エリカ、転生。   作:gab

61 / 112
二つ目の分霊箱と小雪の初外出

 

 

 グリンゴッツへ行く前に、梟の鳥籠をロニーに取りに来てもらう。気を付けて連れて帰ってね、と手渡すと、シシー叔母様に付き添われながらグリンゴッツの広々とした大理石のホールに入った。

 

 なにげに11歳にして初めてのグリンゴッツ体験だ。わくわくしながら荘厳な建物に入っていく。

 うわあ、ゴブリンだ。映画のまんまだ。

 内心ものすごく楽しみながら、表面上は上流貴族らしくお上品に細長いカウンターの向こうにいるゴブリンの前に進み出る。

 

「これはこれはマルフォイの奥方様。ご用命を伺います」

 

「用があるのはこの子よ。レストレンジの金庫の件ですわ」

 

 シシー叔母様がそう言うと私を促す。私はさっき叔母様にもらったレストレンジの紋章の入った指輪をトレイに乗せた。

 

「代理人の変更をお願いします。エリカ・レストレンジです」

 

「レストレンジ家の管理代理人をナルシッサ・マルフォイ様からエリカ・レストレンジ様へ変更なさるということでよろしいですな?」

 

 私と叔母様が頷く。

 

「ではレストレンジのお嬢様。杖をお出しください」

 

 先ほど買ったばかりの『カエデにユニコーンの毛』の私の相棒を取り出してトレイに乗せた。「お預かりいたします」とゴブリンがトレイを持って奥へ入る。

 指輪を調べ、エリカ・レストレンジの杖の登録を済ませると、トレイに乗せたままこちらへ返してくれた。

 

「レストレンジ家の代理人の登録が完了いたしました。ご用件は以上で?」

 

「いえ。金庫に用があるの……叔母様、一度見てきてよろしいですか?」

 

 指輪と杖を受け取りながら頼む。後半は叔母様に向かって。

 

「そうね。ではわたくしはもう帰ります。帰りはロニーを呼ぶのですよ、エリカ」

 

「はい、ありがとうございます。叔父様とドラコにもお礼を伝えてください」

 

「ええ。ではまた我が家へいらしてね」

 

 シシー叔母様は微笑むと夫と息子の待つ家へ帰っていった。

 それを見送り、もう一度ゴブリンに目を向けた。

 

「お待たせしてごめんなさい。レストレンジ家の金庫へお願いします」

 

「かしこまりまして……おい、『鳴子』の準備を」

 

 年老いたゴブリンがそう言い付け、若いゴブリンがそれに従ってガチャガチャと金属音のする革袋を手に戻ってきて上司に渡す。

 

「ではレストレンジ家のお嬢様、こちらへ」

 

 老ゴブリンの案内に従い、トロッコに乗る。

 ゴブリンが乗り込むと、ものすごい速さで走り始めた。

 

 一言で言うと、安全装置ベルトなしの絶叫マシン。

 めっちゃ楽しかった。

 

 飛ぶように走るトロッコは何度もカーヴを曲がりながらあっという間に地下深くまで潜っていき、地底深くのとてつもなく広いドームの奥で止まった。

 

 原作どおり、傷だらけで鱗の禿げた哀れなドラゴンをゴブリンが鳴らす鳴子の音で退ける。

 

 ゴブリンが扉に手のひらを押し付けると金庫の扉が溶けるように消え、洞窟のような空間が現れた。

 扉を開いてくれたゴブリンを外に残し、1人で金庫へ入る。

 

 

 

 ……めちゃくちゃ広い。

 

 

 大きな洞窟のような空間に、天井までぎっしり詰まった金貨の山と、様々な道具類。

 ここにあの“ハッフルパフのカップ”もあるはず。

 どうせなら、持っていきたい。

 

 そんなことを考えていると、背後で扉が再び現れ、金庫の中は闇に包まれた。原作で読んで知っていなければ悲鳴を上げていたかもしれない。

 

 焦らないよう自分に言い聞かせ、ドラポケで懐中電灯を取り出してつける。人工的な光が周囲を照らした。

 

 

 あまりの財宝の山に、言葉も出ない。

 レストレンジ家の資産恐るべし。

 

 

 金貨の山に近付きおずおずと手を伸ばした。

 

 金貨を一枚、(収納)してみる。するっと倉庫に入った。レストレンジの血をひいていない可能性が高いのに、この金庫の中身は私のものだと(ドラポケ)が認識している。

 私が戸籍上レストレンジ家で、そのうえ金庫の管理代理人となっているからか。

 凄いな。

 

 

