エリカ、転生。   作:gab

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1年-1 ホグワーツ特急と組み分け

1991年 9月1日 ホグワーツ入学

 

 いよいよ原作が始まる。

 

 といっても、私はこの1年は原作に関わるつもりはない。

 

 だってさ。この1年目“賢者の石”。

 これはもうダンブルドア校長のハリーへの接待のようなものだと思うんだ。

 石をほんとうに守りたいのであればさっさとクィレルを斃せばいいし、石だってダンブルドア自ら持っていればいいのだ。

 

 第一、いくらハーマイオニーが優秀とはいえ、一年生にクリアできるような罠しか設置していないなんて、ありえないっしょ?

 あれは、ハリーにお辞儀様と対決させて戦う意思をもたせ、ついでに成功体験を積ませることで彼に自信をつけさせる。そのためのステージなんじゃないかな。

 

 初心者向けとは思えないほどハードモードではあるけど。

 

 

 もしくは、あやふやな存在になりさがっているであろうヴォルデモートを、賢者の石で明確に復活させるためか。

 “生きて”いないものは“殺せ”ない。

 だから、生き返らせる。そのために、わざと奪わせるためにあれを用意したか。まあ賢者の石なんて使ったら完全復活どころかパワーアップしそうだからそれはないかな。

 

 どちらだろうと、私には関係ない。

 

 だから一年目はほんとうにまったくほっておいていい。

 その間にできるだけの訓練をしたい。

 

 

 私は転生者だ。原作知識も持っている。

 その上レストレンジ家で、さらにヴォルデモートの娘(推定)だという途轍もない秘密も抱えている。

 それを、あのダンブルドアやスネイプのような開心術の巧者に知られるわけにはいかない。

 まず閉心術。これだけは一刻も早く習得しなくちゃいけない。

 

 それから、私には自分が死んだ記憶がある。

 どうやら“担当者サマ”が死の瞬間の恐怖や痛みを緩和させてくれたみたいで、死の記憶に苛まれたことはない。だけど、それでもあのクロロの拷問の痛みは覚えている。

 

 学校にディメンターが徘徊するようになる3年目までに、守護霊の呪文の習得は必須だ。でないと、私が最初の死亡例になりかねない。自身の死亡の記憶持ちなんて、ハリーなんかよりもずっとずっとディメンターに魅入られる存在だろうから。

 それにさ、守護霊の呪文ってディメンターを追い払える。つまり他の世界のアンデッド系モンスターにも効果がありそうじゃん。ディメンターは斃せないけど、もしかしたらゾンビくらいなら浄化できそう。これは絶対次の世界に持っていくべき技術だよ。

 閉心術、守護霊の呪文、これは必須。開心術も一緒に覚えたい。

 

 

 

 

 まずは1年目だ。

 原作関係なしに、学ぶことは楽しみだ。

 知識が増えること、技術を磨くこと。私はそれが楽しみでならない。

 

 それに、できれば友達も増やしたい。

 ドラコ達だけじゃなくダフネやパンジーともすでに知り合いではあるけど、貴族同士ってどうしても表面上のお付き合いになってしまうんだよね。

 だから、学校にいる間くらい、もっと深い友情が芽生えれば嬉しいと思っている。

 

 これからホグワーツ特急に乗る。

 7年間。どうか楽しい学校生活を送れますように。

 

 

 

 

 

 レストレンジ家からキングズ・クロス駅まではロニーに姿現わしで送ってもらった。

 ホームではなく、9と4分の3番線の改札前に飛んでもらう。

 

 はじめて見るホグワーツ特急だもの。

 映画みたいに9番と10番の間の柵に向かって走り込みたいのだ。

 

 ロニーは駅に着いたとたん、名残惜しそうに私の手を離した。

 大きな耳をへにょりと垂れて私を見上げてくる。

 

「じゃあ行ってくるわね、ロニー」

 

