エリカ、転生。   作:gab

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キメラアント編6 東ゴルドーへ

 

 

2000年 6月 12歳

 

 巣に残っていた融和派のキメラアントを保護し、当面の居場所を用意する。ハンター協会の上層部であるモラウさんやノヴさんがその辺りのヤヤコシイ処をしっかり処理してくれた。

 

 コルトの証言で、護衛軍の2匹の名前を教えてもらえた。

 ピンク蝶がシャウアプフ。プフ様とかシャウ様とか呼ばれていて、青い方がモントゥトゥユピー。ユピー様と呼ばれているらしい。そんな名前だったような……うん、覚えていないや。

 

 プフはとても頭がいいらしい。何か実験のようなものをしていたがよくわからなかったと言っていた。

 ユピーはとにかく強いらしい。

 

 コルトは女王を見捨てた彼らを恨んでいるけど、仲間と言う意識はあるため、それ以上の証言はできないと言われた。

 

 

 そのかわり、巣を出ていった蟻のうち、攻撃的で残虐な性質を持つものの姿かたちや能力についてしっかり証言を貰え、その情報をハンター達で共有した。

 

 コルト達のように人だった頃の記憶があり比較的温厚な性質を持ったキメラアントからすれば、奴らの存在はやっかいだ。

 彼らが無秩序に暴れることにより、キメラアントという種族すべてが排斥される原因になりかねないのだから。

 被害が大きくなる前にハンターが斃してくれるならその方がありがたいと思っているらしく、コルト達も協力を惜しまなかった。

 

 

 その後、私達は周囲に散らばって暴れているキメラアントを掃討しつつ、王の情報を集めた。

 

 

 街中に現れ、周囲を包囲した警察隊を何人も切り刻み、『もっと速い奴を連れてこい』と言って逃げ去った豹のようなキメラアントのニュースを見て、私達もそこへ向かった。

 

 草原のなか、怪しいオーラを感じたモラウさんが警戒しろとハンドサインを出す。

 私もシルヴィアを構えた。

 

 モラウさんの煙の中をまるで散歩でもするようにゆっくり現れたのは……怪しいピエロだった。

 

「ヒソカ!」

 

 驚いて名を叫ぶ。

 

「やあエリカ♦ 面白い話を教えてくれてありがと♥ さっそくやってきたんだけど」

 

 ヒソカはそう言いながら手に持っていたモノをこちらへ放り投げる。

 ごろりと転がったモノは豹のようなキメラアントの首だった。

 

「速くってわりと楽しめたけど。まさかこんなものだけじゃないよね?」

 

「えっと、まだ上がいる、けど……」

 

「そう、よかった。じゃあ話してもらうよ♥ どこに美味しいのがいるのか」

 

「エリカ」

 

 私達の会話を聞いていたモラウさんが私に声をかけた。目はヒソカから離さない。うん、めっちゃ警戒してる。

 禍々しいオーラを放ち、ニヤニヤ笑いを浮かべたピエロ。

 ヒソカって“ぼくすんごい怪しい人です”って看板下げてるような人だからね。

 

 小声で「同期のハンターでヤバい奴で強い奴です」とざっくり説明すると「そうか」と頷いた。

 

「誘っておいてなんだけど。……ホントに来たんだ。ハンター協会から依頼受けた?」

 

「もちろん♥」

 

 ……嘘っぽい。

 

「さあ話しておくれよ♥ 君が一番詳しそうだ」

 

 どうしよう。王はネテロ会長の獲物だ。ってか蟻殲滅のためにヒソカの強さは頼りになるけど、東ゴルドーに来られて現場をかき回されるのは遠慮したい。

 

「護衛軍はあと二匹。どこにいるかは(正式には)不明。その前にバラけてはっちゃけて街を襲っているキメラアントを退治しなきゃなんだけど」

 

「ふーん。まあいいや。楽しめそうなのいるかな♠」

 

 コルトから聞いた上位種の情報を提供する。わかっている能力は教えて、全域に散らばっているから場所の特定はできていないと話していると、各地の自治体や警察から寄せられた蟻の情報がわかるハンター専用サイトをモラウさんが教えていた。

 

「ありがと♥ 君も美味しそうだけど……あとでまた会えると嬉しいな」

 

 モラウさんに向かってそう言うとヒソカはそのまま歩いていった。

 

 

 ……ヒソカに教えて大丈夫だったかな。

 

