エリカ、転生。   作:gab

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お買い物って楽しいよね

 

 

 パーセルマウスだと知った衝撃で倒れた数日後。

 

 当面、勉強は休みになり、私とドラコは久しぶりにゆっくりした時間を過ごした。

 一緒に本を読んだり、ゴブストーンをしたり。

 

 しばらく落ち込んだ私だけど、今悩んでもしかたないと気持ちを切り替えて元気を取り戻した。

 

 

 

 マルフォイ夫妻も私を気遣って、ドラコと私の新しいローブをあつらえましょうと買い物に誘ってくださった。

 

 

 

 ルシウス叔父様とシシー叔母様が前を並んで歩き、私はドラコと手を繋いでその後ろを歩いていた。

 

 やっと落ち込みから浮上した私は元気だった。

 みんなでお出かけしてお買い物が楽しくて、私はドラコと顔を見合わせてはくすくす笑い、歩きながら時々肩をぶつけ合ってはくすくす笑い、まるでただの子供みたいにはしゃいでいた。

 

 その時――

 

 ばん! と後頭部に衝撃を受けて、つんのめる。同時に途轍もない悪臭が私の頭から漂ってきた。むせ返るほどの排泄物の臭い。

 

「エリカ!」

 

 叔父様と叔母様が振り向くと驚いて叫んだ。

 ドラコもあまりの衝撃に立ち尽くしている。

 

 ……くそ爆弾だ。

 

 誰かが、私目掛けて投げつけたんだ。

 

「いい気味じゃ」

「レストレンジの娘め」

「腐れ蛇め」

 小さな声で隠れて呟く悪態とくすくす笑いが聞こえた。

 

 繋がった手を見る。汚れにまみれた私と、一緒にいたために余波を受けて汚れたドラコ。

 

 さっきまでの楽しかった気分が破けた風船みたいにしぼんでしまった。6歳の幼い心が、投げつけられた悪意に傷つき、涙がこぼれた。

 

「まあ、なんてことを」

 

 シシー叔母様が言う。

 ルシウス叔父様は杖を構え犯人を捜して周りを見回していた。

 

 叔父様が杖を振るって私の汚れを取り除く寸前、ドラコが私を抱きしめた。

 

「エリカ」

 

「ディー、よごれるから」

 

「エリカはわるくない! エリカはきたなくない! 子供に向かって隠れていじわるするやつのほうがずっと汚い奴だ」

 

 ドラコはより一層私を抱きしめながら、大声で叫んだ。

 

 子供の純粋な言葉は、驚くほど良く響き、周囲に浸透した。

 笑っていた大人が、ばつが悪そうに目をそらした。笑い声が静まる。

 

 すべてが敵に見えていたけど、冷静になって見回せば私に気遣わし気な表情をみせている人達もちゃんといたことを、私は気付いた。

 

「まったくだ」

 

 憤慨したルシウス叔父様がさっと杖を振るう。

 私達の汚れは綺麗になくなった。

 

「ここには野蛮な奴しかおらぬらしい。帰ろうエリカ。新しいローブはまた今度選びにこよう」

 

 ルシウス叔父様が抱き上げ、ドラコはシシー叔母様が抱き上げ、私達は姿くらましでその場から消えた。

 

 

 

 

 

 その日はドラコが私とべったり抱き着いて離れなかった。きっとドラコも傷ついたんだと思う。

 人からわけもなく悪意を向けられるのは、恐怖だものね。

 

 まあしかたない。レストレンジだもん。

 

 ああ、だけど、今日の事でより一層、魔法界の人達の単純な思想が疎ましいと思った。

 自分が正義だと思えば、たった6歳の女の子にだって悪意を向けて嗤えるんだから。

 

 原作を読んでいても、噂一つで大袈裟に態度を変える魔法使い達の無知蒙昧さがほんとに嫌いだった。

 

 ハリーはそれにずっと苦しめられてきた。

 “生き残った男の子”と称賛し、“選ばれし子”と崇拝し、祀り上げておいて、ヴォルデモートの復活を信じたくない(信じないじゃなくて、信じたくない、なところがほんとに末期だと思う)魔法省がダンブルドアとハリー・ポッターを批判したことで“英雄願望に取り付かれた頭のイカレた男の子”と叩く。