「いってらっしゃいませお嬢様。どうぞお身体にお気を付けて。何かございましたらすぐにロニーをお呼びくださいませ、お嬢様。ああ、おひとりでお嬢様が学校に行かれてしまう。ロニーは心配です」

 

 赤ん坊の頃から世話してくれたロニーは『小さなメリーさん』だ。心配性で愛情深い。

 彼女のやさしさに何度救われたことか。

 

「大丈夫よ。みんな一人で行くのよ普通は。それに寮にもしもべ妖精がいていろいろ世話してくれるらしいから心配いらないわ、ロニー」

 

 そう言うとロニーは憤然とした表情でキーキーと叫んだ。

 

「お嬢様のお世話をほかのしもべ妖精がするなんて! お嬢様のお世話はいつも、いつでも、ロニーのお仕事なのです! ロニーは嘆かわしいです。レストレンジのお嬢様がしもべ妖精をお連れになれないなんて」

 

 純血貴族家の子供はしもべ妖精を連れてくるものもいるらしい。私は一人でできるけど、着替えすらしもべ妖精に手伝わせる子もいるもの。

 ロニーは学校へついていけないことが不満なのだ。

 「本当に困った時はきっと呼ぶから」というとロニーも「お呼びをいつでもお待ちしております」とひとまず納得してくれた。

 

 原作でもマルフォイ家にいるはずのドビーがクィディッチの試合中ハリーを攻撃したりしてたもん。ホグワーツは鉄壁の守りとか言いながらしもべ妖精は出入り自由なわけだよ。

 なんで魔法使いは屋敷しもべ妖精をあんなに下に見れるんだろう? 大事にしなきゃあっという間に寝首を搔かれるよ。

 

 なんとか宥めるとロニーはバチンと音を立てて消えた。

 

 

 

 さあ。

 私は9番と10番の間の柵を眺める。うん、ただの頑丈そうな柵だよ。

 トランクは巾着にいれて首から提げて服の中に隠している。私の荷物はマーリンの入った鳥籠だけだ。

 

 見回すとたくさんのマグルの乗客がせわしなく通り過ぎる。

 私は人ごみを縫いながら柵に向かって速足で歩き、柵にぶつかるかもと一瞬ひゅんとなったけど無事そのまま通り抜けられた。

 

「……わあ」

 

 紅色の蒸気機関車が乗客でごったがえすプラットホームに停車している。

 ああ。ホグワーツ特急だ。

 かっこよさにため息が出た。列車ってどこか郷愁を感じるよね。

 

 人込みの中に待ち合わせ相手を見つけ、私はマルフォイ家のもとに向かった。

 

「おはようございます、叔父様、叔母様、ドラコ」

 

「おはようエリカ」

 

 挨拶を交わし「少なくとも週に1回は梟を送ること」とドラコだけじゃなくて私まで約束させられ、「必要があれば遠慮せず呼びかけなさい」と両面鏡も渡された。

 シシー叔母さまの抱擁から解放された私達が特急に乗り込み、コンパートメントの窓をあけてマルフォイ夫妻ともう一度挨拶を交わす。

 

 大人ぶって我慢していたドラコがちょっと不安げな表情を見せたのが可愛かった。シシー叔母さまは窓越しにまたドラコを抱きしめた。ルシウス叔父様もドラコの頭を撫でる。もちろん私のことも。

 ほんと。この家族仲良しで見ていてほんわかしちゃうくらい。

 

 汽笛がなり、シシー叔母さまからのお別れのキスを二人とも受けて、手を振りあう。汽車が動きだし、マルフォイ夫妻が見えなくなるまで、私達はずっと手を振っていた。

 

 窓ガラスをしめてほっと息をつく。

 コンパートメントの戸が開いて、筋肉質で快活な少年が二人入ってきた。

 

「よう」

 

