エリカ、転生。 作:gab
1987年 7月
ドラコ、クラッブ、ゴイルと一緒に遊びと称した肉体訓練をしていると、私の身体能力の高さにルシウス叔父様がすぐに気付いた。
どうやら魔法族にも『身体強化魔法』を使って体術を極めるという戦い方を好むものがいるらしい。私は誰にも教えられないまま、身体強化魔法を使いこなしているのでは、と推察された。
おそらく幼い頃から人に悪意を向けられることが多かったために無意識のうちに身を守ろうと思ったのだろうとルシウス叔父様が語り、シシー叔母様は私を気遣ってそっと抱きしめてくださった。
ただ、『身体強化魔法』は純血貴族家としてはあまり褒められる戦い方ではない野蛮なやり方だと言われている。
なんせ、『身体強化魔法』の第一人者というと、あの、ゴドリック・グリフィンドールなのだから、スリザリンを信奉する純血貴族家ではそんな技を習得していれば体裁が悪すぎて、知られれば眉を顰めるものも多いのだ。
クラッブ、ゴイルが『身体強化魔法』を覚えることは護衛として心強いため彼らが学ぶことはマルフォイ家が支援しよう。だけど、ブラック家の血をひく姫は許されない。当然次期マルフォイ家当主ドラコもだ。
ゆえに指導者を呼んで実際に学ぶのはクラッブ、ゴイルのみ。私はせっかく覚えた能力を腐らせるのはもったいないため、クラッブ達の訓練を見学することは許す。遊びの範囲で彼らと手合わせすることも目をつむる。
と、4人並んで座って説明をうけた。ルシウス叔父様から人前では決して見せないこと、と懇々と諭されました。
さっそく教師が招かれて、訓練の日、私はドラコと並んで木陰に座って彼らの訓練を見学させてもらう。
見るところ超絶劣化版の念みたいな感じだ。呼吸法を覚えて身体に魔力を循環させて攻撃の際には拳や足に魔力を多く注ぐ。“纏”、“硬”、“流”もどきくらいはありそうな感じ。
でも圧倒的に弱い。教師でさえ前世、念を覚えはじめた4歳時点の私より打たれ弱い。こんなものかとおもったけど、あくまで補助技能だと考えれば凄いのか。
グリフィンドールはこれでドラゴンと戦えたってんだから相当技を磨いたんだろう。
基本の格闘技はカストロさんに教わった型と似ている。敵の攻撃を受け流してそこから杖を抜く動きへ繋げる型もあった。身体を循環させるのが魔力だから、そこからすみやかに杖を構えて魔法を放つこともできる。その流れは淀みなくて合理的だ。
威力の高い『武装解除呪文』を受けると、杖を前方へ飛ばされるだけじゃなくて、身体も後ろへ飛ばされてしまう。そんな時にも『身体強化魔法』で身体を守っていれば、ひねりを加えて上手に着地できそう。なんですたれちゃったんだろうこの技術。確かに野蛮っぽいから貴族が嫌いそうな技術ではあるけど。
すたれた理由は身体に保有できる魔力量が限られているから、らしい。身体に回すより攻撃にすべて使う方がたくさん攻撃できるもの。
それと格闘技には遠距離攻撃がないから、姿現わしで敵に近寄って殴る。戦いの最中に最適な位置に飛んですぐ攻撃に繋げるのは技量が必要だ。私のステップを使った戦いと同じだね。
あと物理で殴るのは野蛮だから。魔法族は高尚な種族だから直接殴り合うなど言語道断だという風潮のせい。
呼吸法と魔力循環は魔法使いの基礎だから一緒に教えてくれた。
魔法を使うには、身体の中にある魔力を感じ取り、練り上げて、杖腕に集めて、杖先まで通す。と言うプロセスを踏むのだそうだ。
そのやり方をホグワーツに行くまでに習得できれば、魔法発動体である杖を持てばもっとスムーズに魔力が動くから、授業ではじゅうぶん先を行けるだろうと先生が言う。
魔力を感じて循環させるのは、オーラを循環させるのと近い。というか、同じ気がする。
ガーデンに入って習ったことを反復しつつ考察。
これさ。
身体の中に、たぶんオドとかマナとかそんな感じで呼ばれる『なにか』を使うためのエネルギーの源泉があって、それを使うのが『力を使う』ってことじゃないかな。
源泉から汲みだしたものをオーラに変換して念を使っていた私が、この世界に生まれ変わったことで、源泉の力を魔力に変換させる能力を手に入れたから魔法が使える。そんな感じ。
ジャンプとステップは、よくわからないけど源泉の力そのものを使っている気がする。感覚的なものだけど。