 最後の闘いで勝利したあとも、彼は英雄と祀り上げられ、無試験で闇祓いになった後も最前線で戦い続けた。

 『呪いの子』の後の人生は語られていないけど、きっと英雄として最後まで魔法界に尽くしたんだろうと思う。成功して当然で、失敗したら手ひどく叩かれて。ずっと闇祓いとして命を削って。

 

 魔法界って。なんて自分勝手で直情的で、愚かなんだろう。

 

 

 

 

 光陣営はきらい。

 でもうちの両親も、めっちゃきらい。

 

 

 ああ、もう。ベラトリックス・レストレンジの娘で実は父親がヴォルデモートってポジション、生きてるだけでスリップダメージ喰らうね。

 

 今回の転生ガチャ、大ハズレだ。

 

 誰だよ、SSR確定って言ったの! わたしだよ!

 

 HUNTER×HUNTERのエリカは英里佳同様、わりと“いい子”だった。でもこの世界にエリカ・アレクシア・レストレンジとして生まれて、前世よりもずいぶんやさぐれた性格になってきているような気がする。

 

 

 だめだ! よし。発想の転換だ。

 

 トム・リドルは半純血だ。だけど彼は半純血とは思えぬ魔力量と才能を持っていた。

 血に拘るあまり近親交配を繰り返し、濃くなりすぎて狂人ばかりが生まれるようになったゴーント家の血に優秀なマグルの血が合わさり、天の采配がごとき交配の妙が、トム・リドルという天才的な魔法使いを生み出した。

 

 母親のベラトリックスは名門ブラック家と、同じく名門ロジエール家の婚姻によって生まれた純血で、その血統の良さは魔法界随一だと言っても過言ではない。

 魔力の強さも有名だった。最強魔女って言われてたんだもの。

 

 だから、トム・リドルとベラトリックス・レストレンジの間に生まれた私は、3/4純血だけど、血の良さとしては純血に勝るとも劣らない素晴らしく優秀な遺伝子を貰ったのかもしれない。

 

 精神的な嫌悪感とかそういうのを抜いて考えるとさ。

 私ってハリー・ポッター世界で一番能力値の高い身体なんじゃない? しかもパーセルマウスだからバジリスクとも仲良くできるかもだし。

 うん。めちゃくちゃオトク。今回の転生ガチャは激レアを引けました! さすがSSR確定ガチャ!

 

 

 

 

 ……ふぅ。

 それくらい思わないとやっていられないくらい、お辞儀様の子かもしれないという事実に打ちのめされています、はい。

 

 

 だって。

 悔しいんだもん。

 

 それに、あの人達が親なのが、ほんとうに嫌だ。

 

 

 

 ちくしょう。

 ヴォルデモートの復活、ぜったい阻止してやるから!

 

 まず技術を磨く。これ大事。敵の使う技を知らずしてどうやって対処できるというのだ。

 

 そして。

 復活を阻止し、ヴォルデモートは確実に消滅させる。

 

 大丈夫だ。

 お辞儀様が復活しなければ、わざわざ落ちぶれたお辞儀様のために行動を起こそうなんて事狂信者達くらいしか考えない。ルシウス叔父様だって今の快適な立ち位置を、復活できるかわからない激弱状態の今のお辞儀様のために棒に振るはずがないんだもん。

 

 狂信者のほとんどはアズカバンにいる。外にいるのはクラウチジュニアくらいだ。あとは暴れたいから傘下に加わったようなただのクズ。そういう奴はまた大っぴらに暴力を振るえるようになるまではアンダーグラウンドでおイタをするくらいしか能がない。

 

 

 

 大丈夫。今のところ、私がしたことは、うまくいってる。

 

 ヴァルブルガおばあ様は原作の彼女とは似ても似つかぬ穏やかさになった。

 狂う元凶を排除したもの。

 何度も訪れて孤独を和らげ、原作で生身のまま無防備に置かれていたお辞儀様の分霊箱を引き離し、老害を遠ざけ、そしてレギュラスが勇気を持って死んでいったことを伝えて、彼女の怒りの矛先をお辞儀様へ向けた。彼女にとってお辞儀様は、息子が命懸けで復活を阻止した、ただのテロリストにまで評価が墜ちた。