 ヴィンスとグレッグだ。ああ、クラッブとゴイルのことね。うん。愛称で呼ぶくらいは仲良くなったのさ。

 彼らは原作のぶくぶく太った愚鈍な二人とはまったく違う。細マッチョだけど全体に打たれ強い脂肪層が薄っすらついていて、しかも身軽。助走なしでバク転宙返りくらいできちゃう。格闘技だってずいぶん強くなった。教師が成長が楽しみだと褒めてくれるくらい。

 そしてクィディッチ大好きスポーツマンに進化を遂げている。うんうん。私の調教、もとい教育の賜物だね。

 

 もう文字も読めるし計算もできる。ゴブストーンやチェスの相手すら務められるほど頭も使えるようになった。授業にまったくついていけそうになかった原作とは大違いだ。魔力循環を幼い頃から練習しているから、きっと実技もじゅうぶんついていけるだろう。

 

 それに性格も明るくなった。鬱屈していた原作とは大違い。残虐性はまったくない。もしかしたらグリフィンドールに組み分けされるんじゃないかと思うような勇猛さがある。実はちょっと不安げに相談されたくらい。組み分けでは本人の希望を聞いてくれるからしっかりスリザリンって頼めば大丈夫、と言っておいた。

 

 ドラコとの間柄も良好だ。

 7歳の頃からの“ご学友”として、ドラコと彼らは上下関係はハッキリしつつも冗談も言い合えるような気の置けない間柄になっている。私とは……若干舎弟っぽい感じが、調教しすぎた感があるけど。

 

 その分、彼らは父親との仲があまりよくないらしい。彼らの思考力が高まったことで親の悪い点が見えてきたからだろう。このままいけば万が一お辞儀様が復活しても即父親にならって僕らも死喰い人になりますって考えにはならないだろう、と期待している。

 

 

 私達は特急の旅をおしゃべりやゲーム、お菓子を食べたりしてじゅうぶん楽しんだ。

 

 途中で何度か純血貴族の友人が挨拶に訪れた。

 そのたびにマルフォイの嫡子、レストレンジの娘として挨拶を交わす。

 

 みんなの話題は学校の事と、この特急に乗っているらしいハリー・ポッターのことだった。

 

 昼食を摂ってしばらくすると、ハリーに声をかけに行くとドラコが言い出した。

 あ、これ、喧嘩しちゃうやつだ。

 向こうには原作通り進んでいればロン・ウィーズリーがいるはず。むりにドラコが嫌われ者になる必要ないじゃん。

 私はドラコを引き留めた。

 

「マルフォイのあなたが挨拶のために足を運ぶなんておかしいわ。学校に行ってからでいいじゃない。彼だってみんなに声をかけられすぎてきっと今頃うんざりしているわよ」

 

「……ありえるな」

 

「1歳の赤ん坊が“例のあの人”を斃せるわけないのに。どうして英雄扱いされてるのかしら。可哀そうすぎるわ」

 

 ドラコは何も言わず肩をすくめた。

 

 

 

 私達はコンパートメントから出ずずっとおしゃべりをして過ごし、途中でハーマイオニーが「ネビルのカエルを知らない?」と聞いてきて「知るもんか」とドラコが答えて「そう」でおわり。

 特に喧嘩もしないし、名乗りあうこともなかった。ネビルは私達のコンパートメントには来なかった。

 

 ……ちょっとほっとした。

 ネビル。

 ネビル・ロングボトムのこと、会えばどんな顔をすればいいのかとちょっと迷っている。

 だってさ。

 彼の両親を廃人にしたのってうちの両親だもん。

 

 ネビルが私を恨むのはまあ、しかたないかなと思っている。でもさ。私が謝るのも変だもん。ネビルは両親が今も入院していることを誰にも知られたくないだろうし。

 私の謝罪なんて聞きたくもないだろう。

 

 だから、できるだけ彼の前では空気のように静かにしてよう。そう、考えているんだ。

 

 うん。加害者の家族って立場になるなんて想像もつかなかったや。

 

 

 

 

