エリカ、転生。 作:gab
1992年 7月
純血主義の家に生まれて、はじめてわかること。
魔法族は、マグル生まれの魔法使いが嫌いなんじゃない。
魔法界という別の常識で成り立つ社会へ入ってきたくせに、こちらの状況をまったく忖度せず自分達の常識をこっちへ押し付けてくるタイプの奴らが嫌いなだけだ。
なんていうの? 外国人観光客がさ、日本に来たのに靴を脱いで家に入る風習を嗤い、箸を嫌がり、お茶碗を手に持って食べる食事の作法を不作法だと言い放つ。
ゲイシャは娼婦だと思い、真面目に列を作って並ぶ日本人を押しのけて前へ進み、神聖な神社で大声で騒ぎながら写真を撮る。
そんな迷惑な異邦人を見て感じる思いに似ている。
古臭い世界だと思うよ、確かに。いつまで中世風なんだよって私でも思う。
でもさ。
服装をバカにする。『こんな格好して恥ずかしくないのかしら』
箒をバカにする。『マグルにはヘリコプターや飛行機があるのよ。遅れすぎてる』
クィディッチをバカにする。『フットボールのほうがずっと洗練されたルールだ』
純血貴族をバカにする。『仕事もしないで偉そうに』
君たちはその中世風な世界へ入ってきたんだよ。まずはこの世界に馴染むことを考えようよ。
魔法族の社会のルールを知って、それに馴染む努力をしてほしい。それで駄目なら少し距離を置いてくれれば嬉しい。
あと、言わせてほしい。
仕事してないわけないじゃん。生活レベルを落とさないよう維持するのは大変なんだ。
シグナスおじい様もルシウス叔父様も、当然土地の管理をしているし、いくつか会社を運営しているし、所有地に住む者のために便宜を図ったりもしてる。魔法省や有力貴族への顔だしもある。当主業は激務ではないけど遊び惚けられるほどヒマではない。
私? 今はお二方に教わって、勉強中。
レストレンジ家のそういった仕事はすべて管財人に預けてある。そして管財人から上がりが金庫へ入るらしい。
その報告書を見て、専門用語を覚え、お金の流れを知っていく。
私の両親はアズカバンに入っていて、しかも終身刑だから今後彼らが出獄することはない(まあ原作では脱獄するんですけどね)。
そのため、成人を機に女性ながらにレストレンジ家当主となることが決まっている(なりたくはないんだけど)。
んで、まだ当主ではないけど、管財人や弁護士や税理士やらとのやり取りは覚えていくべきだし、どこかで不正が行われていないか、レストレンジの財産を誰かにかすめ取られてはいないか、しっかり管理しておくべきなのだ。
(一番かすめ取る気満々な私が言うことじゃないんだけど)
私はまだ未成年で、成人と同時に当主になると正規文書で決められているけれど、今の資産運用について変更を加える権利は有していない。あくまで勉強中なわけね。
私個人としてはレストレンジを継ぐつもりはないけど、この勉強は役に立つ。だからありがたく勉強させてもらっています。
ということで、シグナスおじい様にお時間をいただいて、管財人の報告書を教材に、現在の情勢も踏まえて、細かく教えていただいてきました。
『レストレンジの財産を誰かにかすめ取られないように』キリッ
なんて言った傍から、なんだけど。
分霊箱を壊すために必要なもの。グリフィンドールの剣、バジリスクの毒、悪霊の火、ニワトコの杖。
私がグリフィンドールの剣を借りられる可能性は低い。
なら他をあたるしかないよね。
もちろん、ジェイドに噛んでもらえば一発なんだけど、万が一壊した分霊箱を見せなきゃいけない状況になった時に、バジリスクの牙の跡がくっきり残ってちゃ誤魔化せないじゃん。だからちゃんとした武器が欲しいのです。
