エリカ、転生。   作:gab

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夏休み ルシウス・マルフォイ

 

1992年 6月 夏休み

 

 ホグワーツの夏季休暇は、6月最終週から8月いっぱいまでのほぼ9週間。ホグワーツに居てはできないことをやれる長期休暇は予定目白押しだ。

 

 

 この夏休み、ルシウス叔父様を説得したいと思っている。

 

 お辞儀様の復活を阻止するためには、ルシウス・マルフォイはどうしても仲間になってもらいたい人物なのだ。

 ルシウス叔父様は元死喰い人と言われながらも、地道なロビー活動で魔法省への発言力を維持している。血統の良さも相まって純血貴族家での影響力も高い。処世術にかけては一番頼れる大人、それがルシウス・マルフォイ。

 

 それに彼が死喰い人に戻ればドラコが不幸になる。私の後見人も彼だから、叔父様が死喰い人になってしまうと私にとってもけっこうヤバいことになる。

 絶対に阻止したいのだ。

 

 

 当初の予定ではね。『秘密の部屋』事件が起きることを静観しようと思っていた。

 今のままなら叔父様はいつでも死喰い人に戻れる。

 でも。2年の事件が原作通り進めば、お辞儀様の大切な分霊箱『トム・リドルの日記』を失い、その上ダンブルドアに分霊箱の存在を知られてしまうことになる。

 ルシウス・マルフォイ最大の失態だ。

 

 だから、そのあとで、『あなたの失態で大切な分霊箱を壊してしまった。お辞儀様が復活したらマルフォイ家すべての命が危険ですよ。一緒に復活を阻止しましょう』というような説得をしようかと考えていたのだ。

 

 

 ルシウス・マルフォイが『トム・リドル』の日記について知っていることは、原作でドビーが話した内容だ。

 ドビーが原作でハリーに話したこと。

 ・世にも恐ろしいことが起こるよう罠が仕掛けられた

 ・名前を言ってはいけないあの人が名前を変える前の、トム・リドルが関係している(直接話していないけどそれらしいヒントを出した)

 ・またしても秘密の部屋が開かれた

 

 つまり、ルシウス・マルフォイはお辞儀様にトム・リドルの名が表紙に書かれた日記を手渡され、

「これは『秘密の部屋』を開くための鍵であり、秘密の部屋が開かれれば怪物が解き放たれ、マグル生まれの生徒が駆逐される。この大事な魔法具を、安全に、秘かに、お前が守っておくように」

というような命令を受けていたのではないかな、と推察している。

 

 んで。

 ドビーはルシウスが誰かに話していた事を盗み聞いて、『危険な場所に英雄ハリー・ポッターを行かせてはならない』と考えた。

 ルシウス・マルフォイが誰に話していたのか?

 1.息子ドラコに今年ホグワーツで危険なことが起きるから近寄るなと注意していた

 2.ドラコが学校で危険な目にあった報告を聞いたことと、しつこい魔法省の立ち入り調査にぶちギレたルシウスが死喰い人仲間かナルシッサに「この魔法具を誰かに使わせて秘密の部屋を開かせ、マグル生まれの生徒が何人か死ねば、それを理由にダンブルドアを排除してやろう」みたいな会話をしていた

 どちらかわからないけど(両方かもしれない)。

 

 

 

 『ラブ・アンド・ピース作戦』は穏やかな思考誘導でしかない。

 

 昔のルシウス叔父様は原作同様、嗜虐趣味があった。

 彼らにとってマグルは害虫そのものだから、殺したほうが魔法界の益になるとまで思っていた。きっと殺すことも甚振ることも楽しんだだろう。

 マグル生まれの魔法使いは、薄汚いマグルの分際で自分達と同じ高尚な能力を手に入れて図に乗った許しがたいイキモノだった。きっとそんな感じ。私はそんな姿全く見たことはないけどね。

 

 今の彼は原作とは大きく違う。

 私の長年の音楽での説得によって、マルフォイ家はみな性格的に角が取れてマイルドになっている。敵には容赦はしないけど、マグルだから即虐待などという短絡的で暴力的な性質は治まっている。

 マグル生まれは自分達とは相容れないが、それなりに役に立つこともあるから自分達の視界に入らない場所で魔法族の役に立つよう生きればいい、くらいに考えている。

 

