エリカ、転生。   作:gab

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1年-6 ハンナとの二度目の対話と1年の終わり

 

 

1992年 3月

 

 毎日の授業と、音楽の練習、念修行、必要の部屋での魔法の訓練と忙しい毎日を送っている。

 私(影)と小雪はガーデンで相談していた。

 

「近代の歴史書とか、第一次魔法戦争の時の記録集とかいろいろ読んでみたけど、被験者っぽいのは見つからなかったよマスター」

 

「小雪も気になる人いなかった? じゃあ今までにはいないって考えていいかなあ」

 

 うちにある『ハリー・ポッター』全7巻プラス『呪いの子』に書かれている昔の人達の名前や事件と大きく違う要素がないか調べていたのだ。私と小雪、別々の視点で。

 

 

 私の名前、エリカ・アレクシア・レストレンジ。

 エリカは両親が、アレクシアはブラックのおじい様がつけたらしい。

 

 ブラック家から他家へ嫁いで生まれた子供は別にブラック家の命名の習わしに従う必要はない。だけど、ブラック分家は生まれたのが女性ばかりで、ベラトリックスもナルシッサも他家の嫡男に嫁いだ。

 このままではブラック分家は途絶えてしまう。

 だから、どちらかが複数産めばそのうちの誰かがブラック分家を継ぐことになる。それもあって私もドラコもブラックの名前がつけられた。残念ながら私もドラコも一人っ子のまま11歳になってしまったため、もうブラック家は私達の次世代に期待するしかないと諦めているらしいけどね。

 

 つまり、本来なら私はエリカ・アレクシア・レストレンジではなく、アレクシア・エリカ・レストレンジのほうが“らしい”名前だと思う。

 でも私が“わたし”であるため、ファーストネームはエリカしかなかった。という事ではないかなと考えている。私はあくまでも『エリカ』で、その名が私に柳原英里佳であることを忘れさせないでいてくれる。担当者サマのおかげなのか、誰もその名前がおかしいと指摘しない。

 あるいはベラトリックスの「嫡子はレストレンジのもの」という意思表示でそうなったと思われているのか。そこはわからない。

 

 んでさ。

 もしかしたら昔……爺世代、親世代のどこかに日本名らしきファーストネームや、原作で一人っ子だったはずが兄弟がいたりしないか、それを調べていたのだ。

 

 私は英里佳だからそのままエリカだけど、もしかしたらハンナ・クリアウォーターは「はなこ」や「はなえ」で、イギリスでその名前は目立つから「ハンナ」になったのかもしれないけど。

 でも私のファーストネームがブラックじゃないことを誰も気にしないのなら、たとえば「タロウ」や「アキラ」や「ゲンザブロウ」でも堂々とファーストネームになっている可能性はあるよね。もしかしたらゲンザブロー・ブラックやアキラ・プリンスがいたかもしれないじゃん。

 

 でも、まあ私が見つけられる範囲では、過去で改変はなかったし、ゲンザブロー・ブラックみたいな名前もいなかった。ダン、ケント、ユウ、マイ、レイ、アイ、アリサ、マイカみたいにどちらともとれる名前もいたけどその人が何かやった痕跡は見つけられない。

 

 本だけじゃなくて、ホグワーツのトロフィー室に並んだ名前もぜんぶ見たけどおかしな名前はない。いろいろ調べてもやっぱりジェームズ達は四人組だし、ハリーは『生き残った男の子』だし、スネイプ先生はプリンスじゃない。過去は原作通りだ。

 

 

 現在の被験者は私とハンナ・クリアウォーター。

 ハンナ・クリアウォーターはずっと観察していたけど、本当に普通の子で、表情も全く普通。“円”で感じる彼女の感情は子供らしくあけすけで基本的にとても穏やかだ。疑うのが馬鹿らしくなるほど善良な子供なのだ。ほんとにあれが擬態なら凄いと思う。

 疑わないわけにはいかないけど、それでも善良そのものな彼女を信じたいと考えてしまう。

 できれば彼女とは穏やかな関係でいたい。

 だから一度目の対話も済ませた。私としては満足のいく流れだった。

 

