エリカ、転生。   作:gab

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お父さんたちの事情

 

 

 うちの家はけっこう広い。

 人間は私とお母さんしかいないのに。

 日本人としてはこんな広いのいいのかなと思うほどだ。私の部屋だって10畳ほどはある。子供だからサイズ感がよくわからないけど。

 外国人は広い家が当たり前なのか。

 

 家の間取りも日本とはちょっと違う。

 

 玄関を入ると広々とした空間になっていて、エントランスからそのままダイニングルームへと繋がっている。

 右手側がリビング。ゆったりソファがあって家族団欒の場所だ。

 左はプレイルーム。アイテム化したものがいろいろ置いてある。

 

 正面のダイニングの奥は中央に二階に上がる階段。

 それを挟んで、左が広いキッチン。右はトイレ、お風呂など水回り。

 

 ちなみに、こんな岩を掘り開いた場所に上水下水の施設があるわけがないよね。

 そこんとこがどうなっているのかっていうと、水はタンクに『湧き水の壷』から流れ込むようにしてある。これは一日に1440ℓの水が湧き出る優れモノ。

 一番水をたくさん使うお風呂は『美肌温泉』だ。お風呂自体が別の念空間なのだから給水排水ともに問題ない。

 他はほとんどがキッチンで使うもの。じゅうぶん足りる。

 

 下水の施設はどうしようもないと思うでしょ?

 さすがグリードアイランドですよ。街に行けば据え付け用トイレセットってのがちゃんと売っているのだ。これをトイレにしたい場所にはめ込むだけ。

 

 キッチンや洗面所の排水口も排水キット。

 グリードアイランドの運営陣はプレイヤーにここで永住しろって考えているのかしらん。

 

 キッチンの横、階段の奥からはサンルームと庭へいく扉が続いている。

 庭には、『酒生みの泉』や『不思議ケ池』、『豊作の樹』がある。

 

 

 二階は四部屋。もとはお父さん、お母さん、ディックさん、バッソさんそれぞれの部屋だったらしい。

 今は彼らの部屋は片づけられ、お母さんと私、それからメリーさん。残りの一室は本を置いて図書室としている。

 

 

 Q:こんなすごい家、どうしたのですか?

 A:手作りです

 

 いやあ、すごいよ。ほんと。

 こんなに広くて落ち着く家を建ててくれたお父さん達に感謝だ。

 

 

 夜の団欒の時間。

 お母さんからやっとお父さんの話をきいた。

 お母さんと、お父さん、その仲間の、話を。

 

 お母さんの名はルミナ・エッジ、父はカイン・ボルト。

 仲間は男二人で、ディックとバッソ。

 友人4人でこのゲームに入ったのだそうだ。

 

 お母さんは流星街生まれで、小さい頃からお父さんや他の子供達と助け合って生きてきたんだって。

 

「お母さん達ね、お外にいるとちょっと困ることになっちゃったの。それでね、ゲームを手に入れて、しばらくはここにいようねってことになったの」

 

 えーっと。

 子供相手に濁した言い方をしているけど、つまり、何某かの犯罪を犯したか何かで手配でもされてるんじゃないだろうか。

 あるいは、流星街の顔役に睨まれたとか。抗争に巻き込まれたとか?

 幻影旅団のメンバーとか、マフィアに目を付けられたとか。

 理由はわからないけど、とにかく“外はヤバい”のはわかった。

 

 んで。

 ちょうどゲームが売り出されてたから、ほとぼりが冷めるまでゲーム内にいようということかな。

 前世でウィキで読んだけど、グリードアイランドの販売数は100個で、1個何十億だかの値段だったけど数万の人が買いたがったらしい。

 そんなものを流星街育ちの若者がおいそれと簡単に買えたとは思えないから、もしかするとゲームも誰かが購入したものを奪ったのかもしれない。

 ああ、さすが流星街生まれ。うちの両親、わりとブラックでした。

 

 私の名前なんだけど、お母さん達は結婚してなかった。っていうか、戸籍がないから、結婚の届けを出すことができない。事実婚ってやつかな。

 苗字はお母さんのものでもお父さんのものでもどちらを名乗ってもいいけど、わざわざ流星街生まれの、ちょっと訳ありの名を継がなくてもいいから、自分で考えてねって。

 エリカの経歴は綺麗なんだからって。

 

