エリカ、転生。   作:gab

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音楽レッスン

 

 

1986年 7月

 

 マルフォイ家で家庭教師に勉強や礼儀作法を教わっているうち、ピアノの教師も呼んでもらってピアノレッスンも始めることにした。

 

 音楽は『超一流ミュージシャン』の能力で一流並みの才能がある。だけど天才には届かない。ぜんぶ独学だったから基礎から学びたいのだ。

 それに人前で気兼ねなく演奏するためには、“技術を習得するプロセス”を周囲に見せる必要があるわけだよ。

 

 せっかく費用の心配なくプロの個人レッスンを受けられる財力があるんだもん。使わなきゃ。

 この機会に基本からじっくり習おうかと思ってる。

 

 影がいるから、反復練習はじっくりガーデンでやれるもん。

 

 

 

 マルフォイ家の伝手で頼んだ教師はスリザリン出身の魔女で、クラシックピアノの権威だった。

 

 毎週1回マルフォイ家に来てくれて練習するんだけど、本当に基礎からみっちり教えてくれてすごくありがたい。

 鍵盤と椅子の高さの正しい位置関係、座り方、姿勢、手の位置、指の置き方、弾き方、楽譜の読み方。

 知っていることを知らないふりするのは難しかったけど、ちょっとしたコツを教わったり姿勢を厳しく直されたりすると技術があがっていくのを実感する。

 すごく楽しい。

 

 マルフォイ家にもピアノがある。古いピアノでとても音がいい。手入れもきっちりされていて調律もばっちり。

 マルフォイ家の誰も弾かないんだけど、ご先祖様にはピアノ好きがいたらしい。今はパーティの時にプロを呼んで演奏させたりするんだとか。

 

 ガーデンにあるピアノもすごくいいピアノだけど、このピアノもすごくいい。柔らかくてなめらかに伸びる音がたまらない。

 

 

 

 マルフォイ家には勉強をしに通っているから週に1回しかピアノを弾けない。上達の速さを誤魔化すためにも、レストレンジ家で練習している姿を見せる必要があった。

 ロニーにピアノが欲しいと頼むと、どこかから古いピアノを持ってきてくれた。

 

 先代の当主時代に買ったグランドピアノでロドルファス夫妻がまったく音楽に興味がなくて仕舞いこまれていたのだとか。

 出してもらってびっくり。

 超高品質で有名な魔法界の楽器職人、グレゴラン卿の作品なんだそうだ。

 

 マホガニーの艶出しの茶色い塗装が美しい。

 10数年手入れされておらず音が狂っているのが残念だ。魔法のおかげで保存状態は悪くないから錆やカビはなさそうだけど、しっかりメンテナンスしてもらわなきゃ。

 

 さっそくピアノレッスンの時に教師の伝手を頼って調律師を頼み、隅々までしっかりメンテしてもらった。

 

 もちろん設置するのは飴色トランクの中だ。ここなら気兼ねなく練習できるし。

 

 トランクの空間を広げて部屋をひとつ追加する。

 うん。拡張呪文マジ便利。早く私もこの魔法覚えたい!

 ピアノルームに相応しい広さにしてもらい、温度や湿度を一定に保つよう魔法で空調管理を徹底して、そこにメンテナンスから戻ってきたグランドピアノを置いてもらう。ソファやクッションで共鳴を緩和して理想的な空間を作り上げた。

 ぽろろんと鳴らすだけで、豊かな音色が部屋を包み込む。んんん。素敵だ。

 

 ……ガーデンのピアノも調律したい。

 何年も調律していないから、音の乱れが気持ち悪くってもう……

 

 まさかガーデンへ調律師を連れていくわけにはいかないし。

 

 もう少し私が大きくなってから考えよう。魔法が使えるようになって、マグルの調律師に頼んであとで『忘却術』でどこに出張したか忘れてもらうって手もある。

 それまでは我慢我慢。

 

 

 

1987年 4月

 

 1年ほどピアノを続けた私はピアノの先生から絶賛される腕前だ。まだ手が小さくてオクターブに指がぎりぎり届かないけど年齢にあった曲はなんでも弾ける。

 魔法界で手に入る楽譜もいろいろと取り寄せてもらっている。

 