 まず、必要な金貨を取る。叔母様に貰った金貨はまだ残っているけど、これからいろいろ買いたいものがあるのだ。ガーデン用のものはレストレンジの名で注文できないから現金が多量に必要なのだ。

 

 財布代わりのモークトカゲの革製巾着に限界まで入れ、あと両手にいっぱい乗せた金貨をなんどもなんども倉庫へ(収納)していく。

 

 金貨の山をすべて取り出すようなことはしない。

 だってさ、私はもうサインひとつでこの金庫を指定して買い物ができるようになったんだよ? 今までロニーに頼んでいたけど、これからは自分で欲しい物をいくらでも買えちゃう。

 なら、ここにお金があるほうが便利なのだ。

 

 ざくざくとかなり雑な感じにたくさんもらった。山の形が変わるほどは頂きました。金貨の量SUGEE。

 

 一応するべき仕事を済ませ、しっかり周りを見回す。金貨の山の中にもぽつぽつと宝剣や魔法具などが乗っている。

 ……あった。

 

 金貨の山の中腹ほど、半分埋まった金のカップ。間違いない。映画で見たとおりの『ハッフルパフのカップ』だ。

 ものすごく闇の魔術の力を感じる。え、こんな危険極まりない雰囲気をぷんぷんさせているものが無造作にここに置かれていて、誰も何も言わなかったの?

 知っているものしか認識できない魔法でも掛かっていたのかな? それとも古い貴族家ならこの程度の闇の物品が無造作に置かれていても普通なんだろうか?

 

 

 ふたつめの、分霊箱。

 

 

 手を伸ばして、映画のシーンを思い出して躊躇する。

 

 ……心配はいらない。今までゴブリンが何度もここへ金貨を納めにきたり、支払い分を引き取りに来ていたはず。シシー叔母様だって何度も来ている。

 はずみでカップに触れたこともあるはずだよね。

 原作みたいに『双子の呪文』と『燃焼の呪い』がかかっていたとしても、ゴブリンは問題なく触れたんだ。

 

 私は正規の手順でこの金庫の管理者の代理人となって、正規の手順で金庫に入っている。私がこの金庫のものに触れて呪いが発生するわけがない。

 

 

 よし。大丈夫。いけるぜ。

 

 魔力遮断布を取り出し、カップにそっと被せると布越しにそのまま掴んで持ち上げる。作業のために影をだしてそのまま手渡した。

 見やすいよう懐中電灯で影の手元を照らす。

 影は『封印箱』を開いて魔力遮断布でくるんだカップを入れ、蓋を閉じると慎重に封をした。そのままガーデンへ持って帰ってもらう。ロケット同様、厳重に保管しておかなくてはね。

 

 

 やった。

 取れた。分霊箱。

 ふたつめの分霊箱を手に入れました。

 

 ほぉっと深いため息をつく。

 

 

 

 さて、と。

 

 大仕事を終え、やっと気が楽になった私はもう一度金庫の中を見回した。

 壁に沿っていくつかの棚が置かれ、魔道具が雑多に置かれている。

 

 何か使い勝手のいい魔法具とかがあれば嬉しいんだけど。

 いろいろ買い求めはしたけど、良い物があればそれもぜひ頂いていこう。

 

 と言っても、この乱雑に積み上げられたものの中から、私の欲しいものを見つけるのは難しいかなあ。

 

 

 私はぷらぷらとその辺りを物色しながら歩く。

 

 薬瓶が並んでいる棚を覗いた。

 ひとつひとつ、しっかりラベルに文字が書かれている。そりゃあそうだ。何かわからなくちゃ危なくて使えやしないんだから。

 

 ……ん?

 

 

 遮光のための茶色の瓶に貼られたラベル。『バジリスクの毒』。

 へ? マジ?

 バジリスクの毒??

 

 

 うわあ。分霊箱を壊すために必要なもののひとつじゃん。なんであるの? すごくね? レストレンジすごくね?

 ホグワーツのバジリスクを攻略できるか不安だったから、ちょうどよかった。ありがたい。頂いていきますとも!

 

 手に取ってラベルを確かめると「1876年」と書かれている。百年以上前の毒でも効果はあるのかなあ?

 まあ貰うけど。

 これでひとつ、手間が減った。マーベラス!