 自負と偏見は裏表だ。純血貴族としての強い自負が彼らの生きる矜持なのだから、純血貴族以外への偏見はなかなか解かれない。

 

 

 彼がどれだけ死喰い人と距離を置いても、純血に対する考え方が中庸に沿っても、それでも『秘密の部屋』の事件が起こりえるのは、純血貴族家がダンブルドアへ感じている不審が大元にあるから。

 

 ダンブルドアがスリザリン寮生とその卒業生に偏見を持って遇している限り、彼我の歩み寄りは難しい。こちらが下手に出れば数の少ない純血貴族家は呑み込まれてしまう。だからダンブルドアを失脚させるために理事として嫌がらせめいた事をいろいろしているってわけだ。

 

 そのうえ今はやけに魔法省が元気で、方々の貴族家に立ち入り調査が入っている。マルフォイ家にも調査が入りそうな今、死喰い人とは縁を切る気でいる叔父様からすれば処分に困る闇の魔法具を、どうせならホグワーツに持ち込ませてかき回してやれ、って考える要素はマイルドな“新生ルシウス”でもありえるってことね。

 

 

 もし叔父様が原作みたいにジニー・ウィーズリーの荷物に日記を紛れ込ませたら、ジェイドに頼んでトム・リドルに操られたジニー・ウィーズリーの命令を聞くフリをしてほしいと頼むつもりだった。

 そしてある程度の情報をハリーとダンブルドアが知った時点で、早めに事件を収束させる。

 ジェイドが私の指示に従ってくれているのだからそこの調整は簡単だもの。

 

 でもさ。この事件って、石化で済んだのは全部ほんの数秒どころかコンマ数秒違っても死亡しちゃうような偶然ばかりだよね。

 ミセス・ノリスは廊下の水たまりに映ったジェイドを見た。水たまりじゃなくて視線をあげていれば直接見て死んでた。

 コリン・クリスビーはカメラを構えていた。これもカメラを構える前に目が合ってたら死んでた。

 ジャスティン・フレッチリーはゴースト越しに見た。これなんてほんとちょっとタイミングがずれたらゴーストから外れて直視してたよね。それとも“ほとんど首無しニック”が生徒を守るために前に立ちはだかったのかも。とにかくこれもタイミングによっては死んでた。

 と言うように全部ほんの偶然が成せる幸運で石化で済んだだけ。

 だから、本当はそんなギリギリな事はしたくない。

 

 それに原作で描写されるバジリスクの愚かさも気がかりだ。ジェイドがあんな風になるなんておかしすぎるものね。いったい何をされたのやら。

 

 だから、できれば『秘密の部屋』の事件を起こさずに済ませたかったのだ。

 

 

 それにね。

 今の叔父様はもう死喰い人に戻るなんて考えていない。

 お辞儀様が復活してしまえば、『裏切者は死すべし』なお辞儀様に抗えないから家族や自分の命のために死喰い人に戻る可能性はあるけど、積極的にお辞儀様の復活を望んではいない。

 

 今の叔父様には、“『秘密の部屋』を開いた事件の黒幕”だなんて後ろ暗い役割なんてもうしてほしくない。

 だから、なんとか叔父様を説得したい。それが私のこの夏の目標。

 

 

 

 

 そのまえに。

 

 

 ずっと考えていたこと。

 私は今の命を生き永らえることより、私の能力や、ガーデンとその中にいる大切なものを奪われないことのほうがずっと大切だと考えている。

 

 いつでも死ねる準備は必要だと思うんだ。

 

 でも、前世のように残り1秒で爆発する手榴弾ではダメだ。『エバネスコ』されたら即終了だもの。

 だから、すぐに死ねる“発”を作るべきなんじゃないかと考えていたのだ。

 幸いメモリは残っている。

 

 もういいや、って思った時に、心臓を止めるような“発”がいい。

 

 ただ、私が自力で発動できない場合だってある。『服従の呪文』で誰かに従わされているとかさ。

 『愛の妙薬』で誰かにメロメロになってて『ガーデンなんかよりあなたが大事。全部あげちゃう』なんて言い出したり。

 

