エリカ、転生。 作:gab
翌朝、目覚めは快適だった。
伸びをしながら起き上がり、(ポップ)で開いた小窓に指を入れ、ガーデンに影を数体送る。一人は私と交代してここに残ってもらい、私もガーデンへ入る。毎朝のランニングは欠かせないもの。
さっさとランニングと体術訓練で2時間ほど過ごし、さっとシャワーを浴びると寮へ戻る。
今日から集団生活。レストレンジな私はいろいろ言われるだろうけど、楽しまなくっちゃね。
真新しい制服はネクタイと裏地がスリザリンカラーに変わっていて、綺麗にハンガーにかかっていた。しもべ妖精優秀。「綺麗だわ、ありがとう」と虚空に向かって声をかけると制服に身を包み部屋を出る。
談話室に入ると湖の水越しに射す朝日が淡い緑色に部屋全体を染め上げていた。ああ、ここは湖の底なんだっけ。目覚めに優しい色が、これからのここでの生活を祝福してくれているようだ。
かすかな水音も聞こえる。α波が出そうな柔らかな水音は緊張続きだった神経を落ち着かせてくれる。
暖炉の前のソファに座る。うわあ、ここ、すごく落ち着く。
スリザリンになってよかった。
私は友人達が起きてくるまでの朝のひとときを、教科書を眺めながらゆったりと過ごした。
その日からは広くて複雑な造りをした校内を把握することと、新しい授業内容を覚えることで手一杯だった。
最初の週はスリザリン寮の先輩方が1年生を教室まで案内してくれるおかげで、誰も遅刻をしなかった。
タペストリーをめくって通る道なんてものもあり、教えられなければ絶対気付かない通路もあってみんな必死に覚えた。
動く階段はタイミングが悪いと十分以上待たされることになり、授業に遅れてしまう。早め早めの移動が必須だったし、校内の歩き方のコツを知っている上級生の案内がなければ相当苦労したと思う。
授業は教科書を買ってから学校が始まるまでの8月の1ヶ月でしっかり勉強を進めていたおかげで難なくついていけた。
授業が終わればすぐに影をガーデンに送り、復習と課題を済ませる。
その時に先生から聞いた注意点をメリーさんと小雪にも伝える。私が習い、その後彼女達に教える。
ふたりへ私が教えるという責任感が、授業への集中力を高めてくれた。
魔法の練習については私ってかなり恵まれているよね。
影分身があって、ガーデンという未成年魔法使いの“臭い”がバレない空間がある。
ほんと。最初がHUNTER×HUNTER世界でよかった。
早寝早起きが当然の11歳な私達にも、真夜中の授業まである。天文塔で各自の望遠鏡で夜空を観察して、星の名前や惑星の動きを覚える。占いや星読みの基礎講座みたいなものだ。覚えることが多くて大変だけど面白い。
変身学のマッチ棒を針に変える練習にはワクワクした。映画で見ていたようにイメージを膨らませて、マッチ棒が細長く、その身を金属に変えて銀色に染まり、先が尖っていくのを思い浮かべて頑張った。
針らしきものになった時にマクゴナガル先生に褒められて「スリザリンに5点差し上げましょう」と言われた時には誇らしくてたまらなくなった。
梟のマーリンは、シグナスおじい様とシシー叔母様へ「無事スリザリンになりました」の手紙を送る初仕事を終えたあと、何度もホグワーツとイギリスを行き来している。ドラコの梟『ニコラ』も忙し気だ。
マルフォイ家からは数日おきにお菓子のいっぱい詰まった小包を届けてくれる。おじい様からもお菓子が多い。高級羽ペンやとても綺麗な色のインクを送ってくださることもある。課題に使うにはもったいない高級品だ。これはおじい様や叔母様に送る手紙用に置いておこう。
『配達の達人』と店の人が太鼓判を押してくれたように、マーリンの仕事ぶりは完璧だ。褒めると自慢げに胸をそらす動きや甘えるように指先を軽く齧ったりするしぐさが可愛らしい。