グリフィンドールの剣はゴブリンの鍛えた純銀製の武器だ。腐食も錆もせず、剣にとって不利な効果を受け付けず、己の殺傷力を高める力を吸収する。
この技術はもう廃れていて今のゴブリンには作れない。でも中世から近世初期までの作品が他にもまだ残っているはず。
そんな素晴らしい武器、分霊箱のことがなくても欲しいに決まっている。ぜひとも次の生に持ち越したい武器だよね。
レストレンジ家には当然出入りの業者がいる。
ロニーに頼み、魔法具や家宝級の物品の売買を取り持つ仲買人を紹介してもらった。
ダイアゴン横丁の片隅にある目立たぬ店は、お忍びでやってくる貴族家のお客様のための店だ。外観は目立たないよう地味に仕上げられているけど、中に入ってみると驚きの豪華さだった。
金策に困った貴族家が醜聞を避けるためひそかに手放したいと考え、新興貴族が家宝を欲しがってやってくる。そういった間を取り持つのがこの手の店だ。
相手側の名は明かさず、売買の金額が決まるまで調整し、その仲介料をもらう。客同士が直接顔を合わせることはない。
もちろん売買には魔法契約を交わすから偽物を掴まされることもない。
今そこにゴブリンの剣があるとは思っていないけど、長く仲介業をやっているなら、どこの貴族家にゴブリン製の武器があるか、アタリを付けやすいだろう。
私はそんな店に行き、内密に、中世辺りまでのゴブリンの鍛えた純銀製の武器が欲しいと注文を付けた。剣でも槍でも斧でもなんでもいい。とにかく今は廃れてしまった過去の技術を使った純銀製の武器を、探し出し、先方に売ってもらえるよう交渉して欲しい。
多少金額が張っても構わないから、粘り強く交渉してなんとしても売ってもらえるよう頼む。進捗の報告はしっかりお願いしますね。と。
既に誰も作れない過去の技術。作品の数も少ない。
これで見つかるといいのだけど……
それから、もうひとつ。気になっていたことをおじい様とルシウス叔父様に確認する。
ロングボトムへの慰謝料って払っていないのか?
第一次魔法戦争の被害者はとても多く、残された傷痕もまた多い。死喰い人の被害者でも誰に殺されたのかはっきりしない者の方が多いのだ。杜撰な捜査と裁判で、シリウス・ブラックのように冤罪もきっと多かっただろう。
ロングボトム夫妻を拷問したのは4人の死喰い人。
バーティー・クラウチ・ジュニア、ベラトリックス・レストレンジ、ロドルファス・レストレンジ、そしてロドルファスの弟、ラバスタン・レストレンジ。
あ、うん。レストレンジにはうちの両親以外にまだ父親の弟が生きている。ラバスタン。私より相続順位が低いし、両親と一緒にアズカバンにいるからノータッチすぎて存在を素で忘れてたや。
4人ともアズカバンで終身刑となっており、うち、クラウチ・ジュニアは死亡している。実はこっそり脱獄して生きてるけど。
クラウチの親は魔法省の高位の役人で、レストレンジは純血貴族家。4人とも裕福な出自なのだし、本人の自白もある(クラウチ・ジュニアは否認していたけど)。
損害賠償請求の裁判とかなかったんだろうか。
おじい様に訊ねると、第一次魔法戦争の際は事件の数があまりに多すぎて捕まった犯罪者の刑期を定める裁判すらろくに行わずにアズカバンへ直行なんてことも多々あったくらいで、損害賠償などできるような余裕はなかったらしい。
でもさ、11年もたって、まだ入院しているんだよ? 回復の望みも薄そうだし、入院費用って馬鹿にならない。ロングボトム家は旧家だけど、それでも家計に響いてるんじゃないだろうか。
せめて入院費用や治療費は出すべきなんじゃないの?