 あとで自分の意思を取り戻せてリカバリできたとしても、その時にメリーさん達にどれだけ被害が出ているかわからない。

 貯めに貯めた金銀や宝石を貢ぐくらいならいいけど、ガーデンに招き入れたり、HUNTER×HUNTER時代の念具をあげちゃったり、家族の事を『珍しいでしょうこの子達、あなたにあげちゃう』とか言っちゃったり。『愛の妙薬』は常識がぶっ飛ぶから、シェルを『綺麗な毛皮』って褒められたら殺して毛皮を剥いで献上するくらいやってしまう。

 もう考えただけで恐怖でおぞ気が走る。

 

 それに万が一ルシウス・マルフォイへの説得に失敗した場合、『服従の呪文』で分霊箱を奪われる可能性がある。それは避けたい。

 

 だから、もうここで生きていなくてもいいかなって思った時に死ねるだけじゃなくて、私の自由意思以外でガーデンや倉庫にアクセスすると死ぬような能力が望ましい。

 

 で。考えました。

 

 

【強制終了(ログアウト)】

特質系

・すべてのオーラを消費して自身の心臓を停止させて死ぬ。または、自身に致命的な損傷をあたえて生命の維持活動を停止させる

・この地での生を終えようという強い意志を持って『ログアウト』と念じると発動

・術者が他者の能力などで操られた状態で『シークレットガーデン』『倉庫』にアクセスしようとすると発動

・この能力は影分身にも適応される

制約

・なし

誓約

・なし

 

 

 最初「心臓を止めて死ぬ」だけにしたんだけど、でもこれだと生まれ変わったのがスライムみたいに心臓がもともとない生物だったり、吸血鬼のような不死者だったらどうなるのかな、と考えて、少し悩んだ。

 不死性の生物でも人生(?)を終わらせる言葉ってなんだろう? と考えて生命の維持活動を停止とした。

 不死でも次の生にいくまでは生命を維持していると考えたのだ。

 

 影分身にも適応されるなら、影が私の知らないところで服従させられてガーデンへ入ろうとすれば死ぬことになる。『すべてのオーラを消費して』だから心臓が止まる前に影が消えるはず。

 この能力は死ぬだけの力で、転生する能力じゃない。影は死んでも消えるだけで転生のシステムが働くことはない。そして誰かに操られガーデンにアクセスしようとした情報が私に入る。

 

 

 これで安心かな。

 万が一、私が支配されそうになったら……私の家族と家を、この能力が守ってくれる。

 

 

 できれば死ねば死体がガーデンに入るとかそんな能力も欲しいところだけど、それだと死者の念になってしまう。さすがにそんなメモリはない。

 いずれ他の方法を考えよう。ポートキーで火口へ飛ぶとか、そういうのでもいいかも。あ、でも死んだら装備が倉庫に入るって担当者サマが約束してくれたっけ。ポートキーも倉庫入りしちゃう。うーん。要検討だ。

 

 ちなみに。死んだら倉庫に入る装備品として担当者サマに交渉したのは『武器、防具、装備中のアクセサリ、所持品』と頼んでいる。

 服や下着なんかはそのまま死体と一緒に残るってことね。前回の最期みたいにずたずたになった服が倉庫に入っても絶対着たくないもの。それに、死体が素っ裸で残されたらと思うと恐ろしくて死ぬに死にきれない。

 

 担当者サマって人外感がアリアリすぎて、『はい。死亡したのでご要望通り遺体だけ残してすべて回収しました』とか言いそうで怖い。

 だから着衣はそのままで装備品だけ倉庫へ、としっかりお願いしておいた。ただし、防具は倉庫だから特殊効果のついた鎧やマントなんかは倉庫に入れてくださいと念押ししてある。

 うん。私超がんばったと思う。

 

 あ、でもさ。

 前回死んだあと、転生して時間の止まっていたガーデンへ入った時、私の死体はなかったよね? 私がぶつかって壊れた痕跡はあるのに、血痕すら残っていなかった。

 あれはガーデンだから遺体が回収されたのか。それともどこで死んでも回収されるのか。ああ、確認したい。

 もし死体ごと回収して、そこから装備品だけ倉庫に入れてくれるなら万々歳なんだけど。

 私はこの世界に私の身体を残したくないのだ。

 

 

 

 

 

 

 

 今年は夏休暇に入ってすぐからマルフォイ家に滞在することにした。チャンスがあれば『トム・リドルの日記』を見つけて、その上で叔父様と話をしよう。そう考えての行動だ。

 

 作りたての『ログアウト』の能力を使うことなくすみますように。一応いつ死んでもいい準備はしてきた。荷物もすべてガーデンの中だ。

 