 まあヒソカは放し飼いにしておけばいいや。きっと勝手に動いて高笑いしながらアリ退治してくれるはず。

 

 お願いだからハンター狩りはやめてね、ヒソカ。

 

 

 

 

 

 キメラアントによる被害が広がっている。

 

 バルサ諸島から海を泳ぎ、ヨルビアン大陸へ渡ったキメラアントもいる。ニュースで未確認生物による被害について大々的に報じていた。

 

 ヨルビアン大陸って私の戸籍があるサヘルタ合衆国も含まれる。神字の勉強のために借りたマーリポスのフラットもそこにある。バッテラさんご夫婦や神字の師匠達は無事だろうか? 心配だ。

 

 でも。きっと各地でハンターによる討伐隊が組まれるだろう。心配だけど、私は彼らの無事を祈り、ここでやるべきことをやるだけだ。

 

 

 

 

 

 

 東ゴルドーを監視していたハンターから連絡があった。国家首脳陣の動きがおかしいらしく、やはり“予知”通り王が東ゴルトーの宮殿を占拠したのかもしれない、という話だった。

 私達は東ゴルドーへ行くことになった。

 

 

 途中でカイト、ダン、ゴン、キルアとも合流する。久しぶりに彼らの無事な姿を見れてほっとした。カイトのチームのスピン達アマチュアハンターはこれ以上は危険になるため、本拠地へ戻っていった。当分は休暇がてらゆっくりカイトを待つらしい。

 

 合流地点には初対面のパームも一緒だった。

 

 ……ノヴさんと同行していた私に対するパームの目がめちゃくちゃ怖いんですがどうすればいいでしょうか……

 夜、夢に出てきそうな怖さだ。ノヴさんは男前だけど、まだ12歳の私からすればオジサンだよ? と言いたいところだけど、なんか常識が通じなさそうなヤンデレ感をビシバシ感じます。怖いです。ほんと。

 

 急いでノヴさんから離れて一番近くにいたゴンの横に行こうと……したらすんごい殺気が飛んできて、キルアとダンの後ろに隠れた。怖えぇぇ、なんなのあの人。

 あ、そうだった。ゴンとパームはヤンデレラブコメやってた、確か。

 

 

 食堂に入り、食事を摂りつつ、打合せをする。

 

 

 ピトーの能力で操作していた東ゴルトーの総帥がいないため、ニセモノの演説で国民に呼びかけるという手は使えない。

 ……と考えていたんだけど。

 

 食堂のテレビでは、『東ゴルドー、デイーゴ総帥が体調不良のため総帥の座を降りる事と、10日後に首都で開催される建国記念大会にて後継者の初披露と政権譲渡宣言を行うため、国民全員参加を強く呼びかけた』とのニュースを取り上げていた。

 総帥デイーゴの映像は現在のものか判断がつかないものが流れ、国民に呼びかけているのは総帥の嫡男と側近数人の姿。

 

 ピトーがいないため、総帥の影武者を用意できず、側近達を暴力と金や権威で味方につけたのかもしれない。

 あるいは操作系能力で側近達を操っているのか。

 

 

 

 

 ニュースによると宮殿に全国民が集まる『建国記念大会』は10日後。

 

 融和派筆頭キメラアント、コルトの話では、おそらくそこで“選別”が行われる。

 『選別』なんて言葉で飾っているけど、やることは念能力者が殴って強制的に念に目覚めさせるってこと。

 いきなり精孔を開くとオーラが流れだしてしまう。体内のオーラを出し尽くす前に制御を覚えられれば念能力者になれるが、失敗すればそのまま死ぬ。

 こんな乱暴なやり方で念に目覚めるのは、ほんの一握りの者だけだ。

 

 一般人のうち“念”に目覚めるものはほんの一握りに過ぎない。9割どころか、99%の国民が死ぬことになる。

 東ゴルドーの人口は500万人ほど。その99%が、死ぬ。

 

 そんなもの、許せるわけがない。

 なんとしても阻止しなくては。みんなの意見はひとつだった。

 

 

 タイミングを見計らったかのように、ネテロ会長から指令が入った。

 

 『二手にわかれて護衛軍を王から引き離してくれ

  決行は 大会前夜0時ジャスト』

 

 私達の決戦の日が決まった。

 

 

 

 

 

 またそれぞれ別行動で首都へ向かうことになった。

 