源泉のエネルギーをオーラに変換させて念を使い、魔力に変換させて魔法を使う。
えっと。わざわざ変換させるんじゃなくて、自動的に変換されたもの――オーラと魔力が、身体の中に混在している感じ。
んで、戦闘時もっといっぱい使いたいって時には源泉から汲み上げる時にオーラに指定してぐわっと作り出すって感じだな。魔力もきっと同じ。
一度オーラとして身体に流れたものは魔力に変換するのは難しい。頑張ればできるのかもしれないけどきっと無駄が多い。
つまり、まあ、オーラも魔力も大元はおなじものってこと。
たぶん、オーラを使い切ったあとは魔法は使えない。魔力が尽きたあとはオーラも使えない。
『体力』で考えてみればわかる。
走っても泳いでも格闘をしても体力は削られていくよね。一日中走り続けて体力が尽きたあと、「今日は泳いでないから泳げるはず」ってのは、無理だもん。
ただ、身体中のエネルギーをすべてオーラに変換して念を使うほうが、慣れているからたくさん使える気がする。たぶん変換効率がいいんだ。何年も訓練しているからオーラの取り扱いに慣れているってのもあるし、オーラが源泉の力に近いモノだからということもあるかも。
魔力は、これから変換効率を上げて行けばもっと使えるようになるんじゃないかな。あ、そこが『練り上げる』の部分かも。無駄なく作り替えなくちゃ余計なエネルギーを使っちゃう?
魔力循環をしながら、“纏”をしてみる。……できる。ほお。魔力として動かしているものと、オーラとして動かしているものは別に動いている。“練”も“堅”もできる。
あ、やっぱり“絶”は魔力も止まる。そりゃあそうか、身体中のエネルギーのすべてを体内に押し留めるのが“絶”だもの。でも“流”の要領で、身体を“絶”、杖腕だけ魔力を……できた。すごい。
なるほど。じゃあこれからは魔力循環も訓練に取り入れて練習しよう。
数ヶ月訓練を続けたクラッブ達はしっかり『身体強化魔法』と格闘技の魅力に取りつかれたらしい。肉体言語タイプの彼らには魔法を放ちつつ殴るという戦い方は相応しい。
私達は見学だけだけど、ドラコも“纏”はできるようになった。それだけでも生存率が上がるからいいことだよね。ドラコの立ち位置ならここまでできればじゅうぶんだと思う。
私はこっそりクラッブ達に組手に付き合ってもらったりしている。
多少慣れてきて自分達が強くなってきたことに気付くと、クラッブやゴイルがたまにマウントを取ろうとしてくるようになった。そんな時は情け容赦なく完膚なきまでに転がしてあげている。
私だから許すけどドラコにしたら潰すよ、と囁くと脂汗をかいてコクコクと頷いた。小さい頃からがっつり上下関係を教え込んでおくのは必要だよね。
1990年 5月20日 誕生日 10歳
クラッブ、ゴイルと出会って3年。順調に勉強と交友関係を進め、10歳の誕生日を迎えた。
やっと二桁だ。
前々から決めていたように、筋力増強のための念具ベルトを装着したい。できればピアスもそろそろ開けたい。そう考えていた私は、こっそり機会を窺っていた。
ある日、シシー叔母様とダイアゴン横丁へローブの仕立てに行った時、小さなアクセサリー屋さんを見つけ、入ってみたいと頼んだ。
魔法具ではないただのアクセサリーの店で、金額が安くて可愛らしい小物の多い店だった。叔母様といろいろと見たあと、念具のブレスレットとピアスにフォルムが似ているものを見つけ、これが欲しいとねだって買ってもらった。やった。購入を見せるために買ったのはブレスレットだけだけど、ウエストと足首は誰にも見せないから問題なし。
ピアス穴を開けるのはしもべ妖精に頼めば安心よ、と叔母様の助言の通り、家に戻ってからロニーに今日買ったものではなく念具のピアスを渡して開けてもらう。
魔法で痛みを取って、ピアスを強化して、さっと刺してくれた。
両耳についたとたんに、ぐいっとオーラが喰われる。
あー。懐かしい。負荷がかかっているのがよくわかる。念具には負荷の限界があるんだけど、私はそこまでも成長できていないってことだ。前世は12歳までで終了しちゃったもんね。
まだまだこの念具にはお世話になるみたいだ。
筋力増強の念具も装着する。
ウエスト、両手首、両足首。留め掛けを付けるとしゅっと身体にぴったりのサイズになる。