 マルフォイ・マナーに着くと、ドビーがいたことにほっとする。よかった。ちゃんといた。

 洗い立ての清潔な枕カバーを身につけたドビーが私のために紅茶を入れてくれた。礼を言って少し話す。元気な返事が返ってきて、『秘密の部屋』をどうこう、というような話を聞いていないだろうと判断した。

 

 ……このあと、叔父様と話す内容は、お辞儀様を斃すための策だ。ドビーが聞いて、マルフォイ家はもう死喰い人じゃないと信じてくれればプラスなんだけど、自由な彼が誰かに話さないとも限らない。

 ドビーの盗み聞きはどうやって回避すればいいのか。

 

 

 

 

 私はその日から数日、ずっと機会を窺っていた。

 

 精神支配や開心術に対抗するため、おばあ様二人からもらった精神干渉遮断の指輪と呪い返しのブレスレット。神字をがっつり彫り込んで作った防御の念具。グリードアイランドのアイテム『聖騎士の首飾り』もつけた。念のため、(ポップ)で小窓は常に開けて影を数人スタンバイさせておく。

 

 “円”で観察していると、執務室にいるルシウス叔父様の精神が少し乱れてきた。イライラして攻撃的になりかけている。もしかして分霊箱『トム・リドルの日記』を持っている? ならチャンスだ。

 

「叔父様。少し話していいですか?」

 

 ノックをして執務室に入る。

 大きくて重厚な執務机に向かって座るルシウス叔父様がいた。机の上に『トム・リドルの日記』がある。よし、タイミングばっちり!

 

「叔父様。それって闇の物品ですね。とても危険な気配がします」

 

 原作でハリー達は全然気付いていなかったけど、“お辞儀様分霊箱エキスパート”の私には、これが分霊箱だってびんびん感じるんだけど。

 

「ああ。このところ魔法省の闇の物品の立ち入り調査がいろんな家に入っていてね。少し整理をしていたんだが……これをどうすべきか、とね」

 

 なるほど。もう死喰い人に戻るつもりがないルシウス叔父様からすれば、これってめちゃくちゃ処分に困るよね。やっぱり立ち入り調査が来る前にウィーズリー家にプレゼント・フォー・ユーしちゃおうかと考えてたのかも。

 でももうそれはナシにしてもらおう。

 

 

 

 私は、死喰い人の子供達のつらい未来について、分霊箱について、私がお辞儀様復活阻止のためにしてきた事について、話をすることにした。

 

 といっても、原作知識だなんて言い方はしない。

 対外的にどう話せばいいか、これまでいろいろ考えていたのだ。

 

 気合を入れて、心のスイッチを切り替える。閉心術で心を閉じ、“円”、『超一流ミュージシャン』、『超一流パイロット』、貴族としての会話術、幼いころからのルシウス叔父様との間にできた親愛の情、すべてを駆使し、彼を落とす。

 

 

「ルシウス叔父様。私の話を聞いていただけますか?」

 

「ん? どうしたんだい? エリカ。あらたまって。まあ座りなさい」

 

 叔父様がソファーに移動してきて、正面の席に私を誘う。私は座るとテーブルに音声遮断の魔法具を設置する。しもべ妖精をこんなことで出し抜けるとは思えないけど、今はドビーの盗聴の心配より、ルシウス叔父様の説得の方が大切なのだ。

 “円”で叔父様のことを深く観察しながら、心を込めて話し出した。

 

「ルシウス叔父様は、今でも闇の帝王は必要だと思いますか?」

 

「ふむ、私はねエリカ。今の生活を大切にしたいのだよ。ドラコは良い子だ。君もね。あの子や君が悲しむ未来は見たくない。

 帝王が消えて12年。私達はこの平和な今の生活に慣れてしまった。もう帝王の時代は終わったと言えよう」

 

 叔父様は初めて帝王を過去のものだと発言した。これは大きい。私は彼の言葉に力をもらい、話を続けた。

 

「私は親に愛された記憶がありません。ただ私を生んだだけ。ただ、私が生きていることを容認してくれただけ。だから両親が嫌いです。

 レストレンジの家にいるもので私が愛しているのはしもべ妖精のロニーだけです。

 

 5歳になる少し前、我が家にある誰かの日記に気付きました。中身は読めません。封がしてあって開けることすらできませんでした。

 