何度かグリフィンドール生を見かけた。
ずり落ちそうな古ぼけた眼鏡をつけたハリーの、まごまごと周りを見回している姿を、少し離れた場所でスリザリンの1年生は眺めていた。
「どうしてウィーズリーはポッターに教育しないんだ」
不思議でならないといった風情でノットが呟いた。
「しかたない。ウィーズリーは“血を裏切る者”だからな。純血魔法族の誇りも忘れているんだろう」
ドラコが吐き捨てるように言った。
私もすごく気になる。
原作でもそうだったけど、なんでこれを見て何も言わずにいれるんだろう。
眼鏡を買い替えさせたい。それにポッター家についてしっかり教えたい。彼は半純血だけど、ポッター家の正統な跡取りだ。純血貴族家の在り方を少しは理解してもらいたい。もっと自信も持ってもらいたい。
髪を整え、新しい眼鏡をあつらえ、身体にあったサイズの私服を着てほしい。夕食時や休日に見る彼の服は身体に合わない古くてだぼだぼのジーンズで、やせ細った小柄な体を余計に強調している。
ポッター家の財産は彼が遊び暮らしてもなくならないほどあることくらい
私だってレストレンジ家の金庫の管理代理人になったあと、当主教育の一環として、おじい様やルシウス叔父さまからレストレンジ家の資産運用の勉強をはじめている。今はまだ管財人から届く報告書の見方を教わっているくらいだけど。
ハリーだって両親がいないんだから早めに当主教育を始めるべきなのだ。そういうことも教えてあげたい。
「ハリーがスリザリンに来ていれば、今頃彼ももう少しマシな格好をしていただろうに」
ドラコの言葉にみんな頷く。
……ほんとにね。
数日ハリー・ポッターの様子を観察し、恐ろしいことに気付いた。
ハリーの傍に、ロンと同じくらいいつも一緒にいる少女がいるのだ。金髪の可愛らしい女の子。そう言えば組み分けの時からハリーの隣に座っていたかも。あんな子原作にいたっけ? いないよね。
もしかして……被験者?
もし、彼女が被験者なら。どうすればいい?
向こうはどう考えているんだろう。
ハリーの傍にいるということは少なくとも善側によるつもりか。
救済は考えてるか。原作遵守派でしかも過激派だったら目も当てられない。私と真っ向から対立してしまう。
ダンブルドアに自分の能力をばらすか?
そして私のことをばらすだろうか。
原作でレストレンジには子供がいなかった。こんな目立つ家系を忘れるわけはない。被験者で、ハリー・ポッターの原作を知っている人なら、私が被験者だとすぐにわかってしまう。
想定して然るべきだった。SSRのデメリット。被験者が複数いて敵対するつもりなら、身バレしている方が圧倒的に不利だ。
それに、あの子が『呪いの子』のストーリーまで知っていたとしたら、私がヴォルデモートの子供かもしれないってところまですぐに思いついてしまう。
もし彼女がすぐにダンブルドアにばらし、私のことも被験者かもしれないという可能性を示唆したら……
私はそれでなくてもスリザリンで、レストレンジだ。
ダンブルドアの私への不信感は最初から高い。
いつ呼び出されて真実薬や開心術を使ってくるかわらかない。
うわあ、怖い。慎重にならなくては!
もともと1年次は何も手をださないつもりでいたんだし、そこは予定通りでいい。
とにかく閉心術の修行を一刻も早く始めなきゃ。
生徒達から流れてくる噂話も聞いて、くだんの金髪少女の名が『ハンナ・クリアウォーター』だと知った。
私のサロウフィールドみたいに、クリアウォーターも日本の苗字の直訳か?
クリアなウォーター。清水さん? ハンナ・クリアウォーター。清水はなさん? とか?