 道中の村々の様子を知るため、分散して秘密裡に移動するゴン達。慣れない土地でキメラアントとの戦いになるだろう危険な仕事だ。

 

 彼らは原作よりも修行が進んでいて強い。でも、カイトの死と言う悲劇を回避したことでゴンは必死さが足りない気がする。

 キルアの頭に刺さったイルミの針もたぶんまだそのまま。

 彼らがここを生き抜けるかは、まだ、わからない。

 

 でもそれは私もおなじこと。

 この先は、誰が死んでもおかしくない。

 

 彼らはゴンとキルア、カイトとダン、ナックルとシュートの三組に分かれて移動するらしい。

 お互い、また会おうぜ、死ぬなよ、という強い想いを込めてそれぞれと拳を打ち合ってわかれた。

 

 

 

 ノヴさん達は政府関係者を通して高官の誰かに手を回し、亡命を餌にできる限りの現在の軍部情報などの情報を集めようとしていた。宮殿に残っている高官達の一覧や宮殿の見取り図も手に入れようとしているらしい。

 私とパームはノヴさん達と同行。

 

 

 パームのことはヤンデレだったことしか覚えてない。計画に必要だからと能力を教えてもらえて、めっちゃ焦った。

『直接目で見たことのある相手の現在の動向を水晶に映して見ることができる』

ってすごくない?

 え? 私も見られていた? ノヴさんの傍をうろちょろする女はパームに敵視されるから、もしかするともう“見”られているかもしれない。

 ガーデンがばれてない? 大丈夫?

 パームに会ってから一度もガーデンに入っていない今のうちに確認すべきだ。

 

 すんごく内心ばっくばくになりながらもう少し詳しく聞いてみる。

 

 彼女によると、調べるたびに自分の血が必要なことと、水晶を置いて覗き込むために移動しながらは難しいこと、それからノヴさんの“四次元マンション”のような念空間にいる時には見えないこと、などを教えてもらった。

 

 ……セーフ!

 めっちゃセーフ! だってガーデンも念空間だから見えない、よね? よね?

 

 あ、でもマンションにいない時に私が見えないと、じゃあどこにいるんだって話になるよね。

 実は私の念空間にいるんだけど、あの嫉妬深いパームのことだから、ノヴさんの“四次元マンション”の別の部屋をトクベツに用意してもらってトクベツな関係になってて、とかさ、斜め上の想像されて余計に恨まれる可能性も?

 きゃあ怖い。

 

 キメラアント編が終わるまで、本体がガーデンに戻るのは禁止だ。

 うん。先に気付いてよかった。ほんと。

 

 

 

 私とパームがこちらチームに入っているのは理由がある。

 私がこちらチームに残ったのは、ジャンプとステップを駆使して宮殿近くまで行くため。

 

 パームは決行日よりも前の段階で王と護衛軍2匹を直接“見て”、彼らの動向を監視し、効果的に分断させそれを継続させるため。

 だけど王は人前に姿を現さない。忍び込むしかないのだ。侵入できる方法を彼らは考えている。

 この辺り覚えてないから原作でどうやったか私は知らない。でもキメラアント編の被害者はポックル達とカイトのあとは、ネテロ会長だけだったはず。だからパームも大丈夫なはずだけど、心配でならない。

 

 

 

 

 そして。

 私は作戦の合間、ノヴさん、モラウさんにビシバシ鍛えられていた。

 “隠”と“絶”の技術を高めるために。

 

 

 東ゴルドーの宮殿に忍び込み、みんなを送り込むためのジャンプポイントとノヴさんのマンションの出口、入り口を設置するための訓練だった。

 

 当初はノヴさんが行くつもりだったのだけど、ノヴさんが“絶”で隠れながら荒野を進むより、私の影が“隠”と“絶”でステップを使って進むほうが相手にバレにくいうえ、距離も稼げる。

 失敗して捕まったとしても衝撃で消えるから、拷問されて情報を向こうに取られる心配がない。

 

 ノヴさんは念能力者として私なんかよりずっと技術が上で、彼が“絶”をして気配を殺していると目の前でされても、お? って思うほど存在感を消せるんだけどね。

 “隠”付きの影が“絶”をするほうが隠密性に優れているのだ。

 

 敵は人外で、恐ろしいほどの探知能力を持っている。彼らの目を欺くことは難しい。

 でもさ。私の(ステップ)だと、遠くからでも見えていさえすれば飛べる。遠くから双眼鏡で覗いても“見えて”いるから“飛べる”。だって神サマがくれたそういう能力だから。

 

 

 私のステップは、神サマに頼んで与えてもらった能力だ。

 “見た場所へ飛ぶ”。

 この、“見た”というのは、どこまで許されるのか。

 裸眼だけしか認められないのか。サングラスやゴーグルは? 視力矯正が入る眼鏡はいいのか? レンズが良いなら双眼鏡などもアリなのか?