 もうすぐホグワーツというところで交代で制服に着替えることになり、男の子達にコンパートメントを出てもらい、ここで影(わかりやすく前世に倣い、ビリカと呼ぼう)と交代。

 ビリカに失神呪文をかけると、頭から被験者として持つ知識をすべて取り除いていく。記憶のないビリカをひとりで学校に行かせても、ジャンプポイントの設置はできない。こっそり“隠”+“絶”の影シリカも箒を持ってついていかせて、ビリカに忘却呪文で失神したことを忘れさせてから失神を回復させ、私はガーデンへ戻った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 汽車が止まり、ぞろぞろと皆が外にでていく。

 「荷物は車内に置いていくように」とのアナウンスを聞いて、みな手ぶらで歩き出した。

 

 私は巾着に全部入っているからマーリンの入った鳥籠だけを置いていく。「あとでね、マーリン」と声をかけてドラコに続いて列車を降りた。

 

 人込みで押し合いへし合いしながら歩く。11歳の私達は小さくて上級生の中にいると埋まりそうに感じる。ヴィンスとグレッグが私とドラコを守るように精一杯身体を張って前後から壁を作ってくれる。

 気の利く彼らに感謝の微笑みを浮かべた。

 

「イッチ年生! イッチ年生はこっち!」

 

 大きな声がきこえる。

 大きな声に見合う、巨大な身体の男性だった。ルシウス叔父様がおっしゃっていた『半巨人の森番』がこの人か。叔父様の言う『半巨人』は蔑称だけど、本当に巨人の血が入っていてもおかしくないほどの巨体だった。針金みたいなもじゃもじゃの髭も服装も、すべてが変だった。

 訛りが酷くて聞き取りにくい彼の声を聞きながら後ろをついて歩く。すでに日が暮れて真っ暗なうえ、道が険しくて狭い。足元の悪い中、彼の持つランプの灯りを頼りに必死で足を動かす同世代の子供達の姿にハラハラする。

 

 11歳の子供達になんてところを歩かせるのよ。とぶちぶち思っていたら、その苦労は次の瞬間、報われた。

 

「わあ!」

 

 思わず感動の声をあげた。

 

 小道を出て視界が広がったその先は大きな湖だった。

 その大きな湖のむこう岸にある高い山。そのてっぺんに聳え立つ壮大な城。

 大小さまざまな塔が立ち並び、キラキラと輝く窓が星空に浮かび上がっていた。

 

 ここからはちょうどホグワーツの全景が見えるのだ。

 

 なんてすごい風景だろう。

 毎年毎年、11歳の少年少女がこうやって期待に胸を膨らませてこの場所に立つんだなあ。

 そしてこの光景を目に焼き付けるんだ。

 

 

 ……美しい城だ。歴代生徒達の夢と希望がいっぱい詰まった、イギリス魔法界育ちの魔法使いすべての学び舎。素晴らしい心のふるさと。

 

 ああ。

 私もここで学べるんだ。

 

 

「四人ずつボートに乗って!」

 

 感激でぼおっと城を見つめていると、森番の指示が聞こえて我に返る。ドラコが先に乗って私に手を差し伸べた。

 

「ありがとう」

 

 紳士なドラコの手を借りて小舟に乗り込む。ヴィンスとグレッグが後ろに続いた。

 

 

 

 

 

 森番から厳しそうな女性の先生に引き継がれ、組み分けについての説明があった。

 そして一列に並んで玄関ホールから二重扉を通り大広間へと進む。

 

 何千と言う蝋燭が空中に浮かび、天井は満天の星空に見える。幻想的で素晴らしい景色だった。

 そして4つの長テーブルにわかれて上級生たちが座っていて、緊張している後輩を興味深げに眺めている。ゴーストが時折脅かしにくる。

 

 帽子の歌を聞いて、先生が一人ずつ名前を読み上げる。

 

「アボット、ハンナ!」

 