 

 シリウスが反発していた頃とは状況が違う。今のヴォルデモートは生きているか死んでいるかわからない恐怖の亡霊で、反ヴォルデモートの考えは純血の教えと反発するものではない。

 

 彼女はもう間近に迫った自分の死を覚っていた。ブラック家の再興を願っていた。なら、私の味方になってヴォルデモート復活を阻止し、レギュラスの勇気ある行動を広く知らしめてブラック家の復権を図るべきだと考える。そう、勝算があったのだ。

 彼女の純血主義と、お辞儀様を憎む気持ちは反発しない。

 

 レギュラスには愛情と敬意をもっていて、シリウスにはダメな子だと言いつつも内心では愛し続けている。

 

 

 そのおばあ様が亡くなって、肖像画が残った。

 肖像画は生前の記憶でしかない。

 本人の生前の想いと記憶と知識を籠め、本人らしく振る舞うようにしている“記憶保持及び再生装置”だ。

 

 先人の知恵を自分の代で途絶えさせないため、これまで知りえた大切な知識や知恵を子孫に引き継ぎ、伝統を廃れさせないためのもの。

 死ぬ直前の状態を未来永劫、肖像画が消滅するその時まで“変わらずに”保持しておくもの、なのだ。

 

 つまり、肖像画となってからの記憶は増えるし、ある程度は変わるけど、本質は変わらない。変わっては意味がないから。

 肖像画をどれだけ説得しても、新しい価値観に生まれ変わりはしないのだ。原作の妄執に囚われたおばあ様の肖像画が冷静さを取り戻すなどあり得ないように、今のおばあ様の肖像画が狂うこともない。

 

 今のおばあ様の肖像画は、シリウスと対面しても激昂しないで先に話を聴けるだけの落ち着きがある。ちゃんと話し合えば分かり合えるはず。まあ原作みたいにヒッポグリフを自分の私室に放し飼いにされたらキレるかもしれないけど。

 

 そして、クリーチャーは、家事の手を一切抜かない忠義溢れる真面目な老しもべ妖精で、彼の忠心はレギュラスとおばあ様と私に全面的に振られている。

 

 今のグリモールド・プレイスは、とても素晴らしく快適な館だ。陰惨さはまったくない。

 

 

 ブラック分家のおじい様とおばあ様は厳格な方だけど、少しずつ少しずつ態度は軟化している。

 マルフォイ夫妻もだ。

 

 

 

 それでも。

 もし復活しちゃったら、さっさと逃げる。なに、だいじょうぶ。私にはね、『マッド博士の整形マシーン』がある。姿は変えられる。

 マグル街で生活するのも全く苦にならないんだから、どこに行っても生きていける。影分身と箒とステップとジャンプを駆使すれば遠い日本にだって行けるだろう。

 

 だからそれまでに習得できる技術は全部覚えて行かなくちゃ。

 魔法具もいっぱい次に持っていきたい。杖とか箒とか魔法薬とか。

 

 

 

 

 ……そうだ。

 

 

 もしヴォルデモートが復活したらあの両親も脱獄してきて、レストレンジのお金はみんな死喰い人の資金になってしまう。

 それまでに、いっぱい買っておこう。

 

 

 

 うん。

 レストレンジ家の資産、喰い潰してやるぜ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 屋敷しもべ妖精のロニーはまだ若い子(ロドルファスが学生時代に代替わりしたらしいから、まだ30歳そこそこくらいなはず)だけど、とても仕事が丁寧で、素早く、部屋にゴミのひとつも落ちていたことはない。すばらしい家事処理能力だ。

 

 そして“エリカお嬢様”をすごく敬ってくれている。

 

 私も彼女が大好きだ。

 

 だけど、彼ら屋敷しもべ妖精は“家”に従うモノ。

 つまり、“レストレンジ家の者の命令は絶対服従”する。

 そう、私の命令だけじゃない。ベラトリックスお母様やロドルファスお父様の命令にも、額縁の中にいるご先祖様方の命令にも絶対服従しちゃうのだ。

 