 もし眼鏡すら許されないなら、少しでも視力が落ちればこの能力の優位性は激減する。

 ステップとジャンプは私の生命線だから当然調べたさ。

 

 わかったことは、『管理者サマってけっこうサービスがいい』ってこと。

 

 『視界の届く範囲』という能力は環境にかなり左右される。だけど、その効果を十全に発揮できるように工夫を凝らすことは許されているらしい。

 

 まず、度なし伊達眼鏡やサングラス、フルフェイスヘルメットは問題なくステップできた。

 これはありがたい。肌をさらけ出せない環境ってあるものね。毒や粉塵だらけの場所とか、灼熱、極寒の地とかさ。

 

 次に、暗視ゴーグル。

 これも大丈夫だった。『視界の届く範囲』という能力は夜にはかなり視野が狭まるんだけど、暗視ゴーグルをつければ多少は視界が広がる。

 

 次に度の入った眼鏡。これも大丈夫。

 レンズで視界を広げることが許されるならこれもいけるだろうと双眼鏡を覗いて遠くへ(ステップ)してみると、これもできた。

 

 ただし、いずれにしてもしっかりディテールまで見えていないと飛べない。

 

 ちなみに監視カメラは駄目。機械を通すのは駄目らしい。双眼鏡はレンズだから視界を伸ばす工夫の延長という位置づけなのかOKなのだ。

 

 ガチガチな縛りじゃなくてよかった。

 たとえば魔法のある世界にいって、視力を伸ばせる呪文を覚えるとかそういうのもできるだろう。ゲームみたいにスキルがある世界で“鷹の目”のような遠くを見渡せるスキルを取得するってこともあるかもしれない。眼鏡がダメならそれもダメってことだものね。安心した。

 

 固有スキルにはいろんな制約がある。

 だけど創意工夫を凝らすことは、許されている。

 

 管理者サマ、担当者サマ、ありがとう。

 いろいろ言いたいことはあるけど、それでも、まあ、感謝も、してます。

 

 

 

 

 

 と、まあ、そういうわけで。

 

 私の影が敵に察知されないよう宮殿に近づき、ジャンプポイントを設置する。

 でもそれだけでは足りない。

 大人数を一斉に送り出すためには、影が行って設置したポイントに、その後ノヴさんを連れていって彼のマンションの出入口もつくらなくちゃいけないのだ。

 

 

 ということで、影の“隠”と“絶”をより極め、彼らにすら気付かれないほどの隠密性を身に付けるべく、毎日オーラを使い切るまで徹底的に訓練している。

 “円”と“隠”を鍛えたビスケの修行同様、彼らの指摘は的確で厳しい。

 

 

 “絶”は身体から溢れるオーラを体内に留める技術だ。気配を絶つこともできる。その上で、より存在感を薄めさせるための呼吸法や歩法などの技術を叩き込まれた。

 それから周囲の危険を察知する方法。身を隠して偵察する仕事も私が請け負うため、気配を殺してじっと動かない訓練や、何をどのように観察し、どこを調べればいいのかなどの着眼点なども教わる。

 

 “隠”は自力では訓練が難しい。自分の“隠”は本人には見えているから。こればかりは影との訓練ができないのだ。だってどっちも私だから。互いの“隠”は互いに見えているんだもん。

 だから一緒に“凝”と“隠”を互いに高めあう相手との訓練が必要なのだ。それをパームがやってくれた。パームは先輩だし、師匠がノヴさんで鍛えられているから技術が私より上なのだ。

 

 私はミジンコを見るような侮蔑の視線を浴びせながら敬語を崩さず罵倒の言葉を吐くノヴさんと、合間合間に優しく宥めつつ、もっとできるだろって煽るモラウさんに手のひらで転がされながら必死で彼らに食らいついて鍛えた。

 

 ノヴさんとモラウさんは彼らの“発”からもわかるように、こういう工作活動に長けている。その彼らの指導を受けられたのは幸運だった。習熟度があがりぐいぐい技術がこなれていくのがわかる。