 

 

 もうひとつ。ロニーに絶対欲しいと頼んでいた『憂いの篩』がここにあった。

 『憂いの篩』はとても繊細で難しい魔法具だから作れる職人が少なくて今はほとんど売っていないらしい。レストレンジは古い家で、当然この手の魔法具も所蔵している。んで、それが本邸に見つからず、別荘のどこかにあるかもしれないって探してくれていたんだ。こんなところにあったとは。

 

 豪華なキャビネットに納められていて、丸く曲線を描くガラス扉に飾り文字で『憂いの篩』と綴られている。このキャビネットごと部屋に設置して、使う時も前面の両開きになったガラス扉を開くだけでそのまま使えるようになっているようだ。

 ガラス戸の内側戸袋には記憶の糸を入れるためのガラス瓶が並べて収納できるようになっている。円形のフォルムといい、『憂いの篩』のために作られたキャビネットなのだろう。豪華なうえにとても機能的だ。

 

 よし! これも頂いていきますね。ご先祖さま。

 

 他にもいろいろありそうなんだけど。効果がわからない魔法具は手に触れることすら恐ろしいもの。

 たとえば対になっている鏡があったとしても、これが両面鏡なのか、あるいは対の相手を呪うためのものなのか、見ただけでは判断がつかないでしょう?

 

 薬関連はしっかりラベルがついていたし、『憂いの篩』もケースにそれと書かれていた。

 でも小さなものは乱雑に置かれていてちょっと判断がつかないものが多い。

 指輪や装身具も。きっともろもろの魔法が掛かっていると思うんだけど何かわからなければ使えないよね。ゆっくり調べたい気もするけど、初回からこれ以上持ってかえるのもなんだしな、と思って今日の所はこれくらいでやめておく。

 

 物欲と知的好奇心と探求心がぎゅんぎゅん刺激される宝の山を前にぐっと堪えて、意志の力で視線を切る。

 機会があれば、また物色しに来よう。

 

 ここにもジャンプポイントを設置すべきかちょっと迷う。でもなあ。跳んでくることは余裕でできるけど、それって“正規の方法”で入ってきてないってこと。守護の魔法が稼働して『双子の呪文』と『燃焼の呪い』が発動したら堪らないよね。あ、さっき影を出したのもちょっと危なかった? やべえ。影に直接何かを持ち出させなくて良かった。

 

 私はもう一度見回してから外へ出た。

 グリンゴッツを出るとロニーを呼び出し、彼女に家まで連れて帰ってもらった。しもべ妖精って素晴らしい生き物だね。

 

 アフリカオオコノハズクは『賢い梟→森の賢者』からマーリンと名付けた。マーリンは魔法界では実在の偉大な過去の魔法使いで、知性の高いペットに使われているのは不自然ではないらしい。エリカ・レストレンジの公式なペットだ。ロニーの手前、今はガーデンに連れて帰れないけど、また折を見て彼らに紹介することにしよう。

 

 

 

 

 

 

 ガーデンに入って、杖を手に立つ。

 すっと構えると、自分の腕が先まで続いているような、ううん、心臓から一本、杖の先まで筋が通ったような気がした。

 

 興味津々で見守る家族の前で、呪文学の一番最初の呪文を試す。

 

『ルーモス』

 

 杖の先に光が灯る。

 初めての魔法は、感動だった。

 

「わあ!」

 

 小雪が感嘆の声をあげた。メリーさんも手を胸の前で握りしめてうんうん頷いている。

 

 すでに身体の一部のように手に馴染む杖をまた無意識に愛でながら、魔法使いになったこの瞬間の喜びを、ただただ噛みしめていた。

 

 

 

 さてと。

 ここに魔女候補がふたり、います。

 

 メリーさんと小雪は私の眷属だから、魔法が使える可能性がある。

 調べるのは簡単だ。

 

「メリーさん」

 

 私の杖をメリーさんにわたす。メリーさんは期待に目をきらきらさせながら、杖を振るった。

 杖の先からばん! と大きな音がして正面の地面を大きく切り裂いた。

 

「これは、杖は合ってないけど、メリーさんには魔力があるってことだよね?」

 

 私はメリーさんと抱き合って喜んだ。

 杖を返してもらう。私の杖が、他人に使われたことを嫌がっているのがわかった。

 ごめん。あと一人だけ、試させてね。

 宥めるために杖を撫でてそう呟く。

 

「さあ、次よ。小雪」

 

「うん!」

 

 じりじりと待ってた小雪は、私がそう言ったとたん前にでた。杖を渡すと「ふふふ」と笑い、やおらきりりと前を向く。気合を入れて杖を振るった。

 

「はっ!」

 

 杖の先から小さな火花がカシュ、と飛ぶ。

 

「……」

 

 裂帛の気合と、それのもたらしたしょぼい結果に何ともいえない時間が流れた。

 

「小雪も魔力があるよね。きっと杖が致命的にあってないだけだよ、うん」

 