 ブラック本家に行った時、それがレギュラス叔父様の日記であることを知りました。ブラック本家のしもべ妖精クリーチャーに、日記を開けるヒントを教えてもらいました。

 そして、クリーチャーからレギュラス叔父様の死の真相を聞いたのです」

 

 クリーチャーに聞いたレギュラスの話をした。

 レギュラスがヴォルデモートの“切り札”を、自分の命と引き換えに奪い取ったこと。

 それをクリーチャーに壊せと命じたけど、クリーチャーには壊すことができなかったこと。私がそれを代わりに壊す約束をしたことを話した。

 

 叔父様は、死喰い人の立場に怯えて逃げ出して死んだと聞かされていたレギュラスが、ヴォルデモートに反旗を翻していたことを知り、愕然としていた。

 

「私は当時、まだ5歳でしたからあまり理解できていませんでした。

 ただ、叔父様が命がけで取り換えた“すごく悪いもの”があって、それを壊したいけど壊し方がわからないとクリーチャーがとても悲しんでいたこと。それだけわかったんです。

 だから、私はそれを代わりに壊すと約束しました。そのために強くなるから待ってね、とクリーチャーに話したんです。

 

 ヴァルブルガおばあ様にも『これを壊すとレストレンジの両親とは敵になるけどいいのか』って何度も聞かれました。でも、私は死喰い人にはなりたくないから、両親とはすでに敵だったのですもの、構わないと答えました。

 おばあ様は私に、この“すごく悪いもの”について書かれた本も授けてくださいました。おばあ様はあの頃もうずいぶん弱ってらして、闇の本を読める力はありませんでした。私も幼すぎて本を開くことすらできなかった。もう少し大きくなってから読むんですよ、と下さり、両親と諍いになっても逃げられるよう金庫のお金も残してくださいました。

 

 

 成長して日記の内容が理解できるようになった時、レギュラス叔父様が命がけで奪ったものが、帝王の分霊箱と言うものだと知りました。

 

 分霊箱は闇の魔術で、これがあれば魂が滅びることがないという不死のためのとてもおぞましく穢れた秘術なのです。

 

 ねえ、叔父様。私は知ったんです。

 これがある限り帝王が蘇る未来があるということを。

 

 そして恐れました。

 万が一闇の帝王が蘇れば……

 

 闇陣営を親に持つ私やドラコ、仲のいい友人達もみな死喰い人になれと強いられてしまう。

 闇の魔術を仕込まれ、拷問や殺人を強要される。

 帝王の主義主張にちっとも共感できず、彼を尊敬もしないのに無理やり従わされるなんてごめんです。

 

 きっとあいつが力を取り戻したら、アズカバンにいる両親も牢から出てきます。死喰い人になんてなりたくない私はきっと拷問される。何度も何度も『磔の呪文』で痛めつけられるでしょう。

 それでも私は。

 どれだけ拷問されても、絶対に死喰い人にはなりたくありません。絶対にです。

 私はまだ子供で、両親からすればただのか弱い獲物です。おそらく『服従の呪文』で従わされるか、あるいは殺されるでしょう。

 

 彼らはきっと、往時の大戦時よりも、耐え忍んだ十数年があったことで、より一層の暴虐の限りを尽すでしょう。

 

 嫌で嫌で、怖くて怖くて。

 

 闇の帝王の復活を阻止し、被害をできる限り少なく彼を殺し、死喰い人の子供達が闇に囚われることなく幸せに生きて行ける、そんな未来をつかみ取りたいと考えたんです。

 

 そして私にはその方法がわかっていました。

 闇の本には、分霊箱の作り方とその壊し方まで書いてありました。

 

 それから、私はその目標に向かって進み始めたんです。

 

 

 11歳の時、初めて入ったレストレンジの金庫で、5歳の頃預かった分霊箱と全く同じ闇の力を感じるものを見つけました。金でできたカップでした。

 両親は帝王の側近中の側近。もしかすると彼から守るようにと託されていたのではないだろうかと気付きました。

 

 分霊箱はレギュラス叔父さまが命がけで取り換えたロケットひとつだけじゃなかった可能性が出てきたんです。

 ひとつ壊して終わりじゃないんだ。目の前が真っ暗になるような心境でした。

 