 始まった。

 衆人環視のなか、どきどきとおぼつかない足取りで中央の席に向かう少年少女が順に帽子をかぶり、4つの寮に振り分けられて行く様をじっと眺める。

 

 私も緊張しているよ。だって人に注目されるのは好きじゃないもの。

 でも寮に悩まないだけみんなよりマシかも。

 だってスリザリン一択だもん。

 

 あー。ほら、私ってさ。人殺しの、あの、レストレンジの娘なわけ。

 両親ともにアズカバンにいる。他の死喰い人みたいに、“死喰い人じゃありません”ってフリをしているんじゃなく、“死喰い人です。ヴォルデモート卿万歳”っておおっぴらに認めてアズカバン入りしてるから。

 魔法界の人みんながうちの両親が死喰い人って知ってるってわけだよ。

 

 だからさ。

 他の寮では、たぶん遠巻きにされて誰も近づいてこないと思うんだよね。きっと虐められる。

 もちろんやられたらやり返すけどさ。私だって心が石でできてるわけじゃない。向けられる悪意に傷つかないわけじゃないのだ。

 それにやり返したらどうせ私が悪い事にされちゃいそうじゃん。けっこう辛い立場になりそう。

 その点スリザリンはね。死喰い人の子供が多いし、ドラコもいるし。

 

 だから私の素養如何にかかわらず、絶対スリザリンに入るようにしたいのだ。

 

 

 

 順調に組み分けが進み、そして私が呼ばれた。

 

「レストレンジ、エリカ!」

 

 一身に注目を浴びながら背筋を伸ばして椅子へ向かう。私を見ている人のなかにはきっと悪口を言っている人もいるだろう。

 でも決して俯いてはだめ。

 礼法の教師に厳しく躾けられた綺麗な姿勢で歩き、帽子を掴んで座る。そっと頭に被った。

 

 頭の中に帽子の声が聞こえた。

 

『ふうむ。君は学習意欲に溢れている。レイブンクローならきっと君の知識欲を満たせるだろう。目的のために手段を選ばぬ資質はスリザリンに相応しい。成すべきことを成す勇気もある。グリフィンドールでもうまくやっていけよう』

 

『スリザリンに入れてください』

 

『それでよいのか? 他の道もあるのだぞ? ……ふうむ。そうか。ならば……スリザリン!』

 

 帽子の宣言がありスリザリン寮のテーブルから拍手があがる。

 私は帽子に礼をいうと椅子に置き、スリザリンの長テーブルへ向かって歩き出した。

 

「ロングボトム、ネビル!」

 

 私のすぐ後に読み上げられたその名前に、つい、足が止まった。振り返りたくなる身体を意志の力でおしとどめる。何事もなかった風を装い、そのまま歩いた。

 

 長テーブルに近づき、私より先に決まったダフネ・グリーングラスの横に座った。お互い予定通りの寮に入れた幸運を喜びあった。

 歓迎の言葉をくれる先輩たちと挨拶を交わしながらそっと前を向くと、ネビルがグリフィンドールの席に向かうところだった。

 目を合わせずにすんで、ほっとした。

 

 帽子を被ったドラコが数十秒の帽子との対話を終えてスリザリンに決まり、私の横に座る。

 ほっと見つめあい、笑いあった。

 

「ポッター、ハリー!」

 

 きた。ハリーだ。ダイアゴン横丁で出会った、あの有名な『生き残った子』ハリー・ポッター。

 緊張に震えるハリーを見守る。

 

 長いやり取りを交わした帽子がグリフィンドールを選び、グリフィンドールは歓声をあげて大さわぎだった。

 

「ハリーはグリフィンドールか」

 

 ドラコが私に囁く。ダイアゴン横丁で友好的に出会った私達は彼を「ハリー」と呼んでいた。

 

「ずいぶん長かったわね。もしかしたらスリザリン寮に来たかもしれない」

 

「まったくだ。グリフィンドールに取られるとは残念でならんな」

 

 組み分けは順調にすすみ、最後に残ったザビニがスリザリンに決まって終わった。

 