 がくりと落ち込む小雪を慰める。

 また小雪の杖を選びに行こうと言うと、あっという間にまた小雪のテンションがあがった。

 ほんとに魔法が使いたいんだね、小雪。

 

 メリーさんの杖は、メリーさんを連れてオリバンダーの店で選ぶわけにいかない。

 魔法界の人達からすれば、客観的に見てメリーさんはどうみても魔法生物だ。魔法界の法律では、“ヒト以外の魔法生物が杖を持つこと”は厳しく罰せられる。

 オリバンダーさんの店で、メリーさんの杖を買うわけにはいかないってわけ。

 

 原作で見るオリバンダーなら「これは難しいお客さまですな」とか言って嬉々として選んでくれそうな雰囲気だけど。実際のところ、彼は杖職人であり、あの店の経営者だ。法律違反はしないだろう。

 

 メリーさんの杖選びのシーンは私も見てみたいと思うけどさ、さすがにそんな博打はうてない。

 どこかでメリーさんのための杖を手に入れる方法も考えなくては。

 

 

 

 

 

 

 

 ドラコ達との買い物を済ませた数日後、『ホルモンクッキー』と鬘とマグル式変装で男の子になった私は小雪を連れてダイアゴン横丁へやってきた。

 

 まだ11歳で性差もあまり目立たない年頃。二度と手に入らない貴重な『ホルモンクッキー』を使わなくてもいいんじゃないかって思うんだけどね。

 でも、今日の目的地のひとつがあのオリバンダーさんの店。鋭い観察眼と抜群の記憶力を持つ彼に私がレストレンジだと看破されるのは非常によろしくないのだ。

 

「行ける? 小雪」

 

「うん……だいじょうぶ」

 

 今日はね、小雪、初めての外出なんです。朝から緊張しっぱなしなんだよね。

 

 小雪を見ると、緊張しつつも楽しそうにきょろきょろしている。小雪は小説しか読んでないから、実写になったら(現実だけど)よけいに楽しいんだろう。

 

 小雪は見た目ほんとに普通の人間だし、お風呂に入らなければ金粉が舞うわけじゃないから、彼女が文字通り“金を生む鶏”だとは誰にもわからない。

 英語もスムーズに話せるし、出歩くだけなら危険はないだろう。

 本当はメリーさんも連れてきてあげたいのだけど、彼女は目立ちすぎる。いずれ何か考えるつもり。

 

 

 最初にグリンゴッツへ足を運んだ。

 魔法界のお金をマグル街のお金に換金してもらうためだ。

 

 マグルのお金が欲しかったのだ。

 マグル街で食品や生活用品を買うにはマグルのお金が必要なんだもん。今まで手に入れるチャンスがなかったけど、両手に山ほどのガリオン金貨を10回分両替するとかなりの金額になった。

 

 さあ、今日の第一目標、オリバンダーさんの店へ行こう。

 

 

「杖をお探しでしょうか? お嬢さん」

 

 店に入り、珍し気にきょろきょろしていた小雪に、気配もなく近づいて声をかけてきたオリバンダーさん。「ひゅっ」と小さな悲鳴を上げた小雪が私の後ろに隠れた。身長差があるから全然隠れ切れてないんだけど。

 人見知りを発揮した小雪は挙動不審になっている。金粉少女のカードに書かれていたとおり、ものすごく内気だ。

 

「彼女の杖を頼む。……怖がらなくていいよ、小雪」

 

 私の杖を見られると変装していてもバレてしまうため、杖は倉庫に収納してある。オリバンダーさんの目が怖い。単なる付き添いって顔をして小雪をそっと前へ押し出す。

 「彼女、人見知りなんです」って囁くと、オリバンダーさんは小雪に向かって包み込むような微笑みを浮かべた……よけいにうさん臭さが漂う。

 

 名前を聞かれ、初体面のオジサンにむかって話せない彼女のかわりに『コユキ・サロウフィールド』と名乗った。

 

「ではサロウフィールドさん、こちらへ」

 

 おどおどと前にでた小雪がオリバンダーさんに言われるがまま、何回もいろんな杖を振るう。

 

「ヤナギの木、ドラゴンの心臓の琴線、35センチ。

 よくしなる。振りやすく、無言呪文が得意。忠誠心の高い良い杖ですな」

 

 無言呪文が得意な杖ってすごくない? 内気な小雪が喋らずに使えるようにだろうか?