 『忍びの地図』を手に入れてから、ずっとハンナ・クリアウォーターの位置を調べているけどダンブルドアと接触したことは一度もない。ひとりで何かすることもない。私みたいに影分身がいるかもしれないけど、怪しい素振りは全くない。

 

 

 ああ。でも。

 被験者は他にもいる可能性だってある。じっと息を潜めて私を観察している者がいるかもしれない。

 怖いなあ。

 

 

 

「予言も怖いよね」

 

「そうだね、マスター。マスターは魔法省に行くチャンスがなさそうだしね」

 

 第一次魔法戦争の終戦後、無罪を勝ち取ったルシウス叔父様は堂々と魔法省へ何度も足を運んでいるけど、私は有罪判決を受けた死喰い人の子供で、完全アウェー。今のところ魔法省にいく用事がない。理由もなく子供が入れる場所じゃないし。一度入らなくてはジャンプができないから忍び込めない。

 予言を調べに行く方法がまだ見つからない。

 

 ハリーとお辞儀様の予言が原作通りじゃない可能性が高いんだもの。だってさ。私や他の被験者がいる。すでに分霊箱は集めているし、他にもいろいろ変わってきている。

 それに被験者についての予言がないとも言い切れない。なんとか調べてみたい。でもその方法がわからない。悩む。

 

 

 

 

 

1992年 4月

 

 イースター休暇が終わり、慌ただしく日々が過ぎていく。覚えるべきことは多く、毎日毎日課題に明け暮れ、4月、5月も瞬く間に過ぎていく。

 

 新しい知識を知れば知るほど、新しい技術を磨けば磨くほど、私の世界は広がっていく。

 その“世界の広がり”は私を虜にした。

 知識欲は際限なく溢れていく。

 

 なんせ“世界で必要とされる才能を十全に引き出せる素地”を与えられたのだ。

 

 努力すればちゃんと報われる。頑張れば必ず身に着く。

 影を使って多数になって励めば、ぐんぐんとやれることの幅が広がっていく。

 だから勤勉に励むことは、私にとって遊び以上の興奮と喜びだった。

 

 それに影がいるから私には娯楽や家族との団欒の時間も、友人達と遊ぶ時間もじゅうぶんある。

 

 

 今思えば、組み分け帽子がレイブンクローを勧めてくれたのも当然だと思う。と言ってもさ、私って勉強は好きだけど論理的思考力よりも物理に偏ってる気がする。

 

 生まれがレストレンジ家じゃなければグリフィンドールを選んだと思うな。きっと楽しかったと思う。

 まあないものねだりをしてもしかたない。

 担当者サマの“出生先ガチャ”の目がコレだったわけだよ。はいはい、SSRまんせー。

 

 でも、決して悪い目じゃないよね。分霊箱に容易く手が届き、裕福な家だもの。メリーさん達最愛の家族がいる私にしたら『親に愛されない』なんてそこまで辛いものじゃないし。

 

 魔法界に固執していないから、ここでの悪評も、腹は立つけどいつだって切り捨てて出ていける。音楽も魔法の勉強もマグル街で住んでいてもできるもの。

 ドラコの事は心配だけどさ、お辞儀様の復活さえ阻めば、彼は幸せに生きられるもの。マルフォイ夫妻も。なら私が守る必要はない。

 

 閉心術はだいぶ上達してきたと思う。並行して開心術のほうも始めた。閉心術を極めるには対になる技術、開心術を知らなくてはだめだもの。

 

 『必要の部屋』を独占できる今のうちに、頑張ろう。

 

 

 

 ところで、今朝グリフィンドールの砂時計から一気に200点引かれていた。ドラゴン騒ぎのやつか。原作より50点多いのはクリアウォーターも一緒に減点されたからかな。

 ドラコは全くノータッチだから、スリザリンの点数に変化はない。ってかドラコが密告しなくても先生方に見つかっちゃうのね。

 

 クィディッチでグリフィンドール対スリザリンの試合はこっちが勝っちゃったし、減点は50も多いし、ドラコの減点50もない。これ、点数差が凄いんだけど、まさかこの差でも最終日に、原作の“アレ”をやるつもりなんだろうか。

 

