできずすみませんが、これだけ。
>ステップでオーラ消費するの?
念ではありません。オーラではなく、もっと根幹的な精神力を使っています。
立ち上がったり歩いたりするだけで身体は微量でもエネルギーを消費しているわけです。オーラであれ魔力であれ神力であれ霊力であれ、体内にあるエネルギーであることはかわりません。
ステップを最初に試したのが3歳児だったので顕著に気付いただけで、普段は意識せずに使ってます。
このあたりはもっと先で説明します。
>エリカの“発”多すぎじゃね?
これも理由があります。詳しくはもう少し先で出てきます。
※キメラアント編長くなりましたので副題ちょっと変更しました。