 やっと食事にありつける。

 みな食べ物が満載になった大皿から好きなものを取って食べだす。スリザリン寮のみなは上品な手つきで取り分けているのがさすがだ。

 

 周りに座ったのはドラコとダフネ。ダフネの横がパンジーでパンジーの前がセオドール・ノット。私とドラコの正面がヴィンスとグレッグ。

 みなパーティや茶会でよく合う面々だ。

 気心も知れていて私達は和やかに会話しながら大いに食べた。

 

 ふとグリフィンドールの席を見る。

 

 ……ハリーもちゃんと友達ができたようだ。

 金髪の可愛らしい女の子と赤毛の男の子の間に座り、楽し気に話しているし。

 スリザリンじゃなかったのは残念だけど、また話ができるかな。

 

 

 

 校歌を歌って解散になる。

 長かった。やっと終わった。

 

 これから寮まで歩かなきゃなんだな。もう既に眠たい。みんなもふらふらしている。

 

 私達は上級生についてぞろぞろと階段を下りていった。

 地下は何階まであるんだろうか。

 

 ひんやりした石壁のなかを、1年生達は不安と期待を滲ませた表情で上級生に遅れまいと必死で足を動かす。

 やがて、湿った剥き出しの石が並ぶ壁の前で監督生の男子生徒が立ち止まった。

 

「いいか、諸君。ここで合言葉を言うんだ。合言葉は定期的に変わるから気を付けたまえ――“狡猾であれ!”」

 

 壁に隠された石の扉がスルスルと開く。

 

 

 

 

 スリザリンの談話室は、細長い天井の低い地下室だった。壁と天井は粗削りの石造り。天井から丸い緑がかったランプが鎖で吊るしてあり、ごつごつした岩を照らしている。

 

 地下なため陰湿な雰囲気かと思っていたけど入ってみると地下特有の湿気など感じられない。天井は低めだけど広々とした空間だし、暖炉や椅子、テーブル、ソファに至るまで、どれもこれも華美で豪奢な彫刻がなされていて、ものすごく豪華だ。

 丸い窓の外は湖の中なはずだけど、今はもう外が真っ暗だからよくわからない。

 

 思っていた以上に落ち着きのある空間だった。

 

 

 奥の女子寮に続くドアを潜ると、ドアに既に名前が書き込まれていた。どの部屋も2人ないし3人部屋のようだ。

 

 

 私の同室はダフネ・グリーングラスだった。

 彼女の家族は死喰い人じゃないし、純血主義ではあるけどヴォルデモートの陣営にも光陣営にも与さない家だ。

 

 知り合いだったことにほっとした。昨年のクリスマスから本格的に社交界に参加するようになり、彼女とも知り合った。

 以来、パーティや子供同士のお遊び会でちょくちょく会っていてダフネ、エリカと呼び合うような友好的な関係を築けている。

 

「ダフネが相部屋でよかった」

 

「わたしもよ」

 

 二人で微笑みあって、扉を開ける。

 

 部屋に入ると、エメラルドグリーンのビロードのカーテンが掛かった、四本柱の天蓋付きベッドがふたつ、部屋の左右に設置してある。

 

 左のベッドのそばにはトランクがふたつ。あちらがダフネのベッドなのね。

 右のベッドのそばには空の鳥籠だけが置いてあった。マーリンは梟小屋に運ばれたらしい。

 

 奥には文机と椅子、キャビネットが一つ。

 がらんと広いのは、まだ実家から持ち込んだ家具が入っていないからか。

 

 家具を持ち込めるほど広い部屋を確保できるのはスリザリン寮くらいだ。明日にでも梟を送り『スリザリン寮に入れた』と報告をすれば、それぞれお気に入りの家具が実家から送られてくるのだろう。

 私?