 そろそろ他の楽器も演奏したい。

 叔父様に次はバイオリンの先生を紹介してもらいたいと頼んだ。最初「二つも楽器を習うのは中途半端になる」と反対されたんだけど、どちらも決して練習をさぼりませんと誓い、どうしても習いたいと泣き落としもした。

 ピアノ講師の魔女から“音楽の天才”との絶賛の言葉を聞いているマルフォイ夫妻は、私の音楽の才能を埋もれさせることは惜しいと考えたのか、本人の希望を優先させようと許してもらえた。

 

 バイオリンの先生はスリザリンを好成績で卒業した魔女で、年齢が読めない美魔女だった。とても有名なバイオリニストらしい。

 

 初めてのレッスンはヴァイオリンを持って立つ姿勢と腕の位置、構え方、それから弦を動かす練習で終わった。楽器はもちろんロニーに用意してもらったものだ。

 

 それだけでもじゅうぶん満足だったのだけど、先生がさっと小曲を奏でてくださった。

 彼女の弦捌きのたくみさと、音の美しさ、深さに一瞬で魅了されました。素晴らしかった。

 ルシウス叔父様、素晴らしい先生をありがとう。これから頑張るから!

 

 これで音楽レッスンの日が週に二日になった。

 バイオリンを始めたことを少し不満がっていたピアノの先生も、私の練習量が落ちていないことに満足の笑みを浮かべ、いろんな楽器に触れることも貴女のような才能あふれる方には必要なのでしょう、とまで言ってくださった。ごめん。影でドーピングしてて。

 でも努力はホンモノだから。

 

 

 魔法界は狭い世界で保守的だけど、音楽は思った以上に幅広かった。クラシックだけじゃなくてジャズやポップスもあるし、レゲエやパンクだってある。

 いずれサクソフォンも習い始める予定だ。シルヴィアのためのレッスンを、早く始めたい。シルヴィアをどれだけ上手に扱えるかは私の攻撃力に関わる。先は長い。でも、楽しみだ。

 

 

 

 上達を褒められるようになり、マルフォイ家でちょくちょく演奏をねだられるようになった。うし! これは洗脳……いやいや意識改革のチャンス。とばかりに、演奏するたび『超一流ミュージシャン』の技を駆使し、想いを指先に込めてピアノを弾いた。

 

 想いは『ラブ・アンド・ピース』。心の中で、『死喰い人なんてかっこわるいし先はないよ、どうせヴォルデモートは凋落したし、もう復活なんてないない。このままフェードアウトして善良な貴族家っぽく生きようぜ。マグルを好きになれとはいわんけど、上手に利用すればいいじゃん……』というような緩やかな緩やかな思考誘導を図り、純血思想の緩和を願っている。

 

 あまりキツイ方向転換はしない。本当に少しずつ少しずつルシウス叔父様やシシー叔母様、ドラコが穏健派になってくれれば嬉しいという願いで頑張っている。

 

 実際のところ、私やドラコに接する彼らは教育に厳しいが子煩悩そのもので、私は一度だって彼らの死喰い人らしい残虐なところを見たことがない。あとシシー叔母様は死喰い人じゃない。左手に印はない。綺麗なものだ。

 叔父さまが清廉潔白だなんて欠片も思わないけど、意味もなくマグルを虐めて遊んだりしなくなればそれで嬉しい。

 

 

 

 我が家にはレストレンジのご先祖様方の肖像画があるんだけど、私の生活圏には一枚も置かれていない。ロドルファス、ベラトリックス夫妻がいた頃に、親たちの干渉がうるさくて一室に纏めて飾るように変えたのだとか。

 ロニーに「先代様をこちらへお運びいたしますか?」と聞かれたけど、「そのままでいい」と断っておいた。彼女には部屋の飾りつけを変更する権利がないため、肖像画が私に話しかけられるチャンスはない。

 なので、私ってレストレンジの教育って何も受けてない。

 

 マルフォイ家は私の希望によって礼法や読み書き計算などの勉強はさせてくれている。けど、私にはブラック家のおじい様がまだ健在だから、ルシウス叔父様もブラック家の方針に従うため、私への過度の思想教育はしないようにしている節がある。

 私ってレストレンジの娘じゃなくて、ブラック家の娘だな、と思う。見た目もブラックそのものだし、私のアイデンティティはブラック家に沿っている。レストレンジへの帰属意識は皆無だ。