 小雪がうっとりと杖を眺めている。ああ、私もあんな目で自分の杖を見ていたんだろうな。シシー叔母様が買ってくださった杖の手入れ用品を小雪のために買った。忘れずにメリーさんの分も買っておく。

 

 料金を払い、礼を言って店をでる。小雪もオリバンダーさんにぺこりと頭を下げていた。

 店を出たとたん、小雪は超ご機嫌になった。

 

「ありがと、マスター」

 

 小雪も相棒が見つかってよかったね。

 これから、一緒に魔法の練習頑張ろうね。

 

 

 そのあとも、ふたりで楽しくダイアゴン横丁をぶらぶら歩く。

 

 小雪は人混みは苦手だし、知らない人とは話したくもないらしいけど、ダイアゴン横丁の喧騒を見ることは楽しんでいるようでよかった。

 

 私がホグワーツに行くために揃えたもののうち、制服以外はすべてメリーさんと小雪の分を買わなくちゃ。鍋や秤を選び、薬草を切るためのナイフも時間をかけて選んだ。1年の授業で使う素材も多めに買っておく。羊皮紙や羽ペンはどうする? って聞くととりあえず欲しいとの答え。でもきっとシャーペンにルーズリーフのほうが使いやすいんだけどね。

 

 ちっぽけで古びた雑貨屋が目に入った。

 折れた杖や目盛りの狂った台秤などが並んでおいてある。

 

 杖はいくつあってもいい。杖は繊細な魔法具で簡単には直せないけど、うちの『リサイクルーム』ならきっと直せると思う。予備は必要だし、それにもしかしたらメリーさんが使えるかもしれない。物は試しだ。買ってみよう。

 

 本屋では1年の学科に必要な本をもう3揃い買った。小雪、メリーさんが使うためのものと保存用だ。個人のものは色々書き込むだろうから、綺麗なまま残しておく保存用も必要なのだよ。

 保存用は図書館に置くつもり。

 

 メリーさんが喜びそうな『週刊魔女』や『おしゃれ魔女百科』も買った。魔法使いの旬な流行りの服装を見て、メリーさんが作ってくれるだろう。

 気になるタイトルはどんどん手に取る。

 『自家製魔法チーズのつくり方』、『お菓子をつくる楽しい呪文』、『1分間でご馳走を――まさに魔法だ!』、『これさえあれば大丈夫! 生活魔法のすべて』、『調理魔法の基礎の基礎』。

 あ、これもいいかも。『呪いのかけ方、解き方――ハゲ、クラゲ脚、舌もつれ、その他あの手この手――』も買おう。呪いは知っておくとかけられた時にわかりやすいもの。

 それから死喰い人や闇の帝王関連の本も全種類買っておいた。うちの両親やシリウス・ブラックやハリー・ポッターの事も書かれているものを選んでおく。いろいろ情報を知っている理由付けになるものね。死喰い人関連のものならゴシップ誌にしか見えないものも買っておいた。何かのヒントになればいいもの。

 

 

 

 それからふと思いつく。

 そうだ。

 2年以降の学年の指定教科書もすべて買っておこうって。

 

 よく考えたら来年の『闇の魔術に対する防衛術』の教科書なんてロックハートの小説だもん。今年の2年生用指定教科書があれば来年絶対助かると思う。

 再来年の魔法生物飼育学の教科書はハグリットの『怪物的な怪物の本』だし。

 

 まともな教師がまともに教えている今の教科書が欲しい。いや今年のDADAのクィレル先生がまともとは言わないけど、少なくとも教材に関する不満は原作で書いてなかったもの。

 

 これも私、メリーさん、小雪と保存用の4冊いるね。

 イモリやフクロウの選択教科のものももちろん全種買った。

 こんなに大量に? って顔をされたけど、知り合いの分も纏めて買っている人も多いのか、そこまで不審がられることはなかった。

 

 参考図書も含めて2~7学年分×4。大量ご購入です。たっぷり金庫からお金をとってきて大正解だったね。鞄に入れるフリをしてどんどん(収納)していく。

 

 

 それから洋装店で布地や糸、釦、毛糸も買った。雑貨店では絵の具やキャンバスも。

 メリーさんが喜ぶだろう。

 

 帰り道で箒店の前を通り、思わずガラスのショーウィンドウにかじりついた。

 わあ、ニンバス2000だ、いいなあ。

 

 子供の頃、ドラコ達と遊ぶ用にロニーに頼んで買ってもらった箒はクリーンスイープ6で、買ってからもう3年になる。

 

 最新最速の箒、ニンバス2000は私もドラコも欲しがっているんだけど、どうせ1年生は学校に持っていけないのだから、買うなら来年になさいと言われているのだ。

 