 

 

 

1992年 5月20日 誕生日 12歳

 

 学業に明け暮れるうちに、私は12歳の誕生日を迎えた。前世の年齢に並びました。

 マルフォイ家のみんなやブラックのシグナスおじい様からもそれぞれプレゼントが梟便で届いた。

 

 それだけじゃなくて、友人達からもそれぞれ心のこもったプレゼントを貰えた。

 学校に通いだして交友関係が広がったことをとても嬉しく思える。

 

 プレゼントのラインナップに、お菓子セットや悪戯グッズなんてものをもらえると、自分がただの普通の12歳の少女になった気がして、ああ、幸せだなあと思えた。

 

 もちろんガーデンでもみんなで祝った。

 

 

 

 

 そろそろ期末試験に向けての総まとめのような授業と課題が増えてきた頃、クリアウォーターから会えないかと梟で手紙が届き、私達は二度目の会合を開いた。

 念のため、精神干渉を防ぐ指輪とブレスレットを付け、『聖騎士の首飾り』を制服の下に付けている。ハンナ・クリアウォーターが何かの精神攻撃をしてきた時の予防のためだ。もちろん影だって待機している。

 

 どこの寮からも遠い、あまり人の来ない空き教室で待ち合わせた。

 

 ドアにロックの呪文をかけ、盗聴避けの魔法具を設置。“円”を広げ、周囲を警戒するとともに、ハンナ・クリアウォーターの精神状態も詳細に観察する。

 

 やっと話す準備が整った。

 

「これなに?」

 

「これは盗聴避けの『音声遮断の魔法具』。この突起を押すとまわり半径1.5メートルの内部の音が外に漏れなくなるの」

 

「へえ、すごい。ずいぶん厳重だね」

 

「だって前世の事は私達以外には、絶対誰にも内緒にしなくちゃいけないのよ。わかってる? クリアウォーター」

 

「え? うん。わかってるよ?」

 

 クリアウォーターはとぼけた顔で首を傾げる。

 

「クリアウォーター。もっと注意したほうがいいわよ。

 前世の記憶とか、被験者云々とか、特典で貰った能力とか、強くてニューゲームとか、一言でも言ってごらんなさい。あっという間にモルモットよ。

 魔法省の神秘部に監禁よ。下手すれば神秘部で脳みそ状態になって生き続けるかもしれないわよ。次の生まれ変わりなしよ。脳みそのままでずっと永遠に生かされるわよ」

 

「ぎゃああああああああ」

 

 クリアウォーターは心からの叫びをあげた。

 うん。私も言ってて叫びそうになった。

 

 原作で読んだ、神秘部にある脳みそ。あれがどんな効果があるのか、何の描写もなかったからわからないままだ。

 でもうぞうぞと触手を伸ばす描写はめちゃくちゃ気持ち悪かった。

 

 あれ、まだ生きていて、実は意識もあるのかもしれないって想像したらもう、ね、鳥肌がぞぞぞぞってね。

 

 クリアウォーターもきっとそれを想像したんだろう。

 

 うん。私達の特殊な能力は、きっと捕まってモルモットになって、そして永久保存されそうな気がするもの。

 あの脳みそが私達の成れの果てとなる可能性は、あるよね。

 

 んで生きているから死後の転生がない。

 ずっとここにいる。

 脳みそのままで。

 

 考えただけでうぎゃあああって叫びそう。

 

 

 

 

 “脳みそ”の衝撃で受けた酷いダメージから二人が回復するまでしばらく時間がかかった。そして、私達はやっと改めて話を開始した。

 

 

「あのね。この前レストレンジに言われてすごく考えたの。

 私さ、戦ったりするのは怖くてできない。でもマグル生まれのお母さんが酷い目に遭うのが怖いから、お辞儀様復活は嫌だなって思ってた。復活したらすぐに家族で逃げようって。

 でもハリーを助けたいって思っちゃったから、ついグリフィンドールに入ってさ。知ってる通りの方が手伝えると思ったからできるだけ原作通り進むように考えてた。

 でも、できるんだったら誰も死なないほうがいいもんね。シリウスもルーピンもスネイプもセドリックも、みんな生きてて欲しいって思うもん。

 うん。私もあなたと同じ意見。レストレンジ」

 