 もちろん、すでに持ち込んでます。トランクと一緒に巾着に入ってますとも。

 

 

「さすがに疲れたわね」

 

「ほんと。もういつも寝る時間よりずっと遅いわ」

 

「明日も早いから、今日はもう寝ましょうか。これから7年間、よろしくねダフネ」

 

「こちらこそ。楽しい学生生活を送りましょう、エリカ」

 

 巾着から日用品のもろもろが入ったキャビネットをベッド脇に取り出した。そこから寝間着を出してあくび交じりに着替える。

 『制服は籠に入れておいてくだされば朝までにスリザリンの色に裏地を直します』と洗濯籠の上にメモがある。なるほど。組み分けが終わったから、先輩方と同じあの緑色の裏地に色を変えてくれるのね。

 言われたとおり制服を軽く畳んで籠に入れると、ベッドに乗りあがる。

 

 ぽすんと倒れ込むとふんわりした寝具が身体を優しく包み込む。さすがスリザリン寮の寝具。肌ざわりも寝心地も素晴らしい。

 

 11歳の幼い身体は既に疲れ切っていた。半分眠りに入りつつおざなりなお休みの挨拶をダフネと交わし、ベッドの周りのスリザリンカラーのカーテンを閉めた。視界がエメラルドグリーンに囲われる。

 

 と、身体に衝撃を受けた。え?

 

 

 

 

 

 

 はい。本体登場です。

 ややこしい作業をしてました。記憶を消したビリカに、ずっと隠密状態のシリカがついていた。舟に乗って湖を渡るときは箒でついていき、あとはずっと見守っていた。ビリカに気付かれないよう死角になる位置をキープしながら気配を殺してついていくシリカは本当に大変だったと思う。

 

 寮の部屋に入る時も、扉が開いた瞬間シリカがステップで先回りして、ベッドの影で待ち構え、カーテンが閉まったと同時にビリカを失神呪文で止めたのだ。

 

「ポイント2設置“寮私室”」

 

 そしてシリカがビリカを連れてガーデンに入り、ビリカの取り去った記憶を戻してから二人を消し、入れ替わりにガーデンにスタンバってた私本体がやってきた、というわけ。

 

 

 『組み分け帽子』対策のためにかなり危ない橋を渡った。ビリカは記憶がないから彼女にはポイント設置もステップもできない。しかも影は24時間で消滅するって誓約がある。

 頼みの綱のシリカが何かの拍子で消えてしまったら、本体の私がホグワーツに入り込むことができなくなる。ホグワーツに着いた記録があるにもかかわらずいなくなったら、どう説明すればいいのか。しかも本体が行けるポイントはイギリスにしかない。

 いざとなればロニーを呼び寄せてホグワーツへ運んでもらうしかなかった。危なかった。ふぅ。

 

 そのため、シリカはいつ消えてもリカバリーできるよう、ホグズミード駅、ホグワーツ敷地内、校舎内、と移動するたび小まめにポイントを上書き設置しながら進み、なんとか役目を全うしてくれた。

 

 

 ビリカ、シリカの記憶が私に戻り、ポイント2にジャンプで入った。ビリカの消えたベッドに入りホッと一息つく。

 

 ホグワーツの幾重にも張り巡らされた堅固な守りをものともせず、ガーデンからここにジャンプで入ってこれたことに安堵した。

 まあ私の(ステップ)(ジャンプ)は管理者サマがくれた特典で、これは確実にどこにでも転移できるはずだから心配はほとんどしてなかったんだけどさ。

 

 これでいつでも外と行き来できる。安心安心。

 

 

 さあ、明日からは授業が始まる。しっかり勉強しなくちゃ……

 私は『組み分け帽子』を出し抜けたことに満足し、そんなことを考えている間にいつの間にか眠っていた。

 

 

 




感想ありがとうございます。誤字報告も助かっております。
いろいろ考察してくださるの、とても楽しく読ませていただいています。個別に回答しませんが、今後ともどうぞよろしくお願いいたします。
※クラッブの愛称をビリーからヴィンスに変更しました。
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