 

 

 

 

 

 

 

 シルバードッグのシェルはこの三年でずいぶん大きくなった。予想したとおり、グレートピレニーズなみの大型犬だ。銀色の毛皮がふさふさと美しく、じっと立っていると気品すら感じる。

 でも動き出すととたんに子供っぽいしぐさになる。一番の末っ子で、甘えんぼで遊び好きな子だ。いつも誰かの足元をすりすりしながら渡り歩いている。可愛い。

 小さなラルクがお兄ちゃん顔しているのも可愛い。ラルクとシェルの虹兄弟と呼んでいる。

 この2匹の冒険の場所は『山神の庭』だ。

 

 

 ガーデンの我が家の後ろ側はパブリックな空間で左からアトリエ、図書館、音楽堂と大きな建物が並んでいる。

 その手前はもともと我が家の裏庭だった部分をもう少し改良して小さめの広場っぽくしてある。

 もともとあった『豊作の樹』『不思議ケ池』『酒生みの泉』と、もう一つ、ここに設置されたものがある。

 

 ゴン達とグリードアイランドを制覇したクリア報酬で貰った『一坪の密林』だ。

 

 

 『一坪の密林』のカードの説明にはこう書いてあった。

 「山神の庭」と呼ばれる巨大な森への入り口。この森にしかいない固有種のみが数多く生息する。どの動物も人によくなつく。

 

 

 広場にゲインした時現れたのは、石造りのアーチと閉じられた鉄の格子でできた門だった。門にはハンター文字で“山神の庭”と書かれている。

 その門扉を押し広げて入ると、そこからは広大な森が広がっている。っていうか、森の中にいる。

 某『どこでもドア』のような感じだと言えばわかるだろうか。

 森の中に不自然な空き地があり、その真ん中にぽつんと石造りのアーチがあるのだ。四方を見てもどちらにも森が続いている。

 

 ハンター世界の住人が“巨大な森”と表現する森の巨大さは、もうね、何といっていいのか、一言で言うと、『どこまで続いているかわかりません』って感じ。

 森と言うより、山あり谷ありの雄大で緑豊かな大自然だ。

 

 門付近は湿度も温度もそこそこで、けっこう居心地がいい。まるで避暑地の森を散策しているような気分になる。そんな感じの自然が周囲数十キロと続いているのだ。

 

 でもそれより奥に行くと森は急に表情を変える。ジャングルみたいな熱帯雨林もあったし、別の方角に行けばきっと他にもいろんな風景を見せてくれるんだろう。

 今のところまだそこまで到達できていないけど。

 

 いろんな動物がいるんだけど、彼らはそこで自由に暮らしていて、同じ種で繁殖を続け、ちゃんと弱肉強食の食物連鎖があって、維持管理に私の手を必要としていない。

 

 ここだけ別空間でちゃんと太陽があって昼夜もある。雨や雷もあり、風が巡っている。

 誰も管理しなくても、ちゃんと森が森として何百年も何千年も存続していけるようになっているんだと思う。

 崖を登ったり、山を駆け下りたりと修行にも適している。

 山菜や果物も豊富で我が家の食卓に彩りを与えてくれた。うんうんガーデン内で自給自足が進んでいて素晴らしいよね。

 

 これだけ巨大な森なら、私が端っこ(この場合中央っていうのかな?)を少し切り崩して多少手を加えたくらいで環境が乱れることはないだろう。

 

 巨大な森の中央、扉のある周囲を修行がてら切り開いて『開拓地』を作ることにした。

 グリードアイランドの岩場でやったような修行は本当に岩場がなくなってしまうからどうしようかと思っていたんだけど、ここならできる。

 それに『開拓地』に私達の住み家を作るのも楽しい。

 

 ということで、周囲の木を切り、切り株を掘り起こし、岩場を削ってすこしずつ土地を均している。

 うん。カインお父さんとルミナお母さんと二人の友達、彼らの作り上げた空間みたいなものを私の修行がてら作っている。

 

 

 

 この森の動物は多種多様で面白い。極彩色の魚に脚が生えたやつとか、頭がふたつの狼っぽいのとか、触手がいっぱいのトカゲ? とか、脚が6本の兎?とか、まん丸の毛玉がコロコロ転がっているようにしか見えないナニカとか、眺めているだけで楽しい。