なんて予想していたんだけど、原作を調べると、4年上にペネロピー・クリアウォーターがいて、後々ロンの兄のパーシーと付き合うキャラだった。
そしてハンナはそのペネロピーの妹らしい。
妹は原作にいなかったから、彼女はやはり私と同じ『生まれる可能性があった子供』。被験者だ。
今はだいたいハリーとロンと三人でいる。ハーマイオニーがそれによく絡んでいるけど、原作でもハロウィンの事件が終わってやっとハーマイオニーも仲間になるはず。
原作とは違って男女4人グループになるのかな。
ハンナはハーマイオニーをよく宥めているらしい。彼女を排除して自分が原作ハーマイオニーの位置に成り代わろうとしているのかと最初は想像していたけど、どうやらそうじゃないみたい。なんとかハーマイオニーとハリー達の仲を取りもとうとしているらしい。
なんとなくだけど性格は良さそうな感じ。ちょっとほっとした。
クィレル先生の「闇の魔術の防衛術」の授業はおどおどとした話し方が聞き取りにくくて不評だ。だけど、教科書を忠実になぞった授業はそれなりにわかりやすい。
時折り挟まれる雑学や旅で得た経験談も面白く、教師としてはちゃんとした人だったんだなと思った。
ターバンに包まれた後頭部を見るたびに蹴りつけたくなるけど、意識を向けるとお辞儀様に気付かれるかもしれないから、できるだけ精神を鎮めて授業を乗り切った。
ちなみに“円”で見るとクィレル先生ってしっかり二人分の気配がある。お辞儀様、あんな状態でも“一人分”とカウントされるのか。
金曜日はスネイプ先生のはじめての魔法薬学の授業があった。
原作通り、嫌味な口調で英雄ポッターを煽るスネイプ先生と、反発して緑の目を尖らせて睨みつけるハリーのやりとりに、みんな困惑していた。
ダイアゴン横丁でハリーと友好的に知り合ったドラコは、原作のように嗤うこともなく、ハリーを気遣う視線さえみせていた。うん、うちの子天使。
ハリーと話したかったのに、授業前は彼らが遅刻してきたし、終了後は苛ついた険しい表情のハリーに声をかけることも躊躇われ、結局話せないまま終わった。
ちなみに、ネビルの爆発はハンナ・クリアウォーターがとめていた。
私もネビルのことはできるだけ見ないようにしているけど、ネビルのほうも頑なにこちらに視線を向けない。決して私の存在を認めないという強い意志を感じられた。
スリザリンの寮監、スネイプ先生は、物慣れない一年生に細やかな対応をしてくれる。
学校に慣れた頃に個人面談があり、何か困っていることはないかと尋ねられた。
私って死喰い人の娘だから、他寮の子から陰口を叩かれることはあるけど、私自身、弱くはないから別段困ることはない。“円”で悪意を持っている奴が近づこうとするのに気付けばさっと道を変えるくらいはできるし。喧嘩をすれば私が悪者にされるもの。触らないのが一番だ。
「無理はしておらんか? 何かあれば早めに言ってくるように」
「ありがとうございます」
スネイプ先生は小学生や中学生相手に教えるのは合ってないと思う。真面目にやらない奴とか、教科書を読まない奴、ふざける奴のことは切り捨てちゃうから。だから本気で学ぶ熱意のある生徒だけが受ける専門学校とか大学のほうがあっていると思う。
魔法薬学は繊細で危険な授業なのだから、そりゃあ注意を聞かない生徒のことは塩対応しちゃうよね。
それでも、授業中大きな事故を起こさないよう気を配り、作業中は生徒の間を巡回して注意を促し、危険を察知すれば魔法で生徒を守る。
めちゃくちゃいい教師なんだよ。
ハリーに対する態度以外はほんとうに尊敬できる人なのだ。
私はこの不器用な優しさを見せるセブルス・スネイプという人が好きだった。