被害者がわかっていて、犯罪者側の自供も記録に残っていて、犯罪者の実家は裕福でじゅうぶんな支払い能力がある。なら、今からでも払いたい。
11歳を過ぎてやっと金庫のお金を私の意志で動かせるようになったのだ。これくらいはしておきたい。
犯罪を犯したレストレンジ夫妻とその弟は、帝王の狂信者で今も反省などしていないし、今後も更生の見込みもない。彼らが謝ることはありえない。
また私自身も1歳から没交渉なため彼らを親と認識したことがなく、その親のために謝る私の言葉は所詮他人事で、とても軽くなってしまうだろう。なので直接謝罪に伺うつもりはないが、今も苦しんでいる被害者の方々とそのご家族の心痛を思えば、せめて治療費の継続的な援助くらいはしたい。
決して施しなどではないし、これにより彼らの刑罰の軽減などはまったく求めていない。
ただ、レストレンジ家の次期当主候補として、当代夫婦とその弟がしでかした事に対し、せめてもの贖罪の気持ちだけ受け取って欲しい。
私の要望はブラック家おじい様にもルシウス叔父様にも認められ、管財人から弁護士を通して、ロングボトム家へ遅まきながら慰謝料を支払う用意があることを連絡してもらうことになった。弁護士さんはとても優秀な方だから、変に拗れないよう頑張ってくれるだろう。
11年の延滞金も含めて真っ当に計算した月々の支払額は、現在のレストレンジの資産運用で年間に増える金額だけで、今後も継続的にじゅうぶん支払っていける額だった。今後のやり取りはすべて弁護士さんが先方と調整してくれることになった。
「ロングボトムに謝りたいって思う?」
この話を聞いたドラコにはそう聞かれた。彼も、ルシウス叔父様が死喰い人だった頃に誰かを害している可能性に怯えている。
「ロングボトム家に資金的援助はする。ミセス・ロングボトムには弁護士を通じて連絡もする。だけどネビル・ロングボトムには、私は空気に徹する。それが彼のため」
ネビルは親が聖マンゴに入院していることすら誰にも知られたくないと思っている。私が彼に干渉することは彼にとってストレスでしかない。だから私は彼の前では空気に徹する。
学校で虐められている姿を見ればこっそり助けたり、友人にフォローを頼んだりはしている。彼の見えないところでね。
私は幸せになりたいし、裕福な生活も手放せない。レストレンジの上位貴族家としてのポジションも利用している。私が謝罪しにいくのって、ただの私の自己満足でしかない。何もできないならお金だけ払ってそっとしておくしかないんだ。
さてと! ヤヤコシイ仕事は一旦終えて、夏休みだ。
忙しい日々になる。だって、夏休みって、6月最終週から8月いっぱいまでのたったの9週間しかないんだよ。
予定目白押しだ。この夏、修行も含めて、やるべきことが多すぎて、本体と影数体が飛び回っていた。もちろん、外にいるのは原則一人だけだよ。
念修行と体力作り。←ガーデン内での本体+影複数
ピアノとバイオリンのレッスン。←本体と影が半々
新たに先生を紹介してもらい、サクソフォンのレッスンも開始。←ほぼ本体
マルフォイ家とフランス旅行に行ってきた。豪華なヴィラで優雅な休暇を過ごした。←ほぼ影
ジェイドに餌を運んだり、魔法界やマグル界でのショッピング。←ほぼ影
影が毎日行き来するためにフランスにジャンプポイントCを設置したんだけど、空いているポイントがもうBとCしかないから、旅行が終われば上書きする運命にある。せっかくの海外のポイントが。つ、辛い。
早く姿現わしができるようになりたい。ほんと。早くぅ。
サクソフォンの先生は、とても自由な気質をもったレイブンクロー寮出身のホグワーツ卒業生で、アメリカの魔法界で人気を博している方らしい。
サクソフォンの演奏も素晴らしかった。音の表現がね、鮮やかでね、感情が揺さぶられる。この方に教えてもらえるのはとても楽しみだ。