 合間合間に戦闘のほうの指導もしてもらえて、体力気力はギリギリだったけど充実した毎日だった。

 

 

 

 いつでも宮殿へ行ける、という準備をすすめつつ、私達は修行だけしていたわけじゃない。

 

 

 情報も集めているし、医療チームを呼び寄せる準備をしたり、万が一の際の飛行船を用意したり、みんなの食料を用意したり、と雑務も多い。

 

 ……テレビで、各地で暴れるUMAが謎のピエロに斃されたというニュースをやっていたんだけど……ヒソカ、絶好調です。

 どうぞ東ゴルドーには来ないでね。ハンターサイトには東ゴルドーのことは情報規制しているから、気付いていないとは思うんだけど。

 誘っておいて決戦の日のことを知らせないことに罪悪感を感じるんだけど、彼は劇薬すぎて……なんだか便利使いしているようで気が咎めるし、後で知った彼の怒りを買うのも怖い。どうすべきかと悩むこの頃だ。

 

 

 

 その頃。

 

 宮殿内に残っている高官が娼婦を呼びつけているらしく、パームを潜入させるために工作するかという案がでた。

 宮殿内に入れば護衛軍や王の姿を見る機会もあるかもしれないだろう、と。

 

 原作でもそうやって侵入していたんだろうか? 飛ばし飛ばししか読まなかった過去の自分を後悔している。しっかり覚えていないことが悔しくてならない。

 でも、この戦いではネテロ会長以外死ななかったはず。

 だから、大丈夫だと思う。

 

 危険な任務ゆえに、予知は見えないか、とノヴさんに確認された。

 見えていることが少なくて、と言いつつ、もう一度考えてみる。

 思い出せ。思い出せ、エリカ。

 

 

 キメラアント編で当日のことで覚えているのは。

 

 プフが集まった民衆の上で鱗粉を振り撒いて、催眠状態になってた

 仲間たちが分かれて護衛軍と戦うこと

 ゴンとピトーが1対1で戦って、ゴンが“ゴンさん”になって、ピトーが死ぬこと

 ネテロ会長がゾルディックのお爺さんの龍を使ってなんか派手な登場をした気がする

 会長と王は龍で移動して戦う

 王との戦いで死ぬ前に“貧者の薔薇”を使って、王が瀕死になること

 王と王に触れた護衛軍の二匹が毒に冒され死ぬこと

 王が死ぬときに人間の女の子と会話しながら死んでいく?

 それをパームが泣きながら見てた?

 

 ん? 分断して引き留めているはずの護衛軍がどうして王の所にいるの? モラウさん達を振りきって追いかけた?

 王と会長が戦う場所は宮殿とは離れた場所だったはず。そこに護衛軍が迎えに行って、王と一緒に戻ってきた?

 

 ゴンはカイトを治してもらうために単独でピトーと戦ったんだったと思う。これは、カイトが生きているからもうないよね?

 

 人間の女の子って誰だっけ? なんか将棋みたいなことをしていたような気がするんだけど、王のシーンは飛ばしてたから知らないんだよね。

 

 

 

 カイトショックで圧倒的キメラアントアンチになっていた当時の私はキメラアント達の描写シーンはほぼ抜かしてたし、戦闘シーンはグロを恐れてちら読みだった。

 特にキメラアント編は戦闘シーンが長かったし連載も長期化しててしかも休載も多いし、『キメラアント編終わってからチェックでいいや』くらいで読んでなかったのだ。

 ネットの掲示板で『ゴンがゴンさんにwww』と言う書き込みを見て、なんのこっちゃとネットに流れる画像でピトーの最期を知ったくらい。

 

 うーん。わかんない。

 

 死ぬまでの時間、語り合ってた、よね? んで、それをパームが泣きながら見てて。おでこに水晶がついてて……ん?

 

 

 そこまで考えて、パームを見る。おでこに水晶?