 まあ今年買っても来年2001が発売されるしね。後続の上位機種がでることを知ってると、なかなか買う気になれないよね。

 

 でもさ、箒は何本あってもいいし、お金は持っているし、それに小雪やメリーさんも魔力があるんだから箒も乗れるはず。ガーデン用にニンバス2000を買ってもいいかなあ。

 

「小雪、箒乗ってみる?」

 

 ただ、練習は安全を確認してやらなきゃだから、せめて私が浮遊呪文を覚えてからにしてほしいんだけど。私が箒に乗り始めた子供の頃、マルフォイ夫婦がしっかり見ててくれたようにさ。

 

「乗ってみたい。ガーデン、広いし。『森』もあるしね」

 

「じゃあメリーさんの分と二本買おうか」

 

「やった! いいねいいね」

 

 実は私も乗ってみたい。来年学校に持って行く用にニンバス2001を買うつもりだけどさ、ガーデンでみんなで乗り回したいじゃん。

 箒は高級品だけど、前回レストレンジの金庫から結構な量の金貨を取り出している。余裕で足りるはず。

 

 うきうきしながら箒店に入り、ニンバス2000を二本とお手入れグッズ、箒のハウツー本も買って、ふたりでハイタッチ。

 買い物って楽しいね!

 

 

 それから生鮮品の店に行き、食料品を大量購入してきた。小麦や米やパスタやそば粉、調味料も大量に買って、ドッグフードやキャットフードもちゃんと買った。

 牛肉、豚肉、鶏肉、羊肉、鹿肉なんかも数十キロ単位で買う。ハムやベーコン、ソーセージなんかも大量に買った。生け簀に泳いでいた魚介類を見つけ、それも購入。水槽を買って生きたまま持って帰ることに。やった。『不思議ケ池』に放そう。

 

 実は今までなかなか食品を買うチャンスがなくてさ。ずっとHUNTER×HUNTER世界で買い溜めした物を消費してきたのだ。

 まだ倉庫にはいっぱいあるけど徐々に減っているのが不安だったんだ。

 

 うん。食べるものがガーデンにいっぱいないと、心配なんだ。私って念能力者だから毎日たくさん食べるし。

 

 それにさ。

 私しか外部から食料を持っていける者がいない。

 私が死ねば次の世界にいく。

 だけど、私が生きているのに眠り続けている、とか、忘却呪文でガーデンの存在を忘れてしまった、とか、とにかく私が存在しているのにガーデンに行けない状態になってしまえば。

 メリーさん達は何を食べて生きていけばいいのか。『森』のおかげでずいぶん食べられるモノも手に入るようになったけど。やっぱり不安なのだ。

 たくさん買い込んでやっと少し息がつけた。

 

 倉庫だって私しか取り出せないから、生鮮食品は保存のきく加工品に変えていく工夫もしている。あと、メリーさんが『エバネスコ(消えよ)』と『アパレシウム(現れよ)』を覚えれば、もっと楽になる。

 『エバネスコ(消えよ)』の呪文は消失呪文で、唱えると対象物を消すことができる。原作で生徒が失敗した魔法薬をスネイプ先生がよくこれで消していた。

 

 でもこれってちょっと人目から隠したい時にも使う呪文なのだ。

 『不死鳥の騎士団』で、ビルがハリーに見られたくない騎士団の書類をこれで消している。つまりあとでまた復活させることができる呪文なわけだよ。

 

 んでエバネスコの反対呪文は『アパレシウム(現れよ)』。消えているものを強制的に出現させる呪文。スネイプ先生や校長、マクゴナガル先生がさっと杖の一振りでお茶を出してくるシーンがある。あれってこの魔法で用意しているってわけね。

 

 エバネスコした物体はその時の状態を保持したままでどこか異空間に存在し続ける。それを取り出すのがアパレシウム。

 新鮮な生肉をエバネスコしたら、次に料理に使いたいときにアパレシウムで取り出すと新鮮なままの生肉が現れる。熱々の料理をエバネスコして、食べる直前にアパレシウム。とかね。

 つまり、疑似的な時間停止倉庫にできるのだ。

 ただし、何をエバネスコしたか忘れたら次元の彼方に誰にも取りだされないままになってしまうから運用に注意は必要だけどさ。

 

 

 今日は久々に食料品を買い溜めできてほっとした。

 これでやっとマグルのお金も、魔法界のお金も、自由に使えるものができたから、これからはちょくちょく買いに来よう。

 

 

 

 夕方までさんざん買いあさってガーデンに帰ってきた。フローリアン・フォーテスキュー・アイスクリーム・パーラーでアイスを買って食べるのも楽しかった。小雪も私も大満足な一日だった。