なんていうのかなあ。手を伸ばしても届かない相手を思い続ける、贖罪と悔恨の日々。ひたすらに、ただひたすらに、亡き人を想う強い心。
心から愛する人と心底嫌う男の間に生まれた子供を、命を懸けて守る、そのひたむきな彼の強さに、ものすごく惹かれるんだよね。
彼が今さらリリー以外の人を愛せるとは思えないけど、彼にもいつか幸せになってもらいたい。
……『死者への往復葉書』が没収されていなかったら、ってちょっと思っちゃう。
リリーはスネイプ先生の悔恨と謝罪の言葉に溢れる葉書になんて答えるだろう。『バカねセブ。もう自由になっていいのよ』って言ってくれたら少しは彼の心も救われるのに。
あ、でもリリーは大人げないから『ふん、私のこと穢れた血って言ったこと、忘れてませんからね!』とか書いてきて余計に凹ませるかもしれない。
でもそのあとで『私達の分まで幸せにならないと許さないわよ』なんて書いてくれないだろうか。
もう手元にないアイテムのことを考えてもしかたないけど、やっぱりもしかしたらって考えちゃうんだよね……
初めての週末。
午前中はドラコ達と図書室に向かい、課題を仕上げた。
昼からは、スリザリン1年生みなでの茶会。
1年で一番格上はマルフォイ家のドラコ。うちのレストレンジはわが愛しの両親のせいで、家の力も徐々に失いつつある。それでもマルフォイ家の次にレストレンジの私がつく。
次はパーキンソンとグリーングラスがほぼ同格。それからブルストロード、ノットと続く。その後はザビニで、クラッブとゴイル。あとは十数人の純血が続き、半純血。たった2人のマグル生まれ。
合わせて32人がスリザリンの1年生だ。
マグル生まれの立場はスリザリンでは最低だから立場は悪い。一人は女の子ですぐにミリセントの庇護下に入った。もう1人は男子で1年生の使いっ走りのようなポジションにいる。
マグル生まれながらにスリザリンに入るような子達だから目端のきく子達でうまく溶け込もうと努力も欠かさない。
だから純血達も虐げたりせずにつきあっている。
おそらく彼らみたいなタイプは卒業後、魔法族がマグル界で何かやりたい時の調整役として重宝される人物になるんだろう。
こんな使える人材をストレスのはけ口にするような愚か者は他のスリザリン寮生から粛清される。
それにもともと身内には甘いスリザリンだもの。スリザリン以外からの攻撃には当然のように守ってやっている。
ドラコを頂点とした1年生の結束は割と高い。少なくともマルフォイ家やレストレンジ家ほど突出した家系がいない学年よりはずっとまとまっていると思う。
今日の茶会は空き教室を使って和やかに開催された。
ひとしきり授業で感じたことや、校内で迷ったことなど、この1週間のできごとを語り合う。生まれた環境は違うけど、同じ寮になったことと、この1週間目まぐるしく過ごす間に共に体験したもろもろの出来事が互いの共感を誘い、1年生全体のまとまりがより高まってきている。
それから魔法界の生徒が、親や兄弟から聞いた“ホグワーツの面白いこと、知っているとお得な情報”などを紹介していった。
「じゃあスリザリン寮のそばから天文塔に直接行ける抜け道があるんですの?」
「そうらしいよ。ただ、兄上ときたらどこにあるか教えてくれないんだ。自分で見つけるのが醍醐味だって」
「まあ」
「でもわかるなそれ。自分で見つけたら絶対楽しいと思うね、僕は」
「同感だな」
「これから私、歩きながらできるだけタペストリーは捲ってみることにするわ」
「壁をこんこん叩いたりね」
「所々に立っているあの鎧も怪しいよな。きっと何かの時には動き出すんだぜ」
「夜中に寮を抜け出していたら鎧に捕まったり?」
「ちょっとやめてよ。夢にでてきそう」
皆で楽しく言いあう。