いつ見ても念具ってすげえ。
ずっしりと身体に負荷がかかる。
これで一層念の修行に力が入る。すでに身体が軽すぎて何の運動をしても汗ひとつかかないくらいには体力が出来てきてたから、この重さはとても嬉しい。数トンの負荷なんて私にとってなんてこともないものだけど、あるのとないのとでは大違いだものね。
しっかり修行しなきゃ。
魔法の訓練はまだ始められない。やっぱり11歳までは危ないことは駄目ですとロニーに厳しく止められたし、これ以上杖を欲しがるならマルフォイの奥方様にもご報告申し上げますとまで言われた。
私には時間がないのに。
だって学校に行けばあのダンブルドアがいる。私は死喰い人の娘だ。「闇に囚われておらぬか、心配なんじゃよ」とか言いながらがっつり開心術を仕掛けてきそうじゃん、あの爺さん。
だから一刻も早く閉心術を覚えたい。せつに! 私には秘密が多い。絶対に知られたくない秘密がてんこ盛りなのよ。
杖を貰えないことにしょんぼりする私を可哀そうに思ったのか、お嬢様は魔力循環が既にとてもなめらかにおできになるのですから、学校に行かれたらきっと一番優秀な魔女でございますと慰めてくれた。
「お嬢様はいずれ杖に頼らずとも魔法がおできになります、きっと! お嬢様は天才でいらっしゃいます」
キーキー声で絶賛してくれるロニーに礼を言った。
もちろん学習の方もしっかりがんばっている。
英語の勉強もずいぶん進んで、崩した手書き文字もしっかり読めるようになった。文字の練習がてら、おじい様との手紙のやり取りも始めた。
レギュラスの日記もちゃんと全部読めた。
二次創作ではわりと腹黒っぽく書かれていることが多い彼だけど、日記を読む限り、真面目過ぎて生きることに不器用そうな少年だった。
兄シリウスは親に反発して家を出てマグル擁護を表明し、反ヴォルデモートを高らかに掲げて不死鳥の騎士団に入り、派手に活動している。
世の中の情勢を考えるとどちらかに傾きすぎるわけにはいかず、このままでは純血家ブラックの立場が脅かされる。
結果ブラック家からも死喰い人を出すしかなかった。
原作でクリーチャーが語るレギュラスは、学生時代からヴォルデモート卿を尊敬していたと書いていたけど、日記を読むと色々と見えてくる。
日記にはレギュラスがブラック家の存続のため、死喰い人になったと書いてある。
レギュラスは、優れた生き物である魔法族のほうがいつまでもマグルから姿を隠して生きていかなければならないのはおかしいと思っていた。その点でヴォルデモートの意見と合致していたため、彼を尊敬する気持ちはあったらしい。
どんな団体でも活動するには人・物・金の管理が必要で、純血貴族家のレギュラスはコネと金の手配に慣れており、庶務的な役割の下っ端仕事を手伝うことが多かった。
好戦的な者や学のない粗野な者も多く、生真面目な優等生のレギュラスにとって居心地のいい場所ではなかったみたい。
ヴォルデモート卿のことも当初は多少は尊敬していたけど、機嫌の良し悪しで命令がころころ変わったり、自慢話が多かったり、些細なことで怒りを買った仲間に対して自分達に『クルーシオ』をさせたり、少しずつ彼への尊敬の念が削れていく。
死喰い人としての活動も、まだ若いこともあって大した仕事を任されることもなく、闇の魔術を教わったけどほとんど仲間内の制裁に使わされるだけで活用する機会もないまま過ごし、やっと巡ってきた大きな役割が『しもべ妖精を差し出すこと』だった。
大切なクリーチャーが毒を飲まされそのまま見捨てられたことで、疑問視していたヴォルデモートに完全に失望。
そして、そこまでしてヴォルデモートが守ろうとするモノが何かを調べ上げ、短期間でそれが“分霊箱”だと気付く。
同時に、ヴォルデモートの魂はどうしようもない程壊れていて、彼の推し進める未来は破壊と暴力しかないとわかってしまった。
ブラック家の存続を思えば死喰い人を辞めて逃げ出すことは叶わない。
だが、自分の命と引き換えにしてでもヴォルデモートの復活を阻止するつもりであること、最後までクリーチャーには面倒をかけた、彼には幸せになって欲しい、とか、もう一度家族に会いたかった、兄とも仲直りがしたかった、とか。
ナイーブな青年の苦悩が切々と書かれていて、最後の方は読んでいても辛かった。