「だってお母さんだって自分で考えたもの。好きな名前を考えてね」

 

 だそうだ。

 前世の名“柳原”を英語に直訳して“サロウフィールド”と決めた。

 お母さんは難しい名前を考えて偉い偉い!ってほめてくれた。

 とにかく、私は今日から「エリカ・サロウフィールド」となったのだ。

 

 

 んで。両親含む4人組の話の続き。

 

 

 念能力者としては、両親のメンバー達はそこそこ有能だったのだろう。

 それでもここは厳しかった。

 

 朝お母さんが説明してくれたように、ここのレベルの高さに気付いた彼らは、まず修行がてら安全な隠れ家を作るためにこの岩石地帯で穴掘りを始めた。

 岩掘りがどれほど修行に最適か、ビスケ師匠も教えてくれたもんね! お父さん達も修行の仕方を誰かに教わったんだろうか。

 

 そして広いスペースを確保して、ここで生活を始めた。

 元々流星街でも住民の家を建てる仕事もしていた彼らは建築に慣れていた。あっという間に小さなロッジが建った。

 

 拠点が決まれば修行も進み、カード集めも始めた。中々順調だったらしい。

 

「それでね。ゲームに入ったころからちょっと調子が悪いかなって思ってたんだけどね。お母さん、どうやらお腹に赤ちゃんがいたみたいだったの」

 

 ルミナの妊娠が発覚。

 彼女は集めたカードの保管役として隠れ家に閉じこもるようになる。

 つわりの酷いルミナの手助けをするために『メイドパンダ』と『7人の働く小人』がアイテム化されたのはその頃らしい。

 

 四人は、ゲーム内で妊娠したことで、この場所はゲームなんかじゃなく実在する場所なのだと確信したのだそうだ。

 それからはここの居住空間を快適なものにして、いられるだけここに住もうという話になったんだって。

 もちろん、クリアは目指すけどね。

 これほど難易度の高いゲームなんだから、どうせ十年以上はここに居られるだろうって。

 

 そこで、隠れ家の岩場をより一層強固に整備して、環境を整える。

 あとは流星街で慣れた家づくり。最初に作った仮住まいを潰して、本気の家を作り上げた。子連れ一家と友人男性二人が無理なく一緒に住める家を。

 

 『美肌温泉』『酒生みの泉』『不思議ケ池』『豊作の樹』『湧き水の壷』『リサイクルルーム』をアイテム化して、家に設置すると、広い共有スペースと、二階に四人一部屋ずつの、住み心地のいい家ができあがった。

 

 

 ルミナは修行もできないため家とカードを守り、カイン達はカード集めと修行に奔走する。

 半年でエリカが生まれ、彼らは幸せな日々を暮らす。

 

 ――そして事件が起きる。

 ルミナがエリカを生んだ、1年後。

 クエストの失敗によりチームメンバーが皆亡くなり、ルミナ一人が残った。

 

 当初ルミナは、みんなが帰ってこない理由がわからず不安に苛まれる。バインダーのリストは「●」になっている。外に出たか、あるいは……

 もしかしたらと『死者への往復葉書』をアイテム化してお父さんに葉書を出した。

 そして。返事がきて死亡を確認。

 

 メリーにエリカを預けて外へ出る。

 

「カイン達は情報集めに何度か外に出ていたけど、お母さんは2年以上ここから出てなかったの。でもカインの遺骸をそのままにしておけないでしょう?」

 

 預かっていた『離脱』を使って外へ出ると、ゲーム機の傍に三人の遺体があった。

 傷ついた彼らを家の近くにある裏山に埋葬した。

 戸籍もなく、後ろめたいこともしてきたカイン達を預かってくれる墓地などないから。

 

 流星街生まれで戸籍もなく、外の世界に会いたい者がいるわけでもない。

 カインや仲間が死んだゲームの中に暮らすのはつらいが、乳飲み子を抱えて暮らしていける場所が、ルミナにはグリードアイランドの中しかなかった。

 

 幸い、彼らは収集したカードをほとんどルミナに預けていた。指定カードは70枚以上揃っている。

 もちろん一人でクリアを目指すのは無理だが、中で生活するには困らない。

 メリーがいるからエリカの世話も安心して任せられる。

 

 とはいえ、なまじ収集率がいいのだから、プレイヤーにいつ襲われるかもしれない。

 ルミナが他のプレイヤーと会っていないため、『交信』や『同行』は使えないが、『衝突』でやってくる可能性もゼロではない。

 