「貴女自身は積極的に原作介入するつもりはないの?」

 

「うん。シリウス達には生きていて欲しいけど、私がそのために戦うのは無理。介入はできればいいなくらいに思ってた」

 

「じゃあ私のやることを止めないのね」

 

「うん。レストレンジが死喰い人になりたいってのなら困るけど、そうじゃないなら全然おっけー」

 

「敵対はしない。ってことでいい?」

 

「うん。敵対しない」

 

「お辞儀様復活は阻止するつもりだから、ハリーは英雄にならないわよ。それでもいい?」

 

「望むところだよ。ハリーは普通に平和に成長して、シリウスと仲良く暮らせばいいと思う」

 

「ありがとう。それを聞けただけでもう本当に嬉しい」

 

「私もだよ、レストレンジ」

 

「エリカって呼んでくれると嬉しいわ」

 

「私はハンナで」

 

「ええ、ハンナ。これからよろしく」

 

「こちらこそ、エリカ」

 

 二人は同時に微笑む。

 よかった。一応、話し合いはできそうだ。ほっとして、それから私達は見つめあった。

 

 と、ハンナが安心したのか、どてっと机に抱き着くように脱力した。

 

「はあ、緊張したあ。もうヤバかったら逃げるしかないって思ってた」

 

「私だって怖かったわよ」

 

「エリカって、何度目?」

 

「二度目よ」

 

「あ、一緒。私も二度目」

 

「あのねハンナ……お互い、どんな世界を経由してきて、どんな能力を持っているか、ってすごく聞きたいと思うの。でも、ね」

 

「あ、そっか。『服従の呪文』とか『真実薬』とかだよね」

 

「そう。『開心術』で秘密を知られるのも怖い。『愛の妙薬』でメロメロにされて秘密を漏らすのも怖い。この世界、怖いものが多すぎるの」

 

「そうだね。知らなきゃ話せない。教えてもらっていなけりゃ秘密は漏れない」

 

「ええ。だから……ほんとはハンナがどんな能力を持っているか、知らないままなのは恐怖でしかないけど。知りたいけど、聞かないから」

 

「うん。私も、聞かない。怖いけど……聞かない」

 

「そうね。えっと。せめて誓うわね。

 私、エリカ・アレクシア・レストレンジは貴女ハンナ・クリアウォーターに危害を加えないこと、貴女の行動を阻害しないこと、貴女が被験者であることに付随する秘密を、決して誰にも漏らさないと誓います」

 

 ハンナは私の誓いの言葉に、さっと姿勢を正した。

 

「あ、ああ、うん。ありがとう。えっと、じゃあ私も誓うね。

 私、ハンナ・クリアウォーターは貴女エリカ・アレクシア・レストレンジに危害を加えないこと、貴女の行動を阻害しないこと、貴女が被験者であることに付随する秘密を、決して誰にも漏らさないと、誓います」

 

 結び手がいないから“破れぬ誓い”ではないけど。それでも、お互い言葉にして誓っただけで、少し安心できる。

 

 そして少し雑談した。一番最初の日本人だった頃、私は大学生で18歳まで生きたこと、ハンナは中学1年生で死んでしまったこと。前の世界で死んだのがどちらもたった12歳だったこともわかった。

 

「いいこと、ハンナ。

 前世の記憶、管理者や担当者の話、特典で貰った能力、能力持ち越しで転生を繰り返していること、ここが物語の世界であること。

 これは、絶対、何があっても、誰にも知られちゃ駄目。私達の“最重要秘匿情報”なの。わかるわよね?」

 

 彼女はローティーンで亡くなっている。世間を知らなさすぎて少しツメが甘い。ここをしっかり押さえておかないと、何かの折にぽろっと秘密を漏らしそうで不安しかない。

 ポンコツエリカの私が霞むくらいポンコツ、というか、善良で操作しやすい子供っぽさが全面に出ている。現に“円”で感じる彼女の精神状態はすでに私に対して安心しきっている。

 だから、怖がらせて悪いと思いつつ、私はしっかりくぎを刺しておく。

 