 それに古き純血一族に従うしもべ妖精達もまた当然のようにゴリゴリの純血主義。

 

 ここで私が大声で『マグル万歳、マグル大好き!』って叫んだとする。

 

 ロニーは“お嬢様がお悪いお考えをお持ちになってしまわれた。このままでは血を裏切る者におなりになってしまわれる”なんて恐慌状態に陥る。

 

 次の日にはロニーの報告を受けた肖像画のご先祖様の誰かからマルフォイ家かブラック家(レストレンジ家はうちの夫婦しかもういないし、二人はアズカバン)へご注進が届き、私は厳しい再教育を受けることになる。

 

 しもべ妖精は常に見守ってくれているけど、スパイでもあるわけ。

 

 だからガーデンへの出入りも常に気を付けている。

 トイレの中やベッドのカーテンを閉めて閉じこもってから、小窓に指を入れてガーデンに影を出し、同時にステップして交代している。

 そうすればたとえしもべ妖精でもガーデンの存在に気付かれないだろう。

 

 どこかへジャンプする時もガーデン経由にしている。

 

 

 

 この屋敷は危険。

 たとえ私が『忠誠の術』でこの屋敷を隠してしまったとしても。

 なかにいるしもべ妖精がレストレンジ夫婦に呼ばれたらほいほい連れてきちゃうもの。

 

 しもべ妖精の優先順位は『主人』→『主人の家族』→『主人の親族』の順。

 この屋敷の主人は今もロドルファス・レストレンジ。

 法的に私が相続していれば私が主人になれるんだけど、まあそれはもう少し先の話。それにレストレンジの血を引いてない可能性が高いのだから、私としても家長になるつもりはない。

 

 魔法界ってアズカバンにいても脱獄犯でも金庫が凍結されたりしないし、法的にお金を没収されたりもしない。結構緩い。

 

 

 だからさ。

 愛してもいない両親。

 これから私が分霊箱を壊し、打倒ヴォルデモートの立場につくなら確実に敵になる両親。

 

 できるだけ彼らの資本も喰い潰してやろう。そして私の持ち物も増やして逃げる準備をしよう。という、とても外道な考えで、私はいろいろ欲しがってはロニーに注文させるということを繰り返している。

 やりすぎない程度に様子を見ながら。

 

 

 

 ある時は。

 

「ロニー!」

 

「なんでございましょうか? お嬢様」

 

「両面鏡が欲しいわ。これならドラコといつでも話せるの。お友達ができたら配るんだから、いっぱい用意して」

 

「かしこまりました、お嬢様」

 

 20セットの両面鏡が手に入った。

 記念すべきひとつめはさっそくドラコに渡した。新しい魔道具に興奮して頬を染めるちびドラコの笑顔プライスレス。

 

 

 

 

 

 そしてある時は。

 

「ロニー!」

 

「お呼びでございましょうか? お嬢様」

 

「内緒話の時に使える魔法具が欲しいの。テーブルに設置したら少し離れた人には声が漏れないような魔法具を探してちょうだい」

 

「かしこまりました、お嬢様」

 

 “音声遮断”の魔法がついた小型の蝋燭台のような形の魔道具を手に入れた。さっそくドラコと内緒話をした。

 隣のテーブルで微笑まし気にこちらを見ているシシー叔母様を気にしながらの内緒話は、とっても楽しかった。わくわくした。

 孔雀の小屋にした悪戯をこっそり教えてくれるドラコがめちゃんこ可愛かった。

 

 

 

 

 

 またまたある時は。

 

 

「これだわ!」

 

 静かに本を読んでた私は、物語の途中で立ち上がって叫んだ。

 

「ロニー!」

 

 名を呼ぶとバチンと音がしてしもべ妖精のロニーが現れる。

 

「見て! ロニー」

 

 今日のおねだりはいつものよりもさらにさらに高額商品だ。

 テンションあげていこうぜ、エリカ。お子ちゃまエリカの、お金持ちお嬢ちゃまエリカのおねだりだ。

 

 ばん! と今まで読んでいた本を開いて見せる。

 

『雪男とゆっくり一年』

 