楽器はロニーに頼まず、自分でダイアゴン横丁の楽器店に行って選びました。他にもいろいろ楽器や楽譜、手入れ用品も買ってきた。サクソフォンは買っただけで、レッスンは当然シルヴィアを使ってます。先生に『いい音ね』と褒められました。ふふふ、そうでしょう。シルヴィアは最高なのだよ、うん。
1992年 8月
今年も学校から手紙が届いた。新学期用の新しい教科書のリストを見ると、ずらずらと並ぶギルデロイ・ロックハートの著作。買うべきか悩む。まあ買わないわけにはいかないんだけど。
シシー叔母さまから手紙で誘われるまま、ダイアゴン横丁に向かう。おそらく原作と同じ日程だと思う。叔母様はロックハートのサイン会目当てだからね。
待ち合わせ時間よりだいぶ前にロニーに連れていってもらうと、先に必要なものを揃える。ガラス瓶やクロスも買い足そう。去年見つけた古い雑貨屋でまた折れた杖を見つけたからそれも買う。予備はいくらあってもいい。私達の人生は長いんだから。
インクと羊皮紙の減りが早い。提出物が多いから羊皮紙はいくらあっても足りないくらいだ。評価を高めるために課題の度に規定枚数を超えた量を書いているから、余計に羊皮紙が必要になる。
これで首位が取れないんだから、ハーマイオニーはいったいどれだけ書いて出してんのかね。
成績ってね、O.W.L試験やN.E.W.T試験以外の年はその1年の間に提出した課題の評価もプラスされている。最終試験を受けなくても真面目に授業を受けて課題をしっかり提出していれば及第点はとれるってことね。んで、おそらくハーマイオニーはその課題の加点が多い。
ちょっと先生方の迷惑も考えてあげてほしい。先生って全部読まなきゃだめなのよ? 7学年合わせると1000人くらいいるのよ、ここの生徒。
私だって全教科満点以上なのに。実技は確実に私が上だ。勉強は十分している。これ以上課題の提出枚数を増やしても知識は増えない。加点だけのための無駄な労力だ。そう思うと、首位は諦めようかなって思ってしまう。
だって監督生や首席になってもさ、レストレンジ家の娘が就職できるわけがないんだから。
ドラコもほとんど満点か、満点以上だった。彼は私と一緒に勉強していたから学力は高いし、原作みたいにヴィンスとグレッグの保父さんばりに世話をしていないから、それに時間を取られることもない。
一緒に宿題をやっていても、手取り足取り教えなくちゃできなかった原作の彼らとは全く違うのだ。
だから今のドラコには余裕がある。
学期末の点数を見て、『満点以上』という点数があることを初めて知ったドラコは、今年は私と同じようにすると話していた。
夏休みに戻ってすぐ夕食会に招かれた時、ルシウス叔父様やシシー叔母様は私達の成績を見て最初は大喜びをしてくれて、次に、この点数で首位が取れていないことを訝しみ、首位がマグル生まれの魔女だと知って驚愕した。
マグル生まれに負けるとは、と注意しようとして、でも私達の『満点以上』を見るとそれ以上文句も言えず、「ダンブルドアがグリフィンドールに贔屓しているからではないか」と苦い顔をした。
次はもっと頑張りなさい、と言われました。
買い物を終えてシシー叔母様と落ち合い、一緒に本屋に向かう。
叔母様は私がルシウス叔父様を説得したことを感謝する、と言ってくれた。叔母様はこのままいくとドラコが不幸になると考えていたから、叔父様の決断をとても喜んだ。
もちろん危険はじゅうぶん承知しているが、帝王に従ってドラコが闇に染まるよりは戦うほうがずっといいと叔父様を励ましたのだそうだ。うん。ブラックの女、強い。
本屋に近付くにつれそわそわしている叔母さま。きりりとした先ほどの表情とは打って変わり、今は恋する乙女の表情だ。まあ確かにロックハートはイケメンだけど、ものすごく残念なイケメンだよね。しかも詐欺師だし。私はあのうさんくさい笑顔は嫌いだなあ。