 ハンナもわかっているのか、うんうんと小刻みに頷く。

 

「うん。神秘部怖い。触手の生えた脳みそコワイ。監禁こわい」

 

「私も嫌よ。平和に生きたい。せめて今世は成人までは生きたい」

 

「私も。大人になったことないもん。成人してお酒飲んでみたい。夜遊びしたい。仕事して、結婚して子供作って孫の顔も見たい」

 

「原作死亡キャラ救済はしたいけど、まずは自分」

 

「うん」

 

 私は18歳+12歳+今世、現在12歳になったばかり。

 ハンナは13歳+12歳+今世、現在12歳になったばかり。

 

 二人とも成人になったことすらない。

 じっと見つめあって、同時に頷く。

 今世は長生きしようぜ。互いの目がそう語っていた。

 

 第一目標『長生きしよう』をしっかりと打ち立てた私達は、次の目標『原作よりもいい未来を』について話し出す。

 

「エリカは介入バンバンしちゃうんだね」

 

「ええ。私は原作どおりなら修羅の道だから。私やドラコを含む死喰い人の子供が、悪事に手を染めることなく幸せに暮らせるためよ」

 

「わかる。映画見てさあ、ドラコって幸せだったのかなって思ったもん。それにエリカも原作通り進んだら、脱獄してきたお母さんと戦う運命しか見えないよね」

 

「そうよ。ヤバいの、私。4年までになんとかしないと、死喰い人になるか殺されるかなの」

 

 私のヤバい状況はハンナも理解してくれているみたいだ。

 ……ついでに言うと、本当はもっとヤバい。なんせ、私はトム・リドルの血をひいているんだから。これはいくら被験者同士とはいえ、絶対話せない。

 

「私、とりあえず今年は原作通り進むように、あんまりハリー達にヒントを与えないようにしてたんだ」

 

「そうね。今年は事件と言っても何とかなる程度だもの」

 

「エリカはお辞儀様復活阻止のためにもう動いているんだよね?」

 

「ええ。お辞儀様は復活なしで倒したいと思っている」

 

「あとネズミを捕まえて、シリウスを無罪に」

 

「そうね。名付け親と暮らせればハリーも幸せになる」

 

「シリウスがそのまま死なずにいれば、ハリーはやっと家族ができるんだよ」

 

「私としてもシリウスは叔父様で、彼がブラック家を盛り立ててくれれば私やドラコの立場も良くなってくるの。原作ファンとしても、エリカ・レストレンジとしても、彼は助けたいわ」

 

 猪突猛進で正義厨で大人になれない駄犬。原作で知る彼には思うところはいろいろある。だけど彼の良さも、知っている。だから、彼にもできれば幸せになってもらいたいし、ハリーに家族をもってもらいたい。

 それにさ。

 彼をこちらに引き入れるか、ダンブルドアの駒にさせるかで、ブラック家の血をひく私としても大きな差が出てしまう。それにシリウスにはハリーがついてくる。

 

 

 ハンナも嬉しそうに微笑んだ。

 よかった。

 互いの、進んでほしい未来が大きく違わないことに、私達は安堵していた。

 

 被験者同士戦うのなんて、嫌だもの。

 

 

「そうそう」

 

 私は巾着から魔法具を取り出す。両面鏡と音声遮断の魔法具だ。

 

「これ、両面鏡ね。原作にもあったから知ってるわね? 2枚の鏡が対になってて、片方から呼びかけたらもう片方に繋がるの。話したければ鏡に向かって『エリカ』と呼びかけてちょうだい」

 

「わあすごい。これって話す相手の顔が映るんだよね。あ、私パジャマだったらごめんね」

 

「お互い女性だからそれは許しましょう。……あとこれは今使ってる奴と同じ。盗聴避けね。私達の会話は決して誰にも聞かれちゃいけないの。だからこの魔法具を設置してからじゃなきゃ両面鏡で呼びかけるのも駄目よ」

 

「ありがとう。どちらも借りてていいの?」

 

「だってグリフィンドールとスリザリンじゃこうやって顔を合わせるのも難しいじゃない。急ぎの時は躊躇せず使ってちょうだい。あ、人除けや音声遮断の呪文を覚えたらこっちの魔法具は返してもらうからしっかり練習してね」