 

 折れた杖は『リサイクルーム』にそれぞれ一日置いておけば問題なく直った。さすがはグリードアイランドのアイテムだ。魔法具まで直してしまった。

 

 杖は2本あり、素材は何かわからない。オリバンダーさんに聞きにいけないんだからしかたない。

 そのうちの1本が、メリーさんが不満はあるもののなんとか使えるものだったみたいで彼女はそれを使って練習することになった。

 もう1本は小雪が予備に欲しがった。相棒とは魔力の通りが違うけど、じゅうぶん使えるらしい。

 

 

 ちょっと思いついた。

 そうだ。前にロニーが予備の杖を貸してくれたことがあったっけ。

 

 家にいる影と交代した時に、ロニーに予備の杖が欲しいと頼んだ。彼女は二本の杖を出してくれた。

 

『ヤマナラシの木の枝、ユニコーンの毛、31センチ。心地よいしなり。戦い向けの魔法に最適』

『クルミの木の枝、ユニコーンの毛、34センチ。よくしなる。所有者に忠実で多様な魔法に向いている』

 

 どちらも丁寧に手入れをされていて、じゅうぶん綺麗だった。

 さっそくガーデンでメリーさんに試してもらうと、くるみの杖がとても馴染むと両手で抱きしめるように杖を持っている。うんうん。メリーさんの相棒、見つかったね。

 

 ヤマナラシのほうは私の予備にした。相棒とは違うけど、魔力の通りはいい。でもちょっと頑固な感じがいじらしい。この子も大事に使おう。

 これで私達全員がメインと予備の2本の杖を持てたことになる。

 

 

 

 マグルのお金がやっと手に入った。影が箒に乗ってロンドンマグル街へ行き、大きなショッピングモールが多い場所を探した。普通の街ってこんな感じだったわ……となんだか新鮮に思いながらポイントを設置してきた。

 

 さっそく、マグルっぽい服装に身を包んだ私と小雪が街へと出かける。

 業者向け大型スーパーに入り、カートに山ほど買い込んできた。やっぱり魔法界とマグル街じゃあ売ってる品が違う。こっちにあるもののほうがHUNTER×HUNTER時代や英里佳だった頃に買っていたものに近い。ここでもたくさん買い漁りました。

 ただね、マグル街では巾着やトランクに荷物をしまうわけにいかなくて、小雪と私が両手で持って不自然に思われない程度しか買えないのが残念だった。またちょくちょく買いに来よう。

 

 

 

 

 8月は慌ただしく過ぎていった。

 子供の頃に魔力循環を教えてもらった時、『今から練習していれば杖を持った時に魔力の流れがよくわかる』って言われたけど、ほんと、杖ってすごい。1年の呪文は余裕で全部できた。

 

 ガーデンで小雪たちと魔法の練習をしたり、ラルクや影と念修行したり、箒で遊んだり。音楽の練習をしたり。

 マルフォイ家でドラコ達と予習したり、箒で遊んだり、訓練したり。音楽レッスンを受けたり。

 変装してマグル街やダイアゴン横丁で食料品を買い漁ったり。

 入学前の最後の夏を、楽しく過ごした。

 

 

 ちなみに、『ホルモンクッキー』なしでの変装は、主にマグルの物を使っている。そのほうが魔法界ではバレないのだ。

 ファンデーションで色白な肌を健康的な小麦色にして、そばかすを散らす。髪は茶髪ストレート。大き目の眼鏡をかけて綿入りのボディスーツで太っちょにして。頬にも綿を詰めると顔の輪郭も変わる。

 あとは純血家の姫君が絶対着ない服装にしている。意識して歩き方を変えると、ずいぶん印象が違う。

 

 

 

 

 

 

 

 ロニーに『憂いの篩』の使い方を教えてもらった。「まだおできになりませんから、お使いになりませんように」というロニーを説き伏せ、入学までに去年のクリスマスパーティで紹介された子供達の顔と名前を確認しておきたい、と言いつのる。

 レストレンジは上位の立場で、上の人が名前をちゃんと覚えて呼んであげると下位の者は喜ぶ。だからそれを理由にしてみたのだ。

 ロニーは「なんと志の尊いお方でしょう。さすがは名門レストレンジのお嬢様でございます」なんてほめそやし、注意点を辞書を読み上げるがごとく山ほど述べると、私の額のふちをこめかみに向けて指でそっと拭うように動かす。液体でも気体でもない銀の光の糸がついてきた。なるほど。この感覚か。うん。覚えた。