黒山の人だかりが見えてきた。わあ、ここで買うのか。ちょっと嫌気がさす。無理ならあとで買いにくればいいか。サインの列に絶対近づきたくない。
そう考えていると、シシー叔母様がドラコと私の分の本を買っておいてくれると言ってくれた。よかった。いそいそと列に並ぶ叔母様を見送る。
ロックハートに近付かなくていいとほっとしたところでルシウス叔父様とドラコが向こうからやってきた。原作通りだと闇の品をノクターン横丁で売却してきたところか。今のドラコはハリーにライバル意識なんて感じてないから、あんな風に文句言ったりはしていない、はず。
ニッコリ笑って挨拶を交わし、叔母様が私達の本のために並んでくださっている話をし、黒山の人だかりを外から眺める作業に戻る。
しばらくドラコと話していると、嫌がるハリーがロックハートに肩を抱かれて、ロックハートが演説を始めた。
「『闇の魔術に対する防衛術』の担当教授職をお引き受けすることになりました!」
人垣がわっと沸き、拍手が響く。私とドラコは同時に「最悪」と呟いた。
解放されたハリーがロックハートから贈呈された本の山をそのまま赤毛の少女に渡すのを見た。あれが未来のポッター夫人、ジニーか。
「今年の防衛術も期待できそうにないな、まったく」
「そうね。あの小説で何を教えてくれるのかしら。ほんと、馬鹿にしてるわ」
ハリーの傍にハーマイオニーとロン、ハンナも集まってきた。しっかり本を抱えている。あの列に並んだんだな。
ドラコがロンに絡まれる前に本屋に入ろうかと考えていると、ウィーズリー氏やグレンジャー夫妻、フレッドとジョージなどどんどん人が集まってくる。
原作ならここでルシウス叔父様とウィーズリーパパが喧嘩するんだけど……あ、やっぱり始まった。ルシウス叔父さまとウィーズリーパパが毒舌を交わし合っている。
でも、叔父様はジニーの持っている古本に手を伸ばさなかった。よかった。日記を紛れ込ませたらどうしようかと一瞬焦っちゃったや。そんなこと、今の叔父様はもうしないのに。
「やっぱり素敵ね。ニンバス2001」
「ああ、この瞬発力は何ともいえんな」
あのあと、無事に本を買ってから箒店へ行き、ドラコと私はこの箒を買ったのだ。もうね、すんばらしい。
ドラコの箒はコメット260で、彼は自宅でいつもこれを乗りこなしている。私は、クリーンスイープ6をドラコと箒で遊ぶようになって購入した。
実はガーデンにはニンバス2000を置いてある。去年買ったものだ。小雪もメリーさんも実際乗ってみて箒はあまり好きじゃなかったようで、ほぼ持っているだけという感じ。
ニンバス2000の後続機だけあって、最速だった2000の速さをさらにしのぎ、より安定感が増していて、その上加速が素早いのがまた素晴らしいのだ。
来年ファイアボルトが発売されることを知ってる私は、ニンバス2001は見送ってもいいんだけどさ。父上母上のお金をたっぷり使わせてもらうつもりの私は毎年買い足していく方針ですわ。ほほほほほ。
だって箒はこの世界でなきゃ買えないし。
これから次の世界でも新しい仲間ができるかもしれないじゃん。違う世界の魔法使いにだって、箒には乗れる可能性があるんだ。
その時に箒がみんなの分ないのはちょっと嫌だもの。
だって、空を飛ぶのってほんとに気持ちいい。
他の飛行手段がある世界なら、それも買うよ、当然。でも、やっぱり箒は別格だわ。別格。ああでもさ、イギリス魔法界では違法だけど絨毯にも乗ってみたい。
ドラコも私も箒捌きがうまいから、この夏はめちゃくちゃ楽しませてもらった。
ああ、今年ドラコがシーカーになれば、原作通りルシウス叔父さまがメンバー全員にプレゼントしちゃうのかしら。
ハーマイオニーに「お金で選ばれた」ってドラコが言われるの嫌だな。天使のドラコに「穢れた血」なんて言葉も使ってほしくない。