 自伝と銘打った冒険紀行本は実録というには大げさで修飾が多くて自慢ばかりだけど、物語だと割り切って読めばけっこう面白い。

 ロックハート。小説家としては才能がある。

 

 

 主人公は雪山で吹雪に遭い、古ぼけた小屋に逃げ込む。

 真っ暗で凍てつく小屋の中。隙間風がビュービューと鳴り、暖炉は壊れて使えそうにない。しかも主人公は先ほどの戦いで杖を失くしてしまったのだ。今にも凍死するのではないか。

 

 読者のそんな心配をよそに、主人公は余裕の表情で持ってきたトランクを広げ、あろうことか、その中にひょいと入っていく。

 トランクの中は広々とした屋敷のようでいくつもの部屋があり、清潔で温かく、暖炉には赤々と火が灯り、本棚には様々な本が並んでいる。

 主人公は暖炉の前のカウチに寝そべってワインを嗜む。

 

 

「トランクが欲しいの! 中におうちがあって、本やおもちゃをいっぱいしまえる奴! 魔法の練習も箒の練習もそこでするの!」

 

「かしこまりました、お嬢様」

 

 

 

 

 

 

 3ヶ月後、私の細かい注文通りのトランクが届いた。

 トランクはふたつ注文した。

 

 ひとつは、飴色の皮革のもので、右下にこげ茶の焼き印で『Erica』と私の名前が入っている。

 なんていうか、とても洒落てた。

 

 もうひとつもサイズは同じくらいで、こちらは黒の皮革のトランクで銀糸の刺繍で『Erica』と私の名前が入っている。

 こっちもまた素敵だ。

 

 

 小さなトランクだ。3,4泊が限度だろうと思わせるサイズのトランク。

 

 だけどその小さなトランクは、検知不可能拡大呪文と軽量、保護、防水、耐火、自動修復その他、様々な魔法が掛かった優れもの。

 

 所有者にしか開けられないし、蓋を閉めればどれだけ振り回してもトランクの中身が倒れたり壊れることもない。

 

 

 まずひとつめ。

 飴色革のトランクを開くと部屋になっている。

 そう。ニュート・スキャマンダーの持ってるやつみたいに中に入れるものだ。

 といってもあれみたいに魔法生物がガンガン入れるほど広くはないよ。

 

 居間、キッチン、ダイニング、お風呂にトイレ、寝室3つ、本棚がたくさん並んだ書斎、魔法訓練や箒の飛行練習ができる広い訓練室がある。

 

 当然家具や内装も壁紙もいろいろと注文つけた。どれもこれも高級感あふれる品々で揃えられている。

 食器棚はおしゃれな食器が綺麗に並んでいる。保存のきく食料品も一通りそろえた。

 キッチン横のワインセラーには、まだ当分飲めそうもないのにワインが何本も並んでいる。

 

 居間には暖炉もある。煙突飛行ネットワークには登録するつもりはない。

 ただ純粋に暖房とインテリアのためだ。

 

 寝室3つもそれぞれ広々とした部屋で、座り心地のいいソファや、思わずダイブしたくなるほどふっかふかのベッドを置いてある。

 書斎の机と椅子はまるで大企業の社長のデスクみたいに重厚なものを選んだ。

 

 私の夢と希望がいっぱい詰まった、快適空間な家がそこにあった。

 

「すてきなおうちね。わたし、今日からここで過ごすわ。ロニーは絶対入ってはだめよ」

 

 

 

 

 

 もうひとつの黒革のトランクの方は、部屋になっていない普通のトランク。と言ってもこちらも検知不可能拡大呪文で見た目の何十倍も入る。

 

 

 ひとつのトランクで、ダイアルを回すと部屋と荷物入れを切り替えられるようなもの(多重モノと呼ぶらしい)もできると言われたのだけど、私は別々のものを頼んだ。

 

 いずれ、トランク多重モノも作ってもらうつもりだけど。

 今は別々なトランクを二つ欲しかったのだ。

 

 

 ロニーの説明を聞きながらトランクの蓋をあけ、ダイアルの内側についた小さな宝石に自分の血を垂らし、ふたつともに個人登録を済ませる。これで私以外は開けられない。

 