 

 私達はここを『森』と呼んでいる。メリーさん達もたまに散歩している。ラルクもシェルも楽しそうに走り回っている。

 

 ある日、メリーさんがうきうきとスキップでもしそうな足取りで、2トンほどもある大きな牛っぽい動物の親子を連れて帰ってきた。勧誘してきたらしい。

 開拓地の一部に囲いをして小屋を建てたら親子で住みつき、毎朝たくさんの牛乳を搾らせてくれるようになった。

 量が多くて味も芳醇で美味しい。

 

 またある日には烏骨鶏っぽい鳥も数羽連れてきた。毎日新鮮な卵が貰える。殻の色がどピンクなんだけど、中身は普通に鶏の卵っぽい感じ。これもとても美味しい。

 

 メリーさんは食べられるものがわかるんだろうか。楽し気に世話をしているし、お互い話せないのになんだかわかりあっているっぽい。メリーさんってほんと、すごい。

 

 

 ガーデンにはグリードアイランドのアイテム『酒生みの泉』からお酒、『不思議ケ池』から魚、『豊作の樹』から果物が採れる。それから菜園に植えた野菜類が少し。それから『森』で採取する山菜類。

 自給できるものはこれだけしかなかった。これでガーデンの自給品目に牛乳と卵が加わった。

 とてもありがたい。

 

 

 もうしわけないけど、ごくたまには森で狩りもさせてもらっている。貴重なたんぱく源として大切に食べさせてもらっている。

 

 狩りや解体の技術を錆びさせないためでもある。人になつく動物を狩るのはすごく辛いのだけれど牛や豚だってよく人になつくよ。牛は殺してよくて「山神の庭」の固有種は駄目ってのはエゴだ。

 

 開拓地と決めた中央付近以外はできるだけ手を加えないように。修行はさせてもらって。

 触れあえる動物とは節度を持って付き合い。

 勧誘してきた生き物はちゃんと世話をして。

 戦う獣は狩る。

 

 修行しながら家を作ったり、土壌も豊富っぽいから畑も作ろうと考えている。

 

 私達は上手に森と付き合っている。

 

 

 

 

 

 

1987年 5月

 

 ブラック分家のドゥルーエラおばあ様が亡くなった。

 ロジエール家最後の生き残りだったおばあ様が亡くなったことで、シグナスおじい様はロジエール家の資産も管理することになった。

 

 一人になり、いきなり老け込んだおじい様は、居間に飾ったドゥルーエラおばあさまの等身大肖像画とお茶を飲みながら、昔話をしているらしい。

 

 

 ……そういえば。

 原作でシリウス・ブラックが『ブラックの名を持つ者はもういない』って言ってた。私やベラトリックスはレストレンジだし、シシー叔母様とドラコはマルフォイ。レギュラスは死んだ。ブラック家は他にいない。

 

 今はおじい様がいらっしゃるけど。あと本家の隠居老害。

 原作でシリウス・ブラックが登場する3巻までに、おじい様も老害も亡くなっているってことだ。

 

 寂し気なおじい様を見て、ああこの人もあと数年で亡くなるのかとものすごく悲しくなった。

 病気や怪我、事故や他殺ならなんとか防ぎようもあるかもしれない。

 でも、きっとこの人を殺すのは老化と寿命だ。

 

 できるだけ会いに来よう。

 おじい様が亡くなるまでせめて祖父孝行をしよう。少しでも長く生きていたいと思ってもらえるように。

 私を置いて死ぬのはさみしいなんて思ってくれれば少しは原作よりも長生きしてくれるかもしれないもんね。

 

 

 ドゥルーエラおばあ様からは、形見分けとして純銀のブレスレットを頂いた。

 守護の呪文がかかっていて、呪いを相手にそのまま跳ね返すらしい。

 チャーム部分がロケットペンダントと同じように開閉式になっていて、検知不可能拡大呪文がかかっているから大切なものを入れておくといいと説明があった。

 

 

 

 

1987年 5月20日 誕生日 7歳

 

 7歳の誕生日を迎えた。

 今年もマルフォイ家が私の誕生日を祝ってくれ、おもちゃやローブ、本などのプレゼントも頂いた。

 やっと7つだ。先行きの不安があると、自分の成長の遅さにため息がでるね。早く大人になりたい。

 