 

「わかった!」

 

 ハンナは一度魔法具を抱きしめると、そっとローブにしまい込んだ。

 

「それと。話をする場所はしっかり確認してね。ホグワーツの絵画はダンブルドアのスパイだから、絵画がない場所を選ぶこと。これ大事」

 

「わお。そうか。校長って絵画にいろいろ指示できるんだっけ。わあ。ホグワーツ中校長のスパイだらけじゃん」

 

 わあ、といいながら頭を抱える。うんうん。私も思ったよそれ。

 

「念のため言うけど、“賢者の石”の戦い、怪我しないように気をつけてね、ハンナ」

 

「うん。がんばる。ありがと、エリカ」

 

 グリフィンドールとスリザリンに分かれてしまったため、二人で話せるチャンスは少ない。

 何かあれば遠慮なく鏡を使って連絡してねと言いあって、被験者同士の会合は終わった。

 

 

 ……そう言えば、ハリーってクィディッチの選手にならなかったから、シーカーの訓練をしていないよね。箒に乗る授業はあるけど、さすがにクィディッチの訓練ほどハードな事は出来ない。あれ? 詰んでる? 大丈夫なのかな。羽のついた鍵をキャッチする奴があったよね?

 

 まあハリーは初めて乗った箒で、急降下してネビルの『思い出し玉』をキャッチできたんだもの。天才なんだ。大丈夫大丈夫。……大丈夫、だよね?

 

 私はハリーへ心の中でエールを送った。頑張れハリー。

 いざとなればハンナがなんとかするんじゃないかな? だってきっと使える能力があるんでしょう、あんなに余裕そうな顔してたもの。それに仲間が一人増えているんだから助け合えるよね。

 

 

 

 

1992年 6月 期末試験

 

 期末試験が始まった。

 魔法を覚えるのは楽しくて、しかも私は神サマにもらった高い能力を持っている。そのうえ影がいる。

 やる気と能力と他者の10倍以上の時間を与えられた私が成績がいいのは当然だと思う。

 

 原作を見て知っている。回答はできるだけ細かく、知っていることを全部羅列するくらい書いた方が点数の加算があること。

 今までの課題だってハーマイオニーをリスペクトして、いつも指定枚数以上を書いて提出してきた。

 

 このテストだって時間いっぱいまで、書けることをできるだけ丁寧にたくさん書いた。

 実技は問題なし。ネズミを変化させる「嗅ぎたばこ入れ」だってマルフォイ家にあった豪奢な飾りをまねて美しく仕上げたし、パイナップルのタップダンスもアレンジをたくさん入れた。「忘れ薬」の出来上がりは惚れ惚れするくらいだったと断言できる!

 

 魔法史はちょっとネックだけど。このさ、絶対次の世界ではなんの役にも立たなそうな魔法史がね、学習意欲がわかないからちょっと大変なのだ。

 もうさっさと覚えて試験が終わればさくっと忘れ去りたい。まあ仕方ないから覚えるけど。

 と、まあやる気は起きないけど、ちゃんと全部の欄を埋めたし、欄外まで細々と考察を書いたし、問題なく加点される、はず。

 

 すべての試験が終わった時には、礼儀正しいスリザリンの生徒ですら解放感に立ち上がって声をあげた。ばっちりちゃんと全部できた気がする。うん。ほっとした。

 

 

 

 

 

 学年度末パーティ。

 スリザリンが524点で文句なしの1位。4位のグリフィンドールは241点しかない。ここまで大きく引き離しているのに。

 

「ロナルド・ウィーズリーに70点」

「ハンナ・クリアウォーターに70点」

「ハーマイオニー・グレンジャーに70点」

「ハリー・ポッターに70点」

「そして、ネビル・ロングボトムに10点」

 

 原作通り滑り込みでグリフィンドールに点数がごっそり入った。

 グリフィンドールと、レイブンクロー、ハッフルパフまでが拍手喝采している。

 

 先ほどまでスリザリンの旗が並ぶ大広間を誇らしげに眺めていたスリザリン生が、あっという間に深紅の垂れ幕に変わったことに愕然としている。

 