 蓋を閉めてしみじみとトランクを眺める。

 

 ――これで私の荷物をおおっぴらにしまい込める場所ができた。

 

 

 

 

「お嬢様。こちらを」

 

 トランクと一緒に注文した巾着を差し出してくる。

 

 モークトカゲの革製巾着袋だ。薄茶色の皮革のしぼんだ巾着には長い紐が付いている。

 原作でハリーがハグリッドに貰ったやつだ。

 

 モークトカゲは隠れることがうまいトカゲで、その皮革を使った巾着は不審者が近付くと袋が縮んで見えにくくなる。

 その上、中に入れたものは持ち主以外は取り出せない。理想的な収納袋だ。

 

 この巾着にも検知不可能拡大呪文と軽量が掛かっているから、トランクもその他の荷物もどんどんしまえる。

 

 これは、トランクや荷物をしまうものと、財布用の小型のものとふたつ購入した。

 

 

 アイテムボックス系は、ドラポケで(収納)できる私にはあまり必要がないように感じるだろうけど、わりと切実に欲しい。

 ドラポケは人前で使えないもの。

 

 私がいろんなものを手に入れて、それを大事に巾着にしまっている。ロニー達がこれを知っているから、私の身の回りの品がなくなっても『お嬢様がトランクか巾着におしまいになられた』って考えてくれる。これ大事。

 

 レストレンジの夫婦が脱獄したら逃げなくちゃいけない。それまでにどれだけの準備をしておくかが重要なのだ。こういうものはいくらでも欲しい。

 

 それにドラポケは自分のものしか(収納)できない。

 分霊箱やその他怪しい物品をさっとしまえるためには、こういう“なんでも収納できて、私にしか取り出せない”ものが必要なんだよね。

 

 ちなみに、検知不可能拡大呪文のかかった物の中に検知不可能拡大呪文のかかった物を入れるのは大丈夫なのかと思わない? 私は最初に巾着とトランクを買う時にロニーに聞いてみた。答えは「どれだけ重ねても大丈夫」だった。

 考えてみればさ、魔法界のおうちってほとんど拡大呪文で広げてあるの。もし重なるのがダメなら家に拡大呪文のかかったトランクとか持って入れないじゃん。

 

 

 

 

 その後もいろいろ思いついたら購入している。

 そうそう。

 

 やっと小さなバスタブを買った。

 小雪のためのバスタブ。

 

 小雪は入浴時に金粉を出すんだけど、我が家のお風呂は『美肌温泉』で全体が念空間、排水口も謎の念空間に流れ込んでいく。

 大切な金粉がぜんぶ無限の彼方へ消えていくのだよ。

 

 なので、小雪は今まで布地の染色をするために使う大きなたらいで入浴してくれていたのだ。

 HUNTER×HUNTER時代、いろんなものを買い漁ったけどさ、さすがに湯船は買ってなかったんだよね。ごめんね小雪。ほんと、不自由な思いをさせてもうしわけなかった。

 

 

 トランクにふたつめの小さなバスタブが欲しいと駄々をこね、やっと猫足がついた可愛らしい陶器のものをロニーが買ってくれたのだ。

 

 自力で外に買い物に出かけられない幼児の身体が憎らしい。

 

 これからは気持ちよく入浴してもらえるね。

 小雪も可愛い湯船に満足そうだった。

 

 

 

 

 両面鏡は試してみたけど、ガーデンと外では繋がらなかった。外にいる時にガーデンの小雪からの連絡が取れないのは不便だなと思う反面、魔法具は私の念空間にアクセスできないんだと考えれば、ガーデンの安全性が確認できて、とても嬉しい。

 

 ガーデンも広いし、メリーさんも小雪もそれぞれアトリエや図書館にいることが多いから、二人にも鏡を渡し、ガーデンの家の居間にその片割れを設置することにした。影がたいがい一人はそこにいるからお互い連絡したいときにちょうどいいね。

 

 

 

 




いつも感想ありがとうございます。誤字報告も感謝です。
『お辞儀姫』には笑わせていただきました。うん。字面だけ見ればとても可愛い。

※『雪男とゆっくり一年』の内容は捏造。
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