 まだね、精神が幼すぎて注意力散漫なんだよ。

 殺気には気付くんだけど。

 本気になればこの世界の誰でも貫手ひとつで殺せる私が、だからこそ、一般人の投げつけるくそ爆弾にも気付かないくらいほけほけになっちゃうの。

 どうも自分の肉体が強すぎて、魔法族の弱い体との差を如実に感じてしまって、つい気が緩んじゃうのだ。

 

 魔法がどれだけ怖いか知識としては知っているのに、幼い精神が彼我の力量差に緊張感を保ち続けられない。

 

 『強くてニューゲーム』の弊害だ。

 強さの質が違うことに、頭はじゅうぶん理解しているのに、身体が追い付いていない。

 少しずつ精神的に成長しているから、もう無防備に無警戒で街を歩くことはなくなってきたけど……

 

 

 

 

 

 

 マルフォイ家で一緒に学ぶようになって1年。

 ドラコの取り巻きがそれに加わるようになった。

 ビンセント・クラッブとグレゴリー・ゴイル。原作にいたトロールみたいに愚鈍で肥った、ドラコの腰巾着達だ。

 

 初めて会ったクラッブとゴイルはまだ太ってなく、がっしり骨太の大柄の男の子達だった。表情は幼くて、そしてあからさまに拗ねていた。

 

「おあいできてうれしいです」「おふたりのともだちになりたいです」

 

 言わされた感満載な言葉だった。

 互いに挨拶を済ませると、すぐにレッスンになる。

 

 私とドラコはもう文字も読めるし、算数や魔法史、礼儀作法なんかもどんどん進んで覚えていってる。

 クラッブ達は、今までまったく勉強をしたことがない様子だった。

 字すら読めない。

 勉強をしたことがないから席に長時間じっと座っていることすら初めてのことで苦痛みたいだった。

 

 

 

 ああ。これじゃあ仲良くなれるわけないよなあ。

 

 私さ。もうね、ほんと、ドラコが大好きなの。もちろん恋愛じゃなくってね、家族愛。可愛い弟みたいに思ってるわけ。

 

 だから。

 ドラコの友達関係をちょっと原作よりもよくしてやりたいんだよね。

 

 クラッブとゴイルってドラコと比べて、知力に差がありすぎるし、興味や趣味の対象も違いすぎる。一緒にいてもちゃんとした会話がない。

 楽しそうに見えないんだよ。ほんと。

 

 

 どちらも親からの命令で一緒にいる。

 

 ドラコは父親から側近や手下としてうまく使えと言われているけど、彼らは見事に何の役にもたたない。意思疎通すら難しい。

 だけど遠ざけるわけにいかないため、ただ、世話をしなくちゃいけないふたりだと認識してる。

 

 クラッブ達は、父親からドラコについていろ、彼にすべて従え、何かあれば盾になって守れって言われているから傍にいる。

 

 クラッブ達からすれば、親に『自分よりドラコを優先しろ』って言われて、子供心に失望しただろうし、趣味のあわない相手にずっとついているだけなのは苦痛でしかない。

 それですべてに興味を持つことを諦めてしまっただけなんだろう。

 

 

 7歳なんだよ、みんな。

 遊びたいさかりなわけ。

 

 

 でもドラコと私は勉強はもうずっと前から始めていたから字が読めるし、物語を読み解く楽しさも知っているから、勉強しても、プレイルームで絵本を読んだり知育系ゲームをして過ごしても楽しいの。

 

 クラッブ達は、親が家庭教師を用意していないんだと思う。

 まず7歳にもなって字が読めない。

 勉強をしたことがないからやり方がわからない。

 絵本が面白いという感覚もまだわからない。ゲームだって多少は頭を使うから、知識皆無な今はまだ楽しさがわからない。

 

 本当は外に出て遊びたい。

 なのに、親に命じられているからドラコから離れるわけにはいかず、結果、部屋にじっとしているために、間を持たすには目の前にあるお菓子を食べ続けるくらいしかない。

 悲しいかなマルフォイ家のしもべ妖精ってドビーなんだよ。彼にはいい塩梅ってのものがないの。皿が空になればすぐに新しく盛り付ける。彼らが食べる。盛り付ける。食べる。盛り付ける。まるでわんこそばかよって状態になっていた。