 校長の言葉で始まった食事会も、こちらのテーブルはお通夜状態だった。砂を噛むような表情で静かに料理をつつく友人達の姿に怒りが募る。くっそむかつく。あの髭じじい。

 

 杖を取り出し、テーブルをとんと叩く。

 

「このテーブルの担当しもべ妖精。私達の料理をスリザリン寮の談話室へお願い」

 

 私のテーブルにあった料理がすべて消える。驚いて私を見る友人達を見回し、にっこり笑顔をみせた。

 

「せっかくの御馳走が、ここでは美味しく食べられないわ。談話室に戻らない?」

 

 ドラコが肩を竦めて、賛同の声をあげた。

 

「賛成だな。くだらない茶番を見せつけられて気分が悪い。場所を移そう」

 

 ドラコ、ノット、ヴィンス、グレッグ、ダフネ、ミリセント、その他、私達の会話を聞いていたスリザリン生がみな立ち上がる。他のテーブルも同じようにしもべ妖精に料理の配達を頼むと順に大広間を出た。

 

「もう寮杯のために点数に拘るのはやめる」

 

「ほんと、馬鹿にしている」

 

「あの事件から何日経ってると思ってるのよ。嫌らしい」

 

「絶対これを狙ってたぜ、あいつ。点数入れるならもっと前に機会があっただろうに」

 

 口々に文句をいいながら寮へと向かう。

 

 なんで今、だよ。ほんと。

 わざわざスリザリン色の装飾を見せてから、大逆転して大広間をグリフィンドール色に塗り替えてみせつけるなんて。

 

「グリフィンドールが喜ぶのはしかたない。そりゃあ嬉しいだろうし、何故今ごろ貰えたのか考える脳がないんだもの。だけど、自分達が優勝できたわけじゃないのにレイブンクローと最下位に落ちたハッフルパフまで喜んじゃって、ほんと、なんなのかしら? 意味がわかんないわ」

 

「まったくだパーキンソン、あのウィーズリーの勝ち誇った顔がムカつくな」

 

「そこまでスリザリンが嫌いなのかね」

 

「こういう『スリザリンは悪い奴だからいい気味だ』っていう風潮に虫唾が走るわ」

 

「我らの敗北は、スリザリン以外すべての喜びなのかと思うと、悔しくてならん」

 

 ドラコがそう言うと唇を噛む。

 

「ああ、あいつが校長になってからスリザリンの孤立は酷くなった」

 

 ノットも同じ意見のようだ。

 

「父上は、ダンブルドアがこの学校始まって以来の最悪の校長だとずっと仰ってた。今父上は方々へ手をまわして、ダンブルドアをやめさせようと動いてらっしゃる」

 

「ダンブルドアが最悪だってのは同感ね」

 

 ドラコの言葉に私は同意の声を発する。

 

「教師じゃなくて政治家なのに、なぜここにいるのだか理解に苦しむよ」

 

 ザビニも同様。

 

 さんざん文句をいいながら、寮の談話室に戻ると、豪華な装飾で部屋が飾り付けられており、テーブルにはたくさんの料理が乗っていた。しもべ妖精の手際の良さと心づくしに感心するとともに感謝した。

 

「世話になったわね、飾りつけも素敵だわ。ありがとう」

 

 虚空に向かって話すと、デザートが倍増した。ダフネやドラコとくすくすと笑いあい、ソファに座る。

 

「さあ、一年の締めくくり、楽しいパーティの始まりだ」

 

 スリザリンだけの、楽しいパーティだった。

 

 

 

 

 

 

 試験の結果は学年1位がハーマイオニー、2位が私で、3位がドラコだった。

 私だってどの教科も『満点以上』を取れていたのに、ハーマイオニーは私の点数より上だったってことだ。

 

 ハーマイオニーの努力には届かなかったか。ちょっと残念。

 

 

 夏休みはジェイドがホグワーツに残ると言い出したから、『秘密の部屋』へ連れていった。サイズを元に戻し、これからはまた3日置きに食事を持ってくるからね、と言ってわかれた。

 

 

 

 

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