 

 『憂いの篩』に入れると、杖で憂いの篩をつつく。

 水盆の上にもやが現れてそれが風景になった。

 

 映画で、ハリーは『憂いの篩』に頭から飛び込んでいたけど、普通はこうやって見るんだ。なるほど。

 

 視点は私……ではなく、私の少し後ろから周囲を見ているような感じになっている。私の正面からの姿もちょくちょく見れるのはなぜなんだろう。そう言えば映画でも記憶の保持者の姿が見えていたっけ。

 パーティ会場でマルフォイ夫婦が左右に立って安心させるように付き添ってくれている。隣にいるドラコと緊張の視線を交わして前を向く。私達の前に順にやってきては緊張の面持ちで自己紹介する子供達の言葉を聞く。

 ダフネ・グリーングラスやパンジー・パーキンソン、ミリセント・ブルストロード、セオドール・ノット、ブレーズ・ザビニなどの有力者の子だけでなく、新興貴族の子も招かれていた。ひとりずつ、名前と顔を思い出していく。きっとスリザリンの同級生になる子達だもの。

 

 篩に入れた記憶の銀糸はそのまま消し去ることもできるし、瓶に入れて保存することもできる。瓶を用意して記憶をそれにしまうと、『1990年クリスマス 初めての社交界』とラベルを書いて貼り、トランクにしまった。この瓶は魔法薬学で使うためにいくつか買っておいたものだ。これはロニーに頼んで入学までにもっと多めに買っておこう。

 

 

 ガーデンに入ると、さっそく『憂いの篩』の練習をしてみる。

 技術がまだ未熟なのはわかっている。でもさ。早くこれをできるようにならなきゃなんだよ。

 だって、学校に行けばすぐに『組み分け帽子』を被ることになるんだもん。

 

 忘却呪文も練習したんだけど、“忘れた”ものは“思い出す”ことができる。脳から消えたわけじゃない。組み分け帽子の開心術なら私の忘却呪文なんてきっと突き破る。

 

 私は知られてはいけないことが多い。このまま『組み分け帽子』を被るわけにはいかないのだ。ダンブルドアに情報が洩れるかもしれないもの。

 帽子は寮を決めるだけで校長にその情報を漏らさないかもしれない。でもそんな希望にすがるわけにはいかないのだ。

 

 

 魔力制御は7歳からやっている。杖を手に入れてほぼひと月がたった。1年の教科書に載っている呪文で練習を重ねた。杖の使い方もだいぶこなれてきた。

 

 でも、自分の身体で練習するなんてとんでもない。

 影をだして、影が自分で取り出す練習から始める。

 髪の毛の生え際あたりに杖を添え、さきほどロニーにされた感触を思い出し、魔力を杖に通しながら、まずいきなり切り取ってしまうのは怖いから、記憶を抜き出す練習をする。“小雪とシェルをゲインした記憶”と念じてそっと杖を滑らせる。

 影が呻いた。脳にダイレクトにアクセスしているようですごく気持ち悪かったらしい。下手だもんね。ロニーにされた時は痛みも違和感も何も感じなかったのに。

 

 

 何度も練習し、影に感触を聞く。影を消したら頭を弄られる不快感の記憶が入ってきて吐きそうになった。

 

 慣れてくると今度は“抜き出す”だけじゃなくて、“切り取る”作業を試す。原作で学生時代の記憶を見せないためにスネイプ先生がやっていたことだ。頭の中の記憶のコピーをとるんじゃなくて、カットしちゃうってこと。

 最初にやった時は衝撃で影が消えて、私もビビった。こええ……

 記憶を切り取ることはとても危険なことのようだ。絶対本体ではやらない。

 

 影の記憶上の認識が加算されてガーデンの存在を忘れてしまうなんてことになるのも怖いから、切り取った記憶はちゃんと本人に戻してから影を消している。『分身体が受けたダメージは還元されない』んだけどさ、これってダメージじゃないもんね。何度も記憶を消すと、ガーデンへの愛情とか思い入れとかも薄れていくと困るもの。

 

 

 慎重に練習をすすめ、やっとできるようになった。

 

 次に、相手に対してする練習を重ねる。影に何度も練習台になってもらった。

 

 “被験者としての記憶”をなくすと、その瞬間、目の前にいる自分そっくりな人物や、知らない場所に立っていることにパニックを起こすため、先に失神呪文をかけてから行わなければいけなかった。その後忘却呪文で麻痺したことを忘れさせるのも必要だ。

 

 これで入学の準備は整った。

 もうすぐホグワーツでの1年目が始まる。

 

 

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。