 

 

 うん。そりゃあ太るよね。

 

 これが続くから、原作の、あの何もかもを諦めたような覇気のない顔でずっと何かを食べていて、ドラコの言葉には反射的にお追従して、喧嘩になったらとたんにスイッチが入って暴れる彼らができあがるわけだ。幼い頃から恨みと妬みや怒りが募ってて闇の魔術の習熟が早いのもわかるよ。

 

 

 

 だから、勉強の時間の前に少しずつ教えることにした。

 

 まずはアルファベット一文字一文字、字を書くことからちゃんと教える。

 算数も。大皿に並べたクッキーの数を数えるところから少しずつ。

 

 そして、小さな成功を積み上げる。できたら褒める。

 

 最初はすごく嫌がっていたけど、理解できることが増えると、私やドラコの読む本や、私達が話す内容が“面白い”ことだと感じられるようになってきた。

 

 たぶん個人の資質としては彼らは肉体言語タイプで、身体を動かすほうが好きな人なんだろうけど、だからといって馬鹿なわけじゃない。

 

 

 だから、ドラコと勉強することも楽しいことだと感じてくれれば、ちゃんとした友達になれるんじゃないかなって期待している。

 上下関係が発生してしまうのは仕方ない。

 だけど、それなりにうまくやっていけそうな気配は感じられるようになってきた。

 

 

 

 運動も一緒にするよ。

 

 彼らの好きな身体を動かすこともしようと思い、ドラコも連れだして外で遊ぶこともした。訓練もしようと誘ってみる。

 

「なぜそんな訓練をする必要がある?」

 

 ドラコは初め、野蛮な訓練に眉を顰めた。

 

「ねえ、ドラコ。杖を構えて」

 

 庭に落ちている小枝を拾い上げてドラコに手渡した。私達はまだ子供で、自分の杖は持っていない。だけど親の姿を見ているから、ドラコも見様見真似でけっこう様になったポーズで杖を構えてみせる。

 

「じゃあ……ごめんね」

 

 ほんの一瞬。さっと近づいた私はそっと軽くドラコの手を蹴り上げる。杖はあっという間に宙を舞った。

 念を使わなくてもこの程度は容易い。むしろ怪我させないために細心の注意を払ったくらいだ。

 

 蹴られた手を左手で押さえて、ぽかんとしていたドラコにとりあえず謝った。

 

「痛かった? ごめん」

 

「いや、びっくりしただけ」

 

「ね。魔法使いの構えって、杖が前にでるでしょ? ここ狙ってくださいって言ってるようなもんじゃない? 杖を取られたら役立たずなんて、悔しいじゃない」

 

 もちろん距離を詰められないよう戦うのが第一だけどね。乱戦になって近づかれたら体力のない魔法使いは弱いもの。

 私の説明に、ドラコも納得の表情を浮かべる。

 

「まあマルフォイ家のお坊ちゃまが前線にでるなんてあんまりないことかもしれないけど。クラッブやゴイルはドラコを守らなきゃいけないんだもの。選択肢は増やしておくべきよ」

 

 「難しい魔法を制御することにも、クィディッチにも、体力は絶対必要だよ!」と言えばみんな納得し、「クィディッチの選手ってカッコいいよね」と言うと俄然やる気になった。

 

 訓練と言っても、7歳の私がそんな技術を知っていたらマルフォイパパママに不審がられてしまう。ちょっとした遊び……鬼ごっこや、細い棒の上を歩くとか、地面に書いた円から互いに押し合いして外に出たら負け、とか、そんな身体をめいっぱい動かすものを、さも思いついたという態でさせるだけ。

 

 訓練、なんて言ってただの遊びじゃないか。そう気づいた彼らは元気に走り回るようになった。

 

 ちょっと愚鈍な感じにみえた彼らも、今はまだ可能性の塊だった。もともと体術のセンスがあったのか、覚えが早い。ちょっと本気で鍛えたくなってきた。私の強さがバレるからしないけど。

 

 

 

 

 




感想ありがとうございます。とても嬉しく読んでおります。
時々鋭い先読みがあってどきどきです。個別回答すると全部ネタバラシしそうなのでやっぱりこのままいかせてください。
誤字報告も助かっております。

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