 

「何? 何なのよ! ひとをじろじろ見て。私の顔になんかついてんの!?」

 

 攻撃的な話し方でパームが突っかかってくる。私はつい、呟いた。

 

「いや。おでこに水晶がないなって」

 

「はあ?」

 

「どうしたんです? エリカ。予知のこと、なにかわかったんですか?」

 

 ノヴさんに聞かれて、やっと頭が回りだす。

 

「パームのおでこに水晶がついてました」

 

「……はい?」

 

「おでこに水晶が埋まってて、青い鱗のある手で片目を隠して、それで泣きながら王の最期を見届けて」

 

「待て待て、待ちなさいエリカ。意味が分からない」

 

 虫食いだらけの記憶を話すと彼らは余計に混乱した。うん、私も混乱している。ノヴさん、モラウさん、パーム、私の4人で限られた情報から推察する。

 

 ・パームは人じゃない何かになっていた

 ・人の時に持っていた能力をパワーアップさせた感じの能力か?

 ・王の死を悼んでいることからパームは王の傘下にくだった?

 

のような推理のうえで、パームは捕まり、キメラアント化されて王の配下に加わったのではないかと結論づけた。

 

「キメラアント化って結局のところどうやるんでしょうね?」

 

 王のDNA的な何かを注入すんのかな? なんて呟くとノヴさんも険しい顔をした。

 

「王か、護衛軍のどちらかが、精神干渉系の能力者なんでしょうね」

 

 キメラアントの性質上、王の部下は直属護衛軍だけで、それ以外の蟻は厳密には主従関係ではない。何匹かは王へ付いていったものもいるだろうけど、全面的に信頼できるわけじゃない。

 

 だけど“選別”の上でキメラアント化された人々は、おそらく王の意のままに操られる兵隊となる。

 そうして始まるのは全世界へ向けての侵略だ。

 もし500万人の“選別”がすべて終われば。99%が死に、1%が念に目覚める。単純計算で5万匹のキメラアントが産まれてしまう。

 

「させてたまるかってんだ」

 

 モラウさんががるるとばかりに唸る。

 

「パームを送り込むのはやめておきましょう。向こうの戦力にされると迷惑ですから」

 

「はぅ……」

 

 冷たいノヴさんのコメントにパームがなんだか感に堪えないといった風情で身体をくねらせている。ちょっと上級者すぎて怖い。

 

 まあ、そんなわけで、パームの潜入計画は実施されないことに決まった。まあパームは私より強いから戦力としてもじゅうぶん期待できるわけだし。

 

 

 

「会長がゾルディックの先代の龍で宮殿へくる、ですか」

 

「ど派手にやってくるぞ、あのじーさん」

 

「会長ですもんね」

 

「そんだけ注意を引いておきながら『分断せよ』ってんだからな」

 

 ふたりは乾いた笑いを浮かべている。この人達、いつも会長に振り回されているんだろうな。

 

「とにかく我々は当日に向けて準備するしかありません」

 

 

 

 

 

 

 

 

 亡命を餌に元幹部から得た情報を精査し、ミッションの準備をすすめつつ、私とパームの修行に明け暮れること数日。

 

 “隠”の技術はかなり上がった。一般人には決して見えず、念能力者でも生半可な“凝”では私の“隠”を超えられない。

 気配の殺し方もうまくなった。

 

 私が“隠”を切らさなければ誰にも見えるはずはないのだけど、万が一“隠”を解除してしまうことも考え、荒野に最適化した迷彩服を用意した。

 薄茶の迷彩服に薄茶の靴、頭も迷彩ヘルメット。髪を纏めて迷彩マフラーで首から口元を覆えば、荒野に佇む私の姿は風景に紛れて見えにくくなった。

 さすが軍用品。素晴らしい効果。

 

 視覚的にはこれでじゅうぶん。たとえ私の“隠”を上回るほどの“凝”の巧者が相手でも、周囲に溶け込む迷彩柄が私の姿を隠してくれるだろう。

 成功の可能性をより引き上げるための準備だ。

 

 そして敏感な虫の臭覚を誤魔化すため、数日前からシャンプーや石鹸を天然素材の無臭消臭系の物に変えた。

 

 “絶”の技術もずいぶん上達した。気配は殺せる。

 ステップで進めば足音は最小限。

 

 

 “隠”+“絶”の影による荒野スニーキングミッションの最終試験で、1メートルずつしかステップできない縛りで『だるまさんがころんだ』をやり、ノヴさんにもモラウさんにも気付かれず、彼らにタッチすることができた。

 

「時間はかかりましたが、やればできるじゃないですか」

 

 という褒めてんだか何だかなしょっぱいお褒めの言葉をノヴさんから頂き、ひとまず目的値に達したということで訓練は終了した。

 うちの影はninjaになったのだ、うん。

 

 

 

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