私がいることでドラコはすごく角が取れて丸くなったし、敵の多い私を守るためか、しっかりしてきた。ヴィンスとグレッグも明るいスポーツマンになったし。でもムカつくことを言われたら反射的に言っちゃうかも。心配だな。
クィディッチの選手選考に一緒に立候補しようよとドラコに誘われたけど、音楽の練習時間が削られるからと断っている。ピアノを弾き始めたらトランクから全く出てこない私を知っているから、ドラコも納得して肩を竦めた。
ドラコって私と一緒に箒に乗ってるんだよ。『超一流パイロット』の私と。もちろん手加減してるけど、それでも私と一緒に飛び回れるから原作どころじゃないくらい彼の箒捌きは上達している。ヴィンスとグレッグも。今年は原作通りならシーカーしか選考がなさそうだけど、ヴィンス達もきっとすぐにレギュラーになるだろう。それくらいの実力はある。
一緒にクィディッチをするのは楽しそうだけどさ。ブラッジャーをぶつけられても無傷なこととか絶対知られたくないし、練習で余分な時間を取られるのも嫌だし。
やっぱりクィディッチは観るだけに限るな。
ヴィンス達とは夏の間になんども組手の相手をしてもらった。もともと大柄の彼らは1年でまた大きくなっているから、私より20センチは高い。そのぐんと大きくなった身体を身軽に操る『身体強化魔法』もよどみない。この1年、とても頑張ったんだろうと修行の成果が窺えるキレのある動きだ。感心感心。
まあ私に敵うわけないんだけど。彼らの『なんで勝てないんだよ』の愕然とした表情が可愛い。
ダイアゴン横丁で買い物を済ませた数日後。
もうひとつ。買い物を済ませておこう。
『ホルモンクッキー』で男に変わり、鬘と変装を済ませる。今日はノクターン横丁で買い物があるから久しぶりに『ホルモンクッキー』まで使った。
この日のために、先日買い物した際にまたもや大量のガリオン金貨を引き出してある。
そういえば私って、ヴァルブルガおばあ様から相続した私名義の金庫もあった。一度見てきたけど、レストレンジのメイン金庫には遠く及ばないものの、じゅうぶんに広い金庫にたくさんの金貨が入っていた。ほんとにありがたいです。おばあさま。いざという時に使わせてもらおう。
途中、ダイアゴン横丁でガーデン用のニンバス2001を4本購入。公式に持っているものとあわせて2001が5本になった。よし。
それからかばん屋にもよって、モークトカゲの革製巾着袋(大)を3つ買っておく。
今年の分の教科書もロックハートの小説本以外をまたメリーさん、小雪、図書館用の3冊ずつ買い求めた。
ダイアゴン横丁を通り抜け、ノクターン横丁に足をむける。怪しさ満点の小道に入ったとたん、空気が変わる。
どんよりとした淀んだ空気に、すえた臭いが混じる。ローブで顔を隠した怪しい人達が歩いている。店先に並ぶ商品もいわくありげ。
時折り鋭い視線を感じる。
アングラ感にどきどきとわくわくを感じる。
手袋の中に隠した、精神干渉を防ぐ指輪とブレスレットに手を触れて着けていることを再確認する。首元の『聖騎士の首飾り』にも。
煩わしい視線を避けるため“絶”で気配を殺して進んだ。
つらつらと眺めながら歩くこと数分。
ありました。ボージン・アンド・バークス。
おおおおおおお。映画の通りだ。
“絶”を解き、ワクワクしながら扉を開ける。
面白いものがいっぱいある。当然危険な闇の物品も。精神干渉を防ぐ指輪がちゃんと指にはまっているか手袋の上からもう一度感触を確かめながら私は尊大な雰囲気を醸し出しながら店を睥睨した。
今日の私は生意気盛りの貴族家のお坊ちゃまだ。
ショーケースの中に、クッションに載せられたしなびた手を見つけた。あ、『輝きの手』だ。これ買おう。夜中の捜索にめっちゃ便利だよ。
市販品の透明マントも買っておこうかな。
でもあれって1年もつかもたないかくらいで透明じゃなくなるって話だったよね。