 ロケットにはS字に身体をくねらせた蛇のマークが描かれていました。金庫にあったカップは金製のカップで、精巧に作られた取っ手があり、横には宝石が埋め込まれていて、アナグマが刻まれてる。

 蛇とアナグマです。スリザリンとハッフルパフだと推察するのは当然でした。

 

 私はいろんな文献を探し、この二つがホグワーツ創設者のゆかりの品であることがわかりました。

 比べて見ても、同じ強い闇の力を感じます。これはおそらくどちらも同じ人物の分霊箱なんでしょう。

 

 たったひとつ作るだけで魂が不安定になると書かれている分霊箱を、あの人は複数個も作っていたんです。そうなればきっとあと二人の創設者の品もあるだろうと思いました。

 私は探しました。そして非常な幸運に恵まれ、ホグワーツ城の中に“隠したいものを隠す場所”があることを知り、そこでかくれん防止器を使って闇の品を探し、同じような気配を発する髪飾りを見つけました。髪飾りはワシの意匠で、レイブンクローの有名な言葉“計り知れぬ英知こそ、われらが最大の宝なり!”が刻まれていました。きっとこれがレイブンクローの宝でしょう。私はそうやって『レイブンクローの髪飾り』も手に入れました。グリフィンドールのものはまだです」

 

 

 分霊箱の正確な数も、どこにあるかも知らない。でもそのうち3つは手に入れることに成功した。

 ちょっとさくさく進みすぎじゃない? って感じだけど、でも原作知識っていうわけにもいかないし。

 

 いろいろ集めた情報を開示してこんな風に考察したのだと推論を述べて、結果うまくいったと言うしかない。

 答えを知っていてヒントを探すようなもの。当たって当然の推測なのだ。ただグリフィンドールのものが剣だと知らないから、グリフィンドールのものも分霊箱だと推察するのが当然だろうと思い、間違った予想も混ぜておく。

 

 叔父様には話していないけど『必要の部屋』を見つけたのは『忍びの地図』で人が消えたり現れたりする場所を見つけて調べた。部屋が何であるかはちょうど部屋から出てきた先輩を捉まえて教えてもらった。先輩はもう卒業した方だから名前は教えない。なんていう流れで『必要の部屋』を知ったことにしようと考えている。

 

 

 いきなり本質に迫るなんて、優れた魔法使いにはままあること。この程度ならさほど不信がられるほどじゃない。ハリーだって残りの分霊箱はホグワーツだと最初から確信していたもの。

 

 とりあえずこれでごり押ししよう。私は『レギュラスの日記』を手に入れたことに改めて感謝していた。

 

 

 『超一流ミュージシャン』の声音で語る壮大な物語は確かにルシウス叔父様の心に届いた。

 叔父様は最初は訝し気に聞いていた。

 

 そしてだんだん引き込まれるように聞き入っていた。私やドラコの容易く予想できる苦難の未来に、辛そうな表情もみせて、息子や私をそんな立場に置かせたくないと強く考えてくれた。

 

 穏やかな“新生ルシウス・マルフォイ”にとって、息子ドラコが誰かを殺したり拷問することを強要されるなど、断じて許せないことだった。

 

 私の言葉は、彼に共感と、愛する子供の未来を憂う気持ちを膨らませてくれた。

 

 

「先ほど話した通り、ふたつめの分霊箱『ハッフルパフのカップ』はレストレンジの金庫にありました。おそらく帝王が自身の信頼する側近、レストレンジ夫婦に渡したのだろうと推測しました。

 そして思ったんです。闇の帝王はレストレンジだけではなく、もう一人の側近マルフォイにも安全に保管しておくべき何かを渡したのではないか。

 叔父様。そこにあるもの。それ、私が持つモノと同じ気配がします」

 

 叔父様はぎょっとして執務机に置いたものを見た。

 

「ええ。4つ目の分霊箱です。

 あれがある限り帝王は蘇ります。今頃どこかで復活するために力を溜めているところかもしれません。

 帝王のしもべとして彼に傅くのであれば、あれは大切に保管しておくべきですし、私の手に入れた分霊箱も奪うべきでしょう。

 

 でも叔父様。それで本当にいいんですか? 叔父様ほどの立派な方が、あんな残虐な狂人に、まるで下僕やしもべ妖精のように傅き、膝を屈し、下命を頂かなくてはならないだなんて。