「ごめんなさいね。私って知り合いがいなくて。情報を貰うばかりでもうしわけないですわ」
悲し気に(みえるように)そう呟く。
だって、ルシウス叔父たちからの情報はドラコのものだし、ブラック家のシグナスおじい様たちは教えてくれなかったし。
実のところ、必要の部屋とか、原作にある暴れ柳へ抜ける道とか、厨房の場所とか、実は私がおそらくこの中で一番知識があるんだけど、これは内緒のお話。
「気にしなくていいとも、レストレンジ。僕も知らないことが多くて」
「そうね、みんなで助け合えばいいのよ。ねえダフネ」
「そうよミリセント。私達、もう友人ですもの」
「ありがとう。私もみんなと友達になれて本当に嬉しいわ」
パンジー、ダフネ、ミリセントとは女同士すごく仲良くなれた。
ダフネは同室、パンジーとミリセントは隣の部屋。しょっちゅうどちらかの部屋に集まっておしゃべりしている(参加しているのは影だけど)。
私はトランクで音楽の練習をしている時間も多いのだけど、それも彼女達は理解し尊重してくれていてありがたい。たまにトランクに彼女達を招いてピアノを弾く私の横でお喋りに華を咲かせることもある。
スリザリンってすごく居心地がいい。
他にもいろんな噂話に花が咲く。話題はあの『4階の右側の廊下』の話になった。
「まったく。なぜ学校内にそんな危険な場所があるんだ……」
ドラコが眉間にしわを寄せて呟く。「ほんとだね」なんて返事をしながら、ああ、そうか、と気付いたことがある。
原作で1年生のドラコは危険な目に何度もあった。罰則で禁じられた森に連れていかれ、しかもそこでユニコーンを殺して血をすするバケモノ(クィレル先生)に襲われている。
そんなもの、私が親でも怒るよ。大切な御曹司をそんな危険にさらすなんて、子煩悩で純血家の家系を守るルシウス・マルフォイが許せるわけがない。
ダンブルドアって学校を私物化しているよね。
生徒の安全を無視している。
2年でトム・リドルの日記を持ち込ませるのは、ダンブルドアを失脚させたかったからだ。
ダンブルドアが校長になってからスリザリン不遇の状況に拍車がかかった。叔父様はダンブルドアが校長として成長途中の子供達に(純血家から見た)偏った教育を施していることが許せなかった。だけど、正攻法では人気の高い彼を失脚させられない。
苦慮していたところに、息子の危険だ。自分の手の届かぬ場所、しかもダンブルドアのお膝元に大切な子供を任せておくとこれからも何をされるか。
だから、日記だ。
ついでに気に入らないウィーズリーの家長も貶めようとジニー・ウィーズリーを狙ったわけだ。
ルシウス叔父さまの気持ちも、よくわかるなあ。
初めての飛行訓練。
ハリーがドラコとやりあい、結果クィディッチの選手になる、あの事件がある日だ。
ドラコと喧嘩させるつもりはないから、あの事件は起こらない。はず。
私は少し緊張しながら授業に臨んだ。
開始時間前にスリザリンの生徒が全員揃って待っていると時刻を過ぎてバラバラとグリフィンドール生達が走ってくるのを眺めていたらハリーと目が合った。
ダイアゴン横丁での話題はクィディッチと箒の飛行訓練のことだったから、ハリーもそれを覚えていて、私達に微笑みかけてきた。
「ハーイ、ハリー」
私も笑って声をかける。ドラコも「やあ、ハリー」って笑顔だった。
「あ、ハーイ。エリカ、ドラコ。やっと箒の授業だね」
ハリーがそう言ったとたん、ウィーズリーが尖った声を張り上げた。
「ハリー! そいつはレストレンジだぞ」
「レストレンジ?」
「死喰い人だ。極悪人の娘なんだぞ」
「え? 死喰い人? じゃあ、“例のあの人”の?」
ハッとしてハリーがこちらを振り返る。その目に驚きと確かな嫌悪の色が見え、ちょっと傷ついた。
「どういうこと? 僕を騙したの?」