分霊箱についても情報が書かれていた。
分霊箱という闇の魔術は秘された禁術だ。簡単に情報が転がっているようなものじゃない。そもそもルシウス・マルフォイなんて『トム・リドルの日記』が分霊箱だと気付きもしなかった。
なのにレギュラスは、クリーチャーが戻ってきてひと月も経たずに、分霊箱だと突き止めている。優秀だよね彼。
ヴォルデモート卿がことあるごとに『私は不滅だ』と言っていることから“不死”“復活”“蘇生”と言った内容の禁術や呪いを探し、ブラック家にある闇の書籍を読み、『分霊箱』にアタリを付けた。
『生とは死とは―闇の秘術の深淵』と言う本を読んで確信したと書いてある。ヴァルブルガおばあ様が私にくださった本だ。
私ももう10歳だ。魔法抵抗力もだいぶあがった。
もう読んでも大丈夫だろう。
『生とは死とは―闇の秘術の深淵』はいろんな闇の秘術のやり方が書いてある本で、ほとんどが不死とか、再生とか、魂とか、疑似的な魂を作るとか、そう言ったものを扱ったものだった。分霊箱も作り方が具体的に書いてある。陰惨な挿絵があったりして気持ちが悪い本だった。自分で作りたいと考えているわけじゃないのだから、熟読する必要はない。
内容としては原作で知る以上の情報を得られなかった。
それでも、分霊箱を壊されないよう保持するために強化すべき云々という説明書きに、『ゴブリンの鍛えた純銀製の武器は強靭で、その上殺傷力を高める力を吸収するため分霊箱を壊しうる』とか『バジリスクの腐食性の猛毒は非常に強い破壊力を持つ』と言うような記述を見つけた。うんうん、これで壊し方を知っている理由もできた。
ハリーからヴォルデモートの魂を引き剥がす方法は書いていなかった。先は、長い。
1990年 10月
“超一流パイロットの卵”を、無事孵すことができた。
もうね。『超一流パイロット』の空間把握能力は素晴らしいものだった。
なんていうんだろうか。空間を精密に感じ取れるようになった。
今のところ運転や操縦という行動が箒以外ないから運転についてはまだわからないけど、箒の技がすごくあがった。どれだけ速くどれだけ激しく飛び回っても天地を見誤ることがないし、周囲の障害物などとの距離も正しく理解できる。
いつも一緒に飛び回っているドラコ達が一瞬ぽかんとするくらい差がでた。もちろん、すぐに誤魔化して人前では手を抜くようにしたけど。
私の基準はドラコと決めて、今後は彼を参考にして箒捌きをセーブしようと思う。
空間把握は対人戦闘や集団戦闘にもじゅうぶん有益な能力で、わちゃわちゃと周囲に人が集まっていてもそれぞれの距離感がわかるし、ガーデンの『山神の庭』で修行中、崖を駆け下りる時にすら動きが変わったと感じる。
影と打ちあったり、ピッチングマシーンでの回避練習でも、彼我の位置関係が如実にわかる。
その上、“円”という『私のオーラが行き届く空間内』での探知力、察知力が格段に上がったのだ。
“円”の中はもはや私のフィールドだ。
その空間内を掌握できる。
“円”を極める前に既に『超一流ミュージシャン』だったことであまり気が付いていなかったけど、私の“円”が広範囲なのは『超一流ミュージシャン』の耳による感知力のおかげだったのだと理解できた。
『超一流パイロット』の空間把握能力と『超一流ミュージシャン』の優秀で繊細な聴力の相乗効果か、“円”の中にいる者の感情の揺らぎを伝えてくれる。私への悪感情は特に顕著だ。
これで不意打ちの危険性はだいぶ減ったと思う。まあこの世界には姿現わしがあるから完全じゃないんだけどね。
精度があがったおかげで、今までよりさらに“円”を広げることができた。120mから一気に180mまで伸びたことに、これほど変わるのかと自分でも唖然としたものだ。
すごい。
さすが超一流◎◎の卵シリーズだ。もうないのが悲しいけど、『超一流ミュージシャン』と『超一流パイロット』になれたことだけでも望外の幸運だったと思う。
担当者サマ本当にありがとう!
1991年5月20日 誕生日 11歳
11歳になった。今年もいろんなプレゼントを貰った。嬉しい。
ガーデンでもみなと祝った。
んで!
11歳の誕生日にホグワーツから手紙が来るかと待ってたけど……来ない。
もしかして私には入学許可書がでなかった???