 帝王の魂はどうしようもなく壊れていて、修復は不可能です。

 今の叔父様に、あんな主が必要ですか? 死喰い人などただの暴力集団じゃありませんか。

 

 叔父様。すべての分霊箱を見つけ出して壊す。そして、帝王の復活を阻止し、今度こそ本当の死を迎えてもらう。

 そうしなくては、私達の幸せはありません。

 

 帝王にはもう以前の力はありません。恐れることなんてないんです。切り札は隠されてこそ効果を発揮します。彼の不死性はもうすぐ破られます。

 

 ルシウス叔父様。

 どうか、私と一緒に、帝王の復活を阻止し、彼を斃すために戦ってくれませんか?

 シシー叔母様やドラコのために。わたしのために。叔父様自身のために。

 どうか、どうかお願いします」

 

 私は、立ち上がり、深く頭を下げた。

 

 

 叔父様が考えさせてほしいと言って対談の時間が終わる。

 

 

 

 

 叔父様が気持ちの整理をつけるまで、私はいつものように過ごした。

 

 ドラコは私が父親と二人で長時間話し続けていたことや、その後の父親の様子がおかしいことを不審がって何度ももの問いたげな顔をしていた。でも叔父様が立場を決めるまでは何も話せない。私は気がつかないフリをするしかなかった。

 

 

 

 数日後、ルシウス叔父様から、君の提案に乗ろう、と答えがあった。

 

 “円”で見る彼の意思は正常で、私と同じ道を進む強い意志が見えた。もともと死喰い人とは距離を置き始めていた叔父様だもの。思いきるとあとは早かった。

 シシー叔母様からも同じ意思を感じる。きっと叔父様は愛妻に相談したのだろう。叔母様が私の味方になれば心強い。

 

 大丈夫。彼は信じていい。

 私はやっと信頼できる大人の仲間を見つけた。

 

 ……と言ってもまだまだ言えないことが多いのだけど。でもお辞儀様に対するスタンスを同じくする仲間ができたことは、とても嬉しい。

 

 

「闇の帝王を斃さなければ私達に平穏はありません。

 分霊箱はそう何度もできる秘術じゃありません。あってあとふたつかみっつが限度でしょう。残りの数は定かじゃありませんが、まずすべてを見つけ出し、破壊しなければなりません。

 分霊箱の数と品、隠し場所を探すことは急務です。それからすべての分霊箱を壊す。そして帝王が復活しないよう、今度こそちゃんと死んでもらう」

 

 私の言葉に叔父様も深く頷く。

 

「『スリザリンのロケット』、『ハッフルパフのカップ』、『レイブンクローの髪飾り』、この三つはホグワーツ創設者のゆかりの品です。ですので順当に行けばグリフィンドールの品も分霊箱になっている可能性があります。それから叔父様の持っていらっしゃるものは……?」

 

 叔父様は『トム・リドルの日記』について教えてくれた。

 トム・リドルは帝王がヴォルデモート卿を名乗る前の本名で、日記は彼が16歳の頃に作ったもの。『秘密の部屋』を開き、中にいる怪物を解き放つものであること。そして怪物はマグル生まれの生徒を襲うこと、50年前に秘密の部屋が開かれた際にマグル生まれの女子生徒が一人殺されたこと、などを教えてくれた。

 

「『トム・リドルの日記』。16歳なら、学生だった彼が身近な品を一つ分霊箱にしたことは、理解できますね。他にもあるとすれば、トム・リドルの両親のどちらかの家の家宝とか、何か思い入れのあるものとか、あるいはホグワーツ創設者のような誰もが知る有名な魔法族の宝とか」

 

「なるほど。帝王の出自については私の方で調べよう。うちの親は同時期にスリザリン寮で一緒だった。記録を探せば色々見つかるだろう。それから、霞のような状態の悪霊を封じ込める方法も探そう」

 

 ルシウス叔父様が言う。ハリーの友人から聞いた『1年の時のクィレルの後頭部に憑りついていたヴォルデモートが霞のように飛んで行った』という話を私が伝えたのだ。

 

 そして、分霊箱は精神を侵食してきますから封印箱に仕舞っておいてくださいと念入りに注意を促した。『トム・リドルの日記』は壊す準備ができるまで、私と同じように魔力遮断布と封印箱にいれてしまっておくという話になった。

 

 

 

 




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