「違うわ。両親と私はべつよ」
そう言いかけると「レストレンジの腐れ蛇と話すことなんかない!」とロン・ウィーズリーが叫んだ。ドラコがロンを睨みつける。
ハリーは何も言いだせず、私とロンを交互に見て、口を開いてはまた閉じるという動作を繰り返した。次に開いた口が私を拒否するのが嫌で、私は言った。
「……ええそうね。黙っててごめんなさい、ハリー、あ、いえ、ポッター。適切な距離は必要だったわね」
私の言葉にドラコのほうが傷ついた顔をした。ドラコが何か言いかける前に、マダム・フーチがやってきた。
「何をしているんです? ボヤボヤしないで、みんな箒のそばに立ちなさい」
うん。ハリーと友情を育むのは難しかったかもしれない。ドラコが私以上に悔しそうで、それがもうしわけなかった。
その後原作どおりネビルが緊張のあまり先走って飛び上がり、箒の制御をあやまって箒から落ちた。ほんとは手助けしようと考えていたんだけど、私がネビルに近付いていいのかどうかと迷っている間に落ちてしまい、マダム・フーチにネビルが医務室へ連れられていくのを離れて見守るしかなかった。
先生がいなくなり、ネビルの失敗を囃し立てる中、ドラコが『思い出し玉』を見つけて拾い上げる。
ドラコが酷い言い方をする前に、急いで声をかけた。
「ドラコ。グリフィンドールの誰かに渡してやって」
「なんだと?」
「ドラコ、わかってちょうだい。私の前で、ロングボトムの息子に関わるのはやめて」
「……わるかった」
元死喰い人の子達や目端の利くスリザリン生達は、うちの両親が誰を拷問にかけたことでアズカバンに収容されたのか知っている。もちろん、ドラコも。
私がネビル・ロングボトムに感じている罪悪感を理解してくれたドラコは、怒鳴りつけてくるウィーズリーを無視して手近にいた他のグリフィンドール生に思い出し玉を手渡した。ヴィンスとグレッグはずっと私とドラコを守れる位置に立ってグリフィンドールを威嚇していた。
授業が終わり、もの言いたげなハリーの視線を背に、私達は校庭を後にした。
思い出し球を巡る諍いが起きなかったため、ハリーがシーカーになることもなかった。
1年でのクィディッチ選手入りはなかったけど、彼の才能なら来年は間違いなくシーカーになれるでしょう。
ドラコとの喧嘩がなく、クィディッチのシーカーに選ばれることも、ニンバス2000を貰うことも、深夜の決闘事件もなかった。きっと四階の『禁じられた廊下』にある部屋にいる三頭犬を見ることもなかったんじゃないかな。
その後の話。
私に忖度したスリザリン生は、ロングボトムに対しては不干渉になる。原作でもいろんな人に悪戯されたり揶揄われていたロングボトムは、少なくとも同級のスリザリン生からは陰口すら言われず、ごくたまには授業中間違えそうになれば軽くアドバイスをもらうこともあったようだ。
こういうのをみると、ほんと、身内には甘いスリザリンのわかりにくい優しさを感じる。
ペネロピー・クリアウォーターは2巻『秘密の部屋』でハーマイオニーと一緒に石化します。その後ジニー・ウィーズリーが被害者になった際に『純血なのに』と皆が驚きますから、それまでの被害者はマグル生まれまたは半純血と思われます。
7巻で人さらいに捕まった時にハーマイオニーが偽名としてペネロピーの名前を使っています。マグル生まれの名簿を持つ人さらいに名乗ったのでクリアウォーター家はマグルではないことになり、クリアウォーターは半純血で間違いないと思います。年齢的にちょうどよかったのでペネロピーの妹として被験者を登場させました。
ドラコの梟の名前は原作にありませんでしたので、エリカのマーリンと揃えて賢者繋がりで『ニコラス・フラメル』からニコラに捏造設定しました。