不安になってシシー叔母様に聞いたら、なんと、全員7月頭にくるらしい。
原作で誕生日に手紙を見ていたというイメージが強かったけど、そういえばハリーも誕生日より前から何度も何度も手紙攻撃を受けていたっけ。
それに6月生まれのドラコと7月生まれのハリーがダイアゴン横丁で出会ったんだから、入学する者はみな同時期に買い物に来ているってわかるよね。
それにその年の教科書や参考図書は夏休みになって講師陣が確定しなきゃ決まらない。
考えてみれば誕生日が8月31日までの子が同級生になるんだから、8月生まれの子は誕生日に届いてちゃ用意が間に合わない。納得納得。
そういえばブラック本家の隠居老害、アークタルス・ブラック、とうとう亡くなったらしい。
ヴァルブルガおばあ様が亡くなった時もしゃしゃり出てこようとしたらしいけど、彼女の遺言で『アークタルス・ブラックは隠居の身であり、ブラック本家への干渉は許さない』と明言してくれたおかげで本家の屋敷や財産は守られた。
一度も会わずにすんだけど、これでブラック家に連なる人達も老害の被害から解放されたね。
1991年7月
ホグワーツへ入る直前の夏。
夏の間に音楽レッスンを何度も頼んだ。毎回マルフォイ家に来ていただくんだけど、ほんと、ありがたく思ってます。
これからはクリスマスや夏など纏まった休みにしかレッスンができない。先生方もホグワーツ生だから当然わかっている。
先生方には私の飴色トランクを見せている。学校にこのトランクを持ち込むから毎日練習は欠かしませんと誓うと、課題用楽曲をいくつも用意してくれた。わーい。知らない曲だ。楽しみ。
シシー叔母様のおっしゃったとおり、7月に入ってすぐにホグワーツから入学許可書が届いた。
ちょっと心配だったのは、トム・リドルみたいにダンブルドアがやってくること。
ほら、わたくし、レストレンジだもん。ちょっくら入学前に顔でも見て開心術かけてみようかなんて思われたら怖いじゃん。くるんじゃないかと冷や冷やして待ってました。おばあ様の指輪が離せませんでした。
来なくて良かった。
まあね。
私の両親はアズカバンに入っているけど、うちの両親よりももっとズル賢い者達が今、外で大手を振って純血貴族として魔法省にも口を出しているわけだ。
そう。ルシウス・マルフォイとかね。
そんな人達と比べれば、うちの両親は攻撃力はあるけど知力は足りない。ダンブルドアが警戒しているのはレストレンジじゃなくてマルフォイだ。
うん。ダンブルドアが来なくて、本当に良かった。
ちなみに、ルシウス叔父様は原作みたいにドラコをダームストラングへ行かせようとは考えなかったみたい。本人が中庸になり始めていることと、死喰い人と距離を取り始めているため、校長カルカロフが元死喰い人であることもダームストラングを候補から外した理由のようだ。
今年もマルフォイ家でスネイプ先生を招いての夕食会があった。
もともとルシウス叔父様とスリザリンで先輩後輩の仲で、今も親しく付き合いのあるスネイプ先生は夏になると一度はマルフォイ家へ招かれていた。
彼とはできるだけ仲良くしておきたい私は、幼い頃からルシウス叔父さまにねだっていつも同席させてもらっていた。もちろん、ドラコも。
子供受けしないと自分でもわかっているスネイプ先生は、私がずんずん話しかけることに最初は困惑していたけど、じき、慣れてくれた。
そうやって幼い頃から積極的に話しかけていたおかげで、「エリカ、ドラコ」「セブルスさん」と呼び合うくらいには親密になっていた。
今年はもうすぐ入学だから、私もドラコも学校のことを尋ねたり、魔法薬学について教えてもらったり、薬学に使う鍋や秤の選び方のコツを聞いたり、スリザリン寮の話を聞いたり、話題は尽きない。
「学校ではスネイプ先生って呼ばなくちゃいけませんね」
「さよう。学校では私も君たちをミス・レストレンジ、ミスター・マルフォイと呼ぶことになる」
せっかく「セブルスさん」呼びできるようになったのに、距離が離れるようで寂しい。もっと機会が多ければ「セブ」って呼び捨てにできるくらいになれたかもしれないのに。残念。
あと、スネイプ先生は『吾輩』なんて言わないよ。「I」の発音のニュアンス的に堅めの『私』だから。
「僕たちはきっとスリザリン寮に入りますから。スネイプ先生、よろしくお願いします」
ドラコがキラキラした目でスネイプ先生を見上げて言う。
「よろしくお願いします、スネイプ先生」
私も同じように笑顔で“先生”と言った。
「こちらこそ、ミスター・マルフォイ、ミス・レストレンジ。有意義な学校生活を過ごしてくれたまえ」
抑揚のない静かな声と堅苦しい表情でも、私はちゃんと先生が微笑んでいること、わかってますから、スネイプ先生。