必要になれば買うってことでいいか。
……いやいや何言ってんの。
こんな時こそ(倉庫)だよ。おばかエリカ。
そうだ。倉庫にしまえば劣化はしない。影は“絶”+“隠”で姿を隠せるけど本体は“絶”だけだし、『目くらまし術』の呪文はもっと訓練が必要だと思うし。
うん。買いだな。
そうやって物色しながら店の奥へ進む。……あった。
大きな黒のキャビネット棚を見つけた。
黒地に金の装飾がある。形としてはキャビネットと言うより、両開きの縦長のロッカーだ。中に人が入って移動できることを知っている身からすれば、もう扉にしか見えない。
「これは?」
「これはいずこかへ繋がっている不思議なキャビネットでございまして。中にものを入れて扉を開け閉めすると消えたり、現れたりするのでございます、坊ちゃま。おそらくもうひとつ、同じようなキャビネット棚があって、そちらとこちらを行き来していると、そういう仕組みでごぜえます」
ボージンは腰をかがめて馬鹿丁寧に説明をした。
私は眉を跳ね上げてみせる。
「その説明だと、これの片割れがあるように聞こえるが?」
「はい、さようで」
「もう片方はどこにある? 二つ合わせて買わねば意味がないだろう」
「それが、どこにあるのか手前どもではとんとわかりませんで」
「わからないものを売っているのか?」
「ですからお値段の方もじゅうぶんに勉強させていただいておりやす、へい」
「いくらだ」
「は?」
「いくらだと聞いている」
ボージンは私を見たままあわあわと値段を言った。
「へえ……」
言われた値段は高かった。こいつ絶対吹っ掛けている。
ふん、と鼻で嗤い、がんがん値切る。
片方買うやつはいない。ここにあっても飾りなだけだ。不格好で飾りにもならんがな。みたいに。
三割ほど削れた時点でおもむろにこう言い放った。
「では今お前が言った値段の二倍払おう。これの片割れも僕のものだ。もし、この片割れが見つかれば僕のために取っておけ。いいな」
「ですが坊ちゃま……」
面倒な仕事を押し付けられては堪らないと思ったのか、ボージンは必死で言い募ろうとする。それを私は視線で止めた。
「見つかれば、と言っているんだ。何もドラゴンの巣をつついてまで探し出せと言ってるわけじゃない。お前にそこまでの仕事を求めてはおらん」
もうお辞儀様復活はない。
私が、させない。
だから6年の襲撃はない。はず。
なら、このロッカー、私が貰ってもいいよね?
キャビネット棚は分霊箱のように壊すべきものとは違う。もう片方は今のところホグワーツの備品に過ぎない。勝手に取ったら盗みだ。
だから、店主に“片割れも含めて”お金を払ったのだ。これなら私のものだよ。ね?
これでキャビネット棚が『必要の部屋』に移動した頃を見計らって、キャビネット棚に手を触れ(収納)できれば私のもの。
もし(収納)できなければ所有権はホグワーツのものだ。その時はすっぱり諦める。(マスターエクスチェンジ)もしないで諦めます。
うん。理論武装終了。
え? 欺瞞? いいのいいの。
自己満足ですから。
決めた値段の二倍を支払い、キャビネットを巾着袋経由で収納し、ついでに『輝きの手』と『透明マント』2枚も購入して店を出た。
キャビネット棚については片割れがまだホグワーツにある。間違って誰かがこちらへ紛れこまないよう、私の持っているほうは片割れが手に入るまで倉庫から出さないようにしなくちゃ。
対のものも(収納)で倉庫にしまえるかどうか、早く試してみたい。
収納できれば私のもの。ダメなら諦める。
とはいえ、今はまだ2階のどこかにあるらしい。2階に設置されている間は確実にホグワーツの備品だもの。原作通りなら、これは6年までお預けかな。
モークトカゲの革製巾着袋(大)はひとつは私の予備として、後のふたつはメリーさんと小雪に渡した。ふたりはとても喜んでくれた。