 危険を冒すより、すっぱりクリアを諦め、子供が育つまではここで過ごそうと決意。

 

 生活に不必要なカードを売りさばき、親子二人が暮らしていけるだけの費用を捻出。表示される指定カードの所持数を減らすため、アイテム化して残しておける便利なものはだいたい『ゲイン』した。

 

 魚と果物だけは豊富にあるため、家から出なくてもじゅうぶん暮らすことができる。

 『メイドパンダ』と『7人の働く小人』が身の回りの世話と果物や魚の採取をしてくれる。庭に畑を作り、野菜も育て始めた。

 モンスターを倒せばお金になる。必要なものはマサドラで買える。

 ルミナは安心して子育てに集中できた。

 

 

「そうして今に至る、というわけ」

 

「ふーん。お母さん頑張ってエリカを守ってくれたんだね。ありがとう」

 

 私が外に出られるようになれば、プレイヤーになるために一度隠れ家へ行くことになる。

 その時にお父さん達のお墓にもお参りできる。

 

 私の転移で連れていけるんだから、掘り返して遺体を運んでもいいかもしれない。

 それも私の成長次第だ。

 

 

 

 

「そう言えばお母さん、スケルトンメガネはないのね」

「急にどうしたの?」

「だって不思議ヶ池を入手する時ってスケルトンメガネがあると楽なんでしょう? 『ゲイン』したんじゃないの?」

 

「ああ、あれね。ディックが持ってたわ……ほんと、あのスケベ」

「あー、うん。そうなんだ……」

「だからここにはないの。多分、ディックが死んだときに消えちゃったんだと思うわ。あの子、ずっとあのメガネを手放さなかったから」

「ふーん」

 

 というわけで、スケルトンメガネは我が家にはない。

 

 

 

 そんな風に、三歳の年は過ぎていった。

 

 

 

 格闘の修行の時に、(ステップ)を活かせる訓練をちょくちょくやっている。

 滑らかに、予備動作なしに、敵の意表を突く場所へ。

 

 それから転移して現れた時の身体の向きを、完璧に思った通りの方向に向けるようにする練習。

 これがけっこうややこしかった。

 

 たとえば、私がいて、お母さんが対峙している。

 お母さんの隙をついて、お母さんの後ろへ回り込んで、即攻撃。これをしたいんだけど、即攻撃するためには、今の自分の立っている方向と逆を向いて現れないとダメなんだ。

 んで、逆を向くのはわりと簡単なんだけど、即攻撃しやすい位置取りと向きの微調整がね。これがね。ほんと。

 

 思い描いた場所へ飛んでいるんだけど、前にいた位置から見て“ここが最適”って思った場所がいざ飛んでみるとあんまり有効なところじゃなくてさ。

 目測をあやまるってやつだ。

 

 近すぎても離れすぎても、一歩違うだけで何の意味もないどころか、自分が無防備になってしまう。

 何回も飛んでコツを掴むよう、地道な努力しかないね。

 座標とかがわかるわけじゃないんだし、勘を養うしかないんだもん。

 

 つまり、反復練習が一番なわけだよ、うん。

 

 これもオーラを使うから、毎日寝るまえに使い切ってから休むようにしている。

 おかげでオーラ量も徐々に増えていると思う。

 

 

 覚えがいいことと真面目に修行に取り組む姿勢を、お母さんが褒めてくれた。

 そして“練”の練習もすることに!

 やったね。

 

「いい? まずね、エリカの身体の中にぐっとオーラを溜めるイメージを持つの。身体中のいろんなところ、全部からパワーを集め、それを一気に外へ解き放つの」

 

 身体中からパワーを集める。

 全身から。細胞の一つ一つから、ぐぐっと引き出し、一気に解き放つ!

 

 身体からぶわっと力が湧きだした。

 おお! すごい!

 まだまだよわっちいけど、ちゃんと“練”になってる!

 

「よくできました! すごいわ。これからは纏と絶に加えて、この練の修行も毎日欠かさずやるのよ」

 

「はい! お母さん」

 

 




マサドラでそんなものが買えるのかというと、そうであったらいいなと想像してます。
グリードアイランドの中で暮らしている人が多いのでこんなものもあるんじゃないかと。
「そんなのねえよ!」のお叱りは勘弁してください。

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